グビ姉vsビールバカ、南海の大決戦! 作:三流FLASH職人
「あらリン、おはよー。」
「うん、おはよう。」
8月20日の朝、けだるそうに起き出した志摩リンは食堂で母親と挨拶を交わす。
ただ、この日の朝はもうひとり、食卓に付いている人物がいた。彼女の母方の祖父に当たる新城肇である。
相変わらずバイクで日本中を放浪する道中、夕べ遅くにこの山梨の家に立ち寄っていたのだ。
「もう10時だぞ、少しだらけてるんじゃあないのか?」
穏やかな声で孫娘を嗜める。夏休みももう終盤で、そろそろ学校生活に向けて生活態度を改める必要がある時期なればこその苦言。
「うぃー、努力しまーす」と生返事をして席に着くリン。夕べも遅くまで友人たちとネットでダベっていた為に眠気がまだ晴れない。
が、朝食を取りつつ肇の旅話を聞くや否や一気に覚醒する。今年は西日本を主に旅して来た肇の二輪紀行に一気に目が覚め、興味津々で食いつく。
阿蘇パノラマライン、四国カルスト、土佐東街道、大山環状道路などライダー憧れのツーリングスポットの話題や写真は、リンにとってまだ手の届かない憧れの地だ。
「リンのほうはどうなんだ、あれからどこか行ったか?」
その質問にうっ、という顔をして一瞬固まり、そこからふくれっ面に移行するリン。
そのリアクションに肇は頭にハテナマークを浮かべ、母親の咲がフォローを入れる。
「お父さん、女の子には色々あるのよ。」
リンはこれまで様々な理由で夏季はキャンプをしてこなかった。が、昨年末あたりから学校の野外活動サークル、通称『野クル』との交流もあって、今年は夏にもキャンプに出かけるつもりは大いにあったのだが、その目論見は夏休み前に崩れ去ってしまった。
野クルの3人が敢行した『夏休み先取りキャンプ』で、彼女たちは現地でタチの悪いナンパ野郎どもに絡まれてしまったのだ。
近年キャンプがちょっとしたブームになっている。キャンプを扱ったアニメがヒットした事もあり、キャンプ場にはいわゆるにわかキャンパーが目立ち始めていた。
こういったブームの走り時にはどんなジャンルでもマナー知らずの面々が出るのが世の常だ、
冷やかしから焚火等のルールを守れない者、ゴミの後始末が出来ない者などはまだマシな方で、最悪こういったナンパ目的の男達は、リン達女子キャンパーにとって死活問題とも言えた。
幸いその時は野クル部長、大垣千明の好判断により即時撤収して事なきを得る。使用料丸損ではあったが、それでも何かあるよりはマシだろうとの判断だった。
メンバーの犬山あおいと各務原なでしこも千明に感謝しきりだったが、その事件がリン達キャンプ仲間に暗い影を落としてしまっていたのだ。
「ひどい話だな。」
肇がため息と共にそう吐き出す。確かにアウトドアというのは開放的になる、だがその気分を間違った方向に向けてしまえば社会の害になる、そんな当たり前のことが分からない若者は確かにいるだろう。
ましてやキャンプは言い換えれば外泊だ、まだ10代のリン達にとってそれが危険なことなのは確かに事実だろう。
「千明たち・・・あ、キャンプの友達ね。みんなは夏休みが終わる前に一度は行こうって行ってるけど、女性専用のキャンプ場なんて無いし」
みんなバイト三昧でお金はあるんだけど、と続けるリン。夕べもどこか穴場のキャンプ場が無いか、夜遅くまで彼女らとチャットで吟味をしていて夜更かししたくらいなのだ。
だが富士山の見える風光明媚な山梨のキャンプ場はどこも絶賛混雑中で、少人数でまったり安全に過ごせる場などさすがになかった。
肇はふむ、とアゴをひねって考える。女子高生が安心してキャンプが出来る所……
(あるじゃないか)
ニヤリと笑うと席を立ち、ちょっと待ってなさいとリンに告げ、庭に出てスマホで通話を始める。リンも咲もなんだろ、という表情で固まっていた。
――ああ、お久しぶりです。夏前にそちらにお世話になった――
◇ ◇ ◇
「臼州(きゅうしゅう)ううううぅぅっ!?」
自販機コーナーの前で大声を上げる野クル部長、大垣千明。
他の野クルメンバーの犬山あおいも各務原なでしこも、そしてキャンプ仲間の斉藤恵那も、そのリンの提案に驚愕するばかりだった。
「うん、おじいちゃんが6月に行ったキャンプ場なんだけど、海水浴場隣接で、もう時期終わってて空いてるらしい。それに・・・」
「それに?」
なでしこの疑問に、リンはスマホの画像をかざしてこう返す。
「釣りもできるらしいよ、現地の女子学生がレクチャーしてくれる、って。」
「「・・・え、えええーーーーーーーっ!?」」
画面に映っていたのは、4人の女子高生に囲まれて釣果である尾長グレを手にするリンの祖父。もっとも彼の顔は画面から切れていて見えないのだが。
さらにスライドさせると、キッチンらしき所で釣った魚を捌く姿や、奇麗に刺身や煮付けなどに調理されて並ぶ写真などが画面にコンニチワしていく。
「うわーっ、おいしそーーーーっ。」
「海も見えるねー、これ帆船?」
「なんかアットホームでええなぁ。」
キラキラした目でスマホを注視する面々。が、そこから一歩引いた所で千明がこう問いただす。
「だが遠方過ぎないか?何かあった時の為にも先生にも来てもらわないと・・・」
千明は部長としてキャンプの安全には万全を期する事にしている、今年初めの山中湖で同行したあおいと恵那を危険な目に合わせて以来そう心がけて来たのだ。
「うん、そう思って鳥羽先生に、向こうの学校の顧問の先生に連絡とってもらってる。学校の部活同士の交流として扱えないか、って。」
「「おおー!」」
なでしこと恵那の声がハモる。あおいは万全やないか!と千明に親指を立てて見せた。
千明はふむ、と頷いて眼鏡の淵を撫で、やおら立ち上がって右手を天に掲げ、大仰に叫ぶ。
「野クル夏のビッグイベント、臼州大遠征釣りキャンプの敢行をここに宣言するっ!!」
「「おーーーーーーっ!」」
ていぼう日誌側の『臼州』という表現を使ってますが、ふつうに九州の方が分かりやすいかなと思うこの頃。