グビ姉vsビールバカ、南海の大決戦! 作:三流FLASH職人
どどん!という効果音が聞こえてきそうなほどのまな板の上のこの迫力!!
「これ、あたしが捌くの・・・?」
千明の言葉に全員がこくりと頷く。まな板に乗せられた60cmのボラの持つ威圧感は
流石の一言だろう、何せその魚体は下手すると千明のふくらはぎより太いのだから。
1円玉にも匹敵するサイズのウロコはヨロイさながらで、その眼は死んだ魚の目とは
程遠い眼光で千明を睨み据えている・・・気がする。まぁ実際まだ生きているんだけど。
「大丈夫、まずはココ、少しウロコを削いでからトドメを刺してあげて。」
後ろから刺すポイントを示しつつ大野がそうアドバイスする。千明はおっかなびっくりながらも
その部分のウロコを何とか落とし、包丁の先を沿えて構える。
「い・・・行くぜ!」
意を決して包丁を突き込む。ズムッ!という音と共に魚体がぴくりと動き、そして止まる。
「や・・・殺ったズラ。」
「ご苦労様、後は任せて。」
憔悴しきった表情でこぼす千明。入れ替わりに大野がまな板の前に立ち、そのままボラを
ウロコ取りから3枚おろしまでよどみなく処理していく。
「大野さんホント、スゴいなぁ・・・」
「ホンマやで、解体ショー見とるみたいや。」
関心するなでしこ達に陽渚が説明を入れる。
「大野先輩は魚屋さんですからねー。」
一同思わず納得する。とても女子高生の手際の良さではないと感じていたが、なるほどプロか、と。
他の魚の下処理はすでに終わっており、最後のボラも捌けた時点でなでしこが、ていぼう部の
皆に笑顔で言う。
「じゃあ言った通り、ここからは私たちに任せて。」
「ああ、楽しみにしとるばい。」
「余った魚はこのフリーザーパックに入れて、冷凍庫に入れといてねー。」
黒岩と夏海がそう返し、調理場からぞろぞろ退室するていぼう部4人。さてさて、山梨っ娘の
彼女たちがあの魚をどう料理するか、ちょっと楽しみではある。
「じゃあユウ姉は、約束通りさやかちゃん達のお相手よろしく~。」
夏海が嬉しそうに黒岩の背中を押す。黒岩はちょ、ちょっと待て、斉藤さんが来てから、と
逃れようとするが、当人たちの前に押し出されてあれ?と首をかしげる。
鳥羽、さやか両先生はまだ飲酒を始めておらず、テーブルに並んで何やら書類にペンで
書き込んでいる最中だった。
「何しとっと?」
「学校に出すレポート書いてるのよ、両校の交流活動だし、経過と結果の提出義務あるの。」
さやかがそう返す。鳥羽先生も「学校にいい報告が出来そうですよ。」と笑顔で返し、書類に戻る。
昨日とは打って変わった先生らしい先生たちに一同おお~と感心する。
その後、ていぼう部の面々は鳥羽先生からの色々な質問に応えたり、さやか先生からの
野クルの生徒たちの印象や感想を受け答えする。
そうこうしているうちに恵那が料理を持ってやって来る。
「おまちどうさまー、まずは先生方のおつまみから。」
「いよっしゃあーーっ!」
「待ってましたぁーーっ!」
クーラーボックスからすかさず日本酒を取り出す鳥羽先生と、缶ビールをひっつかむさやか。
先生らしい先生、ここで終了。
「キスの骨せんべいと、バリのゼンマイ(腸)の煮付け、ボラのソロバン(幽門)の塩焼きでーす。」
骨せんべいはすっかりお馴染みだが、他2品は初めてお目見えする料理だ。どれどれ?と
ゼンマイの煮付けに箸を伸ばす鳥羽先生。
「ん!」
口に入れた瞬間、目を見開いて固まり、すかさずコップの酒をキューッと一気に煽る。
「これは日本酒に合うーーーっ!合いすぎるーーーっ!!」
ぷっはぁ!と満面の笑みで息を吐きながらそう吐き出す鳥羽先生・・・いやもうグビ姉でいいか。
「んーっコリコリしてて香ばしくって・・・ビールが美味すぎ!ヒャッホウ最高っ!」
ソロバンの塩焼きを頬張りながらそう叫び、缶ビールをごっごっごっ、と一気にカラにする
ビールバカ。
「じゃあ、私もご相伴に預かりますか。」
そう言ってさやかの隣に座る恵那、煮付けを箸でつまみ、一口して言う。
「ちょっとクセがあるけど美味しいね、こういうの現地ならではでいいよね~。」
「へぇ~、バリって内臓も食べられるんだ。」
意外そうな顔をする夏海と陽渚に大野が返す。
「瀬戸内海東部では好んで食べられている料理、地域の食性によって味が変わるけど、
今日釣れたバリは当たりみたい・・・。」
「ソロバンもええ味しとるったい、山梨のみんなもやるもんやね。」
いつの間にかグビ姉の隣にちゃっかり座って皿に箸を伸ばす黒岩、確かに罰ゲーム担当として
2人の接待をする役目なんだが・・・現時点ではむしろ得してないかコレ?
