暗躍する請負人の憂鬱 作:トラジマ探偵社
一高で起きた事件は社会に大きな影響を与えた。
一科生による二科生迫害運動を抑え込もうと、学校側は見回りを強化するも悲劇を止められなかったようで二科生側に多くの事故を装った重軽傷者を生ませてしまった。
魔法の授業には事故などで怪我することは良くあることである。校内で私的な決闘を黙認していることから、魔法による怪我は多い。
例え、それが悪意による魔法攻撃であっても魔法科高校では『良くある』ことで片づけられた。
保護者への説明がそんな感じだったので納得できるハズもなく、事故の調査を求めるも『国家機密』とやらが関わってくるので調査はされないんだとか。
だが、義憤に駆られた勇気ある生徒がマスコミに色々とぶちまけたことで状況は一変。真実は明るみとなってしまい、これには学校側は慌てふためいたらしい。
センセーショナルに書き立てられた記事には、これでもかと魔法科高校の教育実態とそれに伴って引き起こされた生徒による虐め問題が明るみとなって激しい批判攻撃に喘ぐこととなった。
事の発端は『一科・二科制度』であったことから、同じ制度を採用している二高と三高にも飛び火。批判の集中砲火を浴びることとなった。
「つ、疲れた……」
机に突っ伏して折角のイケメンを台無しにしたグロッキー野郎は『三高のエース』と名高い一条将輝だ。
風紀委員に属し、十師族でもあるので火消しの対応もやらされていたらしい。尚、その近くの席で同じように声も上げずにグロッキーしているのは吉祥寺真紅郎で、一条の『友人』である。彼は生徒会に属して連日の対応に辟易としたらしい。
一条親衛隊というファンクラブの女子が声をかけようと互いに牽制しあっている様子に笑いそうになるが、グッと我慢して見守ろう。不機嫌であることを隠そうともしていない三高一年の金髪の典型的なお嬢様、一色愛梨が来たことで女子たちは話しかける機会を失ったのでファンクラブは涙目だ。
「まったく……どうして一高の不祥事に私たちまで巻き込まれなきゃいけないのよ」
「そう言うでないぞ、愛梨よ。三高も同じ教育制度をとっているのじゃから、飛び火するのは目に見えていたじゃろう。ワシらの手が及ばぬところまでいったのじゃから、後は気長に待つのがよかろう」
「沓子はそうやって楽観視するのはよくないわ」
楽観的な物言いをする四十九院沓子を十七夜栞が諌める。足元まで届きそうな長髪の未発達な女の子が四十九院で、ショートカットのクールビューティーが十七夜だ。
実際、四十九院の言ったように舞台は学生の手を離れて大人たちの世界へ入った。
国立なんで潰せるハズもなければ、今更になって二科生を無くすこともできない。だが、無策では来年度以降は最悪の場合、定員割れなんて事態を引き起こすだろう。既に問題は発生し、被害を出してしまった以上、迅速な解決が求められていた。
結果、一科生や二科生の間にあった『差』というものは無くなった。講師はつくことになったし、制服に花のエンブレムがついた。扱いが一科生と殆ど同じになったので、もはや『一科・二科制度』というものは崩壊することとなった。ちなみに講師は予備役についていた一般魔法師で軍や研究所の魔法関係に詳しく教育経験のある者から、非常勤として雇い入れたらしい。
差別は無くなったようなので万事解決である。これで桐原何とかって生徒に殺されかけた司一も浮かばれるというもの。
こちらの被害はブランシュ日本支部と下部組織エガリテの消滅だった。リーダーの司一は逮捕され、その弟の司甲は自主退学。有志同盟の皆さんは洗脳されていた事が司一の証言から判明したことと未成年ということ、更に事の原因が国側にあったことも相まって一応罪に問われずに学校に残ることは出来たのだが、揃って自主退学したという。洗脳されてた、なんて理由があっても周りからの圧力やら空気に耐えられなかったらしい。皇悠が「こんなのシナリオと違う」だのとボヤいていたが、果たして彼女の思う『シナリオ』とは何なのだろう。有耶無耶にすることかな。
「ということで、何か知らぬかの?」
などと考えていたら、四十九院が話しかけてきた。なんの話か聞いてないし、話しかけられるような接点が……あったな。この娘の親と皇悠繋がりで知り合ってたな。ヤベー睨まれたけど。
四十九院が話しかけてきたもんだから、関わらないようにしていたお仲間さんたちもこっちに注目しやがった。
「えっと……」
「おお、すまなかったの。ワシ四十九院沓子じゃ。一高で襲撃事件があった日に何が起きていたか知らぬかの?」
「志村真弘です。それで一高で何が起きていたか知りたいって聞かれても、逆になんで俺が知ってると思ったんですか?」
「お主って確か請負人とやらをやっているじゃろう? ここは同じクラスのよしみで調べてくれんかの」
調べるも何も、俺が暗躍した結果が今の一高の状況だ。
どうせ詳細は聞いているのだろうし、余計な情報を出して怪しまれるのは嫌だな。
「沓子、その人と知り合いだったの?」
「ワシが一方的に知っておっただけじゃ。両親が憎々しげに話題にしておったのを聞いていただけなのじゃが、存外悪い奴ではなかったの。志村、ワシの両親と何かあったのか?」
「何かしたとかは無いが、どうせ姫殿下に贔屓にしてもらってるのが気に入らないとかそんな理由だろ」
「姫殿下と知り合いじゃとっ!?」
今度は驚いちゃったよ。周りも似たような反応してるし、知らなかったのだから無理もないか。
