「ねーまだここで粘るんですか?」
「まだ3日ですよ。もうちょっと頑張りましょ」
ここは4層の森林マップの奥。《ハヤテバチ》の森と呼ばれるマップでリスなみに大きい蜂がそこら中で巣を作っていてどれかを攻撃すると大勢の蜂が襲い掛かってくるという恐ろしいマップです。
なんとそこのハヤテバチが敏捷アップのアイテムをドロップするということでこちらに来ています。
かなりドロップ率が低いようで3日粘っても一つしかドロップ出来なかったレアアイテムです。
このハヤテバチとの集団戦で四方八方から攻撃されそれを一つ一つパリィするのがかなり難しいです。避けられるものは避けてパリィするものは弾く。その戦闘中の取捨選択は経験値以上のものを僕にもたらしてくれます。
「もうすぐ煙玉無くなりますよスイレンさん」
「あんなに仕込んだのにですか。んーそしたら一回戻りですかね」
僕が前線に出て敵や巣を攻撃。敵が集まってきたのをパリィや攻撃でヘイトを稼いでそこを煙玉で一掃という作戦です。
ハチ系モンスターは煙でダメージを受ける特性を持っているのでミリンが遠くから煙玉を投げているだけで倒せてしまう簡単計画なので僕としては何日間でもやっていたいんですがミリンは疲れてしまったようですね。
ちなみにこの煙玉、煙の濃い森にすむ植物モンスターの《バソール》が攻撃してくる木の実を集めたものです。
モンスターが飛ばしてきた攻撃や破壊し折れた爪や角の中にはアイテム化するものがあります。そのアイテムには武器や防具に使うものはもちろん専用の効力をもつ物もあるんですよね、それがこの煙玉って訳です。
普通に高火力のソードスキルでハヤテバチ達を吹き飛ばしてもいいんですけどね、やっぱりこうやって色々な方法で弱点を補ったり工夫するのって楽しいですよね。
「次ので最後です!」
「じゃあいったん街に戻りましょう」
ドロップアイテムの整理もそろそろしなくちゃと思っていたのである意味丁度よかったかもしれません。僕としては休憩は必要ないんですがミリンは疲れたというか飽きた様子でした。
エンカウントしたハチを全て倒し近くの村へと帰路につきます。
ミリンもやっと帰れるということに一息ついていた様子でした。そんな一瞬の緩んだ空気を凍り付かせるように、森の奥の方で木が倒れる音がしました。
「な、なんの音ですか?!」
「この音、近づいてきてる。かなり大きいな」
その音の主は気をなぎ倒しながら猛スピードでこちらに向かってきます。恐らくこちらの場所は敵に検知されているのでしょう。
冒険者情報にもこの辺りの森で大型モンスターが出現するという情報はありません。
つまりこれは突発的なクエストか突然発生のフィールドボス戦のどちらかです。
突発的クエストならまだ何とかなるかもしれませんがフィールドボスの場合戦闘は免れられません。
『GYAAAAAAA!!!』
「……ですよね」
現れた超大型の熊型モンスターの姿を見て、自分の不運さを呪うことになった。
***
「戦います! ミリンはそこから10歩下がって!」
「は、はい!」
いつものようにスイレンさんに付き合ってよく分からない反復作業をするだけと思っていました。遠くから煙玉を投げるとハチが倒せるので安全な戦いだと思っていました。囮になるスイレンさんは危険かもしれませんが、この数週間でスイレンさんの強さを目の当たりにすれば、その心配もありませんでした。
どんな戦いでも余裕を崩さず楽しそうに戦うスイレンさんが、ここまで大声で叫ぶのを初めて聞きました。
思わず体が強張り反応が遅れました。
盾を構えることもできない私に熊型モンスター《バルクベア》が突っ込んできます。眼前に迫るバルクベアの血走った目と目が合いました。
「あ……あう」
