ハリーポッターと物語の怪物たち   作:私の為の物語

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ホグワーツのハロウィーンで仮装している描写ってありましたっけ……。


第10話 ハロウィーンの共闘と狂乱

 飛行訓練の次の日、普通に朝食をとっていたハリーを見たドラコは安心していた。原作だと退学してほしかったのかその目を疑っていたが、今の彼は自分の優秀さを見せつけたいだけなので退学されてしまっては困るのかもしれない。

 ハリーはというと無事に寮の代表選手になれたようでマクゴナガル先生からと思われる箒をフクロウから受け取っていた。包み紙に入っていたが本人とロンがドラコにニンバス二〇〇〇だと自慢していたので間違いない。ドラコは自分もすぐに父親に買ってもらうと言っていたが、来年には来年発売のニンバス二〇〇一を引っ提げて代表選手になるのであながち間違っていはいない。

 魔法学校の授業ではマグルの学校以上に宿題が出ていた。俺の魔法に関する知識はあくまでも原作で描写された範囲のものしかなくそれ以外は他の者と同様に勉強しなければならない。俺自身は要領も記憶力もいいわけではないので普通の生徒よりはマシくらいでしかなかった。

 タスさんは当然最高評価を取り続けていたたし、ジェーンも優等生らしく高評価を貰っていた。彼女はメアリーに教えるために予習をしていたからだろう。彼女に教えられていたメアリーは勉強が嫌いだと言っていたわりにはできていたと思う。デアは頑張って勉強していたはずだがいまだに結果が伴っていない。

 十月三十一日のハロウィーンの日。朝、廊下に出るとすでにかぼちゃの甘たっるい臭いが充満していた。午前の授業ではめずらしくタスさんが大人しかったので何も問題なかったし、午後の授業である妖精の呪文では物語のキーになる浮遊の呪文を学び、その後の授業も無事に終えることができた。

 ハロウィーンを楽しみたいとデアたちが言ったため、早めにハロウィーンパーティー兼夕食の舞台である大広間に来ている。すでにパーティーのための飾り付けがなされており、顔の形にくりぬかれたかぼちゃがあちこちに浮いていてその中では蝋燭の炎が揺らめいている。その周辺には数えきれない数のこうもりが羽ばたいていた。

 大広間はハロウィーンに染まっているが俺の横にいるやつらもハロウィーンに染められている。

「今更だがお前らのその恰好はなんだ?」

 仮装している生徒はたびたび見かけたが、仮装したまま夕食を取ろうとしている生徒は目の前の奴ら以外いない。

「魔女の仮装だよ。ハロウィーンなんだし折角だからしなきゃ」

「お前は本物の魔女だろうが」

「色がオレンジだからハロウィーン仕様なんだー」

「聞いちゃいねぇ」

 デアはフリルのついたオレンジ色のワンピースに同色の三角帽をかぶっている。ハロウィーンで魔女に仮装した子供には見えるのだが彼女は魔女そのものなので仮装と言っていいかはわからない。

「他のやつらはなんの仮装なんだ?」

「ワタクシは狼人間ですの。犬耳かわいいでしょう?」

 タスさんは耳のついたカチューシャをしているが、それだけで仮装なのか疑問である。

「それ、犬の耳だったのか。猫だと思ってたよ。耳つきのカチューシャだけで仮装って言っていいのか?」

「あら、手袋もありますし、牙もはめてるのですけれどね。ガオー」

 毛むくじゃらの手袋をはめた手でこちらに肉球が見えるようにポーズを取りながら口を開けて牙を見せた。

「私は吸血鬼です。わかりにくいですがちゃんと吸血鬼に化けているんですよ」

 襟足の立ったマントを着けている以外はいつものジェーンと変わらない気がする。顔が普段より青白い気がするがそれだけである。

「それでメアリーのその恰好はなんだんだ」

 別になんの仮装か聞きたいわけではない。外見で判断しづらいジェーンと異なりメアリーのはわかりやすいからだ。頭から羊のような角を生やし、背中には小さい蝙蝠の羽、先端にハートが付いた細長い尻尾を生やしている。

 ここまでならば彼女が擬態を解いたと思うだけなのだが着ている服がおかしい。黒いセパレートタイプの水着にしか見えない。しかもその幼い容姿にあるまじききわどさである。

「見た通り夢魔だわ。と言っても擬態を解いただけで仮装ではないのだけれどね」

「そうじゃなくて服について聞きたいんだ。そもそもそれは服なのか?」

「うーん。服というか体の一部かしら。私もジェーンみたいにある程度服が作れるのよ」

 彼女がそういうと服の一部が影のように崩れて体の表面を移動し元に戻った。

「ただまだ本来の力を発揮できないから生地が足りなくて。だからといって普通の服だと翼と尻尾が邪魔になるし。まあ、私にとってはこの身体自体が着ぐるみたいなものだもの、それにまだ子供だしいいかなと」

「少しは羞恥心を持ってほしかったがまあいい。そもそもなんでわざわざ仮装することにしたんだ?」

 俺の疑問にタスさんが答える。

「あら、別にハロウィーンは誰かに見せるために仮装するわけじゃないですわ。アランなら知ってるでしょう? 霊から身を守るためにするんですわ」

 ハロウィーンとは日本で言うお盆のようなものであり、この日に死者の霊がやってくると言われている。諸説あるが、死者の霊はまぎれて魔物や魔女もこの世にやってきて、生きている人間から魂を奪うとされており、それらに人間だと気付かれないようにするために仮装するのである。

「そうだったな。でもそれなら魔物のお前らはしなくても問題ないと思うが」

「そうかもしれないですけれど、お祭りに参加しないのは損ですわ!」

「メアリー、似合ってますよ」

「一応本物なのだけれどね。みんなも似合ってると思うわよ」

 似合ってるか似合ってないかと言ったら全員似合ってるのだが、メアリーとデアの二人は本物だし、本物に変身しているジェーンも実質本物。唯一の仮装であるタスさんも狼人間というより犬耳をつけただけの女の子である。はぁ、見た目はかわいいんだけどなぁ。

「……で、だれが仮装しようって言い始めたんだよ」

「それはもちろんワタクシですわ! 月のイベントはしっかりやっていくのがエンターテイナーですの!」

「そうそう、みんなで仮装して楽しもうよ。あっ、忘れてた。これアランの分!」

 デアに手渡されたのはフランケンシュタインの被り物。ちなみにどうでもいい話だが、フランケンシュタインの元ネタは昔のゴシック小説であり、一般的にフランケンシュタインと呼ばれているつぎはぎの怪物の名前は小説では登場せず、その怪物を作った博士がヴィクター・フランケンシュタインという名前なのである。

