暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第3話

 唐突だが、私──―皇悠は転生者だ。魔法適正のないそれ以外でならチートできるこの世界では害悪にしかならない人間だ。

 

 まるで大日本帝国時代の日本と現代日本が合体して十師族に牛耳られた腐敗しきった日本の皇族に生まれ、そこで『高貴な生まれ足るもの模範を示すべし』ということで軍へ入ったまでは良かった。

 

 任官してすぐに賄賂や接待などといった汚職が行われたあたりで、私の笑顔が固まった。

 

 国防軍は日本の国防を十師族などの魔法名家に奪われたので、無用の長物だと言わんばかりに汚職や賄賂に勤しむばかりでマトモに機能しているのは旧自衛軍派だが、目と耳を塞がれて威勢だけという状態だ。辻褄合わせのようだが、原作主人公がいなかったらと思うと空恐ろしく感じる。いても今後の事を考えれば、とてもじゃないが笑えない。

 

 私が生きていくには、この世界の日本はあまりにも腐り過ぎた。故に自身の所属する海軍を沖縄侵攻をみすみす許したことを口実に志を同じくする軍人と一緒に腐敗を一掃してやった。その中に十師族の私兵と化していた魔法師やら傀儡がたっぷり含まれていたことから、皇族の身分が無ければ殺されているくらい目の敵にされているだろう。

 

 勘違いしてはいけないのが、私は腐敗を一掃しただけなのだ。それはこれからも変わらない。生涯をかけて一掃するつもりだ。その為なら、どんなものでも利用するし、どんな事でもするつもりだ。

 

『──―以上が今回やることです。皇さん、構いませんか?』

 

 海軍の軍令部に設けられた私室において、通信機を介して前髪が長過ぎて口元以外が隠れている志村真弘(飼い犬)が私に報告してくる。

 

 第一魔法科高校に対する工作活動をする命令が彼の上役から出されたようだ。

 

 狙いは魔法科高校の図書室にある秘匿資料なようだが、内容を見た限りでは上手くやれるだろう。やる事は原作と殆ど同じだった。

 

「むしろ利益の方が大きいだろう。これなら文句は言わん」

『ありがとうございます。ところで皇大佐は魔法科高校で蔓延っている差別に関してどう思われてますか?』

 

 差別、ねぇ。

 

「三高でも酷いのか?」

『酷くはないですよ。ただ、徹底した実力主義なだけあってかなり殺伐してますね。ある意味で一高よりマシかもしれませんね。四十九院がいるので洗脳で隙を突けませんよ』

 

この男、私を何かと支援だったり何なりしてくれる古式魔法師の家の人間と相性が悪いらしい。

 

「工作活動するなら一高だけにしておけ」

『わかりました』

 

 人を洗脳することに何ら躊躇いもなく実行できるところに魔法師らしさが出てるし、愉快犯じみたところがあって扱いに困るところが信用も信頼もできなくて油断ならないが、原作主人公の敵になるであろう人間だが使い勝手が良いので利用価値はある。私が彼に利用価値を見出すように洗脳されてるだけかもしれないので、洗脳されてるかその手の専門魔法師に逐一確認させているので思考が誘導されてないと見るべきだろう。彼はもしかしたら私と同じ転生者かもしれないと思っていたけど、試しにカマをかけたら身に覚えが無いという顔したので違うかもしれない。

 

 閑話休題。

 

「差別に関して私見を述べるなら、差別は無くすべきだという考えを持っている。魔法科高校の教育実態を知っているが、私が何かしようと動けば反感を買うだけだろう」

『反魔法主義的活動だと言われるだけですか……』

 

 諦観しているようにも聞こえる声音だった。

 

 私が属していることになっている『新皇道派』は軍内部における反魔法主義の急先鋒だとして魔法師に目の敵にされている。旧自衛軍派も同じ扱いだが、まさかこの国で十師族の影響を排除すれば全て反魔法主義的だとでも言うのだろうか。

 

 差別を無くすことには賛成だ。差別があって困るのは歴史が証明している。即座に是正して然るべきなのだが、恣意的なものがあるのだろう。

 

 そもそも、魔法師に関することは十師族……特に七草が口出しした結果が今の状況だ。この国の現状の大半が十師族による権力闘争や足の引っ張り合いによるものなので、十師族は解体した方がこの国のためになるような気がする。そして、魔法師は管理されなければならない。

 

「魔法科高校における差別に関しては上手くやれ。国益に反しない程度でな」

『わかりました』

 

 自由裁量権を与えてしまったようなものだが、七草真由美の無慈悲な改革よりも数段マシだろう。あの娘には悪いが、十師族の影響から逃れてあくまで対等な関係を築きたいので利用させてもらう。

 

 通信を切ってから、私は椅子の背もたれに体を預ける。考えることは次の行動だ。

 

