未読者の方向けに毎回色々解説してますが、未読者の方は二次創作を読まない気はしてます……。
トロールの一件によって原作通りハリー、ロン、ハーマイオニーは仲良くなり、三人で行動することが増えた。
心配事が一つ減ったうえ、ここ一ヶ月は特に原作でも描かれていない部分であったため、原作を気にする必要がなくストレスが少なかった。
今は十一月。そろそろ寒さが厳しくなり始め、学校の近くの湖に氷が張ることが多くなり、森の木々にも霜が降りてきていた。
「明日はクィディッチの寮対抗戦だな。余計なことはしないでくれよ」
暖炉の炎のおかげで温かい談話室で怪物たちに話を振る。十一月はクィディッチシーズン。ついに生徒の大半が待ちわびていた寮対抗のクィディッチ戦が始まる。明日はスリザリン対グリフィンドールの試合。ハリー・ポッターが選手として初出場する重要なイベントの一つである。
「……と言ったところで聞くわけないのはわかってるが。特にタスさん」
「いえ、今回は観戦に徹しますわ。明日の主役はクィディッチ選手たち。ワタクシがなにかしても邪魔にしかならないですわ」
俺が諦め半分で口にした言葉を彼女は首を不利ながら否定する。タスさんとは思えない発言にしばし思考が停止する。
「固まってどうしたんですの?」
「いや、本当にタスさんか? ジェーンが化けてるって言われた方が納得できる」
「ジェーンならそこにいるじゃないですの。私は本物ですわ」
タスさんがジェーンの方を見ると、彼女が笑いかけてくる。メアリーはその横で話を聞いており、デアは俺の横でお菓子を貪り食っている。
「あの目立ちたがりの魅せたがりが観戦に徹するなんて明日は暴雨で試合は中止だな」
「残念でしたわね。明日は晴天、絶好のクィディッチ日和ですわ。これでもエンタテイナーとして引き際は心得ているつもりなのですけれど」
若干心外そうな表情をしながら明日の天気予報という名の天気予知を行う。
「すまん。ハロウィーンの日のイメージが強すぎた。じっとしててくれるならありがたい」
「クィディッチの話題に切り替わるまでずっとその話題だったもんねー」
デアが百味ビーンズ箱を逆さにして一気に腹の中に収めると話に参加する。
タスさんが自重せずに大暴れしたしたせいでホグワーツでの物語の怪物たちの知名度が跳ね上がった。そのためここ一ヶ月一年生がトロールと退治した話で持ち切りだったのである。
これまでも一年の問題児として一部の生徒の間では話題に上がっていたが、あの日以降ホグワーツの生徒であれば誰もが知っているくらいには名が売れてしまった。
さすが物語の怪物たちである。とはいえ生き残った男の子ほどではないし、そのおかげで一応トロール退治に参加した俺の名前が隠れているのは不幸中の幸いである。ただ、ドラコは自分の名前が知れ渡らず、文句をこぼしていた。
「まったく、僕もトロールを倒したんだがね。なぜお前たちばかり目立つんだ」
噂をすればなんとやら、ドラコ本人のご登場である。
「それぞれの寮のやつらが見ていた四人と違って俺らがトロールを倒したところを見てたやつはいないから仕方ないさ。一応トロールを倒すついでに階段と絵画をぶっ壊したやつらがいるらしいとは噂になってるしいいんじゃないか?」
「名前が有名にならなきゃ意味がない。そもそもそれは悪評だろう。ポッターの奴は明日、寮対抗戦に出場するというのに。あいつの実力ならば活躍するだろうしな」
ハリーを持ち上げるドラコの発言に違和感を抱く。原作では血を裏切るもののロンや穢れた血であるハーマイオニーと仲良くしているハリーに対していい感情を持っておらず、見下した態度を崩さなかったはずだ。
「ハリーのことを褒めるとは意外だな」
「褒めたんじゃない。事実を言っただけだ。あいつの飛行センスが並みでないのは飛行訓練の時に見て分かったからな。スリザリンの代表選手でも太刀打ちできるか不安なほどだ」
ドラコが事実は事実として割り切っている。性格自体が変わっているようには思えないが、異物がいるせいで原作での欠点が抑えられ、美点だけが出てしまっている気がする。
本来であれないいことなのだろうが、原作と異なっているという点がとても引っかかる。
「なぜあいつだけが特別扱いなのかは理解に苦しむがね。僕が代表選手になれていれば明日の試合も勝てるというのに。それに君たちならポッターも敵じゃないだろう?」
「タスさんならいい線いくかもしれないが俺は無理無理。俺なんて代表選手たちから見たらゴミだよ。飛行訓練で俺の飛行は見てるだろ。安定して飛ぶだけで精いっぱいだ」