「遠慮したい」

「えー、つけてほしいな。大丈夫、つければ完全にフィットする魔法の被り物だから」

「そういう問題じゃない!」

 結局デアに押し付けられて被り物をかぶることになってしまった俺はフランケンシュタインになりながらハロウィーンパーティーに参加する羽目になった。

 

*

 

 パーティーが始まる少し前、机の上に普段より豪華な食事が金色の皿と共に現れた。ハロウィーンなのでかぼちゃ料理が多い。

 時間が経つにつれて段々と生徒が大広間に集まり、ハロウィーンパーティーが始まった。しかし、その中にハーマイオニーの姿はない。

 午前中のグリフィンドールの妖精の呪文の授業の後に事は起こった。授業中にロンがハーマイオニーに口うるさくされたため、授業後に「だから友達がいないんだ」と彼女の陰口を行ったのだが、それをハーマイオニーが聞いてしまった。

 実際、マグル生まれで人一倍勉強していた彼女には友達もいなかった。自分でも気にしていたのかそれ以降の授業は出ずに女子トイレで泣いている。

 原作通りに進んでいるのであればの話だが、彼女の姿がないのは確かである。

 ドラコたちは到着するやいなや俺たちの仮装に驚いた。特に俺のフランケンシュタインに。一人だけ原型ないからな。俺とわかった後は爆笑していたが。

 彼らもメアリーの服装に突っ込んでいたので安心した。俺しか違和感を持っていなかったのかと心配していたので安心した。

 料理はパイをはじめプリンやタルト、ケーキなどカボチャで作られたデザートの種類が豊富で量も多い。それらと比較すると甘くない物の種類が少なくかぼちゃが使われていないのは素材そのままのポテトくらいである。

「甘いものばっかりだね。あたしはおいしければなんでもいいけどさ」

「私は甘いの好きだからうれしいけれど甘いものやカボチャが苦手な人が困らないかしら」

「そうですね。他の選択肢があればいいんですけど」

「まあカボチャづくしである以上仕方ないさ。俺もここまでカボチャばかりだと飽きそうだが、たまにはこういうのもいいだろ」

「ワタクシは料理よりトロールが楽しみで仕方ありませんわ!」

「そうだった! 早く食べないと!」

 今年のパーティーは途中で中断される。クィレルが賢者の石を奪うためにトロールを学校へ侵入させるからである。トロールに意識を逸らしているうちに立ち入り禁止の四階へ侵入する気だったが用心深いスネイプ先生に発見され失敗に終わる。

 パーティーの途中、クィレルがトロールが侵入したと報告し、生徒たちはダンブルドアの指示で寮ごとの監督生の指示に従い自分の寮に帰ることになる。

 よってデアは焦って料理を食べ始めたというわけである。

「おいしい! あっ! タッパー忘れた!」

「ワタクシがちゃんと持ってきてますわ」

 タスさんから魔法のタッパーを受け取った彼女は次々と料理をいれていく。もちろん自分の口にも大量に入れながらである。

「俺も早めに食べるか」

「メアリー、カボチャグラタンもありますね。どうぞ」

「ありがとう。私には届かなかったから助かるわ」

「しっかり食べてトロールに備えないといけませんわね!」

 急にがつがつ食べ始めた俺たちを見たドラコとパンジーが不思議そうに聞いてきた。

「なんでそんなに急いで食べているんだ?」

「デアはいつも通りだからわかるけど」

「食えるうちに食っとけ、じゃないと後で困る。そっちのミリセント、セオドール、ブレーズ、ダフネも今のうち食べとけ」

「だからなんでなんだ?」

「トロールが学校に侵入するからですわ」

「なんでそんなこと知っている」

「ワタクシは未来に起きることがわかりますの」

「お前が予言者だったなんて知らなかった」

「予言者とは違いますけどなんでもいいですわ。信じないなら信じないでもいいですの」

「信じていないわけじゃないがマルフォイ家の人間として乱暴に食事をとるわけにはいかない。僕はいつものようにとらせてもらうよ」

「好きにしていいぞ。だが、俺はさっさと食べる」

 できるだけ腹に料理を詰めん込んでいる途中で勢いよく扉が開き顔面蒼白となったクィレル先生が大広間へ駆け込んでくる。ダンブルドア先生のところまで息も絶え絶えといった様子でたどり着いた彼は喘ぎながら報告した。

「トロールが……地下室に……お知らせしなくては……」

 そう言うとクィレル先生はその場で気絶してしまった。演技なのだが生徒たちがわかるわけもなくその言葉は大広間を阿鼻叫喚の大混乱へと落とし入れた。

 俺らだけは問題ないことを知っているため引き続き食事を続ける。俺は限界まで食事を続ける所存だ。

 ダンブルドアが混乱を鎮めるために魔法で紫色の爆竹を複数回爆発させた。

「あーあ、もう時間切れ? でもまだ食べてていいんだよね」

「ええ、まだ食べてていいですわ。他の皆さんも」

「そう、ならまだプリンが食べかけだから食べさせてもらうわ」

「メアリーはまだタルト食べていないですよね。はい、あーん」

「自分で食べられるわ。恥ずかしいでしょう。まったく、私もやってあげるわ。はい、あーんってジェーンは躊躇なく食べるのね」

「あたしも食べるー」

「ワタクシも食べますわ!」

「緊張感ないな。俺もか。まあ、動かなきゃいけなくなったら言ってくれ」

 上級生さえ恐怖で震えている中でそのまま食事を続けている俺らに半泣きで慌てふためいていたドラコが気づいた。

「お前らなんで普通に食事を取っているんだ!? トロールが学校に侵入したんだぞ!」

「こいつらがいるのにトロールなんか怖がるわけないだろ。こいつらのほうがよっぽど怖いわ」

 トロールは身長最大四メートル、体重最大一トンの巨人のような生き物である。力は強いが知能がおそろしく低い。魔法使いの試験の最低評価がT(トロール並み)と記されるほどである。暴力的で行動が予測不可能。

 魔法省によって定められた生物の危険度であるMOM分類では最大レベルが5である中レベル4と高いレベルで設定されている。レベル4は危険、専門知識が必要、専門魔法使いなら扱い可能とされている。

 危険ではあるが、しっかり戦闘がこなせる成人した魔法使いであれば問題なく対処できる。並みの一年生なら遭遇すれば命の危険があるが、ぶっ壊れ設定のオリキャラたちが遅れを取るわけがない。

