どうもみなさんこんにちは! スイレンです。
今日は僕のデュエル屋の連勝記録があと2つで300勝になるところなんですよ。いやー、200勝記念の時は攻略組の方が来てかなり危なかったですからね。300勝目ということでギャラリーの方も常連の方もかなり盛り上がっているようです。
始まりの街で臆病者と言われていた僕が今はお祭りの中心にいるなんて人生分からないものですね。僕としてはこのゲームで好きなことして頼んでいるだけなので申し訳なさもあるんですけども。エンジョイ勢ってやつですからね。
ちなみに攻略組はもう10階層を攻略中だそうです。5階層辺りからぽんぽんと進んでいって犠牲者もなく順調だそうです。いまだに第4層の敵を調査している自分からしたら関係無い話かもしれませんね。
「そろそろ13時ですね。それじゃあデュエル屋、はじめます。どなたかいませんか?」
いつもは夕方辺りから開いているデュエル屋ですが今日は記念すべき日になりそうということでお昼からの開業です。すでにギャラリーの方たちが集まっていていつの間にか出店もありちょっとしたイベントくらいになっています。
デュエルはいつからか1回3000コルになったらしく、いつの間にか設置されたBOXに入れられていて僕に勝つと貯められていたコルが貰えるようです。デュエル屋の最古参であるベイロンさんが作ったルールらしくて今日もベイロンさんが大声をあげて仕切ってくれています。
「おうおう、スイレンとデュエルしてぇならこのBOXに3000コルいれな! 今のプール金は約50万コルだ。スイレンに買ったらそいつのものだぜ。やろうって気合の入った奴はいねぇのか?」
「ベイロンさんがやったらいいんじゃないですか?」
「ミリン嬢ちゃん言うじゃねえか。俺が今まで何コルこいつに取られてると思ってんだ?」
「そのBOXに入れてもスイレンさんのポケットには入りませんし賭け事始めたのはベイロンさんじゃないですか」
「相変わらずスイレン以外にゃきついねぇミリン嬢ちゃん。今日は俺はやらねぇって決めてんだ」
なかなか挑戦者が現れず始まりの街の広場に座って待っています。来ないときは一人も来ないこともあるのでまぁ気長に待ちましょう。
常連さんと談笑しつつ攻略組やクエストの新情報なんかを交換しているとBOXからチャリンとお金を入れた音がしました。
「わしが相手や」
「デュエルありがとうございます! お名前をうかがってもよいですか?」
「なんや、攻略組のわしの名前も知らんとはな。所詮始まりの街の留守番組っちゅーこったな。わしの名前はキバオウ。第1階層のボス戦にも参加した最前線の攻略組や」
「……」
キバオウさんの横柄な態度にミリンやベイロンさん達にピリっとした空気が走ります。この広場には始まりの街でこのゲームをクリアされるのを待っている方たちも多いからでしょう。それを批判するのはマナー違反以前の問題です。
「申し訳ないです。僕みたいなエンジョイ勢は攻略組のみなさんのことあまり知らなくて……最前線のプレイヤーの剣技、見せてもらえますか?」
「最前線の攻略組のわしとやり合う機会なんかそうないからのぉ。……そうやな、わしが買ったら授業料として掛け金の50万コルの倍貰おうかの」
「おい、そりゃ黙って聞いちゃいらんねーな」
「誰やあんたは」
「俺はこのデュエル屋を仕切らせてもらってるベイロンってもんだ。攻略組か何だか知らないがルールには従ってもらうぜ」
「ベイロン? 留守番組がでかい口叩いたらあかんで。攻略組が居らんかったら留守番組はこのゲームを一生やることになるんやからの」
「いいですよ。100万コルですね。キバオウさんが勝ったら差し上げますよ。それでは始めましょう」
一触即発の雰囲気を感じたのでデュエルを始めます。もうミリンなんか見たことない顔してましたからね。いつもの短剣を抜きながらデュエルの設定を行います。
「ちょいまちぃ、細工されてもつまらんわ。デュエルの申し込みはわしからするで」
「いいですよ……これ、いいんですか?」
デュエルのルールは3種類あり初撃決着という一撃決定打を決めたら終わりのもの、半減決着というHPが半分になったら終わりのもの、そして完全決着というHPが全損したら……つまり死んだら終わりの命を取り合うもの。