「目立ちたくなくて手を抜いているだけだろう。マグル生まれとはいえあいつらと一緒にいるお前があんなに下手なわけがない」
「あれで全力なんだって。タスさんたちと一緒にしないでくれよ」
「……そうか」
ドラコは俺を訝しげに見てくるが事実である。俺はしがないマグル生まれ。情報こそ色々思い浮かぶが実力が伴うかと言われれば答えはノー。飛行機の乗り方を調べながら一発で操縦できるわけないのと同じで常人では不可能である。
「タスさんたちはクィディッチをする気はないのか? ルール通りなら来年からは参加できるからね」
「ワタクシはする予定はありませんわ」
「タスさんなら喜んで参加するものだと思っていたが」
「もちろんやってはみたいのですけれどね。代表選手になると練習に時間を割かなくてはいけなくなってしまって、他の事に時間を使えなくなってしまうのですわ。それに余計なことをすると誰かさんがうるさいんですの」
俺の方を見ながら微笑んでくる。そりゃ原作が壊れかねない事を好き勝手されるのを黙ってみてるほど頭が足りない俺じゃない。なお、実際は好き勝手されてしまっているが。
「もったいない。ポッターの奴と張り合えたタスさんがいればスリザリンの勝利は確実なのに。アランはどうなんだ?」
「俺は下手だからなろうと思っても無理だと思うぞ。やる気もないしな。他の三人はわからんけど。メアリーは?」
「私も好き好んで参加する気はないわ。それに、私はアラン以上に下手だからなろうと思っても無理だと思うわよ」
タスさんと違い俺の予想通りの答えを返してくれたメアリー。彼女はスポーツを嫌がってたからな。
「ジェーンはどうだい?」
「わかっているとは思いますけど私はメアリーが望まなければなりませんよ」
「別になりたいなら好きになってくれていいのよ」
良くないんだが。怪物たちに勝手に参加されてしまっては原作の今後の展開に差し支える。
「あなたが望まないのならなりたくないです。メアリーはなってほしいですか?」
「よほどのことをしなければだけれど、好きにしてほしいわ」
「ならわざわざはなりません。メアリーが望んだときになります」
「結局メアリーの意志によるという結論か。まあいい。やりたくないのならやっても意味がないからね。あとはデアか」
「あたし? 無理だと思うよ。そりゃやりたいけどさ、あたし箒で飛べないもん。箒放り捨てて翼で飛んでいいなら話は別だけど」
「そうだったな。箒によらない飛行で参加した選手がいた事例は聞いたことがない。だが、クィディッチはルール自体が曖昧だ」
クィディッチのルールのすべてを知っているやつはこの世にいない。明確に定められていないからである。理由は簡単でルールを明確にするとその穴を突くやつが現れるからだ。そもそも曖昧なら穴を突き放題というのは禁句である。
「だったらもしかしたらあたしも参加できるかもねー」
「前例はないから許可されるとは思えないがな」
「そっか、残念」
「ああ残念だ。つまりお前ら全員参加するつもりがない、もしくはできないということか」
「そうなりますわね」
タスさんが残念そうに話す。しかしその後に「ですが」と付け加え、話を続けた。
「参加する予定はなかったのですけれど気が変わりましたわ。ワタクシたち五人全員で一年間だけという条件であれば代表選手になりますわよ」
タスさんが俺らの承諾なしに代表選手になろうとしている。すぐに小声で耳打ちをした。
「……なに勝手に参加するとか言ってるんだよ」
「……色々言いたいのはわかりますけれど大丈夫ですわ。ちゃんと後で説明いたしますの」
「本当だろうな」
「ええ」
「なに二人でこそこそしてるのー?」
「私はできれば参加したくないのだけれど」
「メアリーが望まなければ承諾できません」
「三人にも後で説明いたしますわ。ということで、ワタクシとしては先ほどの条件であれば代表選手になる気はありますのでどうしても勝ちたい年に誘ってくださいまし。そうすればその年はワタクシの名に賭けてスリザリンを優勝に導きますわ。もちろん魅せて目立って楽しませるのが最優先ですけれど」
「凄い自信だな。普通なら鼻で笑っていたところだがあの曲芸飛行を見せられては反論できないか。タスさんが言うのなら他の四人も参加できるのだろう。覚えておくよ。まあ、来年からはこの僕が代表選手になるから君たちの手を借りる機会なんてないだろうけどね」
ドラコはそう言うと手を振りながら仲間たちの方へ戻っていった。
「で、いったいどういうつもりか説明してもらおう」
「どういうつもりもなにもないですわ。後で楽しめるよう先手を打っただけですの」
「それを詳しく教えてくれ」
