グビ姉vsビールバカ、南海の大決戦! 作:三流FLASH職人
ズッ!という音を立て、陽渚の包丁がカワハギのエラの際に刺さる。それを興味深く
見入る千明とリン。
「動いたり跳ねたりしないんだな。」
「カ、カワハギは釣ってクーラーボックスに入れとくと大抵死んでるから・・・。」
あまり生命力の強くないカワハギは釣られてしまうと長くは生きられない、それは生き物の
苦手な陽渚にとって有難いのだが、実はカワハギの調理はここからが難関だったりする・・・
陽渚にとっては。
「で、ここから皮をはいでいきます・・・だからカワハギ。」
大野の受け売りで少し2人からの尊敬を集めた後に、切った部分の皮をつまんで、づい~っ!
という音を立てて尻尾の方に皮を剥いでいく。皮の固いこの魚は引っ張るだけで身と皮が
奇麗に分離する、ウロコ取りの必要も無く、捌くのは非常に簡単だ。
「おお~」
「マスキングテープ剥がすみてーだな・・・」
感心するリン達をよそに、ひっくり返して反対側の皮もエラから尾の方に剥がしていく。
さて、問題はここからだ・・・と顔を引きつらせながら、難関作業(陽渚限定)に移行する。
「そ、それじゃあ頭の側もはいでいきますね・・・」
深呼吸して息を落ち着かせ、意を決して皮に手をかけ、頭の方に剥がす!
-づい~~-
「ひ、ひえぇぇぇっ!」
「うわわわわわわわ・・・」
千明もリンもその光景にドン引きする。文字通り顔面の皮がキレイに剥がされ、目玉だけが
そのまま残りつつ皮剥ぎの勢いでぐるんと動き、一点を見据えて停止する。
まさに皮がはげ落ちたギョロ目のゾンビさながらだ、白身魚ゆえ身が白いのが救いか。
「・・・あの、鶴木さん?」
「おーい」
固まった陽渚に2人が声をかける。が、彼女は立ったまま灰になり、魂だけが口から
抜け出しかけている。
「あーあ、またか。」
そう言って夏海が陽渚のほっぺをぺちぺち叩く。陽渚がカワハギを捌くのはこれで3度目だが
これだけは今だ克服できていない。
まぁ確かに、内臓よりもよっぽど見た目に怖い光景ではあるけど・・・
「ふんふ~ん♪」
そんな鶴木組と対照的なのが平然とグレを捌いている恵那だ。彼女は〆るのも内蔵処理も
おぼつかない手付きながら動揺せずにこなしていく。
「おお~、斉藤さん上手かね、やったことあっと?」
「ううん、初めてだけど、こういうの苦手じゃないし。」
黒岩から要所でアドバイスを貰っているが、その手付きにはためらいが無い。普通なら
初の魚捌きとなれば、生物に刃物を突き刺す行為に臆するものだが、彼女のある意味
割り切ったドライな性格が功を奏しているようだ。
「うん、本当に上手になった。」
「えへへ~。」
大野に褒められて、にへら~、と笑うなでしこ。大野の見本を参考にあっさりとアジを開きに
してしまうと、身が柔らかくて捌きにくいキュウセンもキレイに処理を済ませた。
釣果が最低だっただけに捌くのは真っ先に終わった二人、皆に先駆けて調理の支度にかかる、
煮付け用の醤油やみりん、天ぷら用の油などをてきぱきと準備して、他チームの下処理を待つ。
「いや~、奇麗な魚やさかい、捌いててもグロくないのは助かるわぁ・・・」
夏海と共にキスを開きながら上機嫌なあおい。シロギスは別名『海の女王』と呼ばれるほど
透き通った美しい魚であり、捌いてもあまりキツい光景はない。最初こそ上手くいかなかったが
数をこなす度によりキレイに裁けるようになっていった。
昼食メニュー
・キスの天ぷら
・刺身醤油にカワハギの肝を溶かし込んで頂くカワハギの刺身
