暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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第7話

 一条将輝。通称『クリムゾン・プリンス』の異名で知られる有名人である。

 

 三年前に佐渡に新ソ連軍の一部が暴走して侵攻してきた際、父親と一緒に民兵……義勇軍を率いて佐渡を奪回した英雄の一人だ。『クリムゾン』は『敵と味方の血にまみれて戦った』という意味らしい。味方も殺してたのかな。

 

 現実は佐渡が一時占領されてからの押っ取り刀で投降しようとした敵兵もまとめて爆裂しまくった殺人鬼だが、命を懸けた戦闘だったし初陣なので敵味方関係なく爆裂したところで問題ないかもしれない。彼は知らないだろうけど、佐渡は一度見殺しにされていたのは言うまでもない。ちなみに海軍はこのあからさまな侵攻を察知しておきながら、見逃したらしい。それだけで極刑モノだったが、どこぞの魔法名家の口添えで咎められなかったために皇悠の粛清リストに入って多くの人間が海軍から消えた。

 

 その隣にいる吉祥寺真紅郎は『カーディナル・ジョージ』と呼ばれている天才児で、一条将輝の『親友』だ。決して佐渡の事変がマッチポンプだ、なんて事は無いので邪推はしないでおく。

 

 俺と彼らの関係はクラスメートである。教室で顔を合わせて挨拶くらいはするが、それ以上のことはしていない。俺はそもそも誰とも深く関わっていない。

 

 じゃあ、なんで呼び出しをくらうことになったのだろう。十中八九、皇悠が関わっているだろう。真面目に答えたら、俺が危ない。

 

「志村、今回の一高での一件だが……すめら──―姫殿下が関わっていたりするのか?」

 

 呼び捨てしようとしたところで言い直した一条が、聞かれて素直に答えれる内容じゃない質問を投げ掛ける。確証があるならまだしも、勝手な憶測をするのは俺がもし皇悠に忠実に従う人間だったら、怒られても文句は言えないぞ。

 

 しかし、皇悠が関わっているのは正解である。馬鹿正直に答えないけど。

 

「そんなの俺が知るか」

「なんで知らないんだよ」

「知れたら苦労しない。というか、姫殿下が黒幕だなんてあまりに普通過ぎるだろう。何でもかんでも姫殿下の仕業になるなら苦労しないよ。普通に考えて別の誰かの仕業って考えるのが筋だ。姫殿下は心情はともかく中立だぞ」

「別の誰かって誰だ?」

「知らないよ」

 

 俺と一条は揃って吉祥寺に目を向ける。

 

「僕にもわからないよ」

 

 俺です、とは言わない。

 

 俺は臆病なので絶対に自分が「黒幕だ」とは言わないのだ。

 

「要件はそれだけ?」

「志村はどうして姫殿下の依頼を受けているんだ?」

「ちゃんと報酬を出してくれるからだけど? 何故、無償で仕事していると思っているんだ」

「金さえ払うなら相手が誰であろうと構わないのかっ?」

 

 ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか? 

 

「あまり、そういう事は言うものじゃないよ。聞く人によっては怒られるからな」

「将輝、流石に言い過ぎだと思う。それに確証もないのに問い詰めてもマトモに答えてくれるハズもないよ。ちゃんとした根拠を示せないとダメだ」

「だが、ジョージ……!」

 

 なんというか、直感は正しい。皇悠が関わっているのは確かだから。でも、それを知る術は無いし知って証拠は残してないので彼女は綺麗なままだ。もし報復に出るというなら、国家に対する反逆である。単なるテロリストでしかなく、皇悠を殺したければ政治的な戦いになる。いや、犯罪者になる覚悟があるなら話は別だが。

 

「一条は姫殿下がこの一件に関わっていると知ったらどうするんだ?」

「そりゃあ、抗議して」

「それで?」

「それで……って、ジョージ。どうしたらいい?」

「マトモな証拠もないのに何も出来ないよ。それに剛毅さんが姫殿下と積極的に対立しないって決めたじゃないか。確かな証拠があれば話が別だけど、何も無いんじゃあ何も出来ない」

 

 そこまで言われてしまっては、一条はもう諦めるしかない。

 

「すまなかった、志村」

 

 素直に謝れるのは美徳だ。屁理屈こねて謝罪と責任回避してくる人間は多いから、余計にそう思う。

 

 一条の人柄は嫌いではない。正義感はあるし、国防意識も高い。是非とも、腐らないでほしいと思う。欠点は人を信じ過ぎるところだろう。

 

 そんな一条将輝に危うく絆されかけることはなかったが、どうせなのでここで皇悠が纏めている陣営の説明をしておこう。

 

「姫殿下の陣営にはいろんな奴がいるからね。古式魔法師を中心に魑魅魍魎が跋扈していると言っても過言じゃない。政治力と裏工作などの暗躍に関しては専売特許だろう。姫殿下と対立して勝つなら、政治的な攻め方も学んだ方が良いだろうね」

「すまん。そういうのは俺は苦手だから、ジョージに任せる」

「こんなポンコツが次期当主とか一条家って大丈夫なの?」

 