「つまり、こういうことですわ」
タスさんが説明をし始める。俺らが代表選手になるのはホグワーツの三年目。三年目は俺らが参加できるようなイベントがなく七年間の中でもっとも暇と言っても過言でない。そのため少しでも楽しめるイベントを増やそうというタスさんなりの気遣いらしい。
「でも、四年目の方が暇だろ? 俺たちは三大魔法学校対抗試合には参加できないんだから」
四年目のメインイベントには年齢制限が存在し、俺達の年齢では参加できない。そのため、学業以外のことに一番余裕ができるのが四年目のはずなのだ。
「何言ってるんですの? ワタクシ達全員参加するに決まってますわ」
「いやいやいや! それは駄目だ!」
「わかりましたわ」
「今日はやけに聞き分けがいいな」
「今話すことではないですの。この件については後で話せばいいことですわ」
「わかってねぇじゃねーか」
「一年間クィディッチするのと三大魔法学校対抗試合に参加するのでしたら前者の方がマシでしょう?」
確かにクィディッチのほうが他に変なことをされるよりはいい。三年目にスリザリンが勝ったところで物語に大した影響がないのは二次創作で予習済みだしな。それにチームに協力することで迷惑をかけてしまったマーカス先輩へのお礼にもなるだろう。三年目なら彼はぎりぎりキャプテンをやっている。今彼は六年目だが留年してしまうはずなので間に合うのである。
「わかったみんなで参加しよう。ただ、お前らが全力でやったらクィディッチにならないだろうからほどほどにしてくれよ。いつもそうだが、やったあとに『なんかやっちゃいました?』とか言うのはシャレにならん」
「言いませんわ。それに全力で魅せて目立って楽しませにはいきますが全力で勝ちにはいきませんから安心してくださいな」
タスさんの言葉にメアリーが苦言を呈す。
「それは舐めプになるんじゃないかしら?」
「ワタクシとしては勝ちに行くより難しいことをしているつもりなので逆に全力なのですけれどね」
「……え、あっ……ごめんなさい」
委縮するメアリーに対してジェーンが刺々しく反論した。
「全力だとしても手を抜いてプレイするのは事実だと思いますよ? 結局、本気で勝ちにいかないのなら同じでしょう?」
「ええ、舐めプというのを否定はしませんわ。言葉が足りませんでしたの。別に思ったことを言っただけで怒ったわけじゃないので謝らないでくださいまし。ジェーンからの当たりが強くなりますわ」
「ごめんなさい」
「謝られると逆に困りますの。こちらこそすみませんでしたわ」
「それで、話を戻しますけど自分でも手を抜くと認めているじゃないですか」
「当たりが強いままですわね。別に勝ちに行ってもいいんですけれどワタクシたちが全力で勝ちに行く試合は楽しいと言えますの? ワタクシたちも他の選手たちも観客の人たちも含めて。全員が全力で勝ちにいったらどうなるか考えてみてくださいまし」
「俺が全力だしてもただ下手な奴ががんばったってだけになるな」
「あなたは別ですの」
「だろうな」
「あたしは箒で飛べないからそもそも参加できないけど?」
「それはワタクシがなんとかしますわ。翼で好きに飛んだと仮定していいですの」
「うーん。普通の箒より高速かつ自由に飛べる。それだけだよ」
「その時点で並みの代表選手のパフォーマンスは超えていますし、ブラッジャーに当たってもなんともないのだからおかしいですわ」
「えへへ、褒められたぁ」
「うーん、私はアランよりさらに下手な奴ががんばっただけになるわね」
「そんなわけないですわ。あなたが一番試合になりませんの」
「そうですね。確かにメアリーが本気を出したらその試合はクィディッチになりません」
「いや、もしやるのならにクィディッチにならないことはしないわよ」
「それだと舐めプになるでしょう? だから勝ちに行くんじゃなくて楽しませにいきましょうって言ったんですの。ちなみにワタクシが本気で勝ちに行く場合もメアリーと同じような理由でつまらなくなりますわ。そしてジェーンはワタクシたち全員とほぼ同じようなことができるのでつまらないですの」
「冷静に考えてみればそうですね。さっきはすみません」
「わかってくれたならいいんですの」
「ですがメアリーの言った問題はそのままですよ?」
「そうですわね。でも別にそれでいいと思うのですわ。自重しないよりは被害が少なくみんなが楽しめる。折角魔法使いの花形スポーツをプレイできる機会ですし、七年のうち一年くらい参加してみてもバチは当たりませんわ」
「私以外も楽しめるのならいいのかしらね」
「メアリーが参加したいのなら私からはなにもありません。私も参加します」