 ドラゴンのMOM分類が最大レベルの5だと考えるとデアの方が危険。他の奴らも彼女と同じくらいの能力だろうことを考えれば心配いらない。

 今回はタスさんにほぼ何でもやっていいといってしまっているのでそっちの方が心配である。

「いくら彼女たちでもトロールはさすがに危険だろう! 彼女たちをなんだと思っている!」

「トロールは危険じゃないよ! 乱暴なところはあるけど大丈夫。昔、森であったトロールの親子と仲良くなったもん」

「ワタクシを危険にさらしたいならなら百匹じゃ足りませんわよ。はぁ、たかが百匹くらい連れてきてくれたらよかったですのに」

「私でも一匹くらいはさすがに倒せると思うわ。万全の状態で真正面から来てくれればだけれど」

「謙遜しなくていいんですよ。メアリーならトロールをすべて滅ぼすくらいできます」

「僕の認識が甘かったようだ。おかげで落ち着いたよ」

 トロールをはるかに超える怪物たちを見てドラコは完全に落ち着きを取り戻した。

「ああ、安心していい。そもそもこれだけ先生たちがそろっていてトロール程度が対処できないわけがないからな」

「言われてみればそうだな」

 ようやく大広間が静かになり、ダンブルドアが口を開くとその重々しい声が響いた。

「監督生よ。すぐさま自分の寮の生徒を引率して寮に帰るように」

 スリザリンの監督生の指示に従い寮へ帰ろうと椅子を立ったのだが、メアリーだけが机に頭を置いたまま立ち上がらない。眠ってしまっているようである。

「寝てるってことはなにかやったってことか?」

「ええ、ワタクシが頼みましたの」

「俺はなにも聞いてないんだが!」

「メアリーにしか言ってないですもの。知らないほうが面白いじゃありません?」

「面白いとか面白いじゃなくて対処できなくなったらまずいだろ!」

「タスさんは自分で対処できる範囲はわかっていますから大丈夫ですよ。アランさんが心配しているようなことは起きないと思いますが」

「あたしも大丈夫だって思うな。それよりもう行かないとまずいんじゃない? あと、メアリーはどうするの? たぶん起こしても起きないよ」

「私が変身できれば運べるんですけどそうするわけにはいきませんし」

「俺が運ぶか? いや、無理か。デアしか運べそうにないな」

「メアリーはそんなに重くないですよ?」

「もし俺が運べたとしてもデアの方が適任だろうしいいよ」

「じゃあ、あたしが運ぶねー」

 デアがメアリーをまるで赤ちゃんを抱くように軽々と持ち上げる。彼女の体重は知らないがこの年齢で同じくらいの身長の人間を同じように持ち上げるのは難しい。少なくとも軽々できるものではない。

「ありがとうございます」

「いいって。ほら、もう行かないと」

 監督生の後ろをアヒルの行進のように列になってついていく。

 地下牢へ階段を降りていると近くにいたドラコが強張った顔をして話しかけてきた。

「冷静に考えてみればホグワーツにトロールが侵入してしまっているなんて問題じゃないか! トロールが侵入できるほどホグワーツの守りは脆くない。それなのに侵入されているということは強力な魔法使いか場内の裏切り者が手引きした可能性がある!」

 なんだかんだ主人公のライバルキャラなだけあってなかなか鋭いな。

 ホグワーツの強固な防護呪文はここがイギリスの魔法界一安全と言われている理由である。トロールの侵入はそれを破れるくらいの強力な魔法使い、またはこの場内の誰か、もしくはその両方に当てはまる人物が手引きしなければ不可能だ。つまり、そのような人物が近くにいるということである。

「そうだな。でも、イギリス最強の魔法使いと言われたダンブルドアがいるんだから例のあの人くらい強大な闇の魔法使いでなければ大丈夫さ」

 侵入させたのはヴォルデモート本人だが、彼はクィレルに寄生しなければならないほど弱っており、ダンブルドアであれば対処は容易である。

 それは原作でダンブルドアが不在のときを見計らってクィレルが賢者の石を奪おうと動くことから証明されている。

「しかし、ダンブルドアも最近は衰えたと父上が言っていた」

「さすがに歳だからな。だとしてもイギリス最強の魔法使いということに代わりはない。例えタスさんたちが束になってもかなわないだろう」

「ええ、現時点での勝率はゼロですわ。いつかは勝ってみせますけれどね」

「楽勝ってわけにはいかないだろうけどやってみないとわからないよー」

「さすがに厳しいと思いますよ。メアリーが信じてくれるなら負けるわけにはいきませんが。それにメアリーですら今の力では彼に勝つのは難しいでしょう」

「当然だ。腐ってもホグワーツの校長だからな。いくら規格外とはいえ一年が勝負になる相手ではない。比較対象にならないね」

 理想の主人公であるメアリー・スーよりも強いというのは相当のことであるのだが、うまく伝わらない。当然である。

「だから、ダンブルドアが城にいる限り問題ないよ」

「そうですわ。すでに犯人の目星はつけたと思いますし心配いりませんの」

「それが本当なら何の問題もないな。だが、なぜそれがわかる。それに目星がついているのになぜ捕まえない」

「分析すれば誰でも目星がつくからですわ。ドラコも少し考えれば怪しい人物がすぐにわかるはずですの。捕まえない理由はワタクシにはわかりませんわ。彼にも色々思惑があるのでしょう」

「少し考えれば僕もわかるか。……僕もということはお前も目星がついているのか」

「ええ、ワタクシ以外もですわ。ただワタクシたちの場合は分析はしていないのですけれど詳しく話すと誰かさんに怒られるのでなぜかは言えませんわ」

「わかってるなら余計なことを言わないで欲しい」

 俺らの場合、原作を把握しているため分析や推理など必要なくクィレルが犯人だとわかる。

 しかし、原作を把握していなくてもクィレルが怪しいと判断できる理由がある。

 普段の怯えている姿から見ればトロールの侵入に怯えた彼が気絶することは普通に思える。だが、彼が怯えているのは吸血鬼であってトロールではない。実際はヴォルデモートに対してなのだがどちらにせよ怪しいことには変わりない。

 さらにいくらトロールの危険レベルが4だとはいえ、彼らに詳しい闇の魔術に対する防衛術の先生の脅威にはなりえない。

 よって彼がトロールに怯えるのは不自然である。また、トロールは専門の魔法使いであればコントロールできる。つまり、クィレルであればトロールをホグワーツへ侵入させることが可能である。