基本的にデュエルは初撃決着で行われており僕も半減決着が数えるほどしかしたことがありません。それだけこのゲームでのHPというものはまさに命として扱われていてそれをプレイヤー同士で削り合うなど心情としてあり得ないからです。
それをキバオウさんは完全決着モードで申請をしてきました。これの意味することは命の取り合い、つまり殺し合いです。
「おーっと手が滑ってしもたわ。すまんのぉ、留守番組に殺し合いなんてできる訳あらへん。キャンセルしてええよ。誰もそれで逃げたなんて思わへんで」
「てめぇ、いい加減にしろよ」
「スイレンさん、相手にしなくていいですよ」
あからさまな挑発です。もしかしたらこれが目的だったのかもしれません。始まりの街で賑わっている僕たちが疎ましいんでしょうか何か気に障ることでもしてしまったのか。さすがの僕も少し頭に来てしまいました。
「いいですよ。やりましょう」
「な、なにいってんのや。わしとあんたのレベル差じゃ戦いにならへんで」
「キャンセルしてもいいですよ。誰もそれで逃げたなんて思いませんから」
「っ! ええで、吐いた唾は飲めんで」
挑発で返すと乗ってきてくれました。
デュエルスタンバイの文字にフィールドが展開されます。空中に皆さんにもわかるようルールが出ました。
完全決着モード:制限時間無し
いきなり目の前で始まった殺し合いに広場がざわつきます。ミリンが何か叫んでいるようにも聞こえますが僕の意識はすでにキバオウさんに向けられていて何を言ってるかまでは耳に入りません。
「一撃で死んでも恨まんとき」
「その心配はありません。初撃決着では無いので」
「言うやないか。始まりの街の引きこもり風情がの」
言いながらキバオウさんが両手斧を抜きます。一撃が重く防御の上からでもダメージが与えられるアタッカー向けの武器です。見たこともない武器なので上層の武器であることは間違いないでしょう。
3・2・1とカウントダウンが始まり0と共にスタートの合図が鳴り響きました。
「ほならこれでお終いや!」
開始と同時にステータスをフルに活かしキバオウさんが突進。一瞬で僕の目の前に肉薄します。そしてその大きな斧を振り下ろしてきました。
ソードスキルでもない通常攻撃ですが僕の素早さ特化のビルドでは大ダメージを貰うでしょう。僕はキバオウさんが突進したと同時に半歩下がり振り下ろす直前に右にずれます。
爆音とともに斧が振り下ろされますがまさに紙一重で躱されたそれは地面に大きく穴を開けました。
「避けたやと?!」
一撃で終わると思っていたキバオウさんは驚いた様子で後ろに飛びのきます。少し警戒されたようですね。
「つい力が入って狙いがずれてもうたわ。ほんならこれでどうや!」
再び突っ込んできたキバオウさんは今度は力任せの大振りではなくステップと重心移動を使った連撃を繰り出してきました。さすが攻略組というだけあって恐ろしい攻撃力の連撃です。
僕は逆手に構えたいつもの短剣でそれを一つずついなしていきます。金属が弾ける音が何度も響きます。
「避けるのだけはうまいやんけ」
「ありがとうございます」
まだ余裕のあるキバオウさんはさらに攻撃の速度を上げてきます。しかし長物との闘いはベイロンさんと何度もやってきました。キバオウさんは確かにステータスは高いですが動きは対モンスターのもの。フェイントもない直撃狙いだけの攻撃は避けるのも弾くのも簡単です。
「ぐぅ……なんで当たらへんのや」
「どうしました。まだ5分も経ってませんよ」
全力で斧を振り回したことでキバオウさんの息が上がっています。動きも遅くなってきました。焦りから精彩さも欠いています。
「ぶっ殺したる!」
斧の破壊力のあるソードスキルが襲い掛かりますが難なくパリィで弾きます。そんな一方的な攻防が10分経ち、15分が経ち、そして気づけば30分が経っていました。
「はぁ……はぁ……なんでや、なんで一回も当たらんのや」
「もうお終いですか? それではこちらの番です。安心してください、僕の攻撃では頑張っても一撃10ダメージ程しか入りませんので
」
僕はへろへろになり斧を杖代わりにして立っているキバオウさんへゆっくりと近づきます。
「ちょ! ちょっとタンマや!」