死の恐怖に体が動きません。振り下ろされるバルクベアの爪を他人事のように眺めていました。
あぁ、死ぬと思ったその瞬間スイレンさんが私を突き飛ばし、その爪を大きく弾きました。
「ミリン! オレを見ろ!」
「あの……わたし」
「君は死なない! オレも死なない! だから下がれ!」
「は、はい!!」
スイレンのさんの言葉で自分の体に熱いものが流れていくのが分かりました。急いで後ろに駆け出し盾を構えます。
バルクベアのヘイトは全てスイレンさんに向けられているようで私のことなど全く眼中に無いようです。
「初めてのボス戦ですからね。全力で行かせてもらいますよ」
スイレンさんの愛剣であるチュートリアル用麻痺属性短剣を逆手に構えながらアイテムストレージを開きます。
《バソール》が出す時間が経つと破裂し破片を飛び散らせる《バクボックリ》を辺り一面に転がしました。
「行きます!」
駆け出しベアの攻撃をパリィ、さらにパリィ。左爪を躱し背中に回ります。ソードスキル無しですごい速度の7回ほど切りつけました。バルクベアのHPバーは殆ど減っていません。チュートリアル用の短剣なので攻撃力は無いに等しいです。
振り返ったバルクベアの攻撃を大きくパリィし態勢を崩します。4回切りつけ《体術》スキルで蹴りつけるとバルクベアの巨体が完全に横に倒れました。その隙にナイフを《投擲》しハヤテバチの巣に当てました。
倒れたバルクベアを5回切るとベアが麻痺になりました。一定時間行動不能になります。
「ふぅ……」
一息ついたスイレンさんがこちらに歩いてきます。
スイレンさんが離れると《バクボックリ》が同時に破裂。ハヤテバチとバルクベアに多数のダメージを与えます。スイレンさんのナイフでアクティブ化しているハヤテバチはバクボックリのダメージをシステム誤認したようで一斉にバルクベアに襲い掛かります。
麻痺状態のバルクベアは動くことができずその攻撃を一身に受けみるみる内にHPバーを減らします。
「すごい……」
初めて会うはずのフィールドボスをこれほどまでに手玉にとれるなんて……。
気づくと横にまで歩いてきていたスイレンさんが私の肩に手を置きます。
「これでやっと半分削れるかどうかです。麻痺耐性はどんどん上がるしハヤテバチはすぐにいなくなるでしょう。コツコツ削っていたら明日になっちゃいますね」
「これで半分……」
「僕らのパーティは僕がタンク、ミリンがアタックです。できますか?」
「やります」
「僕がミリンを守ります。だから敵を倒すことで僕を守ってくださいね」
「やります!!」
スイレンさんの言葉で私の体に力がみなぎります。練習した通り剣や斧を物質化し辺りに置きます。
私と目が合ったスイレンさんは再び駆け出しました。バルクベアは麻痺状態が解けハヤテバチを大きな爪で蹴散らしているところです。
スイレンさんは足も止めずその爪の暴風へと突っ込んでいきました。短剣と爪が辺り火花が弾けます。
「ふたつ!」
「はい!」
スイレンさんの掛け声で剣と斧を二つ投げます。投擲スキルの乗ったそれは吸い込まれるようにバルクベアの肩へと食い込みました。
ダメージを受けたことでバルクベアの攻撃がより迫力を増します。まるでトラックかと思うその力強さをスイレンさんは難なく避けています。避けているかと思ったら短剣で弾き体術スキルを入れていきます。
私の目に見えただけでスイレンさんは50回はバルクベアを斬っているんですが減ったHPバーは目に見えないほどです。
基本的にスイレンさんの役割は陽動と妨害と状態異常と隙作りと指揮になります。そして私が攻撃です。時間をかければスイレンさん一人でも敵を倒すことはできるかもしれませんが通常モンスターを一体倒すだけでも一日かかってしまうかもです。
つまりこのパーティが敵を倒すには私が頑張らなくてはいけません!