 このように分析すればクィレルが怪しいとわかるはずだ。しかし、この結論を出せたのはクィレルが犯人だと知ったうえで怪しい部分を考えたからなので誰でも目星がつくというのは言い過ぎかもしれない。

「……うーん。わからないな」

「ヒントはトロールですの」

「トロール?」

「わからないならわからないでいい。知ってても無駄に不安に駆られるだけだ」

「だが、犯人がわかっていた方が対応できるだろう?」

「対応できるならそっちの方がいいが一年が対応できるような相手である確率の方が低いだろ?」

「変な反応をしてこっちが気づいているのがばれれば消されかねないか」

「わかったならわかったで対応できるかもしれないけどな」

「いったいどっちなんだ?」

「どっちでもいいさ。どうせダンブルドアがなんとかしてくれる」

「ダンブルドアを信用しすぎだと……どうしたんだ? 前が騒がしいぞ」

 前を歩いていた生徒たちが止まりざわざわと話を始める。そしてすぐ前のパンジーがその前のダフネに話を聞き血相を変えこちらに向かって叫んだ。

「大変だわ! スリザリン寮へ行く道にトロールがいるんですって!」

 彼女の話を聞いた俺の血相も同じように変わった。

「はぁ!?」

「いきなり焦ってどうしたんだ。彼女たちがいれば大丈夫なんだろう? 目の前にトロールがいるわけでもあるまい」

 トロールそのもののについて焦っているわけではない。トロールの居場所が原作と違うからである。クィレルは地下室にいると言ったのでその言葉とは確かに合致するが、実際には女子トイレへ向かっている。ハーマイオニーが泣いているトイレである。

 俺がこのハロウィーンパーティーを気にしていた理由はトロールが侵入するからだけではない。今日、起こるイベントによって主役三人が本格的に仲良くなるからである。

 今日のこのイベントが起きるまでハリーが仲がいいのはロンだけであり、口うるさいハーマイオニーはむしろ苦手な存在だった。だが、このイベントによって三人は友人となる。

 トイレで泣いているハーマイオニーは今学校にトロールが侵入していることを知らない。彼はそれを伝えるために隙を見て寮の列を離れる。

 そしてその途中の廊下で彼女のいるトイレに向かっているトロールを発見し、彼女を助けに二人だけで向かい、浮遊呪文を使って彼女を助け、彼女は先生たちから彼ら庇う。

 こうして運のよさによって難を逃れた三人には絆が芽生えて友人になり、さらにイベントを重ねることで親友になっていく。

 つまり、このイベントは主役三人が仲良くなるのに必須のイベントであり、ここにトロールがいてもらってはそれが起きないため焦っているのである。

「トロールは女子トイレにいるんじゃなかったのか!?」

「そうですわ」

「ああ、タスさんの予言が外れて驚いているのか。マグル生まれのお前は知らないのかもしれないが、外れることもある」

 ドラコに諭される。俺は確かに外れることを知らなかった。予言であれば外れることもあるのだろう。

 俺と転生した三人の場合、この世界と似た物語をあらかじめ知っているため予言というより予知に近い。ただそれでも、俺たちという異物がある時点で飛行訓練のときにように物語が変わる可能性はある。

 しかし、トロールが原作と違う場所にいるのであればなんとかして同じ場所に移動させるか、代わりに主役三人が仲良くなるためのイベントを起こさないといけない。

 後者の場合わざわざ新しいイベントを考えて、なおかつそれを起こさなければいけないので前者のほうが手間がかからない。よってトロールを誘導する方法を考えるのが得策である。

「予言が外れたのなら予言通りになるように誘導しないとまずいんだ」

「なぜだ?」

「なぜって……。あれだ、この予言が予言通りにならないと他の予言が外れて困るんだよ」

「誘導したところで外れたという事実は変わらないとは思うが、したいならすればいい。地下室からいなくなってくれれば談話室に入れるからな」

 ドラコの疑問を誤魔化して答えるとタスさんが小声で話しかけてくる。

「女子トイレに向かっているトロールもいるので大丈夫ですわ」

「もいるって複数体いるみたいじゃないか」

「その通りですの。メアリーに頼んで五体侵入させたのですわ」

「は? いやいや! ちゃんと全部に対応できるんだろうな!」

「もちろんですわ。本当は百体くらい欲しかったのですけれど無理だと言われてしまいましたの」

 だからさっきトロールと戦えるかという話になったときに「たかが百匹くらい連れてきてくれたらよかったですのに」と言ってたのか。

「それでどうするんだよ。ハリーたちの方にも誰かついていてもらいたいのに。今日三人が仲良くならなかったら後日、別のイベントを俺たちが起こさないといけないんだぞ」

「それもおもしろいですわね」

「なにしてもいいとは言ったが、それはあくまで物語に大きな影響を与えない範囲での話だぞ」

「わかっていますわ。ただの冗談ですの。ちゃんと考えているので心配しないでくださいまし。今から皆さんにも説明いたしますわ」

「メアリーは寝ているが大丈夫なのか?」

「彼女には協力してもらうために説明済みですわ。ただ、あまり乗る気ではなかったので説得するために条件を飲むことになったんですの」

「どんな条件だ?」

「ハリーたちのイベントにドラコを参加させるという条件ですの」

 メアリーは原作通りに進めたいのだと思っていたが、今回は話を少し変えたいらしい。原作のまま行くとドラコはライバルキャラというには小物になってしまう。それを阻止したいのだろうか。

「それにドラコがハリーたちと仲良くなれば死喰い人になる確率も減って一石二鳥ですわよ」

「いい……のか?」

「大丈夫ですわ」

 タスさんがデアとジェーン、ドラコを呼びこれからの予定を説明し始める。

 ドラコはトロールを倒せばスリザリン、そして純血、なによりもマルフォイ家が優秀だということが証明できると適当に説得した。危険だと言う理由で渋っていたが彼女たちが協力してくれるから安全だと言うとしぶしぶ協力してくれることになった。

 彼が参加することに関して小声で二人に聞いたところ、デアは「他の寮の生徒が仲良くなるならいいことだよね」と、ジェーンは「メアリーがそう望むなら」とどちらも賛成した。