「え? 結局どういうこと? わからないんだけど」
「なんでだよ。クィディッチのルールがわかればこいつらの能力を知ってるんだから試合にならないくらいわかるだろ」
「ルール忘れちゃった。なんとなくはわかってるんだけど」
「そうかなら明日、試合中に教えてやる」
「なんで今日教えてくれないの?」
「明日の方が都合がいいからだ」
話の流れ的にな。この物語ではまだクィディッチの説明をしていない。本来であればハリーが代表選手の練習をするタイミングで説明されるのだが、今回はその描写がなかったからである。ならば説明する一番いいタイミングはクィディッチの初試合の時。よって明日である。
つまり今説明しないという不自然な状況になったのはおそらく話の構成力が低かったという糞みたいな理由だ。本当にそうかどうかは確認できないのでわからないが。
「ということでもう遅いしまた明日な。もう男子寮に行くとするよ」
「わかったー。楽しみにしてるー」
「別にワタクシが説明してもいいのですが、それだと都合が悪いみたいですわね」
「なら私が説明する必要はないのね。明日はクィディッチのおかげで授業はないしゆっくり眠れるわ」
「クィディッチの為に授業が免除されてるだけで結局は試合観戦をするために起きなきゃいけないんですけどね」
彼女たちと別れ明日の試合観戦のために早めに床に就いた。ルールを説明することにはなったが今回はタスさんがなにもしないということで何も考えずに重要イベントを乗り切ることができるだろう。
*
現在十一時、魔法界で最も人気であるスポーツだけあって学校に併設されているこのクィディッチ競技場には学校中の人間が集まっていた。高いところから観戦できるようにと高々とせりあげられている観客席に座り試合開始を待っているとすぐ傍に座っていたメアリーのあくびが聞こえてくる。
「ふわぁ」
「生命力が足りませんか?」
「大丈夫。ただ眠いだけだわ」
「そうですか。でも足りなかったら言ってください」
「ねえねえいつ始まるの?」
「はぁ、そろそろ始まりますわ。それにしても終わるまで何をしましょうか」
「クィディッチを観戦すればいいじゃん」
「結果が分かっている試合を見てもつまりませんわ」
「でも絶対そうなるとは限らないでしょ?」
ドラコの隣に座っていたパンジーがタスさんとデアの会話に反応する。
「タスさんは結果が分かってるのね。どっちが勝つか教えて欲しいわ」
「結果がわかってしまったらおもしろくないですわよ」
「なに心配しなくても僕らスリザリンが負けるなんてことはない。いかにポッターの奴が優秀だとしてもあいつ一人じゃ勝てないさ」
「それもそうね」
パンジーを安心させようとドラコはそう言った。しかし、彼は昨日、彼の実力を「スリザリンの代表選手でも太刀打ちできるか不安なほどだ」と語っている。心なしかその表情も硬い。
そんな彼らから視線を外して青々とした芝生を見下ろし、その芝生から生えている三本の金色のゴールポストに移すと実況の声が発せられた。
『いよいよ因縁の対決が始まります! 本日の試合はグリフィンドール対スリザリン!』
実況はグリフィンドールのリー・ジョーダン。ロンの双子の兄、フレッドとジョージと同い年の彼はグリフィンドール贔屓の実況者であり、グリフィンドール生からは好評だが、他の寮、特にスリザリン生からは評判が悪い。その証拠に今日も、グリフィンドールが六年間、スリザリンの卑怯なラフプレーに涙を飲んでいると解説している。
「ジョーダン!」
マクゴナガル先生が中立でないその発言を窘めた。
『失礼しました、マクゴナガル先生』
「なんだあいつ。確かにスリザリンチームの特徴はラフプレーだがルール上許されてるんだから卑怯もなにもないだろう」
「本当ね。負け犬の遠吠えだわ」
当然のごとくドラコたちが文句を言う。しかし、勝敗が分かってしまっている上、そもそもデア以外は興味を持っていないので俺らはぶっちゃけどうでもいい。
「君たちはあんなのが実況で文句はないのか?」
「別にないな」
「私も偏ってるのは好ましくないと思うけれど彼のままでいいと思うわ」
「メアリーと同じです」
「ジョーダンの実況はおもしろいしいいんじゃない?」
「たびたび君たちが本当にスリザリン生なのか疑問に感じることがある」
正解。本来であれば俺はどこだかわからんし、タスさんはグリフィンドール、デアはハッフルパフ、メアリーはレイブンクロー。本当にスリザリンなのはジェーン一人だ。
ドラコたちと話しているうちに試合が始まった。
