暗躍する請負人の憂鬱    作:トラジマ探偵社

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九校戦に入る前にオリジナル話を入れていきます。


第8話

 一高で発生したブランシュ事件は原作にない展開となり、私こと皇悠に大きな衝撃を与えた。

 

 原作と同様の展開になって終わるのかと思わせておきながら、実際は一科と二科の対立を助長して九校戦の出場停止もやむを得ない大炎上を引き起こしていた。犯人は飼い犬の志村真弘で、奴は初めからこうなるように仕組んでいたのだろう。

 

 私がブランシュやエガリテを乗っ取るように指示したのが1年前だから、その時には既にこの一科と二科の分断をすることにしていたのだろう。作戦以上のことはしてないと考えるなら、奴の意図を汲んだ或いは1年前の時点でこうなるように仕組ませるようにした何者かがいるのだろう。

 

じゃあ、誰が協力しているのだろうか。

 

『えっ、協力者ですか?』

 

 特別回線を使った通信で問いただすと、驚いたような声が返ってくる。

 

『いや、流石に姫殿下でもこればっかりは答えれませんよ。ああ、でも、コードネームくらいは教えます。ええと、ヒステリック先輩です』

 

 外見的特徴からコードネームを決めているようで、原作で登場してきたようなキャラから先輩にあたる人間を照らし合わせていく。

 

 一人だけ思い当たる人間がいた。

 

「関本勲か」

『なんで分かったの?』

 

 正解だったようだ。素直に認めるということは既に用済みであることの裏返しなのかもしれない。

 

「外見的特徴をそのままコードネームにするのはどうかと思うな」

『こればっかりは趣味みたいなものなのですよ。適当に名前決めるよりは幾分かマシだと思っています』

 

 それで外見の特徴を当てはめるのも趣味が悪い。番号にしてやればいいと思うが、趣味と言っていたあたりで問う必要は無い。

 

 さしずめ、奴が1年前に指示を出して関本が実行していたのだろう。結果、魔法科高校が国立でなかったら潰れてたと思われるレベルで危なかった。尻に火がついたといった様相で、今までの問題を解決していったのは結果オーライとでも言うべきか。差別問題は解消されたし、問題が起きていた一高は一時は九校戦も論文コンペも出場停止という話があったが、無事に出場できる運びとなった。シナリオ修正が入ったか、端に十師族の二人がゴリ押ししたかもしれない。

 

 だが、その過程で犠牲となった者もいる。

 

「志村、壬生紗耶香の事だが……」

 

 美少女には美少女だ、などと利用して矢面に立たせた少女は『洗脳されてた』という免罪符はあっても、七草真由美を公衆の面前で「嘘つき」と罵倒し、恥をかかせたことと一科と二科の分断のきっかけを作り上げたこともあって周囲からの集中砲火に耐えかねて自主退学してしまった。

 

 これで何が変わったかといえば、本来であれば桐原武明と付き合ってたのだが、そんなシナリオは無くなっていた。

 

『桐原は壬生が学校から去るのを黙って見ていただけだった』

 

 追加依頼で調査させたら、奴はそう語った。

 

 原作にない展開があったのは言うまでもなく頭を抱えたいところだが、この犠牲に私は何らかの形で報いなければならないと思ってる。

 

「志村、仕事の依頼だ」

『何でしょうか?』

「七草の報復から壬生紗耶香を守れ」

『わかりました。でも、これに関しては報酬はいりませんよ。壬生紗耶香さんの件は俺の責任でもありますので』

 

 元はと言えば、お前が仕組んだことだろう。しかし、最終的に実行を許したのは私で責任は取らないといけないけど、私が倒れたら全てが水泡に帰す。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 皇悠(メスゴリラ)からの追加依頼が出た。

 

『七草の報復から壬生紗耶香を守れ』

 

 これは公衆の面前で七草真由美を「嘘つき」と罵倒し、あまつさえ恥をかかせた故に起きる出来事だ。

 