 トロールはそれぞれの寮へ続く道のりに一体づつ、女子トイレに一体、合計で五体。

 グリフィンドールのはタスさんが、ハッフルパフのはデアが、レイブンクローはメアリーが、スリザリンのはジェーンがそれぞれ対応する。

 メアリーは寝ているので正しくは彼女の杖が対応する。意識がなくても魅了はできるらしい。さすが無敵のメアリー・スーである。

 女子トイレのトロール、もとい原作イベントの見張り役は俺とドラコで行う。

 しかし、俺は彼女たちと違って怪物でないので一人で対処することは不可能である。俺とドラコで対応しなければならないのは不安だ。

「俺とドラコで大丈夫か? 俺一人でトロールは倒せないぞ」

「トロールを倒せる四人を抑えているお前なら余裕じゃないのか?」

「ずっと言ってるけど抑えられてないから。余裕どころか俺一人なら下手しなくても死ぬ」

「どうだかね。ただ、さすがの僕もまだトロールを倒す術はない。本当に安全なんだろうな」

「あそこにはハーマイオニーがいるはずですの。それにハリーとロンも向かっているはずなので五人で対処すればなんとかなりますわ」

「グリフィンドールの連中と協力しろっていうのか?」

「別に協力しろとは言ってませんわ。でも、一人では倒せないなら利用するしかないじゃありませんの。そういうのはスリザリンの専売特許でしょう?」

「まあな。この僕ができないわけがない。あいつらの力を借りるのは癪だが割り切ろう」

「では、それぞれの場所へワタクシが姿くらましをして運びますわ」

 未成年者は姿くらましできないが、できる魔法使いに掴まることで一緒に移動することが可能である。これを付き添い姿くらましという。

 タスさんのものは妖精の魔法なのでそもそも法律には触れないが。

「デアは地力で移動できるはずですし、ジェーンはすぐそこですのでアラン達とメアリーだけですわね」

「うん、あたしは飛んでいくから平気」

「私もすぐそこまでなら移動できます」

「ではまず、メアリーから移動させますのでお二人はちょっと待っててくださいまし」

 彼女はそう言うとデアが背負っているメアリーに浮遊呪文をかけて浮かせ、つきそい姿くらましをしようと手で触れる。

 彼女が姿くらましをする前にドラコがそれを止めた。

「少し待ってくれないか。メアリーの杖が勝手に呪文をかけるところは僕も授業中に何度も見ている。しかし、その呪文は拙いものだ。彼女は眠っているし危険だと思うんだがね」

「レイブンクローにいる彼女の兄に任せるので大丈夫ですわ。優秀ですので安心してくださいな」

「メアリーの兄もレイブンクローなのか。ん? デアの兄もそうだったような」

「そうだけど当たり前じゃん。あたしの兄さんはメアリーのお兄ちゃんなんだから」

「おまえら姉妹だったのか」

「あれ? 言ってなかったけ」

「聞いてないぞ。しかし、お前と彼女はファミリーネームが違うが」

「あたしとメアリーは血がつながってないからね。あたしと兄さんのパパが一緒でママは別。メアリーと兄さんのママが一緒でパパが別なんだ」

「ややこしいな。よくわからん」

「まあ、異父母兄妹ってこと。とりあえず、兄さんは色々できるしある程度はなんとかしてくれると思うよ。一人でトロールを倒せるかは知らないけどね」

「彼以外にも優秀なレイブンクロー生はいますので心配いりませんわ」

「勉強だけが取り柄のレイブンクローだぞ?」

「あら、それは誤解ですわ。彼らは己のやりたいことするために学習しているだけにすぎませんの。彼らの本当の強みは一分野のスペシャリストになるのに向いていること」

「つまり、トロールに詳しいやつもいるということか」

「そういうことですの。ということで連れて行きますわ」

 タスさんがメアリーに触れ、音を立てて姿くらましをする。しばらくすると彼女だけが戻ってきた。

「メアリーはリリスに任せてきましたわ。次はあなたたちですわよ」

 俺とドラコは彼女の両手をそれぞれ掴む。そしてすでに聞きなれてしまった姿くらましの音が聞こえると目の前の景色が歪みはじめた。

 

*

 

 ゆがんだ景色が元に戻るとそこはトロールのいるであろう女子トイレの前だった。無事に姿現しはできたようである。

 数秒もたたないうちにトイレの中かららハーマイオニーのものだと思われる甲高い悲鳴が聞こえてきた。

「タイミングはバッチリですわ。すぐにハリーたちも来ると思いますしワタクシはグリフィンドールの方に行かせてもらいますわね」

「その前にどうしたら安全に倒せるか教えてくれ……って聞いてねーし」

 故意か本当に聞こえなかったのかは知らないが、タスさんは俺の言葉を無視して姿くらましをして消えてしまう。

「しょうがない。トロールを倒しに行くとするか」

「本当に安全なんだろうな」

「さあな。タスさんが言うには大丈夫らしい」

 強張った顔のドラコと共に扉を開けて女子トイレの中に入っていく。

 扉を開けた先には四メートルほどはあるトロールと奥の壁で恐怖に歪んだ顔のまま固まっているハーマイオニーの姿が見えた。

 平均的な大きさのそれの肌は墓石のような鈍い灰色、体は岩石のようにゴツゴツしている。腕は体と比べると異常に長くその手には木でできた巨大な棍棒が握られている。さらにその体は牛乳を拭いたまま洗わず放置した雑巾のような悪臭を放っている。

 大きさによる迫力とその匂いで俺とドラコは顔を歪める。彼は恐怖を紛らわすように俺に話しかけてきた。

「ま、まあ、お前ならあの程度の下等生物なんか余裕だろうね」

「そんなわけないだろ。だが、このままだとハーマイオニーが危ない。こっちにひきつけないとな。フリペンド!」

 杖を取り出し、俺の使える唯一の攻撃魔法を唱える。

 なにかひとつくらいは使えないといざというときに困ると思いタスさんに教わったものだ。彼女と違い最大の威力を引き出したり、連弾にすることはできなかったが、失敗しないくらいには上達した。

 しかし、単純な衝撃呪文では威力が足りなかったようで俺の放った水色の閃光はトロールの肌に弾かれる。まったく効いていない。

「全然効いてないじゃないか!」

「だから無理だって言ったろ!」

 二人して叫ぶとハーマイオニーがこちらに気付く。だが、気づいたのは彼女だけではなくトロールも同様だった。

 ゆっくりとこっちを向き、体と比べると随分と小さい頭を傾げる。そして雄叫びをあげながら手に持っていた棍棒で横にある洗面台を破壊した。

 ずしんという振動が体に伝わり、直撃したら命はないと確信する。

「クソ! ちゃんと考えてから行動すりゃよかった!」

 足りない頭を回転させて解決策を考える。

 俺がやるべきことは時間稼ぎ。先生たちかタスさんたちの誰かが駆け付けるまで俺も含めて誰も致命傷を負わないようにすることだ。

 原作のようにトロールを倒す必要はない。一定時間気を逸らせば俺の勝ちだ。つまり最善手は……。

「とりあえず逃げるぞ! ハーマイオニー! 一旦こっちに惹き付けるから頃合いを見計らって逃げてくれ!」

「だそうだ! 僕たちに感謝しろ!」

 隣のドラコが叫ぶとトロールの向こう側にいるハーマイオニーがうなずく。

「フリペンド!」

 気を逸らすために再度衝撃呪文を打つ。案の定まったく効かないが注意をひきつけることには成功したようでトロールがこちらに向かってくる。しっかり後を追ってくるのを確認しながらトイレから逃げ出した。

