前回怪物たちが暴れなかったので今回は暴れます。
クリスマス休暇は普段と違いゆっくり過ごすことができ、二学期に入った。今までは大したことも起こらず、怪物たちも比較的おとなしかったので俺は勉学に集中することができている。
起きたことといえばクィディッチの審判がスネイプ先生になったこととグリフィンドル対ハッフルパフの試合が行われグリフィンドールが勝利を収めたこと。
それとクリスマス休暇中に閲覧禁止の本棚に侵入した生徒がいたという噂になっている。しかしこれは原作通りであれば誕生日プレゼントに姿を隠せる『透明マント』をもらったハリー・ポッターが犯人であるため問題がない。
ここ最近の一番の事件は真夜中にハリーとハーマイオニー、ネビルが城を歩き回っているのがフィルチとマクゴナガル先生に見つかり、グリフィンドールは一人五十点、合計百五十点減点されて、最下位になってしまったことだ。これも原作通りであるためあくまでホグワーツ内でのという話だが。
彼らが歩き回るはめになったのはハグリッドが原因である。彼が飼育禁止のドラゴンの赤ん坊を育てているのをハリーたち三人は知った。ある程度大きくなるまではなんとか隠しながら育てられていたのだが、さすがに隠し通せるサイズを超え始めたのである。
そこで、ロンの二番目の兄であるチャーリーがルーマニアでドラゴンの研究をしていたため、彼らは夜中にこっそり塔の上からドラゴンを送った。
送ったまではよかったのだが、ハグリッドがドラゴンを飼育しているのをドラコが知り、告げ口をしていた。原作よりちょっとは仲良くなったと思ったが変わらず告げ口してくれて助かった。
告げ口されたマクゴナガルはドラゴンの話を一切信じずに、ドラコを騙して、問題を起こさせようとしたと勘違いをした。そして、夜中に外出していた罰として大量に減点されたというわけである。
なお、減点されたのはグリフィンドールだけではない。ドラコも同様に夜中に外出して告げ口をしたのでスリザリンも五十点減点されてしまった。
だが、グリフィンドールでの風当たりが強くなったハリー達とは異なり、タスさんのせいで五十点程度の減点はもはや当たり前となってしまっているスリザリンでは逆に「よくグリフィンドールから大量に減点させた」とドラコは称賛を受けている。慣れとは恐ろしいものだ。
朝食をとっているとドラコに手紙が届いた。ハリー、ハーマイオニー、ネビルにも同様の手紙が届いているはずだ。ドラコがその手紙を音読する。
「処罰は今夜の十一時から。玄関ホールにミスター・フィルチが待ってるからそこに行くように、だと? ……なんでこんな遅い時間からなんだ! 父上が聞いたらなんて言うか!」
夜中で歩いていたことに対する処罰の知らせである。内容はまだ知らされていないが原作と同じなら禁じられた森の中に入りハグリッドの手伝いを行うことだ。
自分が原因で処罰を受けることになったハリー達と動向する彼の心境はいかに。
危険な森に入らなければならなくなる彼らに心の中で合掌しながらパンを飲み込むと俺にも手紙が送られてくる。怪物達四人も同様に一人一つづつ。何かあったかなと思いながら封を切り、中身を確認する。
その中身はドラコと同様のもので差出人がマクゴナガル先生ではなくスネイプ先生になっていた。
「は? ちょっと待て。俺は何もしてないぞ」
頭の中で自分の行いを反復するが処罰されるようなことはしていないはずである。だとすれば一番に思いつく原因は一つ。タスさんである。
証拠にタスさん以外の三人はこの手紙に戸惑った様子を見せているが一人だけうんうんとうなずいている。
すぐにタスさんに確認することにした。
「なんかやったろ」
「ええ、最初の授業の時に今日ワタクシたちに罰則として禁じられた森に行かせてほしいとスネイプ先生に頼みましたの。最初は難色を示していたのですけれどしつこく頼んだら押し切れましたわ」
