暗躍する請負人の憂鬱 作:トラジマ探偵社
三高の選手の怪我は肋骨骨折、内臓が損傷したらしい。重傷であるが、命は助かる見込みだ。精神的な問題はあるが。しかし、こればっかりはどうにもならない。演算領域ならどうにか出来るけど、心理面……特に感情というのは如何ともし難い。
生徒会長が一条コンビを連れて大会委員に交渉しに行ったが、結果は駄目だったらしい。一高の例外措置は例外でしかなく、無頭竜の人間の仕業だと結論づけられているが、今回の件とは無関係であることが解っている。単なる事故であり、不幸な事故として処理された。二高が『あくまで三高側に責任がある』と抗議し、三高側が反論して言い争いに発展。両成敗という形で、三高は代理の選手を出すことが認められずに棄権。レギュレーション違反した二高は失格になった。一条は交渉事が苦手だったようだ。
おかげで三高の天幕内はお通夜ムードだ。モノリス・コードで優勝は無くても、二位か三位に入れば総合優勝が決まっていただけにこの展開は想定外で、その衝撃は計り知れない。ただでさえ覇気が薄い生徒会長の覇気が薄まり、存在感が無くなっていく。
「マズい展開ですわね」
天幕内にいた一色が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「仕方ないわ、愛梨。私たちに無理を通す力が無かっただけよ」
「一高が一位を取らなければ総合優勝できるんじゃから、案ずることはなかろう」
「沓子、そんなの万に一つも有り得ないわ。一高からはあの十文字が出るのよ?」
「何とかなる。勘じゃけどな」
四十九院は遺伝的に直感力に秀でているらしい。なんちゃって未来予知が出来ちゃうのは良いが、本人は善意からお節介してしまうところが面倒だ。お節介するのは許容範囲だが、直感が働くのは厄介だ。こっちがひた隠しにしていることを感づいて問い詰められでもしたら、勢い余って演算領域を破壊しかねない。でも、目立っちゃったから詮索してくる人間は多いだろうな。上手く隠して理性的な対処を心掛けないと、片っ端から殺し歩くなどという頭が四葉の行動は魔法師排斥の一因になりかねないから自重しなければならない。
流石に俺が一高を負かせることまでは推測できないだろうし、漠然とした直感を働かせたところで今回ばかりは誰も信じられないだろう。
「いくら何でも、沓子の直感は無理があるわ。十師族の人間に勝てる魔法師なんていないもの」
一色の反論に四十九院は言い返す。
「一条を倒したり、七草選手を倒した生徒がいるんじゃから、もしかしたら他の選手で勝つような選手がいるかもしれぬぞ?」
「そう何人もいたら社会は十師族の意味がなくなるじゃない」
確かに。しかし、長期的に見れば不健全な十師族制度は淘汰されるべきで、必要がなくて邪魔でしかない。しかし、短期的に見れば国際情勢はまだ戦時下の空気から抜け出せておらず、いつ爆発するか分からない火薬庫の上で綱渡りしているようなものなので示威的な意味で役立つ。傍から見れば、研究所のモルモットであったことを世界に喧伝しているようなものだから、あまり誇れるような気分の良いものではない。
などと考えていたところへ、四十九院が話しかけてくる。
「のう、志村。もし、お主が十文字選手と戦うとして攻略手段はあるかの?」
「そんなこと聞かれても、思いつかないよ」
「でも、一条を倒した司波達也って選手を倒したんじゃし、それにあの遠山家の者と知り合いなんじゃから、何か弱点とか聞いてたりせぬのか?」
「とおやまって……もしかして、あの『十山』?」
遠山、という言葉に一色が反応する。どっちも『とおやま』だから、あのとかそれとか付けられても聞き分けが難しい。
生徒会長に説明を求められた一色は、十山家について解説。第十研究所で開発された魔法師云々と……サラッと研究所で人体実験されていたことを話せるあたり、魔法師の倫理観って壊れてるなー。