「やっぱり全然効かないじゃないか!」

「効かなくてもいいんだ。ひきつけられさえすればいい。後は助けが来るまで逃げ続ける」

「お前が言うならそれでなんとかなるんだろう」

「いや、わからん」

「おい!?」

「なんでそんなにドラコは俺を過信してるんだ。あいつら化け物どもと違って俺はただのマグル生まれだからな。っておっと」

 曲がり角でハリーとロンの二人とぶつかりそうになる。驚いた顔のロンが口を開いた。

「どうして君たちがここにいるんだ?」

「会場にグレンジャーの奴がいなかっただろう。トロールのことを知らないだろうから教えに来たのさ」

「スリザリンの君らが? なんの冗談?」

「なにがおかしい。血を裏切るものごときがこの僕の行動を否定するほうがなにか冗談だろう?」

「そちらのフランケンシュタイン様のほうが冗談みたいだけれど?」

「俺の仮装は気にしないでくれ。これ取れないんだよ」

 実はこのマスク、魔法のせいで0時にならないと取れないのである。タスさんのやつ、俺が付けてから言いやがって。

 一色触発の二人とこんなことになっているのにフランケンシュタインのままの俺にハリーが困惑しているとズシンという物音がしてその顔が恐怖の色に染まった。

「ロン、あれ」

「なにさ」

 全員が音のする方を向くと俺らの後を追いかけてきたトロールと目があった。

「トロールじゃないか!?」

「ああ、ハーマイオニーが危なかったからひきつけてきたんだ」

「そのせいで今度は僕たちが危ないけどね」

「アランもハリーもなんで冷静なんだ!?」

「俺は割と焦ってるぞ」

「僕もだよ。早く逃げよう!」

「ここで会ったのも何かの縁だ。折角だからおとりになるといい。光栄に思え。僕は逃げる」

「冗談。君がなれよ」

 満場一致で逃げることが決まり全員走り出す。魔法使いとはいえまともに使える呪文の方が少ない一年生だけなのだから当然である。

「それでどうするんだい? 天下のスリザリン様は当然なにか考えてるんだろ?」

「一応な。助けが来るまで逃げる。……以上だ」

「どうやって逃げるの? このまま逃げ続けるのは無理そうだけど。僕らの体力が持たないよ」

「そりゃがんばるしかないだろ」

「何も考えてないってことじゃないか。純血主義が聞いて呆れるね」

「俺はマグル生まれだけどな」

「そんなに言うのなら君には何かいい案があるんだろうね?」

「当然だろ。逃げれないなら倒せばいいじゃないか」

「それこそどうやる。単純な衝撃呪文程度ではあいつに傷一つつけられないぞ。すでに試した。まあ、そんな簡単な呪文でさえお前は唱えられないだろうが」

「くっ。……ま、まあ、呪文だけで倒そうとしてる時点でお里が知れるね」

「ならさぞ優秀である君ならどうするか教えてほしいものだ」

「えっと……」

 ドラコの問いにロンは言葉を詰まらせる。売り言葉に買い言葉で適当に言っただけだったのだろう。しかし、その実その言葉は的を射ている。わざわざ倒す必要はないが倒せるなら倒してしまった方が楽であるし、呪文だけで倒す必要もない。

 なにかいい案はないかと考えているとハリーが先に思いついたようだ。

「これはどうかな。階段の所まで誘導してそこから落とす。トロールの事はよく知らないけど高いところから落ちればさすがに無事じゃ済まないと思うんだ」

「それだ! 僕もそう思ってたんだ」

「本当に思っていたかどうかは突っ込みの余地があるがまあいい。とりあえずそれでいこう」

「グリフィンドールの奴らの考えに乗って大丈夫なのか?」

「さあな。だが今はこれをやるしかない。ドラコは自分の無事だけ考えててくれ」

「当然だ」

 足がまだ動くうちに四人全員で階段の向かった。

 

*

 

 トロールを階段まで誘導することはなんとかできた。しかし、階段から落とす手段がない。衝撃呪文を使ったところでよろめきすらしない怪物をどうにかする手段を俺は持っていない。

「で、結局どうするんだ?」

「ごめん。落とすところまでは考えてなかった」

「ならお前が当然考えているよな。さっき「僕もそう思ってた」と言っていたのを忘れてないぞ?」

「……衝撃呪文を使う」

「いや、だから気をそらすことくらいしかできないんだって。あの巨体がよろめくレベルの衝撃を起こすのは俺には無理だ」

「一人は無理でも複数人でやればなんとかなるかもしれない」

「君たちが使えるようには思えないけれどね」

 ハリーとロンが黙り込む。そう言っているドラコも使えないのでどうにもならない。

「あなたたち大丈夫!?」

 聞こえた叫び声に増援が来たと安心したのもつかの間、その声の主がハーマイオニーだと気が付き絶望する。

「意味ねぇ!」

「なんで来たんだ!?」

 俺とハリーの叫びに階段の上にいるトロールを挟んで向こう側にいる彼女が若干怒りながら返した。

「あー、はいはい私のような悪夢みたいなやつが来てもなんの意味もないわよね!」

 やけくそ気味に叫ぶ彼女にロンが謝罪する。

「ごめん! 悪夢みたいなやつっていうのは言い過ぎた!」

「いいの。本当のことだから」

「そんなことない! 本当に悪夢みたいなやつっていうのはマルフォイみたいなやつのことを言うんだ!」

「お前ケンカ売ってるのか? 売ってるのなら買ってやるぞ」

「なんでもいいから早くトロールを階段から突き落とす手段を考えてくれ!」

 ハーマイオニーは作中随一の頭脳を持つキャラクターである。彼女であればなにかいい手段を考えてくれるはずだ。

「ええ! 考えたわ! みんなでトロールで浮遊呪文をかけましょう!」

 全員の頭の上に疑問符が浮かぶ。原作で浮遊呪文をかけたのは棍棒だったはずだ。考えているうちにトロールがこちらに移動してきてしまっている。

「いいから早くして! 今日習ったでしょう! ビューンヒョイよ!」

「お前なんかに言われなくてもわかってる!」

「君に散々注意されたからね!」

「それを横で聞かされてたよ」

「よくわからないがやるしかないか」

 