はっ、あの時か! もう決まってしまったことだしどうにもできん。クィディッチの時大人しかったし今回も大人しいだろう。頼むから大人しくしててくれ。
「理由を聞く意味もなさそうだな。どうせそっちのほうが楽しいからだろ」
「アランもエンターテイメントがわかってきましたのね」
「ただ単にお前の性格がわかってきただけだと思うが」
「一応アランに言い訳をするのなら禁じられた森は危険な場所ですわ。だったら万が一も考えてワタクシたちも同行したほうが安全ですの。それに今晩はヴォルデモートが憑りついたクィレルと対面するんですわよね」
ヴォルデモートはユニコーンの血を飲んで生きながらえている。ユニコーンの血は「生きながらの死」とすら言われる恐ろしい代価を持つものの、死を目前に控えた者さえも蘇らす事ができるためである。
このため今日までに禁じられた森に生息するユニコーンが何匹も襲われており、それを保護する手伝いをするのが罰則の内容である。
そして原作のままいけばハリーはこの森でユニコーンの血を飲んでいるヴォルデモートと対面することになる。
「ああ。だが、そういうことか。お前はただ単にクィレルとやりあいたいだけだろ」
「そうですわ」
大人しくしている気はまったくないらしい。
「ただ、同行した方が安全なのは確かだな。俺たちという異物のせいで完全に原作通りに進むとは限らないのは飛行訓練の時点でわかっている」
「ならオッケーですわね」
「今更罰則を取り消すこともできないだろうしな」
他の三人にもタスさんと一緒に説明を行う。彼女が仕組んだだけだということに気づき三人ともホッとしていた。
タスさんはデアとメアリーには「手伝ってくれたらユニコーンを助けますわ」と説得した。デアは二つ返事で、メアリーは少し悩んだ後に了承した。
ジェーンはメアリーが危険な場所に行くのを止めるかと思ったが、「メアリーにとっては禁じられた森なんてふれあいの森でしかないです」と言って彼女が了承するのならと言って承諾した。
*
夜の十一時になり、談話室から玄関ホールにドラコと共に移動する。
「ん? お前らも一緒だったのか?」
「ああ、スネイプ先生の罰則だ」
「タスさんはいつも魔法薬学でやらかしてるからな。他のやつらは巻き添えか」
「そんな感じだよ」
玄関ホールへ着くとすでにフィルチは到着していた。そしてそのあとすぐに強張った顔のハリー、ネビル、ハーマイオニーがやってきた。
「スミシー達もなにかやらかしたの?」
ハリーの問いかけにドラコの時の同じよう答えた。
しかし、彼はスリザリン贔屓の彼が俺らに罰則を与えたのが疑問らしい。実際タスさんが頼み込んで同行させてもらっているだけなのだが、適当に相槌を打っておく。
全員が来たことを確認するとフィルチがランプを灯し、先に外に出て後に続くよう言った。
「これで規則を破る前にちゃーんと考えるようになったろう?」
「どうかと聞かれればそうですわね。どう規則を破ったらこのように楽しい罰則を受けられるか考えなくてはいけませんわ!」
彼が意地の悪い目つきでみんなを見ると俺ら以外が暗い顔をする。そんな中タスさんだけは満面の笑みでこの罰則を楽しいと言い切った。
俺ら以外の全員が困惑するが、フィルチだけは冷静さを取り戻し、次のように続けた。
「ああ、そうだとも……私に言わせれりゃ、痛い目を見せるのが一番効果的なんだ」
フィルチの言葉を受けて心なしかメアリーの機嫌が悪くなる。
「顔が怖いんだけどやばいことをするのはやめてほしい」
「ええ、大丈夫だわ。たぶん」
「たぶんか……」
言い切りはしなかったが彼女の性格上タスさんほど派手なことはしないだろう。
「……逃げようなんて考えない方がいい。そんなことをしたらもっときつーい罰を受けることになるからねぇ」