「大丈夫ですよ。大したダメージは入りませんから」
よろよろと後ろに下がるキバオウさんの右腕を切りつけます。見えないくらいキバオウさんのHPが減りました。続いて足、肩、ももを切りつけますがほとんどキバオウさんのHPは減りません。
「ひぃ! わしのHPが! なんや、体がしびれ!」
「麻痺入りましたね。体術いきますよ」
高レベルのキバオウさんにやっと入った麻痺を利用して体術スキルで蹴り飛ばし地面へと倒します。そしてマウントポジションから動けないキバオウさんを何度も殴りました。
「いだ! こんなん、リンチや! うぐ、やめ!」
ダメージは小さくても顔を殴られると痛みが走ります。武器での攻撃は軽減すると全く衝撃が無いんですが体術スキルで攻撃するとヒットバックや衝撃は一律なんですよね。
麻痺が解けて暴れだすキバオウさんから距離をとりまた短剣を構えます。キバオウさんが血走った目でこちらを睨みながら立ち上がりました。
「ぶっ殺し……たる」
「これでやっと1割です」
僕の言葉にキバオウさんが自分のHPバーを見ます。キバオウさんのHPは確かに1割ほど減少していました。
「……嘘や」
「安心してください。あと9セットするだけですから」
そこからはおよそデュエルとは呼べない、一方的な暴力が行われました。
***
「こ、降参します」
「はい、お疲れさまでした。また遊びに来てくださいね」
HPが半分を切ったとき、突然キバオウさんが降参を宣言しました。空中には勝利の文字が大きく表示されます。
「くそが」
顔をボコボコに殴られ涙と鼻水だらけのキバオウさんが転移結晶で転移していきます。
「いやー、終わりました。完全決着なんて初めてですからね。緊張しましたよ。降参は申請側がしないと認められませんからね」
「……」
「……」
「どうしました?」
1時間の死闘を終えミリン達の所へ行くと何やらお葬式のような道端でお化けを見たような変な空気が漂っていました。
「お前、スイレンだよな?」
「はい、そうですけど」
「鬼とか悪魔とかじゃないよな」
「ちょっと失礼じゃないですか。僕だって大好きな街や友達がバカにされれば怒りますよ」
「いや怒るっていうか、完全決着を受けちゃうとこもそうなんだが……お前いかれてんな」
「失礼な! いや失礼なのはキバオウさんですよね! 全く、攻略組にあんな人がいるなんてがっかりです」
「もう300勝がどうとかじゃねーな。今日はお開きだな。客もみんなドン引きしてたぜ」
周りはすでに撤収準備に入っていて見に来ていた人たちもみんなこの場を後にしていきます。何故か僕と目を合わせようとしません。
「言いたいことはあるが俺が言うことじゃねえな。せいぜい頑張りな」
「はぁ、今日はありがとうございました」
ベイロンさんにお礼をいい振り返ると僕の眼前に右手がありました。スパァンと気持ちのいい音が響きます。安全圏内なのでダメージはありません。
「ミリン……」
何事かと思うと目の前には大粒の涙を流すミリンがいました。
「なんでデュエルなんて受けたんですが」
「……攻略組はモンスターとばかり戦ってるから対人戦闘はほとんどしてないし、両手斧はベイロンさんや他の人とやりなれてるから大丈夫だと思いました」
「相手が降参しなかったら、どうしたんですか」
「ああいう人は最後は自分の命のためにプライドを捨てられる人ですからね。自分の死を感じた瞬間に降参すると思いました」
「ひとつ約束してください」
「いいですよ」
「私の前で二度と殺し合いはしないでください」
「……約束はできません。もしミリンを殺そうとするプレイヤーがいたら、僕はその人と戦うでしょう。その結果、」
「それでも、あなたは、スイレンさんだけは人殺しにならないでください」
「……わかった約束です」
「スイレンさんがGAMEOVERになったら、私も後を追いますからね」
「……なんかメンヘラなセリフですね」
「メンヘラ怒らせたら怖いですよ。覚悟してください」
「はい、覚悟します」
この世界はゲーム。でも命のかかったゲーム。僕にとってはゲームだけど、他の人にとってどうかはわかりません。この世界でどう生きるか。それは同時に誰と生きるかも考えなくてはいけないのかな、と僕の服で涙を拭くミリンを見てそう思いました。