 どこかで反魔法主義者じゃないことをアピールしなければならない。国のトップに位置する公人が魔法師に対して否定的であることは、魔法師側の心象は良くないのは明白。魔法師に対して友好的にしておいて損はなく、中立の姿勢を貫くことは必要だろう。狙うとするならば、九校戦しかないか。

 

「やることは山積みだな」

 

 立ち止まってられないのだから、決断したなら実行に移すだけだった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 皇悠からの許可を戴いたので、本来やる予定だった計画を前倒しして早速行動に移していこう。

 

 こちらの手駒はブランシュと下部組織のエガリテだ。エガリテは魔法科の二科の生徒で構成されており、学内の差別撤廃を目的に活動するために組織した団体である。

 

 ツッコミどころしかないような教育制度だから、叩けばいくらでもホコリが出てくるだけにイージーな活動である。こんなクソみたいな制度を取らせるとか、十師族の一般魔法師に対する扱いが察せるだろう。今の政府与党の主流派は事なかれ主義の親十師族で固まった傀儡政権だ。魔法師に関する政策で十師族の意向が多分に含まれていることは明らかである。

 

 つまり、魔法科高校における差別は故意に行われたということだ。故意じゃなくても、今まで無策でいた時点でアウトだ。

 

 そもそも差別の始まりは何なのかということだが、同じ授業料で受けられる授業の質が違うところから始まり、制服のエンブレムの有無(これが一番大きい)があって生徒の目に見えた形で格差を映し出されているから、理不尽なまでの差別が横行している。何故こんな教育制度にしたのか甚だ疑問で、まさか差別される側に立つ人間は弱い立場の人間だからいくらでも封殺できると考えているのだろうか。もしくは自分たちは差別しないから良い、という考えの表れか。もともと、『一科・二科制度』における二科生は一年生時では理論を重点的に行って二年生以降に実技を集中的に行っていく方針だったらしい。そんなの二年生以降の生徒はいつも通り講師のいない実習をやらされているので、ただの方便だったようだ。

 

 そんなこんなで手っ取り早く差別問題を解消を促すため、分かりやすい攻撃対象のいる十師族の七草真由美のいる一高への工作を開始していた。

 

 先ず、差別に苦しむ人間がいるということを分かってもらうためにエガリテの皆さんには放送室を借りて放送を開始……してもらいたかったけど、二科生だからと放送室の使用禁止を言い渡されたので強硬手段に出てカギを掌握。放送室へ駆け込んで校内全域へ放送をする。

 

『全校生徒の皆さん!』

 

 中継していたら、思ったよりでかい音声だっただけに音漏れしやがった。誰もいない校舎裏で良かった。

 

『私たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。私たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します!』

 

 今度は調整したようだ。この後、電源をカットされて放送は出来なくなった。

 

 校内の監視カメラを借りて外の様子を窺えば、生徒会や風紀委員が集まり、部活連の十文字克人会頭が姿を見せていた。

 

 慎重に対応すべき、という声がある一方。

 

 扉を破壊して制圧してでも短期解決すべき、という強行論がある。

 

 監視対象の司波達也は前者の慎重論に賛同しているようだが、エガリテの交渉に応じるつもりは無いように見受けられる。というより、扉の前に集まった人間の中で十文字会頭が交渉に応じる姿勢があるようだが、九島家の前例があるので怪しい。誰も交渉に応じる気は無いように見える。

 

 と、そこで端末の着信音が鳴り響く。相手は司波達也だ。

 

 いつの間に連絡先交換したんだよって疑問はあるだろうけど、これは壬生紗耶香の端末からダミーを介して繋がっているのだ。これはエガリテの人間全てに共通してやっていることだが、盗聴だのといったプライバシー侵害をしているが、得た情報はその都度処分しているし、私的利用は決してしていない。

 

 壬生紗耶香が司波達也に接近し、好意を抱くようにしていたので番号交換に応じてくれたことには感謝しておこう。少々危険だが、壬生紗耶香が絆されても困るので俺が代わりに応じる。無論、変声機で壬生紗耶香の声を使っている。

 

『もしもし、壬生先輩ですか? 司波です』

「司波くん、どうしたの?」

『今どちらにおられますか?』

「今は放送室にいるわ」

『はぁ。放送室にいるんですか。それはお気の毒に……』

「どういうことよ?」

『いえ、決して馬鹿にしている訳ではないです』

 

 その件の壬生先輩とやらは現在仲間と一緒に立てこもり中で指示待ちである。

 

『それで、本題に入りたいのですが……十文字会頭は交渉に応じる姿勢です。生徒会長の意思は……いえ、会長も応じるそうです』

 

 生徒会長がその場にいないのに勝手に判断してもいいものだろうかなんて考えるが、とりあえず事態を収めるための方便なのだろう。七草真由美なら応じるだろうけど、騙し討ちであることに違いない。

 