「こんな楽しいことから逃げるわけないですの! でももっときつくなるなら逃げてみるのも面白いかもしれませんわ!」
真っ暗な校庭にタスさんの声が響き渡る。
移動中ネビルはずっとめそめそ泣いていた。ハリーは強張った顔で何か考えている。原作の情報を信じるのであれば罰の内容を予想しているのだろう。なお、俺らと俺らが同行することで安心しきっているドラコは余裕があるが、一応罰則なので大人しくしている。デアもタスさんと同じく騒がしいが。
「月がきれいだねー。雲がかかっちゃうと見えなくなっちゃうけど。お月見でもしようかな」
デアが能天気に言った直後、遠くから大きな声が聞こえた。
「フィルチか? もう出発時刻だぞ」
声の主はハグリッドである。彼が同行すると知ってハリーはホッとしたのだろう。強張っていた彼の顔がゆるむ。その変化をフィルチは見逃さなかった。
「一緒に楽しもうと思っているんだろうがどうはいかないねぇ。君たちがこれから行くのは、禁じられた森の中なんだ。なぜ入ることが禁じられているのか考えてみるといい。私は全員無傷に戻ってこれるとは思えないがねぇ」
禁じられた森に入ることを知り、ネビルは顔をゆがませながら呻く。リラックスしていたドラコも急に動きを止め震える声で話した。
「禁じられた森だと? しかも夜に入るなど……狼男とかのいろんな危険生物がいるんだろう。そう聞いてるが」
先ほどまでの冷静さを失ったドラコを見てネビルはハリーのローブをギュッと握り息を止めた。そのハリーも一度緩んだ顔をもう一度強張らせた。
「いまさら言ってもしょうがないねぇ。問題を起こす前に考えとくべきだったんだ」
「私もなぜ、夜中歩いてはいけないのかは考えてみるのは大事だと思うわ」
「そうだねぇ。規則を破れば罰則があるんだからねぇ」
メアリー表情が曇る。それを見てフィルチが満足気な顔をするが、彼は勘違いをしている。
彼女は狼男なんてものが禁じられた森にいないのは知っているし、彼女の能力であれば森は危険な場所たりえない。ただフィルチの言動が気にくわないだけだろう。
その証拠にぶつぶつ独り言を話している。
「夜中歩いていけないのは夜中に危険なことが起きたら先生方が生徒を守れないから。だから教えなければならないのは狼男のような脅威から自らを守るという意識ができていないということ。罰則があるから規則を守るんじゃない。規則を破ると危ないから規則を守るんじゃないの?」
それでみんなが規則を守るのならそもそも罰則など存在しないだろ。まあ、話は適当に合わせておくが。
「そうなのかもしれないが、余計なことはしないでくれよ」
「えっ、聞かれてたかしら?」
彼女は独り言を聞かれていないと思っていたのか恥ずかしそうに聞き返してきた。うん、傍から見たら恥じらう乙女だな。実際は禁じられた森よりも危険な怪物である。
俺が答える前に暗闇からハグリッドが現れ言葉を発した。
「もう時間だ。俺はもう三十分くらい待ったぞ」
彼はペットの大型犬、ファングを連れ、背中には大きな石弓を背負っている。
「もう時間だから行くぞ。みんな、大丈夫か?」
「こいつらは罰を受けに来たんだ。あまり仲良くしないでほしいものだねぇ」
「おまえさんの仕事はもう終わった。ここからは俺の仕事だ」
「夜が明けたら戻ってくる。こいつらが生きていればだけどねぇ」
夜明けに戻る? ……忘れてた。この罰則、徹夜じゃないか。しかし、今気づいても遅い。フィルチはこちらに背を向けて城に帰っていった。
ドラコが恐怖に声を震わせながらハグリッドに主張する。
「僕は森に行かないぞ!」
「ホグワーツにまだいたいなら行かんとな。悪いことをしたら、その償いはせにゃならんぞ」
彼は厳しく言いかえすが、よくよく考えるとそもそもの原因は彼にある。まあ、ドラコの場合は自業自得なので擁護できない。