「ほらほら、小谷先生もお酒どうですか?この池池ってお酒、煮付けにすごく合いますよ。」
「・・・ですね、ビールだとちょっとエグくなる感じだし、じゃあ一杯だけ。」
普段ビールしか飲まないさやかだが、どうもこの煮付けの癖のある味と合わない。
せっかくだからとコップ一杯に日本酒を注いでもらい、肴と一緒に口にする。
「確かに・・・美味しいわ。」
「でしょでしょ~」
へっへっへ、という表情でさやかに詰め寄るグビ姉。こういう席で差しつ差されつ出来る
相手が出来たはいいが、せっかく山梨ワインも伊豆の酒も他イロイロもあるのに、ビールしか
呑まないさやかに多少の不満があったのだ。
「山梨ワイン美味しい~!何コレ、呑む体内洗浄?」
「熊元芋焼酎いいわー!ドスンと効いてカッカするぅ~」
完全にチャンポン合戦に入った両先生、果たしてこの呑み方がどういう結末を迎えるのか、
地雷原に居座る恵那と黒岩は心で同じ事を祈る、お願いだから暴れないで下さいね、と。
続いてやって来たのは千明とリン。だが持っているのは料理では無く何故か焚火台だ。
すでにその上では炭火がこうこうと燃えていて、持ってきた両名がそのせいで汗だくである。
焚火台をテーブルの脇に置いてふぅ、とひと息つき汗をぬぐう。
「炭火ってことは・・・何かここで焼くの?」
陽渚の質問に、千明は指を立ててちっちっち、と振り、皆に笑顔を見せる。
「まぁまぁ、仕上げに乞うご期待!それではっ!どうぞ~」
その合図とともに、あおいとなでしこが大きな皿を持って登場する。皿の上には
アルミホイルで巻かれた何かがぐるりと並んでいる、皿の外側に向けて串が出ており
ちょうど見た目はアルミホイルを巻いた焼き鳥のセットのようだ。
「ホイル焼き!これは楽しみ♪」
「すっごくキャンプらしい!さすがですね~。」
「でもこれ何の魚?アルミホイルで見えないけど・・・」
嬉々とする大野と陽渚の横で夏海が訝しがる。普通ならアルミで巻いていてもその形や大きさから
何の魚か想像できるものだが、この串は全部が同じようにアルミが巻かれており、見た目での
判別が不可能になっている。
「ふっふっふ、そこがミソなんですよ、夏海ちゃん。」
なでしこが猫背でクチに手を当てて、ニヤついた半目でそう告げる。へ?という顔の
ていぼう部一同に、彼女はびしっ!と背筋を伸ばして宣言する。
「くじ式おさかなホイル焼き!一本一本が全て違う魚、違う味付けになっております!
何が出るかは焼いてみてからのお愉しみっ!」
おお!何だって!?という表情の一同。魚種はまだしも味付けまで一本一本違うとは、
これは是非ともアタリを引きたいところだ。
「なるほど~これは初日の意趣返しやね。」
黒岩の指摘にえへへ~と頭を掻くなでしこ。この合同キャンプの初っ端、黒沢はクジ引きで
期間中のパートナーを決めた、これはそのお返しともいえる料理だろう。
「魚を選んだらこれで目印を書いて焚火台に乗せて、大体5分が目安だから。」
リンがテーブルにマジックを置いてそう言う、それに続いたのはあおいだ。
「で、ウチらの分のチョイスはそれぞれのパートナーに任せるわ~」
え!?という表情で固まるていぼう部。確かにホイルに包んだ彼女たちなら、どれが当たりかは
ある程度察せるだろう。それを避けるために相方に選ばせようというのだ。
「うう・・・責任重大。」
陽渚が冷や汗をかいて皿に乗るホイルを見る、パートナーがリンと千明の二人いる彼女にとっては
プレッシャー倍増のイベントだ。
「んじゃーあたしはコレとコレ。」
陽渚とは対照的にあっさり選択する夏海。いっちばーん、と焚火台の火に2本の串を置く。
他の皆も各々、自分のと相方の串をチョイスして目印をつけ、焚火台の上に並べる。
「じゃあ、メインといきますか!」
「「おーっ!」」
千明の合図で一度調理場に引き返す山梨勢。帰ってきた彼女たちが抱えているのは、調理場で
自由に使えるドンブリ・・・
いやそれはいい。問題はその上にてんこ盛りになっている食材だ!キスの天ぷらと白身魚の
刺身がこれでもかと盛り付けてあるではないか!