どういう関係かという疑問が出てくるのだろうけど、俺とつかさちゃんの関係はメスゴリラを通した知り合いである。メスゴリラが仲介したから知り合っただけだし、特にこれといった私的な関係は築いていない。あくまで知人である。
ここに一条や吉祥寺がいないことが悔やまれる。どうして見舞いに行って帰ってこないんだよ。おかげで丸投げができないじゃないか。
仕方ない。つかさちゃんを体よく利用して切り抜けよう。
「あくまで伝え聞いた話だけど、十文字家の『ファランクス』の最大の弱点は燃費……サイオンの消費量が大きいことだ。特にハードに制限がかけられている九校戦において、ハイスペックのCADに頼ってきた十文字選手にとって『ファランクス』を使い続けるのは大きな負担であり、そんなに長く維持し続けられないのが唯一の弱点だろう。つまり体力勝負の持久戦に持ち込めば、他校にも勝利の可能性はある」
「それって他の選手が攻撃してくるのを防ぎながら『ファランクス』を使わせ続けるってことじゃろう。現実的な対処法じゃない気がするんじゃが……」
「十文字選手は『ファランクス』で攻撃しないんだから、まあ何とかなるだろう。『ファランクス』を攻撃に使うのは、下手したらレギュレーション違反になって失格になりかねない。それに別に四系統八種全てを守ろうと障壁を展開するのは負担が大きいだろうし、適当に四系統八種全て使って魔法を撃ちまくれば倒せるんじゃないかな。後は干渉力で押し切る方法だが、一般魔法師には不可能だろう」
無茶振りだよな、これ。何とでもなるハズだけど、違う系統、違う種類の魔法を使えば相克を起こして魔法の発動が阻害されるから、ミスればキャストジャミング状態になって身動きができずに負ける。敢えてそうした状態にして魔法を使えなくさせてしまうのもいいが、一人が十文字克人に張り付いた状態にさせられるので残る二人で何とかしなければいけない。誰だよ、こんなクソゲー思いついたの。敵対して分かる十師族の強さ。倫理観や道徳観をブッ壊して手に入れた力というのは、こうも厄介だとは夢にも思わなんだ。そりゃあ、権力だの何だの餌を与えて檻に入れておきたいよな。
結論。
「十文字選手に一般魔法師が勝つことは不可能だろうな」
「勝てぬのか?」
「無理を言うな」
なんで公衆の面前で十師族の十文字克人と戦って勝たないといけないんだよ。日本の魔法師社会で魔法名家の後ろ盾の無い人間が目立つのは、よろしくない。早死にするだけだ。仮に後ろ盾があっても、目立ち過ぎれば排除される。出る杭は打たれると言うが、出る杭は折られると言った方が正しいだろう。
何か飲もうとして備え付けの冷蔵庫から、家から持ち出した麦茶を取り出して中身が雀の涙ほどしかないことに気づいてイラっとする。別に『飲むな』と念押ししたわけじゃないし、無料提供していたから無くなっているのは仕方ない。せめて飲み切ったなら一言くらい言ってほしい。クソッたれ。
「勝てないとは言わないのね」
そこへ十七夜が妙なところに感づいてきやがったものだから、ため息も吐きたくなる。一条に勝った司波達也を倒した俺も疑われる対象か。
「第一、なんで俺に聞く。一条か吉祥寺に聞けばいいだろう。もっと頭の回る作戦を思いつくだろう」
最善かはさておき。矢面に立っても問題ない相手に丸投げする。
俺があんまり言い過ぎると、変に疑われて探られるのは面倒だ。既に四葉に目をつけられているからアウトだし、連鎖して七草も目をつけてくるので面倒だ。普通の学生がやるような友達関係とか築き上げれたら嬉しいけど、大体が打算的で友人として信頼関係を構築できない。同じ魔法師を信用も信頼もできない。
どのみち攻略法を語っちゃったから、変に目立ったな。でも、俺の言った戦い方を実行できるかどうかは難しいだろう。要求される技能が高いし、そんな事が出来てしまえば十師族からの囲い込みが始まるだろう。
話は終わり。俺もお見舞いには行こうと天幕から出ようとし──―なにっ?