「さあ、グリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンがクアッフルを取りました。すばらしいチェイサーですね。さらにとても魅力的ときています」
「ジョーダン!」
「失礼しました、先生」
クアッフル、チェイサーと専門用語が出てきたので解説する。クィディッチは箒を用いて飛行しながら行うバスケットボールのような競技。
ピッチは縦五〇〇フィート、横八〇フィートの楕円形。
その両端には、ゴールがある。高さ五十三フィートの柱が三本並び、その上に直径二フィートの輪がついたものである。フィールドを出てしまった場合は、クアッフルが敵チームに渡ってしまう。
クアッフルは赤い革の張られた、サッカーボール大のボール。これをゴールの輪に投げ入れることで十点を獲得できる。
チェイサーはこのクアッフルを扱う選手でチームに三人いる。
約束通り、デアに説明しながら試合観戦を進める。
グリフィンドールのチェイサー、アンジェリーナ・ジョンソンがクアッフルを取り、そのまま一気に突き進み同じチェイサーのアリシア・スピネットにきれいにパス。リーの解説によるとジョンソンは去年は補欠だったようだ。しかし、オリバーは良い選手を見つけたと解説されており、その実力は十分である。逆にそんな選手でも補欠だったというグリフィンドールの層の厚さを称賛するべきだろう。ただ、うちの寮がここ六年間優勝し続けているので、スリザリンにはそれ以上の選手がそろっていたということでもある。
グリフィンドールがクアッフルを持ったまま試合が続いていたが、アンジェリーナに返ったタイミングでスリザリンのキャプテンであるマーカス・フリントがボールを奪った。スリザリンのボールになった瞬間リーの実況が雑になり、マクゴナガル先生に怒られる。流石に露骨すぎだった。
うちがそのままゴールまで突き進んでゴールにシュートしたが、キーパーのウッドがそれをギリギリで止めた。キャプテンだけあって彼も俺では絶対に真似できない動きをする。
「あれはキーパーって言ってボールがゴールに入るのを防ぐ役割がある」
「いや、あたしでもさすがにそれは見ればわかるよ」
キーパーはサッカーのゴールキーパーと同じようなポジションである。ゴールは三つ並んでいるがキーパーはチームに一人。一人で三つのゴールを守らなければならない。
「グリフィンドールのキーパー、ウッド。すばらしい動きでゴールを阻止しました。グリフィンドールにクアッフルが」
グリフィンドールのチェイサー、ケイティ・ベルが、うちのチェイサー、フリントの周囲から急降下。そのままゴールへ突き進んでいく。
そのときケイティの後方からブラッジャーが飛来し彼女の後頭部に直撃した。
ブラッジャーは鉄製の暴れ玉。クアッフルより一回り小さい。二個存在する。魔法がかけてあり、選手を手当たり次第に箒から叩き落そうとするとても危険なボールである。
さすがになんの対策もなく飛び回っているわけではなくこのボールを対策するための選手、ビーターが用意されている。チームに二人おり、ブラッジャーをクラブでひたすら打ち返し仲間の選手を守る。この時できれば相手選手に打ち込んだ方が効率がいい。
「元々痛そうだとは思っていったけれど直接観戦すると死なないか心配になるレベルだわ」
「魔法で治療するので大丈夫ですよ」
サッカーボールより少し小さいとはいえ金属でできたボールが猛スピードで後頭部に当たったら死にかねないんだけどな。箒から落下しても死なないんだから大丈夫なのだろうが。
後頭部にブラッジャーが直撃したケイティはクアッフルを落としてしまいうちのボールに。あれで落とさないのは人間じゃない。そして、エイドリアン・ピュシーがゴールに向かって全速力で飛んでいく。しかし、フレッド……いやジョージ? 原作でも明記されていなかったのでわからないがロンの双子の兄のどちらかがブラッジャーで上手く妨害し、またアンジェリーナの手にクアッフルが戻った。
その先に行く手を阻む選手がおらずそのままゴール前へ。途中でスリザリンの選手がブラッジャーを打ち込み阻もうとしたがアンジェリーナは綺麗にかわした。
キーパーのブレッチリーがゴールを阻止しようとクアッフルに飛び付くが失敗。クアッフルがゴールの輪を通過してしまう。
「グリフィンドール先取点!」
グリフィンドールから歓声が上がる。逆にスリザリンからは落胆の声が漏れた。
「それでさっきからハリーはなにもしてないけどなにやってるの?」
「役割上まだ動けないだけでなにもしてないわけじゃないぞ」
