暗躍する請負人の憂鬱 作:トラジマ探偵社
ごきげんよう、皆さん。
前回は一高での活動は妙な警戒心を与え、公開討論会で何か仕掛ける可能性を一高首脳陣に植えつける最悪な結果となった。これは司波達也の警戒心の高さと彼の壬生先輩に対する印象やら人物評を見誤った俺の失態である。
もし、これで彼らがエガリテやブランシュへ法律の枠を超えたヤクザもニッコリの制圧行動に出られたら、計画はご破産だ。何もかも失敗で、こちら側の惨敗という形で全てが決着する。
そう考えると、あの皇族軍人も中々の暗躍者キラーだ。そもそも、疑惑だけで法的根拠ゼロの不当拘束もしくは殺害を仕掛けてくるんだからな。日本っていつから無法地帯になったんだっけ?
一高の生徒会長との協議は壬生紗耶香が行い、2日後の土曜日に行われる事となった。
生徒会長は『スポンサー』とやらも討論会に参加させたかったようだが、金沢から東京まで行くのは難儀なので欠席させてもらう。やっぱり、物理的な距離がネックだな。
そんなこんなで真面目に討論する内容を考えよう。
攻撃できる材料は多い。徹底的に打ち負かしてやることは可能かもしれない。ただ徹底的に対峙するであろう七草会長をぶちのめした場合、後から報復とばかりに七草家が動いて有志同盟のメンバーに何か仕掛ける可能性はある。良くて退学、悪くて病院か研究所送りか。死なないだけ寛大かもしれない。
1日だけの猶予は、相手に考える暇を与えないってのもあるが、そもそも『差別などしていない』という認識の表れなのだろう。
ククク、これは問題提起してやらないといけないな。
そこまで考えたところで、家で寛ぎ中の司波兄妹が外出する場面が映った。
USNAが開発した小型偵察ドローンは隠密性に優れ、1キロ離れた位置から指向性を持たせて音声を拾うことも可能という優れ物。弱点は光学迷彩を発生させても、影が映るし、空間に不自然な歪みが生じることだろう。国防軍も悪くないんだけど、通常兵器に関してはUSNAに軍配がある。ほら、国防軍って魔法を使う前提の装備ばっかりだからね。
司波兄妹の会話音声を拾ったりしたが、気づいた素振りを見せないことから大金を出した甲斐がある。おかげで家計は火達磨だ。
司波兄妹の行き先は『九重寺』という場所だった。
確か対空要塞だったか何だったかの上に作られた寺だったハズだ。木造の住居兼寺の地下にはその名残が残っているだろう。
司波兄妹……兄の司波達也はこの九重寺の住職である九重八雲に体術の指導を受けている。この寺に本当の意味で弟子入りしたかったら、お坊さんになる専門学校を出る必要があるので興味があっても弟子入りは出来ないぞ。まあ、体術だけならコネさえあれば大丈夫だと思う。
九重八雲は出家した身でありながら、なんか忍術使いとして有名な男だ。皇悠はこの九重八雲のところで一時期指南を受けていたらしく、ここで意外な繋がりがあることに知った時の俺は驚いたよ。どう考えて行動したら、忍者のところで修行するんだろうね。
司波達也はここで鍛錬でもするんだろうと勘繰るけど、どうやら違うらしくて九重八雲と話し始めた。ちょっと気になるので会話を盗聴してみよう。
『何か聞きたいことがあって来たんじゃないのかい?』
『第一高校3年、剣道部主将司甲の事とエガリテのスポンサーについて何か知りませんか?』
『……うーん、司甲君についてなら知ってるけどエガリテのスポンサーとやらは知らないねぇ。風間君に頼った方が良いんじゃないかい? 藤林のお嬢様もいるのだし』
『少佐に頼るのはちょっと……』
うむ、出てきた人名から司波達也の軍での上官に位置するであろう存在に風間少佐なる男がいるようだ。藤林お嬢様というと、藤林響子のことだろう。何してるか不明だけど。
二人に共通しているのは、どっちも十師族派の軍人だということだ。風間少佐に至っては、旧自衛隊派からの鞍替えである。まあ、彼の場合やむを得ない後ろ暗い事情があるので仕方ない。民間人に武器を横流ししたんだってさ。
国防軍でも、民間に武器などの装備を横流しするのは駄目な派閥と許す派閥がいるということを覚えておこう。自由に好き勝手したいなら、十師族派がオススメだぞ。
そうこうしている間に九重八雲は『司甲に関すること』を語っていく。連鎖的にブランシュのリーダーである司一のことも語られたので、ブランシュやエガリテの情報は筒抜けにされてしまった。
『君が昨日話したというエガリテのスポンサーについては何も分からなかったね。本当にいたのかい?』
流石の情報通でも、いきなり知らない単語が出てきて困惑しているようだ。知られても困るがな。
『本当にいると思っています。それもブランシュのリーダーとは別口で存在して生徒を唆しているのだと考えています』
うーん、惜しい。ブランシュもエガリテも全部操ってる黒幕さんが俺だ。
黒幕の存在に感づいているようだけど、残念ながら九重八雲は情報を持っていないようだ。残るは四葉家だが、まさか俺の情報が筒抜けだったりしないよね? 顧傑さん並みに情報収集能力高かったりしないかな。その内、あの情報収集能力の絡繰りを解き明かして対処しないと痛い目を見そうで嫌だな。とりあえず、顧傑を基準にして四葉に身バレしないように何重にもダミーを介したり顔を晒さないようにしたりと徹底的に隠蔽している。
四葉家に頼るか、はたまた国防軍の風間少佐ないし藤林響子を頼るか。選択肢は多く、どれも情報収集能力は高い部類に入る。彼らの思考回路で判断するなら、四葉家を先に頼りそうである。
国防軍は組織としては役立たずだが、個人レベルでは有用な人材は存在する。しかし、頼りないのは変わらない。
両方使う可能性もあるし、どちらか片方なだけかもしれない。どっちみち徹底して隠す必要がある事に変わりない。
『お兄様は一高に黒幕がいると思っているのですか?』
『相手は用心深く、決して表に出ないようにしているようだが、これは俺たちと同じ一高の学生だから隠しているのだろう。魔法は継続してかけ続けならなければいけない以上、黒幕となる魔法師は必然的に1番近くにいなければならないだろうからな』
『そして、自分は安全なところから一般生徒になりすまして見ているだけ。なんて卑劣な……!』
拾った会話から司波深雪の痛烈な批判が耳に入り、お腹が痛くなる。
「ヤベ、何も言い返せない」
しかし、一般生徒を装い、十師族の本来の役目を放棄している人間には言われたくない。
どれだけ高潔な理想を掲げて高尚な言葉を並べたところで俺は人を洗脳して操って動かすクズ野郎に変わりないので、司波兄妹の批判は甘んじて受け入れよう。事実だし。
そうして夜は終わり、日付は変わる。
「さあ、始めますか」
一世一代の大勝負の幕開けだ。