暗躍する請負人の憂鬱 作:トラジマ探偵社
アクセス数が伸びてるので私はビックリしてます。
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魔法師にはそれぞれ得意魔法というものが存在する。
魔法科高校で『優等生』に分類される一科生であっても、全部の系統を満遍なく使えるだけであってその中で特に適正が高く扱いやすい魔法系統は存在している。で、それが『劣等生』に分類される二科生となると尖り過ぎる傾向にある。彼らの中には『BS魔法師』という先天的に決められた一つの魔法しか使えない人間も存在するんだが、ぶっちゃけてしまうとそういう魔法師はワンマンアーミーになりがちで国防軍に存在しているであろう魔法師部隊では到底扱いには困難を極めるものである。そもそも、日本の魔法師は単独行動が主体で連携なんてすることは皆無。個が際立ってるし、魔法は被ると相克を起こすので何がどこから飛んでくるか分からない戦場で魔法を扱うのは正直厳しい。特殊部隊とかやってる局地戦なら使える機会は多いだろう。
話は逸れたので戻すと、人にはそれぞれ得意不得意はあるので魔法師も例外ではなく、それは俺も一緒だ。ただし、俺の場合はかなり特殊だった。
魔法師が魔法を簡単に発動するための補助デバイスであるCADを使い、俺は自身の得意で特異な固有魔法を応用した魔法『ピースメーカー』を二人の魔法師に行使する。
魔法師には『魔法演算領域』というものが精神上に存在する。この魔法は演算領域をグチャグチャに破壊するというものだ。要するに精神を破壊する訳だが、演算領域を持たないような非魔法師に分類される人間には通用しない。
演算領域を破壊された魔法師は『魔法』を使うことは出来なくなる。同時に精神を破壊されるので、廃人コースへ一直線だ。魔法師を殺せば平和になる、と馬鹿な考えをしたバカ野郎が名付けた皮肉の利いた固有魔法だった。
精神を破壊され、人語を話すことも無く狂ったように笑い声を上げたり、発狂して金切り声を上げる七草家の魔法師を尻目にすぐに離脱する。
一人を殺して二人の精神を破壊した。精神干渉魔法だから、恐らく七草は『四葉が殺った』と誤解して壬生紗耶香を監視なり個人情報を探るくらいはするだろうが、手出しはしないだろう。抱え込んだ魔法師の数が多い七草家ではあるけど、不確かな情報のために魔法師を割くことはしないだろう。
ところで、逃走していた桐原武明と壬生紗耶香はどうなったのかと偵察ドローンの映像を受信する。
痴話喧嘩していた。
『今更何のつもりよ』
『お前が危ないって聞いたから助けようと──―』
『誰が貴方に頼むのよ! 恩着せがましいことはしないで!』
『俺が助けなかったら、今頃どうなっていたか分からなかったんだぞっ?』
『知らないわよ、そんなこと! 訳のわからない内に勝手にテロリストの仲間にされてて友達も皆離れていくし、理不尽に責められていたのに誰も何もしてくれなかったのよ! 自業自得とばかりにね! どうせ貴方も同じことを考えているんでしょう? 都合のいい時に良い人ぶらないで!』
『壬生!』
『ついてこないで! これ以上、私に関わらないで!』
喧嘩別れというか、一方的な拒絶だった。
壬生紗耶香の退学原因に味方となって守ってくれる人がいなかったことが挙げられる。それは他の有志同盟の人にも言えることで、差別に苦しまされた人たちというのは日本の魔法師社会では下位クラスに分類される者が大半だ。利用して悪用してしまった手前、何も言えることは無いんだけど……魔法師社会って社会的弱者に分類されるような魔法師に対する扱いが最悪だな。
それにしても、桐原武明という男はもう少し強引に迫ってでも繋ぎ止めようとする気概は無いのかな。皇悠が二人の関係の調査依頼をしてくるものだから、何か二人にはあるのかと勘繰ったが、何も無かった。たぶん『シナリオ』とやらが関係しているのだろうけど、桐原武明が自分の気持ちをぶつけていかないと彼女は応えないぞ。
結局、桐原は徹底的に拒絶されて心が折れてしまって壬生紗耶香を呆然と見送るだけだった。
桐原が壬生紗耶香を本気で想っているなら、集中砲火を浴びていた時に庇うくらいはするべきだった。だが、何もしなかったし、何も出来なかった。彼にも一応理由はあって、部活連の執行部にも属していて、十文字克人の 要請で構内の治安維持に従事していたから、壬生紗耶香の事まで対応してられる余裕が無かったのだ。
他人の色恋沙汰へのお膳立てなどの介入は苦手だな。洗脳や暗示で無理やりくっつけるワケにはいかないのだから、人の心というのは難しい。