『ウィンガーディアムレビオーサ』

 

 五人分の浮遊呪文が響き渡り、トロールの体が一瞬だけ空中に浮いてバランスを崩す。そしてそのまま階段を踏み外しホールへ落ちていった。周囲の階段や絵画をぶっ壊しながら。

「……やっちまった」

「これは私たち全員退学かもしれないわね」

「まあ、全員無事だったしいいじゃない?」

「いいわけないだろ! これだから血を裏切るものはお気楽で困る!」

「身を守るためだったし大丈夫じゃないかな。……たぶん」

 ハーマイオニーにこれまでの経緯を説明していると複数の足音が聞こえマクゴナガル先生をはじめとする先生たちが駆け付けてきた。

 彼女の後ろにスネイプ先生、そのまた後ろにクィレルと続く。そしてその後ろからタスさんたちとメアリーをおぶったリリンさんが現れた。

「トロールは下に落ちてしまったようですな。吾輩とクィレル先生で様子を見てきましょう」

「頼みました」

 スネイプはクィレルを連れて最下層へと移動する。一部の階段が壊れてしまっているので要所要所で身体浮遊の呪文を使っている。

「まったくあなたたちはどういうつもりなんですか!? 特にスミシー! なんですかそのマスクは!? おちょくっているんですか!?」

「タスさんのせいで外れないんです!」

「言い訳は無用!」

 彼女の声色は怒りの色に満ちていた。

「死ななかったのは幸運でした。寮にいるはずのあなたたちがなぜここにいるんです」

「マクゴナガル先生。聞いてください。……みんな私を探しに来たんです」

「ミス・グレンジャー!」

「私がトロールを探しに出たんです。私……一人でどうにかできると思いました。……本で読んで全部知っているつもりでしたので」

 ロンが持っていた杖を落とした。彼女が先生に嘘をついて罪を一人でかぶろうとしているのが信じられないのだろう。

「もしみんなが見つけてくれなかったら、私、いまごろ死んでいました。まずアランとドラコがトロールをひきつけてくれて、その後ハリーとロンも協力してくれて、それでみんなでトロールに浮遊呪文をかけてなんとか階段から落とすことができました。全員助けを呼ぶ余裕なんかなかったんです。二人が来てくれた時は、私、殺される寸前で……」

 実際俺らは先生たちを呼ぶ余裕はなかった。それに彼女が呼んでくれていれば楽だったが彼女も考える余裕がなかったのだろう。

 そもそもあらかじめ呼んでいればよかったがタスさんの笑顔を見るにそれは彼女がさせなかっただろうと確信した。

「まさか、ミス・グレンジャー、なんて愚かしいことをしたのです。一人で野生のトロールをどうにかしようなどと。なぜそのようなことを」

 ハーマイオニーが暗い顔で地面を見ている。ハリーたちも黙りこむ。規則、規則の彼女が俺らをかばうために規則を破った嘘をついているのだから不思議で仕方がないのが見て取れる。

 原作ではスネイプがお菓子を配り始めたようだと揶揄していた。

「ミス、グレンジャー、グリフィンドールから五点減点です。あなたには失望しました。怪我がないならグリフィンドール塔に帰った方がよいでしょう。生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」

 ハーマイオニーはうなだれたまま先生の言われたように寮へと帰って行った。それを確認した先生は次は俺たちの方へと向きなおる。

「先ほども言いましたが、あなたたちは運が良かっただけです。ですが、成体のトロールに対処できる一年生はそうざらにはいないでしょう」

「ワタクシは一人でトロールを捕まえましたわ!」

「だからざらにはいないと言ったのです。まったく、一年生でトロールを手玉にとり、あまつさえそれを見世物にするなんて前代未聞ですよ」

「百匹くらいは欲しいところだったんですのよ? それにデア達だってトロールを倒しましたわ」

「はぁ、野生のトロールに対して一人は見世物にし、もう一人は魔法を使わずに殴り飛ばし、後の二人は他の生徒をまとめて退けました。そのうち一人は寝ながらですよ? こんな人材が寮にいるスネイプ先生はさぞ鼻が高いでしょう。ええ」

「さすがスリザリン生だな。っとすみません」

 ドラコが口を挟むがマクゴナガル先生ににらまれすぐに謝罪する。

「もちろん規則を守ればの話です。今のままでは近いうちに退学にしますからね。なにはともあれ普通の一年生が生き残れたのは非常に運が良かったからです。その幸運に対してあなたたち四人に一人五点ずつあげましょう。私からダンブルドア先生にご報告しておきますのでもう帰ってよろしい」

 そそくさと無言のままその階から離れる。先生たちから聞かれないであろうところまで離れると次々に口を開く。最初にハリーがデアに話しかけた。

「どうやってトロールを倒したの? 僕らなんか五人でも階段から落とすだけで精いっぱいだったのに」

「どうもなにも先生が言った通り、ただ単に殴っただけ。あたしの取り柄は身体能力だけだからねー」

「あのトロールをただ単に殴り倒したの?」

「うん!」

「ごめん、ちょっと意味がわからない」

「私は飛べるから移動の慣性を乗せてよいしょってやったの。そしたらトロールがばーんって吹っ飛んでそのまま動かなくなっちゃった」

 デアのありえない言葉にハリーが頭を抱え始める。まあ、ドラゴンとトロールならドラゴンのほうが強いし普通だろう……。俺も毒されてきてしまっているような気がしてくる。

「やりすぎちゃったと思って焦ってたけど、ハッフルパフのみんながトロールに治療魔法をかけてくれたおかげで大事にはならなかったよ。やっぱりッハフルパフのみんなは優しいねー」

 治したらまた暴れられるかも知れないというのにお人好しと言うかなんというか。地味とか落ちこぼれとか言われているが、彼らも彼らでいい意味でおかしい人たちなのだ。その寛容さはすべてを包み、その優しさは敵対している相手にも及ぶ。もしかしたら、四つの寮のうち一番まともではないのはハッフルパフなのかもしれない。

 マルフォイがジェーンに話しかけていた。

「ということは生徒をまとめたのはジェーンとメアリーか。やはりスリザリン生はリーダーの素質がある」

「いえ、私はただみなさんに落ち着くように話しただけです。元々落ち着いて対処すればトロール一体であればどうってことないんですから。スリザリンのみなさんが優秀だっただけですよ」