試合が始まってからハリーは辺りを見回すだけでその場に浮かんだまま動いていない。それはハリーがシーカーだからである。
シーカーはチームに一人。その役割はスニッチを捕まえること。
スニッチは胡桃大の金色の玉で羽が生えており、ブラッジャーと同じく自律飛行する。シーカーがこれを捕まえることで試合が終了し、さらにキャッチしたほうに一五〇ポイントが入る。
試合終了にクアッフルの十五倍の点を獲得できるので最重要のボールなのだが小さいことに加えて猛スピードで動き回るため、試合開始後しばらくは目で捉えることすら困難である。
ハリーはこのシーカーであるためスニッチを発見できないと動けないのだ。
「そういえばそんな感じだったね。だから動かないのかー」
これで基本的なルールは教えた。
これに加えて魔法ゲーム・スポーツ部が七〇〇の反則を記録しているが、ルールの穴を突かれないためという理由で公表されてない。まあ、反則の九割は相手チームに対して魔法を使うことに関するものだから魔法を使わなければほとんど問題ない。
「残りの一割は?」
「敵の箒に棍棒で攻撃してはならないといったものや斧で相手を攻撃してはならないといった考えなくてもわかるレベルの反則だから大丈夫だ」
「あはは。馬鹿なあたしでもわかるくらいのやつってことだね」
「ここまで教えればお前らが本気で勝ちにいったらゲームにならないのはわかるだろ」
「いや、わからないけど」
「なんでだよ」
まずはデアから。彼女が地力で飛行してプレイすると考える。その場合、原作で最高速度を誇るファイアボルトを超えて飛行でき、なおかつ道具ではなく自分で飛行しているため細かい動作も可能になる。
昨日言ったようにこの時点で並みの選手の運動性能は軽く超えているのだが、それに加えて物理無効なのでブラッジャーを気にせずプレイできる。
彼女がチェイサーをした場合その身体能力から放たれる高速のクアッフルに反応できるキーパーはそうはいないだろうし、ビーターになった場合は彼女が弾いたブラッジャーに直撃した選手はその時点で試合中に復帰するのは難しくなるだろう。キーパーならその身体能力と反応速度でよほどのものでなければ守れるはずである。
最悪なのはシーカーになった場合。彼女の聴力であれば試合直後にスニッチを見つけ、すぐにキャッチ、速攻で試合終了となる。
「な? 試合にならない」
「やってみないとわからないよ?」
「いやいや、だってもうスニッチの場所はわかってるんだろ?」
「そうだね。今はグリフィンドールの方のゴール下を飛んでるよ。ほらあそこ」
彼女が指をさした方に目を移すがそれらしきものはまったく見つからない。彼女の聴力がおかしいのである。
「わからねーよ。普通の人間に見つけられるわけないだろ」
「なんとなく場所がわかれば見えるかもと思ったけどそんなことないかー」
「話を戻すけどデア一人いるだけでまともな試合にはならなくなるからな。これでも四人の中では一番試合になるけど」
「タスさんの場合はどうなるの?」
クィディッチにおいて彼女のアドバンテージは無限の反応速度と周囲の行動の調整、それと試行回数。
繊細な飛行を通常ありえないはずの高速で行うことができるため、その動きは並みの選手の比類にならない。さらに相手やボールが自分の都合のいい動きをし、未来予知に近い行動が可能。
チェイサーであれば絶対にブラッジャー当たらないトップクラスの技術を持つ選手となり、ビーターならブラッジャーから他の選手を絶対に守れる。キーパーなら弾道がわかるので絶対防御をほこり、シーカーなら常にスニッチの場所を把握しているというバランスブレイカーな選手になる。そもそも謎の理論で突然変な方向へ吹っ飛んでいく彼女の動きは常人では比較にならない。
「タスさんも試合開始直後にスニッチを取れるから試合にならないってわけだ」
「確かに!」
「このくらいなら少し考えればわかるだろ」
「あたし考えるの苦手だから」
笑いながらデアが答えると自分が話題になっていたからかタスさんが話に入ってきた。
「でも、最終的な勝敗は得失点差で決まるんですのよ。なのでクアッフルで得点差を広げなければ優勝できない可能性もあるんですわ」
「だが、試合開始直後に取って終わらせれば一五〇点差だ。そもそもキーパーだったら相手はスニッチ以外で点数が取れない」
「ワタクシは身体能力自体は非力な子供。試合中ずっと体力が持つ保証はありませんわ」
「だとしてもトップクラスの選手に並べるというのは確実だ」
「褒めていただき光栄ですわ。では、ワタクシは観戦に戻りますので」
「なんだなんだ楽しんでるな」