桐原武明が戦闘不能となったので、継続して壬生紗耶香が徘徊するのでこっそり見守る。父子家庭らしく、父親の職業は内閣府情報管理局の外事課長をやっていて夜遅くまで仕事してることが多く、家庭での交流は少ないらしい。完全に拗れた可能性がある。
と、そんなことを考えていたら壬生紗耶香が路地裏に入って行くと蹲った。
『グスッ……』
彼女の涙を見て、どうしようもなく胸が痛む。
自分のした事に妙な罪悪感に苛まれるからだ。
他人を洗脳や暗示で利用したり、殺害などの悪業を平然と躊躇うことなくやっている俺だが、これは俺が『魔法師』という存在だから平気だという話だ。ただそうする事が当たり前で、普通の人というのはそんな事しないし、躊躇ったりするだろうと思っている。当たり前のことを当たり前のようにして、それが望まれているから実行している。それで不幸になる人間がいるのを目にすると、胸が痛む。考えないようにして見ないようにするのが楽だが、きちんと自分のした事で不幸になる人間がいて自分が罪悪感に苛まれていることを確認しないといけない。自分がまだ人間らしくあるために。
その日、壬生紗耶香が帰宅したのは日付を跨いでからだった。
それから、七草家による再度の襲撃は無くなったものの、警察に壬生紗耶香が事情聴取されたりなど様々なことがありつつ、一応周辺を守りながら数日が過ぎたある日の放課後の事だ。
テスト前の一週間ということもあって部活動は全面活動停止しており、多くの生徒に紛れて真っ直ぐ帰宅する。
昼頃、面会予約の電話があったのだ。相手は壬生勇三。壬生紗耶香の父親である。
下校時刻に合わせて時間指定した上での会合だ。相手は元軍人で旧自衛隊派の人間だ。旧自衛隊派とは縁がないから、物凄く緊張する。上手く縁を繋ぐことが出来れば、旧自衛隊派や政府との繋がりが得られる好機だ。思わぬビジネスチャンス乃到来に心が躍る。
待つこと数十分。ノックする音が聞こえて「どうぞ」と促すと、壮年の男性……ちょっと窶れた感が出てる壬生勇三が入ってきた。その後ろに続いて、暗い表情で人目を忍んで無理やり連れてこられた感を醸し出す壬生紗耶香の登場に頬が引きつる。
マッチポンプと言っても過言じゃない状況にビジネスチャンスなどと思考した己の浅はかさを恥じるばかりである。
「失礼。君が請負人の志村真弘くんかな?」
「ああ、すみません。あんまり人が来るのが無いものだから、珍しくてついジロジロと見てしまいました。
はじめまして。志村魔法請負事務所の所長をやってます志村真弘です。よろしくお願いします」
「壬生勇三です。こちらは娘の紗耶香。紗耶香、挨拶」
「……壬生紗耶香」
き、気まずい。
ソファーに座ってもらい、何を出すか迷ったが冷たい麦茶を出す。
「ああ、ありがとう」
「…………」
すっかり塞ぎ込んじゃってる壬生紗耶香はさておき。先ずは業務内容の説明から入っていこう。
「先ずは魔法請負人の説明から入っていきましょうか。
簡単に言えば、魔法師が営んでいる便利屋といったところです。仕事内容は多岐にわたり、基本依頼されれば何でもしますが、戦闘関係の仕事を依頼することは出来ません。あとは──―」
細かい業務内容の説明を一応しておかないと、あとで「話が違う」と言われたら面倒になる。右から左へ受け流してそうだが、これ程虚しいものはない。
「以上ですが、何か質問がありますか?」
「いえ、何も」
「そうですか。では、本日の依頼はどのようなものでしょうか?」
「実は紗耶香の事なんですが……」
壬生紗耶香が精神的に病んでしまったので少しの間面倒を見てもらえないかということらしい。夜中に襲われた一件が原因なんだけど、あれで返り討ちに遭った七草家の魔法師のことを警察が事情聴取に伺ったことによって知り、自分の知らぬ間に大事になっていることに怖くなって引きこもりになってしまったようだ。
本人からしてみれば、いきなり襲ってきた人たちがいたから逃げただけなのに襲ってきた人たちが勝手に死んでいた挙げ句、その犯人もしくは重要参考人として疑われているのだから、どうしたら良いのか分からないのだろう。視線恐怖症というか、常に誰かしら監視しているように感じて恐怖して精神を病んだらしい。
こういうのは精神科医なり何なりの仕事なんだろうけど、七草家が関わっているし、裏で手を回しているのかどこの病院もマトモに対応しないどころか拒否したらしい。
十中八九、七草弘一が出しゃばっている可能性が高いだろう。四葉が関わっているかもしれない、という疑惑だけで壬生紗耶香が繋がっているだろうと判断したのだろう。それで彼女もしくはバックにいるだろう四葉家の者が痺れを切らして尻尾を出すまで執拗なプライバシーの侵害は行われるかもしれない。エグい事するよなー。