 実際スリザリンは保守派なだけあって慎重だが、逆にいえば安全であるとわかってしまえば彼らは動く。さらに結束力も強い。そう、自分たち魔法使いが集まればトロールなど脅威でないことに気がついてしまえば後は簡単。まだ未熟とはいえ集団であれば物量差で押しつぶして終わりである。

「まあ、メアリーは寝ながらレイブンクローをまとめたようですが」

「……んっ、……ん?」

「あっ、起きたんですね」

 メアリーがくぐもった声を出すと目を開け、リリンさんに降ろしてもらう。

「この感じだとなんとかなったみたいだけどどうなったのかしら?」

「トロールはなんとかなったぞ。タスさんからどうなるか聞いてたならたぶんその通りになった」

「ならよかったわ。それでえっと今はどういう……」

 寝ていたために状況を把握できていないメアリーにリリンさんが説明する。

「今、メアリーが寝ながらレイブンクローをまとめ上げた話をジェーンがしていたところだよ」

「私は寝てただけ。もしレイブンクロー生がトロールを倒したのならそれは彼らが優秀だっただけよ」

「ジェーンと同じことを言うんだね。確かに自分で言うのもなんなんだけど僕らが物事の探究という点であれば優秀なのは否定しない。誰もがなにかの専門だ。だけど、それゆえに全員自分のことしか見えていない、協調性がないんだよ。団結するなんてありえないことなのにそれができたのはメアリーのおかげだ」

「私はなにもしてないわ」

「メアリーが寝ながら杖だけでトロールに挑むのを見て負けられないと思ったんだ。特にトロール専門の彼が。それで彼が日頃の研究のために実験し始めた。そこからは簡単さ。あいつだけずるい、自分たちも実験したいと。だからしぶしぶ協力して実験をすることにしたわけ。あれは対決ではなくただの実験会だったね」

「やっぱり彼らが優秀なだけじゃないの。それに私が寝ててもトロールと戦えたのはこの杖が優秀すぎただけだと思うわ」

 レイブンクローも馬鹿と天才は紙一重みたいな偏屈人間の集まりだ。彼らからすればトロールなど実験動物に過ぎなかったのだろう。犠牲になったトロールにはお悔やみ申し上げます

 そして、俺は俺で満足なタスさんに話しかけることにした。

「で、タスさんは満足したか?」

「ええ、今日はやりたい放題できましたから。途中からロンの双子のお兄様たちが乱入してくれたおかげでとても素晴らしいショーになったんですのよ。彼らが参加したことを皮切りに他のグリフィンドール生のみなさんも楽しそうと参加してくれたんですの。みなさんが楽しそうで何よりでしたわ」

 グリフィンドールは危険に自ら突っ込んでいく大馬鹿共ばかり。チャンスかリスクかと言われれば即チャンスを取る挑戦者ばかりだ。そんな奴らがトロールごときに怯えて動かないなどあるはずがなかったのである。

「へー、フレッドとジョージがタスさんとね。あとでどんなだったか教えてもらおう。それにしてもスリザリンにもいいやつはいるんだね。アラン、ハーマイオニーを助けに来てくれてありがとう」

「おい、僕もだぞ」

「……あー、あとドラフォイも」

「ドラコ・マルフォイだ!」

「ありがとう。マルフォイ」

「生き残った男の子に礼を言われるなんて光栄だね」

 ハリーに礼を言われたドラコは不遜な態度を崩さない。

 別の階に差し掛かったところでレイブンクローであるリリンさんと別れる。

「あっ、レイブンクローは別の塔だから」

「そうですね。おやすみなさい。メアリーをありがとうございました」

「いやいや、こっちこそ助けてもらったから」

「だから私は何もしてないって言ってるのだけれど。……もういいわ。おやすみなさい、お兄様」

「兄さんおやすみ!」

 グリフィンドロールは八階、スリザリンは地下なのでハリーとロンとも別れる。

「ならグリフィンドールも八階だし別だね。スリザリンは地下だったっけ?」

「ああ、じゃあまた合同授業で」

「誇り高い純血の家系であるこの僕に感謝しながら寝るがいい」

 ドラコの言葉にロンがいい加減に返した。

「はいはい。フォイフォイ言いながら寝るよ」

「お前にフォイフォイ言う許可は与えてないぞ」

 そんな二人をよそにハリーが俺に礼を言ってきた。

「今日はありがとう。僕たちだけじゃどうなってたか」

「俺らだけでもどうにもならなかったさ。こっちこそ助かったよ」

 俺も礼を返し、ハリーたちと別れてスリザリンの寮へと戻る。

 談話室ではスリザリン生がざわざわとハロウィーンパーティーの続きを行っていた。デアが運ばれていた料理に真っ先に飛びついたのだが、その瞬間俺たちに全員の目線が集中した。

 最初はトロールを退ける活躍をしたからだと思ったが、上級生たちの説明ですぐに違うとわかった。タスさんたちが勝手な行動をしたせいで大量に減点されたらしい。一応トロールを倒したおかげで点数は獲得できたらしいが焼け石に水。同学年の奴らはもう諦めたのかため息をつくだけで許してくれたが、上級生を納得させるのがとてつもなく手間だった。まあ、得点は最後にグリフィンドールが勝ちさえすればどうでもいいんだ。

 それよりも一匹のはずが五匹に増やすし、各寮に好き勝手させるし、一匹俺とドラコに押し付けるし、なぜかハリーたち三人に加えて俺とドラコも一緒にトロールを倒すことになるし、一体どうなってるんだ。とはいえ、今回は俺も好きにやっていいと言ってしまったので文句は言えないがもう少し自重してほしかった。

 まあ、今回のイベントが上手くいったことで三人の仲は深まり、親友となるはずだし、原作とは違い、ドラコが協力したことで彼らとの溝を少し埋めることができたと思う。それに彼女たち四人のおかげでスリザリンと他の寮の溝も埋められたはずなのでよかったとしたい。よかったよな?




アランはドラコと組んでハリーたちに協力、怪物たちは大暴れの回でした。ちょっと寮の仲がよくなったぞ! ドラコには前回活躍できなかった分を活躍してもらうつもりだったのですが力及ばずです。
怪物たちが自重しなくなってきました。暴れすぎなのかもっと暴れたほうがいいのかわかりません……。

疑問なのですが、寮に帰らせるより生徒たちが大広間に固まっている状態のほうが安全を確保できるのではと思うのですがどうなのでしょうね。

次はクィディッチ回ですが、選手じゃないとやることありませんね……。
実は投稿直前までアランが仮装しっぱなしなのを失念していたのは内緒です。
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