「自分がやるのが一番ですけれど見てこの先どうなるのかワクワクするのも好きですのよ?」
彼女は視線を試合に戻すと再び観戦をし始めた。
次はメアリー、彼女が関わるのが一番試合にならない。彼女が本気で勝とうとしたら相手の代表選手は控えも含め試合前に体調を崩すか不慮の事故にあうかして試合ができず棄権してそのまま彼女のチームが不戦勝になるだろう。そもそもゲームが行われないという最悪のパターンである。
もし、選手として試合に出たらそれはそれで異常な現象が起き続けるはずだ。チェイサーならたまたまクアッフルを掴み、たまたま邪魔されず、たまたま相手のキーパーが失敗してなんなくボールをゴールへ入れるだろう。逆にキーパーならたまたますべてのボールがゴールに入らない。ビーターの場合、ブラッジャーはむしろ彼女を護り始めて敵選手を殲滅するだけの味方と化し、シーカーにいたってはスニッチの方から彼女に飛び込んでくるだろう。
「つまり、タスさんの言葉を借りれば、彼女が試合に関わった時点で勝利が確定するからつまらない」
「さすがメアリーだね」
「メアリーは常勝無敗ですから」
「それはただのチートでしょう? だから、もしクィディッチをやるにしてもそういうのはたぶんしないと言ってるのよ」
今度は、ジェーンとメアリーが話に入ってくる。メアリーは試合前は眠そうだったがなんだかんだ言いつつ、原作が好きなだけあって試合が始まれば食いつくように観戦していた。そして案の定、ジェーンはそれを見て楽しんでいた。
「別に魅了を使わなければいいと思うけどな」
「勝手に発揮されちゃうし、発揮されないなら発揮されないで、ただ下手なだけのゴミになるから結局やる必要ないわ」
「自前の翼がある時点で俺よりは確実に有利だと思うが」
「自前の翼で飛んだとしてもデアの物より性能が低いし身体能力も低いから代表選手には全然及ばないと思うわよ」
「さすがにメアリーでも魅了を使わなければ勝つのは難しいですがそれはただ手を抜いているだけなので本気で勝ちに行けば無敵であるのは間違いないです」
「魅了を使ったとしても結局は生命力が足りないと思うのだけれどね」
「私のをあげるので大丈夫です」
「ということで、メアリーの場合が一番ゲームにならない」
「それはそれで楽しそうだけどねー」
「楽しくないだろ。つまらんやつを試合に出したら、試合がどうなるか知っているのか?」
「うーん、絶対に勝つ?」
「ええ、メアリーがメアリー・スーである以上、敗北はありえません」
「えっと、たぶんだけれどカードゲームのフレーバーテキストが元ネタかしら」
「ああ」
「なら、『一方的に勝つ』だと思うわ」
「メアリーが正解だ」
「そんなのわからないよー」
「まあ、これはわからなくてもいい。お前らが試合に出たらゲームにならないのがわかってくれれば」
「うん。説明されたからわかったよ。でも、ジェーンは? ジェーンだけしてもらってないよ?」
「説明する必要がないと思ったけどいるのか。簡単だ。今まで説明したことがすべてできる」
「完全にはできませんよ」
「完全にできなくてもすべて真似できる時点でゲームにならねーんだよ」
「そっかー。でも、みんな代表選手になるつもりはないし大丈夫だよね」
「だから、タスさんが三年目に全員で参加するつもりなんだって」
「そうだった」
「なんで忘れてるんだよ。それでなんだかんだでお前以外は一年間なら参加していいってなったんだ。これで説明し終えたから反対意見があれば言ってくれ」
「あたしからは別に何もないよ。むしろあたしは参加したかったからね。喜んで参加するよ」
「なら決定だな」
観戦していたタスさんを呼び、結局全員承諾したことを伝える。
「わかりましたわ」
「ただし、くれぐれも原作から乖離しないように気を付けてくれ」
「気を付けますわ。と言っても二年後なのですけれどね。それとそろそろハリーの箒に錯乱の呪文がかけられる頃合いですわよ」
タスさんに言われ、競技場を見るとハリーがブラッジャーをかわしたところだった。
ハリーの頭上すれすれをボールが通貨した瞬間、彼のまたがっている箒が大きく揺れる。そし空中を四方八方に飛び回りはじめ、ガクガクと激しく揺れ動く。タスさんも飛行訓練のときに同じような飛び方をしているが、わざとそれを行っている彼女の違い彼は箒の制御を失ってしまった結果そうなっているという点である。
高い飛行センスを持つハリーが箒の制御を失ってしまったという異常事態に気付いているのはこうなるのを知っていた俺ら五人だけなようで、観客はそのまま試合を見ているし、選手たちも試合に集中している。実況のりーさえ、ハリーの箒がおかしな挙動をしている中、そのまま放送を続けている。