怖がるドラコをメアリーが安心させようと声をかける。
「怖がらなくても大丈夫だわ。この森に狼男なんていないわよ。彼らはヒトたる存在、普通に魔法社会で生活しているの。迫害されながらだけれど。ドラコなら知ってるでしょう? だから彼らがこの森にいるわけないわ」
「ヒトたる存在であることを自ら拒否したケンタウロスの群れは住んでいますけれどね。それにアクロマンチュラが大量にいます」
「アクロマンチュラってなんだったけ?」
「人並の知能を持つ巨大な毒蜘蛛ですわ。危険度は最大の五ですのよ」
「やっぱり危険なんじゃないか! 僕は行かないぞ!」
「大丈夫だ。やつらは少し気難しいだけで本当は賢い優しいやつらなんだ。だが、なんでそんなに禁じられた森に詳しい?」
ハグリッドが訝しげに彼女たちを見る。このままではまずいので俺が誤魔化すことにした。
「先輩たちから話を聞いただけです。あくまで噂レベルだったので確証はなかったんですけどその様子だと本当みたいですね」
「そういうことか。ならいい。よーしそれじゃあ聞いてくれ。なんせ、俺たちが今夜やろうとしていることは危険なんだ。みんな軽はずみなことをしちゃいかん。しばらくは俺について来てくれ」
「僕はまだ行くといっていないぞ!」
「ドラコ、一度考えてみろ。アクロマンチュラとこいつらどっちが危険だ?」
「いくらタスさんたちでもアクロマンチュラ相手では……」
ドラコが不安を口にする。この流れトロールの時に見たな。
「生体で百匹、幼体なら一万匹くらいなら相手にとって不足はないですわ」
「蜘蛛はちょっと苦手だから仲良くなれないかもー。脚が多いの苦手なんだよね。ムカデとかさ」
「私は苦手じゃないから真正面から一匹ならたぶん大丈夫だわ。毛むくじゃらだし幼体ならヌイグルミみたいでかわいいかもしれないわね」
「メアリーなら生体でも巨大クッションにできますよ」
「……こいつらの方が危険か。なら別に問題ないな。なんだ、ただ森の中を探索するだけの罰則じゃないか」
「そういうことだ」
「スーはあいつらのかわいさがわかるのか?」
「見た目はかわいいと思いますけど。あと、名前で呼んでもらって大丈夫です」
「そうか。フィルチは仲良くするなと言っていたが仲良くせんと危ない。メアリーもみんなも畏まらなくていいぞ」
巨大な蜘蛛をかわいいと言い切るハグリッドとメアリーは意気投合したようだ。アクロマンチュラに遭遇したいとのたまいながら進む二人ともに森の中を歩いていく。
無事に森のはずれにたどり着くとランプを掲げると細く曲がりくねったけもの道を指さした。
「あそこだ。あそこを見ちょくれ。地面が光っているだろう? あれがユニコーンの血だ。傷だらけのユニコーンがいるんだ。今週はもう二回目、最初に見つけたのは水曜だった。見つけた時にはすでに息絶えとった。そうならないようみつけてやらんと。それに手遅れなら楽にしてやる必要がある」
「もしユニコーンを襲ったやつを見つけたら倒せばいいのかい?」
怖がっていた原作と異なり、余裕の表情で話すドラコ。
「いや、余計なことはするな。他の生き物のことも心配するな。俺やファングと一緒におれば、この森のやつらは襲って来ねぇ。だが決して逸れるんじゃねーぞ。ここからは二組に分かれて別々の道を行く」
「僕はアランたち五人と一緒がいい。同じスリザリン生だからね」
「わかった。じゃあ、メアリーたちにはファングをつけよう。そんじゃ、ハリーとハーマイオニー、ネビルは俺と一緒に来い」
やばい、原作と組み合わせが変わった。本当はドラコとネビルがファングと共に行く。そして、途中でドラコがネビルにいたずらをして途中でドラコとハリーのコンビに変わるはずだった。
タスさんがこちらを見てウィンクをしたので彼女がなんとかしてくれるらしい。
「ファングは勇敢なんですの?」
