ニ刀装甲兵、突貫する!   作:鋏人

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長い間ほったらかしにして申し訳ありませんでした。
お久しぶり、鋏人です。

ただ色々と考えていたのは事実ですので、今後は頻度を上げられるようにしたいと思います。


第四話 人を取り巻く人と物

 訓練が始まって三日目、自分なりに時雨の行動から効率の良い動きを読み取っていく涼だったが、時雨は依然として余裕を見せたままだった。

 

「これなら!」

 

海面を左右に滑りながら迫る魚雷を躱わしつつ、時雨への注意も忘れない。魚雷を回避した方向へ時雨が砲を向け、その瞬間に涼は急加速する。急制動を繰り返して狙いをずらす作戦だった。

 

「………」

 

なんとか砲撃を掻い潜り少し笑みを見せた涼に対し、時雨は光のない瞳で彼を見据えると、片手だった砲を両手に持ち、同時に撃ち放った。

 

「えっ?!連射速──」

 

機関銃か何かと勘違いするほどの凄まじい連射に対応出来ず、ペイント弾が直撃して戦闘不能判定を下される。

 

「───あー、まだ上手くいかない、」

「それなりだった。」

「え?」

「だから、それなりだった。」

 

初めて時雨から掛けられた肯定的な言葉に涼は驚くも、それ以上は何も言わずに時雨は立ち去ってしまった。

 

「───師匠から少しだけ、足手まといにならない程度って認めてくれたのかな。」

 

そう言った涼は、自らも時雨の後を追ってドックに入っていった。

 

 ドックに入った涼は、ペイント弾の色を落とすために艤装を妖精さん達に渡した。

 

「あんちゃん、時雨さんの攻撃また食らったみたいだな。」

「本当に師匠は凄いよ、なんであんなに連射が速いんだろうな。専用のモジュールとかあるの?」

「時雨さんのは特注品だからな!」

 

そうなのかと返した涼は、自身も浴びた海水を落としながらドライヤーで髪を乾かしていると、武蔵と時雨が何かを話し合っているのが見てとれた。会話といっても武蔵が何かを一方的に言い、つっけんどんな反応を返す時雨に小言を言っていたようだった。

 

 

 涼が艤装を点検してもらっている間に工廠を抜けようとした時雨だったが、運悪く武蔵と鉢合わせてしまった。

 

「どいて武蔵、工廠から出たいんだけど。」

「お前を放っておくとどこに行くか分かったものではないのでな。連絡事項だけ伝えにきたぞ。

先ず、クローサーの訓練は一旦終わりだ。今後は他の艦娘と同様の任務に付かせる。それに伴って指導役は外す。今期の対外演習は、相手が決まったらまた連絡する。

あぁそれと、指導役は外したがクローサーの監視役にお前が付け、以上だ。」

「分かったから、そこどいて。」

「………貴様、何故自分が特別扱いされているか理解しているか?」

「特別扱いも何も、信用ならない相手の命令は聞かないよ。」

 

武蔵がそれ以上何かを言う前に、武蔵を押し退けて時雨は出ていってしまった。それとほとんど同時に涼も身だしなみを整えて工廠を出ようとしていた。

 

「おいまて……クローサー、だったか?」

「はい、武蔵さん。どうされました?」

「訓練過程を本日で終了とする。これからは通常の任務に就くことになる。」

「訓練、終了ですか………」

「どうした?不満があるのか?」

「いえ──」

 

伏せ目がちにして表情を緩ませた涼は、不満などとんでもないと否定してみせる。ならば何だと問う武蔵に、涼は言った。

 

「これから、恩を返していける、と。そう少し思ったまでです。───それはともかく、命令了解しました。他は何か?」

「ない。今日は私もこれで仕事が終わるのでな、何かあればついて行くが?」

「でしたら──図書館とか、ありますか?まだ勉強不足だと思っているので、調べ物をしたく思います。」

「ふむ、ついて来い、案内する。久しぶりに私も図書館の気分だ。」

 

 

 武蔵に連れられて図書館に着いた涼は、何故か図書館の中を知っているかのような足取りで幾つかの戦術教本を手に取ると、それを中程から読み始めた。その斜向かいに座る武蔵は、お気に入りの本を読む傍らで涼に話し掛けた。