『えースリザリンの攻撃でーす。クアッフルがーフリントでーす。スピネットが抜かれてベルが抜かれました……。あ、ブラッジャーがフリントの顔にぶつかりました! 鼻をへし折ってませんかね。いえいえ冗談ですって、先生。そんなに睨まないでくださあっ、スリザリンの得点でーす。……はぁ』
スリザリンの観客席から大歓声が上がる。歓声が落ち着くとドラコがハリーの挙動に気が付いた。
「ポッターのやつはなにをやってるんだ。生き残った男の子とはいえ初心者ということには変わりないわけか。緊張で箒の制御を失うとはな」
「ドラコなら初戦から大活躍よね!」
「ああ、もちろんだ。まあ、やつがああなったのは好都合だな。このままなら僕らの勝利は確実だろう」
「それはどうでしょうね。ハリーの飛行センスなら誰かに妨害されなければあそこまで制御不能になるわけがありませんのよ」
「……おい、妨害されてるのばらすなよ」
「……当然ですわ。ドラコが地力で気が付くのは邪魔しませんけれどね」
「ばれると面倒だろうが」
「ワタクシの知ったことじゃありませんわ」
彼女の適当さにため息をつく。
ハリーが箒の制御を失ったのはクィレルが箒に錯乱の呪文をかけたからである。今、グリフィンドールの観客席では妨害されていると予想したハーマイオニーが双眼鏡を使って犯人を捜している。
しかし、彼女はクィレルを犯人だとは気が付かない。ハリーが箒から振り落とされないのはスネイプ先生が反対呪文で対抗しているおかげなのだが、その呪文を唱えている挙動から彼が犯人だと勘違いしてしまうのである。
「箒を妨害だと? ありえん。強力な闇の魔術でなければ不可能だ。なにせあいつのニンバス二〇〇〇は最新型だからな」
「ハロウィーンのときにトロールを場内に侵入させた闇の魔法使いなら可能ですわ」
「なに!? まだ場内にいるのか!?」
「いや! いないいない! タスさんが適当言ってるだけだ!」
タスさんの口を塞いで誤魔化す。犯人がクィレルだとばれたらどうなるかわかったものではない。
先生方の観客席から悲鳴が上がる。スネイプ先生のローブが火の手が上がったからだ。彼が犯人だと勘違いしたハーマイオニーが妨害するために観客席まで行って魔法で火をつけた。その騒ぎで横にいたクィレルも呪文をかけ続けることが不可能になったためハリーが箒の制御を取り戻す。
彼はすぐに態勢を立て直すと急降下した。そして手で口を押えるとなにかを吐き出しそうになりながら四つん這いになって着地する。
そして金色にきらめくなにかを吐き出した。そう、スニッチである。
「スニッチを取った!」
頭上にスニッチを掲げてハリーが叫んだ。これで試合終了、六〇対一七〇で原作通りスリザリンの敗北。
マーカスは最後まで「あいつは飲み込んだだけだ」と主張したが、ルール上飲み込んでも取ったことになるため最後まで結果は覆らなかった。
大盛り上がりのグリフィンドールとは対照的にお通夜ムードのスリザリン。タスさんとデアが積極的に空気を変えようとしている。
グリフィンドールの集団の中にハリー達三人の姿が見えないがこれは彼らはハグリットの小屋を訪れているからだ。スネイプ先生が呪いをかけ、三頭犬が守っているものを盗もうとしたのも彼だと主張している。
ここで三頭犬の話題を出した時にハグリットが反応してしまい、彼の犬であることがわかる。さらにハグリットはスネイプ先生が犯人であることを否定するが、ニコラス・フラメルというワードをこぼしてしまう。これで守っているものがフラメルに関係するものだと三人が気づき、クリスマス休暇明けからしばらく経ち、賢者の石だと予想を立てるまで彼の情報を探し続ける。
そうもうすぐクリスマス休暇だ。これでようやく休める目途が立った。休暇に入るまでは特にイベントもないし気楽に過ごせるだろう。
題名の通りにただただクィディッチを説明解説するだけの回でした。「スキップしてよかったのでは?」とも思いましたが折角なので乗せます。あれです、「原作未読者の方向けに解説しました!」ということにしておいてください。
怪物たちが二年後にクィディッチをやるとか言ってますが実験作の本作が三作目まで進めるんですかね……。進めるといいですね……。いや、進めますよ、ええ。
前にあとがきで書きましたが、飛行スキル自体では怪物たちは選手に劣ります。今回の話はあくまで怪物としての力を奮った場合の話です。まともにやったら負けます。
次回は禁じられた森でクィレル先生とご対面です。怪物たちは喜々として罰則に突っ込んでいくことでしょう。