「いや、そいつは臆病だ」
「なら、六人でも心もとないのでハリーもこちらに加えてほしいんですの」
「なんで僕だけそっちに行かなきゃならないの?」
タスさんは飛行訓練で思い出し玉を奪ったためハリーからの心証が悪い。ドラコが告げ口したのが原因でスリザリン生へのヘイトも上がっている。
「別にグリフィンドールのお仲間から離れる勇気がないのならいいですわ」
「僕もそっちに加わるよ」
ハリーが強めの語気でそう言うとこちらのグループへと加わった。
「じゃあレッツゴー!」
デアの明るい声を皮切りに俺たち六人はファングと共に薄暗い道へと足を踏み入れた。
*
ファングの後を歩いていく。月明かりが反射してユニコーンの銀色の血液が所々煌めいているのが見える。ハリーが俺の肩をたたいて俺に聞いてきた。
「アクロマンチュラがユニコーンを殺すことってありえるの?」
「わからん。アクロマンチュラの毒は強力だからな。ただ、ユニコーンも動きが早いし保有している魔力も高い。そうそう捕まらないと思う」
「メアリー!? プロテゴ!」
突然ジェーンが叫び盾の呪文を唱える。驚いてハリーと共にメアリーの方を見ると彼女の前に発生した障壁に黒い影が弾かれたところだった。
「どうした!?」
「すみません。突然メアリーに飛びかかる影があったので。大丈夫です。アクロマンチュラの幼体でした」
「そうか。……まあアクロマンチュラは普通に危険だけどな」
ヴォルデモートが襲いかかってきたのかと心配になったがアクロマンチュラなら平気か。
「小さいけど、やっぱり普通の蜘蛛より大きいね。あたしはさわれそうにないなぁ」
猫サイズの黒い毛がびっしり生えた蜘蛛に難なく触れる方がおかしい。牙には強力な毒があるし。
メアリーも口ではかわいいといっていたが、さすがにさわるのには抵抗があるようでおっかなびっくりアクロマンチュラに魅了がかかっているか試し始めた。
「大丈夫かしら。……その場で時計回りで三回転して。その後その場でジャンプして宙返り」
メアリーがそう声に出すとその通りにアクロマンチュラが行動した。それを見ていたドラコは呆れかえり、ハリーは口が開いたまま戻らなくなっている。
「ちゃんと効いてるみたいね。じゃあこっちに来て。周りの人たちは友達だから噛まないでってきゃっ!」
メアリーが言い終わる前にアクロマンチュラが猛スピードで彼女に突進、ジャンプしてその胸に飛び込んだ。きゃっじゃねーよ。なに猫かぶっとるんじゃ。普通幼体とはいえアクロマンチュラに飛びかかられたらぎゃーでも済まねーんだよ。
「やっぱりモフモフ! 魅了してれば動くヌイグルミと変わらないわね。かわいい!」
かわいい? アクロマンチュラが? 理解できんが彼女にとってはそうであるようでにヌイグルミのように抱きしめている。
「あれ、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。だってあれメスですし」
「いや、アクロマンチュラはメスの方が体でかいだろ。どちらかというとメスの方が危険じゃないのか?」
「そっちの話ですか。メアリーならどちらでも魅了するので関係ないですよ。もしオスだったら私が死の呪いを打ち込んでいますのでそっちの話かと」
「なに平然と許されざる呪文を打とうとしてるんだ」
「許されざる呪文」とは人間に対しての使用が禁止されている三つの呪文の総称である。仮に人間に対して使用した場合、イギリス魔法界の刑務所、アズカバンで終身刑にされる。
「死の呪い」は一瞬で相手の命を奪う呪文。緑色の閃光と対抗できる反対呪文が存在しないのが特徴。そのため、盾の呪文が通用せず防御はほぼ不可能。ごく一部、防御できる方法は存在するがおいそれとできるものではない。
ただし防御不能なだけで回避不能ではない。タスさんは「当たらなければどうということはありませんわ!」とか言いそうだな。