 仮にも元一高の生徒であり、七草会長の後輩だったのに一高の生徒じゃなくなれば『公衆の面前で恥をかかせた気に入らない女』という認識に早変わりである。そんな事は七草会長自身は思ってないだろうけど、十師族というのは舐められたり侮られたり、批判されるのは駄目な家柄だ。『七草真由美の醜態』はそのまま『七草家の醜態』へ結びつくので、元凶たる壬生紗耶香を消そうとするのは必然の流れだったのかもしれない。

 

 これがまだ一高の生徒であったなら、多少の問題が生じるので踏みとどまったのかもしれないが、残念な事に自主退学しているので無駄な思考だった。

 

 七草家による報復は今夜行われることになっている。壬生紗耶香は自主退学以降、一人で夜中出歩く時が増えているらしく、完全に一昔前の非行少女だった。

 

 当然、行動パターンを把握した七草家の襲撃要員は彼女が一人になる機会を狙うだろう。

 

 そのまま俺が守るのもいいが、ちょうどいい機会なので人を使おう。

 

 ケータイ端末を使い、事前に調べた電話番号へかける。

 

「もしもし、桐原武明でしょうか?」

『……誰だ?』

 

 某緑髪VOCALOIDの機械音声で話しかけると、警戒心強めの返答がきた。

 

「直接の面識は無いけど、私は君のことをよーく知ってるよ。桐原武明くん。私は壬生紗耶香を狂わせた張本人だ」

『なんだと! テメェ、どこにいやがる! 今すぐたたっ斬ってやる!』

 

 通話越しにも関わらず殺気がひしひしと伝わってくる。彼は壬生紗耶香のことになると、どうやら冷静じゃいられなくなるようだ。

 

 桐原武明という少年は壬生紗耶香という少女を好きなのだろう。まあ、壬生紗耶香は容姿も優れてるので気持ちは理解できる。あとは剣士故の独特な感性があるのだろうけど、そこら辺は理解できない。

 

「短絡的だねぇ。私を斬ったところで何も変わらないし、何も変えられない。君がすべき事はもっと別にあると私は思うんだが……違うかい?」

『そんなの知るか! テメェのせいで壬生だけじゃない、大勢の生徒が苦しんだんだぞ!』

「結果的に一高や他の魔法科高校において発生していた一科生と二科生の間にあった問題は解決された。今まで騙し騙しのなぁなぁで済ませてきたツケが回ってきたのだ。むしろ、これくらいで済んで良かったではないですか。

 

 というより、君に私を責められるのかい? 君だって壬生紗耶香を殺そうとしていたじゃないか」

『違う! あの時は──―!』

「斬りかかったのは事実じゃないか。君の場合、風紀委員がいなかったら殺していたんだぞ。殺してから、死んでからでは全て手遅れだって気づかないのかな。それとも、壬生紗耶香は二科生だから殺しても構わないと思ってたのかな? 事実、殺害未遂したのにお咎め無しだったもんね。反省してるから何だよ。君がやったのは立派な犯罪じゃないか」

「じゃあ、テメェのしている事は何なんだよ!」

 

 それを言われると耳が痛いが、俺の場合は説教するだけ無駄だろう。釈迦に説法するようなもので、俺は咎められることは百も承知で暗躍している。俺に説教する資格はないし、相手側も言う資格は無い。

 

 そもそも、俺は説教や正論でイビるために電話したんじゃない。

 

「それはさておき。君に耳寄りな情報を与えてあげようと思っているんだよ」

『なんだよ?』

「実はあの時の討論会で七草真由美を公衆の面前で罵った挙げ句、恥をかかせたのが問題となったみたい。七草家はとうやら壬生紗耶香に今夜、報復することにしたようだね」

『嘘言うんじゃねーよ! 七草会長がそんな事する訳ねーだろ!』

「七草会長じゃなくて()()がだよ。彼女は汚いものは何も知らないし、知ったかぶりになっている清廉潔白なお嬢様だ。周りが勝手に意を汲んで殺るだけの話だよ。嘘と断じても良いけど、仮に本当だとしたら朝方には都内で少女の遺体が発見されるだろうね。

 

 もし、君がまだ彼女に未練があるなら守ってあげてほしい。私では七草家の魔法師と戦っても返り討ちに遭うだけだから」

 

 通話を切り、壬生紗耶香の位置情報を転送する。

 