姫殿下……皇悠は魔法師社会で上にいる十師族と関りが深い人間ほど嫌われる傾向にある女性だが、一般の魔法師とか非魔法師からは軍の広報活動の一環でメディア露出が多いことや既得権益の打破、汚職などの不正を取り締まっていることから、かなりの人気を誇っている。
顔良し、家柄良しで軍人としての能力も高く、組織の改革をやり遂げているカリスマ性の高いメスゴリ──―女傑というのが大衆の認識。
羨ましがる人間がいて質問攻めされる一方、あまりよろしくない感情を抱いていると思われるのが一条と吉祥寺、一色と十七夜の4名だ。これは政治的な問題やら皇悠の行動が招いた結果なので、仕方あるまい。割と強引な手段を使って海軍の改革したらしいし、排除された人間の中に一条家やら一色家の人間でも混じっていたのだろう。ちなみに一番被害が大きいのは七草である。数が多いからね。
「お主と姫殿下とはどういう関係じゃ?」
「あの人はお得意様だ。いろんな仕事を発注してくれるから、かなり助かってる。会社が保ってられるのも、あの人のおかげな側面がある。ところで、一高で襲撃事件が起きた日の事を知りたいんじゃなかったのか?」
「そうじゃったの。調べてくれるのか?」
「別件で動いていた際についでに中継した映像なら、今持っている」
「本当か!」
近い近い。距離感バグるのは心臓に悪いからやめてほしい。
協力者の身バレ防止のため、少々加工した部分はあれど机の端末に繋いで映像を流す。その前に見たい人は誰かと希望を募れば、教室にいた人間の殆どが集まった。
「あんまり見ても気分が良いものじゃないよ」
「見せてくれないか。俺も気になる」
一条が出しゃばってきたので、いよいよ持って断りにくい雰囲気となった。
まあ、別に見せたって俺が黒幕だって分かるような映像じゃないから良いかな。
机上の端末に繋いで根暗ちゃんに撮ってもらってた映像を見せる。
最初は有志同盟の問題提示に対して七草会長による容赦ない論破で進み、独壇場となっていく。七草会長をアップで映しているから、女子からの疑惑の目が辛い。
次は有志同盟による反撃で七草会長が苦境に立たされるシーンへ移る。
今更だけど、ブランシュもエガリテも『平等』という社会主義的発想する団体であるが、このエガリテに属していた壬生紗耶香の言葉はその思想を否定するかのようなものだ。出来ない自分たちを出来るように配慮しろ、だなんて厚かましいって一科生なら思いそう。それに対するツッコミは無しだった。
やがて舞台はヤジ合戦となり、容赦のない差別用語を用いた一科生の本音が暴露されていく。三高にも同じ思いを抱いている人間は多少なりとも存在するので、そういう人間は息をひそめて沈黙して周りの出方を窺うことにするようだ。
ブランシュの襲撃によって混乱が発生し、最後に有志同盟のメンバーが逮捕される瞬間が映ってから映像が反転、天井を映し出し誰かの靴の裏を最後に途切れた。
感想。
聞いていた以上に酷い状況だったと、一条は語る。禁止用語が飛び交っていたのは聞いていなかったようだ。小学生でもまだマトモな討論会するのに、それ以下の民度を疑うレベルの酷く醜い討論会である。だが、この討論会は──―。
「うーむ、どうも作為的……意図的なものが感じる」
「沓子、どういうこと?」
「このヤジを飛ばした一科生は何らかの暗示か洗脳をかけられておるように見えたのじゃが、気のせいじゃろうか?」
正解です。この討論会や映像データにあった魔法の事故、場外乱闘やその後の迫害に繋がる噂流しやら何やらは全て俺があらかじめ暗示か洗脳及び精神構造の書き換えをしておいた仕込みである。七草真由美も他の主だった連中も、まさか一科生に魔の手が伸びてたなんて考えもしていないだろう。
一体どこまで仕組んだかと問われれば、即答で「全部♪」と答える。大体起きた事は全て俺が手を回していた結果であり、全て俺の仕業だ。その癖、絶対に正体を晒していないので卑怯者の誹りは免れない。
などとネタバレしつつ、吉祥寺の仮説を聞いてみよう。
「ここだけの話だけど一科生も洗脳されていて、この事件に関わった人間の殆どが洗脳魔法の被害者だった。恐らく今の状況を作り上げるため、裏で仕組んだ黒幕がいると思う。かなり用意周到で用心深い相手だろう」
誰もが驚き、戦慄している。そもそも、表立って動く黒幕がいるのだろうか。黒幕が目立ってたら、それは黒幕と言わない。
司波達也も同じ推理を披露していたが、あっちは更に「一高の中に黒幕もしくは繋がっている存在がいる」と七草真由美と十文字克人など主立った人に話している。ブランシュ事件に際して協力してくれた協力者くんと根暗ちゃんには普通の学生生活を送らせておこう。黒幕と勘違いされたら消されるのは確実だろう。一科と二科の間で生じた問題で、彼ら兄妹の日常生活に支障を出させてしまったので私的な報復に出ることは確実。七草ですら、不正を暴いて海軍から排除しまくった皇悠を暗殺しようとしたくらいだし、十師族の人間は気に入らない人間は『敵』と見なして殺しにかかることに関しては信用できる。
俺自身は特に反応することなく、映像を見終わったので後片付けをする。こういうのは警察の仕事だと思うし、依頼もないのに動く訳にもいくまい。それに俺が黒幕だから、頼まれたらどっかの誰かに罪を着せるぞ。
今更だけど、今がどういう時間かと言うと自由時間である。または自習時間だ。いい加減、真面目に試験に向けて勉強しなければいけない。
「志村、昼頃ちょっと話をしたいんだがいいか?」
「いいよ」
四十九院も人前で余計なことをベラベラと言いやがって。おかげで面倒な奴が面倒な絡み方をしてきやがった。