 

「貴様、その教本を読んだことがあるのか?」

「鹿島さんに座学を担当して頂いた時に、途中まで。続きを読めればと思っていたので。」

 

一切顔を上げず口だけて答える涼。武蔵もその教本はよく知っているが、一体全体それほど面白い物ではなかったはずと首を捻る。しかし自分の読んでいる本が面白いので一旦その疑問を後回しにして黙々と自分の本を読み進めていった。

 

「そんなに面白い物だったか?」

「新しいことを知るのは面白いと感じる性質でして。それに、こうして学んだことが何時か活きることがあるかもしれないのなら、学んで損はないでしょう、それに────」

 

一通り読み終わった頃、ふと思い出したように聞いた武蔵に対し、こちらも読み終えたらしい本を閉じながら涼は答える。

 

「それに?」

「それに、師匠に驚いて貰おうと思いまして!」

 

少し恥ずかしげに、しかしはっきりと言って笑う涼だが、その言葉に武蔵は眉をひそめた。その様子を不思議に思った涼は、笑顔を収めて武蔵に問う。

 

「どうやら自分、何か失言をしてしまったようですね。何処が失言でしたか?」

「いや、別に失言などないが……」

「では、そのひそめた眉はどういう意味でしょうか。」

 

涼は席を立って本を仕舞い、図書館の扉を明らかに音を立てて開けた。自分が時雨への不信感を表情に出していたことを遅れて気付いた武蔵は、平静を装い涼に返す。

 

「なんだ、随分と時雨に肩入れしているな?」

「師匠は命の恩人で、何も知らぬ自分を指導して頂いた方です。どうしても、自分の中では特別なのです。」

「随分と言ってくれる……あまりそういう様子を鎮守府外で出すなよ。詮索を貰って困るのはこちらだ。」

 

その武蔵の指摘に、「了解しました」とだけ言った涼は、そのまま図書館を出ていった。

 

「むう、中々難しい奴が来たものだ。しかし、恩人か、」

 

ふと武蔵はかつての自分を思い出す。涼のように何もわからない自分に指導をし、度々命を救って貰った彼女のことを。

 

「久しぶりに思い出したな、貴女のことを。」

 

ぱたんと閉じた本は、『最強の艦娘~奪還の旅路~』と題されていた。表紙には二連装砲四基を携えた女性が、堂々とした表情で立っていた。

 

Side 涼

 

 図書館を後にした俺は、鎮守府の中庭にきていた。特に理由らしい理由はなかったが、暇潰しには丁度いいと思ったのだ。

 

「特別、だよな。」

 

さっきの会話で自分の言ったことを思い出していた。

 

時雨さんは特別なんだ。命の恩人で、師匠で、なんだかんだ言って指導してくれる。

 

「ただ、凄い風当たりが強い気もする。」

 

ふと中庭から艦娘寮の方へ目を向けると、見覚えのある髪が目に入る。師匠だった。西日を浴びながら静かに本を読んでいた。けれどその表情はまるで動かず、文字を目で追っているだけのような気がしてならない。そうして目で彼女を追っていると、

 

「クローサー、どうした空を見上げて?」

「提督、こんにちは。空を見上げるのは好きですから。」

「あんまり固い言葉を使わないでくれ。私としては数少ない男の仲間なんだからそっちの方が良い。」

「それじゃそうさせて貰うよ、提督。」

「それでいい。そういえば、武蔵から訓練終了については聞いているか?」

「聞いたよ、これから恩を返していける。それと今日、師匠から『それなり』とのお言葉を貰えた。」

 

俺の「師匠」という言葉に首をかしげる提督だが、俺が時雨さんのことだと言うと「あぁ」と頷いてみせた。

 

「あの時雨が『それなり』なんて言葉を言うとは……」

「まさかよっぽど酷かったときの言葉か?」

「いや真逆だ、時雨が誰かに対して言葉を必要以上に掛けるなんて今までなかった。

 

君のお陰かもな。」

「いつから、あんな感じなんだ?」

「私の鎮守府に移籍してからはずっとだ。あの事件以来───」

 

そのとき、18時を知らせる時報が鳴り、最後の言葉はよく聞き取れなかった。師匠は移籍してきた人だったのか。さっき事件とか聞こえた気がする。気のせいでないとしたら、それが原因なのだろうか。