「人間に対しての使用を禁じられているだけで人間以外であれば使っても法律上は問題ありません」
いつもの笑顔で言い切るジェーンが怖いので今の話は聞かなかったことにしてアクロマンチュラと戯れるメアリーの方を見る。
「みんなもどうかしら?」
彼女の問いに全員が首を振る。彼女も普通はアクロマンチュラをヌイグルミのようにはしないのはわかっているようでそれ以上はすすめなかった。
彼女がアクロマンチュラを愛でていると物音がする。その方向に俺とジェーンが杖を向けると赤い体毛をした上半身は人、下半身は馬であるケンタウロスが現れた。
「おや、見慣れない者がいると思って来てみたら。ファングがいるということはハグリッドの友人たちでしょうか?」
「ああ、ハグリッドに頼まれてユニコーンを助けに来た。最近うろついてる悪いやつに襲われているらしい。彼とは別行動で他の場所にいるが彼も今この森にいる。俺の名前はアランだ」
俺が名前を言うとそれに続いてみんなも自己紹介を行う。
「あなたの名前は?」
「ロナンと申します。見ればわかると思いますがケンタウロスです。ハグリッドとは友人なので安心してください」
原作では最初にハグリッドと行動していたハリーたちがロナンというケンタウロスと会う。なので彼がロナンでハグリッドと友人というのは嘘ではないだろう。
「今夜は火星が明るい」
「そうかもしれないな。それよりユニコーンを探してるんだ見なかったか?」
「いつも罪もない者が犠牲になる。太古からそうなのだ。そして今回もまた……」
「そうだな。だからそれを阻止しないといけない。何かいつもと違うことがあったら教えてくれ」
「今夜は火星が明るい。普段よりも」
「それ以外でなにかないか?」
俺がそう聞くとしばらく彼は黙り込み、口を開いた。
「森は多くの秘密を覆い隠す」
ロナンの後ろで木々がざわめくと別のケンタウロスが現れた。真っ黒な体毛の荒々しい雰囲気のケンタウロスである。
「こちらはべイン。彼らはハグリッドの友、ホグワーツの生徒だ」
「こんばんわ。べインです」
「こんばんわ。この辺りでユニコーン、もしくは変わったものは見てないか?」
「今夜は火星が明るい」
ケンタウロスは色々な事を知っているがそれをはっきりとは教えてくれない。そう原作でハグリッドが言っていたのを思い出した。
こいつらと話していてもらちが明かない。さっさと先に進もう。
「あ、うん。ありがとう。助かった。じゃあ俺らはもう行くよ」
「そうですか、お気をつけて……っとあの美しい御嬢さんは?」
いまだにアクロマンチュラと戯れているメアリーの方をフィレンツェが見る。そういえば一人だけアクロマンチュラと遊ぶのに夢中で自己紹介してなかったな。
彼はメアリー・スーの魅了に引っかかってしまったようだ。面倒なことになる前に引き離さないと。特にジェーンが怖い。
「彼女になんか用か?」
「ええ、少し」
彼はそう言うとメアリーの傍に移動して話しかけた。
「私はフィレンツェ」
「……? あっ、私はメアリー・スー。ハグリッドの友人で、だから許可はとってあって、怪しいものじゃ……」
「わかってますよ。君の友人から聞きました。見ればわかると思いますけど下半身が馬のケンタウロスです。もちろん二つの意味でですよ! あ……いえ、なんでもありません」
フィレンツェのキャラがおかしいぞ。なんかちょっとどこかで見たことあるような……。気のせい気のせい。どうせメアリーの力のせいなんだ。さっさと引き上げよう。
「アバダ……」
「ちょ、待て! なに打とうとしてるんだ!?」
ジェーンがフィレンツェに向かって死の呪いを放とうとするのを口を塞いで止める。
彼女はしばらくもごもごとしていたが俺の腹をひじ打ちし抜け出した。
「ぐほっ」