これは七草弘一の四葉に対する執着心を見誤った俺の失敗だった。いや、四葉というより四葉真夜に対する執着心だろうか。他にもあるかもしれないが、今は考えないでおく。
「わかりました。でも、俺は精神科医やカウンセラーではないので期待したことは出来ませんし、面倒を見ることは性別的な問題があるので無理ですけど、何とかしてみましょう。当てが無いワケではありませんので」
「よろしく頼みます」
既に話は終えているのだろう。疲れ切った顔を見せられ、藁にもすがる思いなのかもしれない。この人も、いつの間にか一人娘がテロリストに利用されてて学校で酷いイジメの被害にあって退学してしまい、今度は……立場的に七草家の魔法師だと知ってるだろうから……七草家の魔法師に襲撃をくらって殺人犯ないし重要参考人として疑われ、そのショックで精神を病んで塞ぎ込んでしまったとくれば、ストレスで窶れて老け込んでも何も言えない。本当のことを言うワケもいかないので、心の中で謝っておくことしか出来ない。
ようやく肩の荷が下りたといった感じの勇三氏を見送ると、壬生紗耶香と二人きりになって物凄く気まずくなる。
元はと言えば俺が原因で今の状況になったのだ。責任を持って全力で何とかしなかったら、申し訳が立たない。
「ええと、先ずは改めて自己紹介しましょうか。
俺は志村魔法請負事務所の所長をしてます志村真弘です。特技はピアノの演奏で好きな楽曲は『威風堂々』です」
「……壬生紗耶香。よろしく」
「…………」
「…………」
それだけ?
在学中は気の強そうな少女だったのに、今はすっかり意気消沈して暗い。今すぐ死にそうというワケではないが、放っておいたら勝手にどこからもいなくなりそうだ。
何か話してみよう。
「あっ、そういえばこう見えてというワケじゃないんですけど、俺は第三魔法科高校に通──―」
「魔法科高校の話はやめて!」
「さいですか」
魔法科高校関係の話題はNGなようだ。今の彼女にしてみれば、人生の全てが狂った元凶に思えるのかもしれない。
「うーん、じゃあ好きなものってありますか? 俺って昔はこう見えて剣道を嗜んでまして壬生さんは剣道が──―」
「剣道なんか……もう嫌いよ」
「そうですか」
尽く地雷を踏み抜いてんじゃないよ、俺!
やっぱり俺には女の子を慰める才能は無いな。さっさと別の誰かに委託してしまおう。
電話をかける。相手は皇悠だ。
『なんだ、志村。可愛い鳴き声で呼び出すな』
「着信音を変えることを推奨します、メスゴリラ……悠様」
『後で覚えてろ、飼い犬。今は仕事中なんだ。要件は手短にしろ』
あの人の酷い趣向で『人によって着信音を変える』というものがある。俺の場合、チワワの鳴き声になっている。犬の鳴き声にするなら、シェパードか土佐犬にしてほしい。
「壬生紗耶香さんをこちらで保護することになりましたので、助力をお願いします」
『いいだろう。こっちとしても、彼女がお前の所にいるなら好都合だからな。手助けするのは吝かではない。迎えを送ろう』
「ありがとうございます」
好都合か。魔法請負事務所は鉄血皇女御用達の専用便利屋みたいなものだから、介入のしやすさが違うんだろう。
俺が魔法名家に目をつけられるリスクというのは今更だが、今まで目をつけられたことは無い。やはり魔法科高校でギリギリ一科生という成績が大きいし、皇悠が出す表向きの依頼が『飼い犬のお世話』だからだ。あとは閑古鳥が鳴いてるからだろう。
「これから心強い助っ人を呼んだので安心してください」
「何が安心できるのよ。お父さんが困ったことがあれば必ず助けてくれる場所だって言ってたけど、本当に助けてくれるの?」
「とある人の格言に『人は一人で勝手に助かるだけ』とあるように、俺とかがすることは壬生さんが助かりたい気持ちを形にしてあげるだけ。後は壬生さんが助かったかどうかを判断すればいいよ。そういえば、壬生さんは助かったらどんな生活を送りたい?」
「どんなって……?」
「例えば、改めて魔法師を目指したいとか?」
「何よそれ。もう魔法なんてコリゴリよ。魔法なんて関係のない普通の生活を送りたいわ」
「わかりました。では、壬生さんの要望を叶えてみましょう」
「本当に出来るの?」
疑わしく思うのは当然だろう。一度魔法と関わってしまったら、どうしたって魔法とは縁を切れない。
だけど。
「魔法とは縁を切れないかもしれませんが、普通の人の生活を送らせることはしてみせます」
皇悠が約束する。
残念ながら、連続投稿はここまでです。
書き溜めてから出します。何とか今月中に九校戦編を書き終え、投稿する予定でございます。