 

「とりあえず、夕食にしよう。一緒にくるかい?」

「お言葉に甘えて。」

 

その後、提督と一緒に食堂に行き、『一航戦』の二人、加賀さんと赤城さんと一緒に夕食をとることになった。

 

「貴方が新しい艦娘ね。男の子だからどう呼ぶべきか困るけれど。」

「いいじゃないですか加賀さん、呼び名なんてその内覚えますよ。」

 

話している内容は至って普通だが、食っているものが明らかにおかしい。まだ食べ始めてから数分の筈だが、なぜこの人達は人間の顔の倍あるようなステーキを半分は平らげているんだ?!

 

「なぁ提督、この人達って、」

「あまり大声で言うな、大食いなの───」

「お二人さん、聞こえてますよ。」

 

背筋が凍るような声で加賀さんに内緒話を咎められ、その後提督が食費云々で文句を言ってさらに睨まれて小さくなったのは特別話すことではない。

 

「それで、ええとクローサー、よね。貴方の訓練を時雨が担当していると聞いたわ。」

「はい、その通りです。今日で訓練が終わり、明日から任務に参加できることになりました。」

「あの時雨が………」

 

不思議そうな表情を浮かべた加賀さんを見て、一体どんな風に普段過ごしているのか気になった。

 

「師匠は、普段どう過ごされているのでしょう?」

「師匠って、時雨のこと?もしそうなら止めなさい、彼女は普通ではないわ。師として仰ぐには無理がある。」

「───自分にとって、師と仰ぐのは彼女一人です。他の誰であろうと、その場所は変わりません。」

「けれどね────」

「加賀さん、私は彼に賛成しますよ。」

「赤城さん──?」

 

険悪な雰囲気が立ち込めたそこに、もう一人の女性、赤城さんが口を挟んだ。

 

「誰を師と仰ぐかはその人次第です。指導役がもし私達なら、師と呼ばれるのは私達だったでしょうから。

 

君には期待してますからね。」

「ありがとうございます、赤城さん。」

「………私も少し感情的だったみたいね、申し訳ないわ。」

「いえ、自分も感情的であったので、突っ掛かっていったこちらに非があります。申し訳ありません。」

 

互いに謝ってその場は終わりになり、食堂を出てそれぞれの部屋へ戻った。そして布団に入って目を閉じながら考えていた。

 

「(提督の『事件』という一言、加賀さん、武蔵さんの言葉……師匠は何かに巻き込まれたか、その当事者だったんだ。それ以来、他者へ関心を向けなくなった。そのせいで師匠が好かれていない。俺は、どうしたいんだ?)」

 

師匠への向き合い方が決まらないまま、俺は眠りについた。

 

 

───夢を見た。

夢の中の俺は子供で、目の前には深海棲艦がいた。

 

『いい子にしててね』

『わかった!』

 

深海棲艦は人間を無差別に殺す。それなのに俺は無邪気にそいつに抱きつき、向こうもなぜか抱き返した。親の出勤を見送る子供のような様子だ。

 

『おかあさん、いってらっしゃい!』

『行っています!』

 

覗き込んだ瞳は俺と同じ金。けれど俺のオッドアイと違い、両の瞳が金だった。そして、覗き込んだ瞳に写る俺は───同じ、両の瞳が金だった。

 

夢は終わらない。

 

深海棲艦は、返り血で全身を濡らし手に何かを提げて戻ってきた。夢の中の俺はそいつに飛び付くと夢中で貪り始めた。鉄のような香りがして、あまりに柔らかい。所々固い部分があって、それぞれが棒のようになっていふりそしてふと部屋を見渡すと、

 

『大丈夫、また持ってくるからね』

 

無理矢理顔を自分の方へ向かせた深海棲艦が、妖しい笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

 






はい、終了です!
『夢』『事件』そして周りの人々の反応、書ききれないのでメインになるであろうキャラに限定しましたが、死に設定にならぬよう努力します!

さて、次回の「二刀装甲兵、突貫する!」は~?

「頼むぞ、■■■■」

初めての哨戒任務に就く涼、その手に握られていたのは?

次回第五話「火を吹く碧」

また次回の前書きにてお会いしましょう!
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