「これぞ海なし県民夢の海鮮丼!名付けてタナ式海鮮ドーーン!ヅラっ。」
うわぁ、という顔をするていぼう部一同に、野クル+2名はえへへという表情で返す。
「一度は憧れるよね~、こういう『無駄に盛った一品』って。」
恵那の言葉にうんうんと頷く山梨勢。憧れの海鮮を浴びるように食したいという願望を
そのまま形にしたような丼、っていうか食べきれるのかコレ・・・
各々の前にどん!どすん!と配られるドンブリ。はみ出さんばかりに盛られた刺身と
完全にはみ出しているキス天のこの存在感よ、というか下にご飯あるのコレ・・・?
一同着席し、刺身醤油を回し掛けワサビを添える。ホイル焼きが出来るまではこの丼と格闘だ。
「「いっただきまーーっす!」」
手を合わせて早速食べ始める。と、すぐにていぼう部の面々はある事実に気付く。
「(なるほど・・・カワハギにヘダイにバリ、いわゆる淡白な味の魚の刺身とキス天。)」
どえらいボリュームと思ったが、ちゃんと薄味の刺身で構成されている、これならある程度は
消費できそうではある。幸いなことに刺身の下にはちゃんとライスがあり、普通に海鮮丼の
体を成している、これなら・・・
「!?」
最初に気付いたのは夏海だった。一点を掘り進むように食べ進んだ彼女は、飯の下にさらに
刺身の層を発見する。
「2段海鮮丼!?」
ええっ?という反応をした後、同じように食べ進むていぼう部の面々。そして皆が2層目に
辿り着いた時、山梨勢がフフフという表情をする、追加でこう語る千明。
「『タナ式』といったハズですぜ、釣りでタナ(深さ)ごとに違う魚が釣れるのをヒントに
してみたんッス~」
なるほど、下の層にあるのは脂ののったボラや、味の濃い赤身魚の刺身が中心だ。
味代わりと、食べる人の意表を突くこの2層式!これは技ありの一品、そして漁れたてでないと
材料の痛みが怖くて出来ない料理だ。
「やっば、めっちゃ美味い!」
上下の層を交互にかっ込みながら夏海が唸る、陽渚も大野も黒岩も一心不乱に丼を堪能している。
「こんなの完食したら太っちゃうね~。」
「でも美味しい・・・さすがなでしこちゃん。」
陽渚に続いて大野が食べながら絶賛する。が、そのコメントをなでしこ自身が否定する。
「私じゃないよ、みんなでアイデア出したんだ~。」
「串焼きの方がなでしこの案ね。」
「なでしこちゃんはホイル焼きの達人やからなぁ~。」
解説を入れながらも山梨勢もこの贅沢丼を堪能する。が、彼女たちは食べながらも未だどこか、
落ち着かない様子なのだが、その理由はやはり夏海によって明かされることになる。
「え・・・まだ下がある!まさかの3段構造!?」
丼の底の方に敷かれていたのはウツボのかば焼きだ、周囲のご飯にタレがじんわり染みており
刺身とはまた違った香ばしさと甘辛いタレの味が堪能できる。
「名古屋の『ひつまぶし』を参考にしてみました~、最後はお茶漬けにしてみるのもアリですぜ!」
そう言ってヤカンを携える千明。香ばしいかば焼きにはお茶漬けがよく合うし、なによりこの量を
完食するのにお茶で流し込むのは助かる。
と、ピピピッ!とスマホのアラームが鳴る。
「焼き魚もそろそろいいかな~、さてさて、誰が何を引いたのかな?」
むふふと言う表情で焚火台に向かうなでしこ。皆も一時箸を止め、自らの印がついた串に
手を伸ばす。
さて、クジ引きの結果は?
カァ~~~~ッツ断層!断層!だんそう、ダンソウ・・・(利根川