 つい素で吉祥寺に訊ねてしまった。

 

「仕方ないよ。将輝だから」

「おい、どういう意味だ」

 

 吉祥寺には手綱をしっかりと握っておいてほしい。

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 一条たちと別れた後、次の授業の準備をしようと教室へ戻る。

 

 その道中、廊下で一色愛梨とその取り巻き2名が歩いてくるのが見えた。さして何かある訳でないから、通行の邪魔にならないように端っこに寄ってスレ違おうとする。

 

 ──―が、一色は俺に用事があったらしい。

 

「志村真弘でしたわね? 沓子からいろいろと話は聞いたわ」

 

 口止めしている訳では無いから四十九院がアレコレ話してても驚かないけど、俺が面倒な絡まれ方をされるってわかってほしい。

 

「そうですか。関係やら何やら問われても、俺にとって姫殿下は顧客です。あんまりとやかく言われたくないんですけど」

「そんなのはどうでもいい事よ。姫殿下ってよく金沢に来てるの?」

 

 なんだか妙な予感がする。

 

「たまに来てます。専ら事務所に立ち寄って仕事の依頼したら帰るって感じですけど」

 

 プライベート番号も持っているが、野暮なので言わないでおく。

 

「私的に会ったりしているのかしら?」

「それはない」

 

 それを聞いて一色が予想外といった感じの顔をしていたが、なんか妙な予感が当たりそうだった。

 

「もしかして、姫殿下に会いたいとか考えているのか?」

「そ、そんなつもりないわよ!」

「愛梨は姫殿下のファンなの」

「お主と姫殿下の関係を誤解しておったからの。誤解を解くのに苦労したのじゃ」

「それ言わない約束でしょ!」

 

 えぇ、あのメスゴリラのファンなの? 

 

 同じメスゴリラでも某少佐の方が個人的にはカッコいいと思うのだが、彼女たちは皇悠がメスゴリラだと知らないんだから仕方あるまい。奴が素手で硬い鋼鉄の扉を破壊できることを知らない方が良いだろう。

 

「姫殿下のファンですか。数字付きで姫殿下を好意的に見る人はいないと思ってたから、なんだか意外だな」

「そんなの関係ないわ!」

 

 十師族魔法名家からしてみれば、皇悠を諸悪の根源扱いされていてもおかしくない。それだけ嫌われることをしたのだと思うが、たかだか海軍から魔法名家の影響力を排除したくらいで蛇蝎の如く嫌うのに納得するのは難しい。

 

 一色が皇悠のことを語りだしたので内心はどうでもいいが、興味深そうに聞いておく。十七夜も四十九院も聞き飽きたって顔しているが、同じ顔するワケにいかない。

 

 

 魔法が使えないことを除けばどこぞのギャルゲーやら何やらで出てくるヒロインみたいに完璧超人な皇悠を褒めちぎり、精神汚染されていくみたいに俺の中で皇悠に対する印象が変わっていくような気がする。

 

 しかし、一色のように皇悠を慕う魔法師がいれば『魔法が使えない』という一点だけを理由に見下し、目の敵にする魔法師もいる。魔法師社会は魔法の才能こそ全てであると言っても過言じゃないので、ある意味で魔法の非魔法師に対する見方が解る。一色が珍しいタイプであることに変わりない。

 

「一色さんの姫殿下に対する気持ちは理解するけど、俺には何してほしいんですか?」

「貴方と姫殿下ってどれくらい親しいの?」

「ビジネスライクな関係だから、そんなに親しくないです。すみません、期待した答えにならなくて」

 

 あっちは俺を信用も信頼もしてないだろう。結局「魔法師だから」ということで俺は信用を得られにくい。やっていることが洗脳や暗示など非合法的手段ってのも大きいだろうな。

 

 まるで皇悠に信頼と信用されたいかのように聞こえるかもしれないが、彼女に信頼も信用もされてはいけない以上、使い勝手のいい飼い犬扱いが妥当だろう。

 

 一色は俺と姫殿下との関係を知りたかっただけだったらしい。

 

 話は終わり、俺は一色率いる三高女子一年のスリートップと別れる。ようやく飯だ。

 

「志村、ちょっといいかの?」

 

 四十九院がいた。

 

「なに?」

「愛梨たちに言わないでおいたが、姫殿下が九校戦を観に来ることは知っておるな?」

「当然だよ。つい先日、姫殿下から護衛の依頼が来たからな。それがどうしたのか?」

「ワシも姫殿下の護衛に任命されたから、よろしく頼むのじゃ」

「うん、よろしく」

 

 俺はともかく、学生が身辺警護って。完全に撒き餌か弾除けにされているな。もしくは皇悠の護衛ができる現代魔法師がいないということなのかもしれない。ボディーガード業している森崎家は魔法名家向けなので、非魔法師は守ってくれないのだ。

 

 だからこそ、自分の身は自分で守るしかなくて誰かを守りながら魔法名家と正面切って戦うのは苦手なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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