「なにって死の呪いに決まってるじゃないですか。メアリーにセクハラしたんですから当たり前です。別に人間以外なら罪にはならないんですよ?」
痛てぇ。なんてことしやがる。一回呼吸が止まったぞ。
「それでも駄目だ。それにメアリーは楽しんでるみたいだぞ」
セクハラされたというよりおそらくさせたが正解の彼女はクスクスと笑っていた。
「二つの意味って普通に下半身が馬という意味と生殖器が馬並みという下ネタであってるわよね?」
「……え、いや」
「……違ったかしら」
「あ、いえ、違いません。あってます」
「よかったわ。勘違いだったら恥ずかしくて死ぬところだったわ。そういうの好きよ」
純朴そうな見た目とは裏腹の予想外の言動にフィレンツェが固まった。俺の隣のジェーンもだ。
俺はといえば、メアリーの中身が男だったことを思い出して納得した。まあ、男だからといって下ネタに対して拒否反応がないわけではないが、彼の場合はバッチ来いだったらしい。それに女の下ネタはもっとエグい。
実際のところどうかはわからんが。だって俺、ついこの間まで小学校低学年レベルのう〇こち〇ち〇連呼で爆笑してたもん。知らんわ。
「どのくらいなのかを知りたいのだけれど問題なければ見せてもらえないかしら?」
「逆にセクハラをかましてるけどいいのか?」
「まあ、そういう余裕があるところもメアリーのいいところです」
「本当かよ。まったく……メアリーそこまでにしておけ。男女関係なくその言動は普通にNGだと思うぞ」
「え、あっ、違う違う。これは好奇心。そう知的好奇心。ケンタウロス見たの始めてだったし。それに……」
「動揺しすぎて口調が戻ってるうえに支離滅裂だぞ」
「……別に動揺してないわ。それで話を戻すけれどただ単に純粋な知的好奇心から周りが見えなくなってただけ。他意はないわよ。逆にみんなは気にならないの?」
「ワタクシは知ってますので。でも、折角なのでショーにでもしますの?」
タスさんは何とんでもないこと口走ってるんだ。いつもだけど今回は別ベクトルでやばい。
「あたしも見たーい。フィレンツェxロナン? ロナンxフィレンツェ? あっ! アランも絡めればいいじゃん! ケンタウロスとショタかーうへへー」
デアお前……そっちの人だったのか。怪物たちの中ではまともだと思っていたのに……。だとしても一番まともなのが変わらないのがひどいな。っておい! なんか俺混ざってねーか?
「ふざけんな! 勝手に俺で妄想すんじゃねぇ!」
「え? 妄想? 今から実演してくれるんじゃないの?」
「絶対しません!」
え? これそういう話じゃないよね? 勝手に全年齢向けの話だと思ってたけど「残念、成人向けでした!」なんてことはないよね?
フィレンツェは俺たちの話を聞いて何を勘違いしたのかとんでもない事を口走る。
「ああ、なんだそういうことですか。別に私は気にしません。何人でも……」
彼の言葉を聞いたジェーンが呪文を唱え始める。
「クルー、むぐっ」
クルーシオは「磔の呪文」。対象人物に、死の方がましだと思わせるほどの苦痛を与える。呪文の効果を長く持続させるためには「苦しめようと本気で思い」、かつ「苦痛を与えることを楽しむ」必要がある。
「今度は磔の呪文かよ。だから駄目だって言ってるだろ」
このままだとメアリー原因で話がおかしくなってしまう。もうなってるがこれ以上はまずい。俺の貞操も危険なデンジャーでエマージェンシーコールな緊急事態だ。そろそろ本当にここから離れさせてもらう。
「ユニコーンを助けなきゃならないし俺らはもう行くよ。悪いがじゃあな! ほら、みんなさっさと行こうぜ!」
ジェーンには自分の痴態を思い出して恥ずかしがっているメアリーを預けて落ち着かせて森の奥へと向かった。
ショーができなかったタスさんとそれが見れなかったデアが残念そうだったが知るか! 俺の貞操の方が大事じゃ!