「それは本当?」

『ええ、先輩の自由は保障しますよ。我々は警察ではないので牢屋に閉じ込めるような権限はありませんので』

「私の自由は保障されても、他の人はどうなるの? まさか私は捕まえないけど、他の人は捕まえる腹積もり?」

『そういうつもりはありませんが……壬生先輩こそ、今の現状からどう打破するつもりなのですか?』

「私たちは逃げも隠れもしないわ。私たちは理不尽に抗うため立ち上がったの。貴方じゃ話にならないわ。十文字会頭もしくは七草生徒会長に代わってちょうだい。直接話をつけるわ」

『……壬生先輩じゃないな。お前は何者だ?』

 

 何故バレた? 変声機に不備はないし、話し方に違和感は無い。考えられるとすれば、司波達也の洞察力が予想以上ということか。もしかして、壬生紗耶香の知能レベルの問題?

 

『壬生じゃない? 達也くん、君は誰と連絡を取っている?』

 

 これは風紀委員長の渡辺摩利の言葉だ。

 

 マイクの部分を押さえた司波達也が、首を横に振る。

 

『わかりません。壬生先輩の番号にかけたのですが、相手は壬生先輩の声で普通に話していたので気づけませんでした』

 

 司波達也が事情を説明し、スピーカーモードにしてもう一度話しかけてくる。

 

『何故、壬生先輩の端末を持ってこんな手のこんだことをしている? 壬生先輩はどこだ?』

「司波くん、一体どうしたの? 私は放送室にいるわよ。私たちは有志同盟として学内の差別撤廃を訴えようとしているだけよ?」

『あくまで白を切るつもりか? いや、間違ったことは言ってないが、お前はそこにいないということなんだな。誰なんだ、お前は』

 

 うーん、ちょっと失敗か。

 

 ちょっと司波達也を見誤ったか。余計な警戒心を抱かせるのは本意じゃない。こっちは魔法科高校における差別撤廃をしようと行動しているのだけど、そんなに差別を無くされるのは嫌なのだろうか。顧傑の事はさておき。

 

「全く……そんなに警戒心剥き出しにしなくても私たちがすることは学内の差別撤廃が目的に活動していることは主張している通りだよ。ただ、君の交渉相手が壬生紗耶香ではなかっただけの話さ。私はこの子たちのスポンサー。壬生紗耶香の声だが、以後お見知りおきをってね」

『スポンサーだと? お前の目的は何だ?』

「学内の差別撤廃だよ。それ以外に理由が欲しいのであれば、自分で推測を立ててほしいな。それで、単なる風紀委員でしかない君と話している時間が勿体ないから、交渉役を変えてほしいな。例えば十文字会頭……は話し合いにならないから、ちょうど七草会長も来たようだし、七草会長に代わってよ」

『警備システムにハッキングしているか』

 

 司波達也がチラッと監視カメラを一瞥する。彼以外の面々は動揺を隠せていないようだ。すぐにカメラは壊されてしまったが、そもそも監視しているのはカメラだけじゃないということを忘れてはいけない。

 

『達也くん、私が話すわ』

『いいのですか、会長』

『ええ、大丈夫よ』

 

 ようやく七草会長のお出ましである。

 

 さて、どう出るか。

 

『はじめまして、スポンサーでよろしいかしら。私が生徒会長の七草真由美です』

「これはご丁寧にありがとうございます。教師側との交渉は上手くいきましたか?」

『ええ、今回の事は生徒会が受け持つことになりました。我々、生徒会としては交渉に応じる姿勢があります』

「それは重畳。それじゃあ、我々の主張している事が正しいことであり、大勢の生徒に目に見えた形で問題解決できる機会を設けてほしい。要するに公開討論会をしようじゃないか」

『イイのですか?』

「元より長くは立てこもってられないからね。有志同盟の身の安全を保障するなら、放送室からおとなしく出てくるよう働きかけるよ」

『有志同盟の生徒たちは人質ということですか』

「人聞きが悪いね。彼らは大切な協力者だよ」

『そうですか。生徒会は貴方の要求を受け入れましょう』

 

 全面的に要求を受け入れてくれたようで嬉しい。放送室を開放して、有志同盟には公開討論会の日をセッティングしてもらう。ここは別にいくらでも譲歩して構わない。大事なのは身の安全が保障されることだ。

 

 スポンサーの正体を壬生紗耶香に訊ねている渡辺委員長の姿があったが、顔は常に隠してたし声も変えているので全く分からんだろう。それは他の有志同盟も一緒である。

 

 見えない敵……決して表に出ないようにしている相手はやり辛い相手だろう。あくまでも俺の目的は差別撤廃なので、とんでもなくショボい黒幕だった。

 

 さて、昼休みも終わったということで俺は繋がってた回線をシャットダウンして午後からの授業のために移動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




傍目から見ると、地声で女口調で誰かと電話している変態である。
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