「行きます!」
「うそ? ちょ、あぶな」
私の投げた剣がバルクベアのお腹に刺さりますがカウンターの右爪の大振りが予期せぬ形でスイレンさんを襲います。
咄嗟のことにも反応したスイレンさんは短剣でパリィをし体術でバルクベアを転がし後ろへ下がります。
「ミリン、落ち着いて……あと3割。大丈夫、いつも通りやればどんな敵でも二人なら倒せるよ」
「す、すみません」
「大丈夫。あと2セットでまた麻痺が入るよ。体術が合図だから投擲フルセットでぶっぱよろしくね」
「はい!」
駆け出したスイレンさんの背中を見守ります。まるで息を合わせたダンスのようにバルクベアとスイレンさんは攻撃し回避しています。攻撃される前に避けるその動きは予知や仙人のようです。
この動きをするまでにスイレンさんがどれだけ時間をかけているか私は知っています。
常にモンスターを研究し、考え、試しながら練習しこのプレイスタイルを構築しているんです。
私はまだこのゲームが怖いです。ゲームという名の殺し合いが。
でもスイレンさんはゲームとしてこの世界を楽しんでいます。それを見ているだけで私もこの世界に生きてみようと思えるんです。
「麻痺! 今だ、ミリン!」
「行きます! ありったけです!」
データの欠片となって消えていくバルクベアの前でガッツポーズで笑うスイレンさんを見ながら。私はそう思ったんです。
***
「いやー焦った焦った。さすがにボスは骨が折れますね」
「の割には無傷でしたね」
「基本攻撃は熊モンスターと変わらなかったですからね。ボスとの闘いもスリルがあって楽しいですね」
「見てるこっちはハラハラでしたよ」
「ミリンの攻撃のおかげで助かりましたよ。ありがとうございます」
「こっちこそ上手くできなくてすみません」
「いいよいいよ。でもぼちぼち盾でのパリィと投擲のクリティカル距離にも慣れてかなきゃね」
「がんばります。ところであのボスのドロップアイテムなんですけど……」
「そういえばそれがあったね。どれどれ」
街へと戻ってきた僕たちは戦利品の確認や失ったアイテムの整理をしていました。バルクベアからのドロップ品を見てみるとかなりいい物のようです。アイテム名が《バルクフット》でなんと敏捷値30%アップのお宝です。狙っていたのは《ハヤテバチの鉢蝋》だったんですがもっといい物が手に入りました。
「これ貰っちゃってもいいんですが?」
「スイレンさんにぴったしなので」
「ありがとうございます」
敏捷極振りのビルドにこの装備品はかなりありがたいです。このパーティでの戦いにも慣れてきました。が、課題も多いです。今日のボスはかなりの強敵でした。あのHP的にも3発くらい攻撃を貰っていたらやられていたかもです。体術スキルで態勢を崩せるのはいいんですがボスは麻痺体制が高くて骨が折れますよ。
「スイレンさん」
「なんでしょう」
ステータス値を見てにやにやしつつ今後のことを考えていると真剣な顔をしているミリンがこちらを見ています。
「私にもデュエルを教えてください」
「デュエルですか?」
「はい、私も戦えるようになりたいんです」
「ミリンは充分戦えてると思いますけど」
「私、強くなりたいんです」
「なるほど。まぁこんな世界ですからね、強いに越したことないでしょう。でもモンスター相手の戦闘練習はしてるじゃないですか」
「なんていうか……本当の強さっていうのを見つけてみたいんです」
「訳アリってやつですね。いいですよ! デュエルは大好きですし特訓しましょう」
ミリンなりにこの世界と向き合おうとしているんでしょう。その手伝いくらいはできるかもしれません。
早速広場へ移動してデュエルです。
いつもの設定で初撃決着で3分マッチ。
「よ、よろしくお願いします」
「どうします? 手取り足取りな感じでいきましょうか」
「本気でお願いします」
「本気で? 了解です。それじゃ行きますよ」
カウントが始まりミリンは大盾を構えます。右手には投擲用の投げナイフです。
「いくよ」
カウント0と同時に姿勢を低くしダッシュ。大盾もあってミリンは僕を見失います。
咄嗟に周りに投げナイフを5本投擲したようです。反射で動いたにしてはよい選択です。ここで守りに回る方もいますがこちらの想定通りの動きになってしまうのでかなり悪手ですね。
その5本のナイフの内一つをあえて高速移動中に弾きます。
キィンという金属音が辺りに響きミリンが音の方へと振り向きます。すでに僕はそこから跳躍してるのでいません。
すかさずミリンの後ろへと回ります。
「ひ、ひぅ」
「決着ですね」
「参りましたぁ」
首筋の短剣の感触にミリンの首筋に冷や汗が滴り落ちます。
「は、早すぎますって! いつ後ろに来たんですか!」
「そこまで早い訳じゃないですよ。錯覚とかフェイントとか使ってるだけだからね。それにこれモンスター相手にはあんまり効果ないしね。曲芸みたいなものですよ」
「ナイフを弾いたのもわざとなんです?」
「咄嗟にばらまいたのはいい判断だよ。全部避けてもよかったけどね、利用させてもらっちゃった」
「むー、もう一回お願いします!」
「もちろん、何戦でもやりますよ!」
そんなお話をしつつ何度も何度もミリンとのデュエルを楽しみました。いやーデュエルっていいですね。