「迎えに来た、兄さん」
「なんで来ちゃったの?」
即座に反応したのは四十九院で、彼女はヒョイと姿を見せると驚いた表情を見せる。
「妹じゃと? 似てないのう……って、志村は前髪のせいで顔が見えないから何とも言えないのじゃがな」
「ええと……」
誰だ、この戸惑いを浮かべる女は。病んでいるようには見えない。違う、これは演技しているんだな。
その場に居合わせた面々が集まりだし、好き勝手に言い始める。可愛いと言った奴がいたけど、逆説的に四葉真夜が可愛いとなるから、それは有り得ないことだろう。どちらかといえば、綺麗系で可愛い系じゃないだろう。皆して愛想笑いを浮かべて物腰の柔らかい態度を取る仮称『妹』にデレデレだったりする輩がいたが、十六夜夜子の容姿は整っている部類に入るから気持ちは理解できる。
だが、皆して『似てない』という評価は解せない。
「名は何というんじゃ?」
「志村夜子です。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀する姿には名家の令嬢らしさが出ている。男女問わず見惚れさせ、そして俺を見た人間は『似てない』という認識を改めて認識する。だが、気づいてしまう人間はいるだろう。この娘が四葉真夜に顔立ちが似ていることに。
誰が気づいたかと言えば、ちょうどよく見舞いから帰ってきた一条だった。
「うえぇぇっ? 四葉真夜さんっ!?」
狼狽えすぎだろう。
日本の魔法師は十師族の当主の名前と顔を覚えておくのは一般常識で、一条の反応から一斉に『確かに似ているな』という声が上がる。
焦る俺とは対照的に、十六夜夜子はどことなく嬉しそうだ。母親似との繋がりが感じられるからか。これ見よがしに『流星群』を使いまくっていたのも、四葉真夜に自分の存在を見せるためだったのかもしれない。同じ理由で七草弘一にもだろうか。
だが、現時点というかこの先もずっと俺や十六夜夜子の存在は邪魔でしかない。証明するのは容易だが、その証明した後に産まれた経緯が問題になる。それに帰属の問題もあるし、むしろ存在しない方が扱いやすいのだ。だから、本来なら墓場まで持って行った方が誰も不幸にならないで済むのだ。
十六夜夜子に目配せをして『俺が話すから話を合わせろ』と伝えておく。
「一条、他人の空似だろう。確かにどことなく似ているかもしれないが、この娘は俺の妹だ」
「……ああ、そうか。似てないなーっていうか、お前に妹なんていたのか? PDには何も……」
「おい、人の個人情報を勝手に調べるな。百家の十六夜家に養子に出していたんだよ。だから、本来なら十六夜の姓を名乗ってるんだよ。皆さんも悪ふざけに付き合わせてしまって申し訳ありません。ホントはこの娘は十六夜夜子って言います。この通り、似てないですがよろしくお願いします」
「すみません。改めまして、十六夜夜子です。よろしくお願いしますね」
「あっ、はい……」
「将輝……」
後は容姿と笑顔でカバーだ。見た目は美少女だから、美少女性のある行動をして見惚れさせれば問題ない。一条みたいに女子に耐性のない野郎には効果抜群だったが、何故か同じ野郎である吉祥寺には通じなかった。何故だ?
「そんな事より、迎えに来たって言ってたけど……まさか姫殿下からか?」
必殺、話題逸らし。
「そうです、兄さん。話があるそうでして」
「わかった。じゃあ、行こうか」
十六夜夜子をこの場に放置すると、その内『流星群』を撃ち始めそうなので連れて行かないといけない。流石に自重するだろうけど、今度は秘密にしていることを口から滑らせかねない。
喋らせたくないから、連れて行く。そして、互いの認識を合致させてから、交流させよう。マトモな人間性を与えるには、大勢の人間と関わらせて平和で文化的な一般生活をさせるのが良いだろう。
どうせ皇悠から世話を任される可能性は高いんだし、普通の平和な生活をさせてやる!
次回は十文字克人との対戦をやります。
魔法科高校の劣等生という作品全体でのラスボスは司波達也だと思うけど、学生という括りでのラスボスは十文字克人だと思う。十師族として見れば、ラスボスは四葉真夜になるかな。ワンチャン九島烈かと。