・カワハギの頭とキュウセン、タカノハの煮付け
・グレの塩焼き
・ご飯
-いっただっきまーっす-
「ん~~、塩焼きおいしーっ!」
「キスもサクサクで美味しいねぇ。」
「煮付けもいけるぜ!さっすが私の釣ったタカノハダイ!」
「ホンマや、これはご飯がすすむなぁ~」
各々が釣った魚に舌鼓を打つ、そんな彼女たちを見てていぼう部の面々も笑みがこぼれる、
その味の調味料に『自分たちが釣って捌いた魚』という隠し味が加味されているのを
よく知っているから。
「(肝を溶かし込んだこの醤油が、淡白なカワハギの刺身に得も言われぬ旨味を与えている
まさに一度同じ魚から分離した味が再び一つに溶け合う・・・魚版の血のソースというやつか!)」
相変わらず心で食レポしながら食べるリンもそれは同様のようだ。彼女ももちろん自分で釣った
カワハギを一匹捌いており、自然に生きていた魚が様々な過程を経て今、自分の口に入る実感を
噛みしめているのだ。
ランチの後の食休み、あおいがこう提案する。
「なぁみんな、波打ち際行って遊ばへん?」
「おー、いいねぇ。」
「さんせーいっ!」
キス釣りで波打ち際に行っていたあおいは、その砂浜と打ち寄せる波の綺麗さを見ていた、
そう、ここは海水浴場。その波打ち際も砂浜も非常に魅力的だ。
さすがに海水浴シーズンは過ぎており、クラゲが多く沸いているので泳ぐわけにはいかないが
砂浜から際までの遊びなら問題ないだろう、幸いライフセーバーの資格を持つさやか先生も
いることだし、安全上も問題はない。
裸足で水際を駆け回りながら、水を掛け合ったりフリスビーを飛ばしたりしてはしゃぐ一行、
山梨勢にすれば夏の海、それも南国臼州の海岸、はしゃぐなと言う方が無理だろう。
ひとしきり遊び回った後、鳥羽先生が皆に声をかける。
「ねーみなさん、そろそろー。」
「あ、はーいっ!」
この後、山梨勢は芦方観光をする予定だ。といってもあまり時間も無いので
近くの道の駅まで出向いてまったりショッピングなど楽しむだけなのだが。
海から上がり足を洗って支度を整える一行。さやかの車に一同が乗り込み、リンだけが
黒岩のバイクの後ろにまたがる。
「じゃあさやかちゃん、ウチらは七浦レモンロード回ってくるけん、芦片しらぬいで待っといて。」
「くれぐれも気をつけてね、志摩さんを乗せてることを忘れずに。」
「あいよー。」
黒岩はリンとの約束があった、時間を見つけてツーリングコースをバイクで回る事。
さすがに名所の阿蘇方面まで行く時間はないが、それでも少し遠回りすればバイクで走って
楽しい道はある。
「じゃあみなさん、留守番お願いします。」
鳥羽先生が大野、夏海、陽渚に声をかける。彼女ら3名はキャンプ場に残って荷物番だ。
はーい、まかせてー、と返事を返し、笑顔で手を振る3人、
「現場の写真、実況で送るよ!」
なでしこが車の窓から親指をびしっ!と立てる。既に大野や夏海とSNSの登録を済ませており
いつでもチャットで連絡が取れる。ただ陽渚だけは今だガラケーなのでそれも叶わないが。
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
さやかの車と黒岩のバイクが走り去っていく。それを見送った陽渚たち3人は顔を見合わせ、頷き合う。
「じゃあ、始めようか!」
じゃん、と後ろ手に持っていた手さげ袋を前に出し、目をキラッと輝かせてそう告げる陽渚。
「だな。急がねーと、頼むぜ陽渚!」
「うん、私たちも頑張ろう。」