 ちなみに同じように情報を彼女と関わりがあった人間に送ってみよう。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの原理というヤツだ。

 

 司波達也に電話をかける。壬生紗耶香の番号でかけているから、どんな反応がくるのやら。

 

『誰だ?』

「ハロー、司波達也くん。私だよ、スポンサーだ」

『なんの用だ』

 

 通話越しだと、人間味のない冷たい感じが伝わってくる。人間性を与えなきゃ。

 

「情報提供だよ。今夜、七草家による壬生紗耶香への報復が行われるようだ。理由は公衆の面前で七草真由美を罵倒し、恥をかかせたって事らしい。

 

 もし、君に助ける気概があるなら彼女を助けてほしい」

『何故、お前がそんな事を知っている?』

「知ることが出来る立場にあるという事だよ」

『……そこまで壬生先輩に肩入れする理由は何だ?』

「目的のために利用したから、これはその罪滅ぼしだ。残念な事に私ではどうする事もできない」

『目的だと?』

「差別の撤廃だよ」

 

 たぶん助けにいかないだろうな。利益が無きゃ動かないだろうし、彼の場合は妹の司波深雪が絡んでないと感情が動いてなさそうに見えるので壬生紗耶香の事なんてどうでも良いと思ってそうだな。司波深雪次第といったところかな。

 

 同様に情報提供した相手は壬生紗耶香とちょっとした因縁がある渡辺摩利だが、しつこく正体とか目的とか聞かれても本当のことを教えれないので『元二科生で差別撤廃が目的』とだけ答えておいた。

 

『何故、警察に頼ろうとしない?』

 

 最後に聞かれたこの質問に全くその案を考えてなかったことに気づいた。

 

 超弩級の正論なんだが……正論なんだよ? でも、十師族が関わっている案件に警察が出てくることなんて有り得ないんだよな。百家支流などという上の立場にいる人間がそんな事を知らないハズがないだろう。

 

「壬生紗耶香に対して何か後ろめたい気持ちがあるなら、助けてみてはどうでしょうか?」

『なに?』

 

 この人も動かんだろう。どれだけ『七草家』と強調したところで、『七草真由美』がセットになって思考するので彼女の『友人』となっている渡辺摩利は俺の言葉を信じることはない。

 

 軍が警察の領分を超えて動かないし、十文字克人や七草真由美は論外。では、壬生紗耶香と仲良しの友達はと来れば二科生で戦闘経験のない素人集団で壁にすらならないどころか掌返しで責め立てていたので論外。

 

 声をかけた中で最も動く確率が高いのが桐原武明だが、果たして助けるのだろうか。

 

 

 

 結果。

 

 助けに来たのは桐原武明だけだった。

 

 彼でも大分迷った方だったようで、実際に壬生紗耶香が襲撃されて危ないというところで間に合った。

 

『桐原くん!?』

『走れ、壬生! 逃げるぞ!』

 

 間一髪のところで魔法による牽制を行い、壬生紗耶香の手をとって走り出す。

 

 目の前の敵を倒すためなら護衛対象そっちのけで戦い始めるのが魔法師だが、桐原という男に関しては敵を倒すより先に想い人の安全を優先したようだ。

 

 先ずは一安心。彼らは入り組んだ路地を駆け抜け、相手を撒こうとする。

 

 本来の予定なら一人になったところを魔法で始末した後、事後処理して帰る襲撃者だったが、思わぬ闖入者によって狂わされた。魔法師社会は狭く排他的で、桐原武明のように実力を見せている人間の顔と名前は周知されているようで、相手が相手なだけにちょっと動揺したようだ。

 

 桐原が魔法名家の覚えもあり、更に十文字克人が彼が問題起こしても無罪放免にさせる便宜を図るくらいには気に入られている存在だ。手を引くのが無難であるが、今更立ち止まるわけにもいかないのだろう。追いかけて彼らの姿を見失うあたりが狙い目だ。

 

 そうして、追いかける襲撃者が桐原たちが入っていた路地に入ろうとする前に俺が飛び降りて一人を踏みつけて頭を潰して着地する。

 

「なっ、誰だ!」

「こんばんは。今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね」

 

 拳銃タイプの特化型CADを向け、魔法を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

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