そしてまた、怪物の被害者が増えてしまった。フィレンツェ……。さらに、追加されるであろう新たな被害者にも先に祈っておくことにした。アーメン。
*
「まったく、メアリーのせいで酷い目にあった」
「ごめんなさい」
「勝手に魅了するとはいえ気をつけてくれ。下手するとメアリー自身も襲われるぞ」
「その時は私が助けますので」
「だから困るんだよ」
二人と話しながら森の中を進んでいるとハリーが何かを見つけたようだ。
「あれがユニコーン?」
彼が見つけたのは銀色の血を流しながら地面を這いずる傷だらけのユニコーンだった。
原作では彼らが見つけたときすでに死骸となってしまっていたはずだが、タスさんの約束通りに死んでしまう前に助けることができそうである。
「怪我をしてるようだな」
「マルフォイ、そんなこと見ればわかるよ」
「ただ確認しただけだろう。僕にもわかっているさ。早いところあの木偶の坊を呼べ」
「僕に命令するな」
「喧嘩はダメだよ! このユニコーンを助けるのが最優先でしょ!」
「そうですわね。応急処置は済ませましたわ」
タスさんが傷薬であろう小瓶のふたを閉めながら言う。ユニコーンの傷口はふさがり、血は止まっているようである。
「スネイプ先生から貰ったハナハッカ・エキスですわ」
ハナハッカ・エキスは火傷、蛇の噛み傷、火脹れなど様々な傷に効く塗り薬である。安全に傷を癒やしたい時に使われる。
希少なものではないがいくらスリザリン贔屓とはいえあのスネイプ先生がそうやすやすと魔法薬をわたしてくれるはずがない。
貰ったの前に『無断で』という文字が勝手に追加されているように感じる。
ハリーも疑問に感じたようでタスさんに尋ねた。
「スネイプから? よく貰うことができたね。スリザリン生には親切なの?」
「いえ、無断で頂戴しましたの」
「それは、貰ったんじゃなくて盗んだんだと思う」
「同じことですわ」
ドラコが頭に手をやり呆れながら異議を唱える。
「全然違う。そんなことをしているからこんな真夜中に罰則を受けることになるんだ」
「この罰則は別の件ですわよ? ばれていたらここで使えるわけないじゃありませんの」
「もっと悪いじゃないか!」
「まあまあ、いいじゃんいいじゃん。こうしてユニコーンが助けられたわけだしさー。あれ? あそこにいるのは誰?」
緩んでいたデアの表情が若干固くなる。彼女の向いた方向には誰もいない。しかし、回りが静かになったおかげでなにかが地面を這いずる音が聞こえてきた。
俺にはこれがなんの音か予想がつく。ヴォルデモートが取りついたクィレルの発している音だ。
「ユニコーンを襲っている犯人だ! 気をつけろ!」
俺が叫ぶとほぼ同時に真っ暗闇から頭にフードを被った何かが地面を這って近づいてきた。なにかもなにもただのクィレルなのだが彼らにはそんなことを知る由もない。
「ぎゃああああああ!」
ドラコは今日一番の叫び声を上げ、番犬のはずのファングと共に後方へ一目散に逃げ出した。
フードを被ったクィレルは頭を上げてこちらを見る。認識を阻害する魔法がかかっているのかその顔を確認することはできない。
ハリーは真っ先に逃げたドラコと違い彼はその場で固まって額の傷を抑えている。ヴォルデモートが近づいたことで傷が痛むのだろう。
「大丈夫!? 傷が痛いの!?」
デアが語りかけるが彼は答えられる状況ではない。恐怖も重なり動くこともできない彼にクィレルがへ這いよる。このままでは襲われてしまう。
しかし、問題はない。原作ではロナンが助けにきてくれるし、今ここにはぶっ壊れたオリキャラが四人いる。四人が協力すればクィレルであればなんとかなるだろう。
まあ、そんなことをタスさんが許すはずがないが。あいつは全部自分で持っていくつもりだ。
「ワタクシ、タスさんがお相手をしますの! フリペンド!」
影がハリーへと到達する前にタスさんが衝撃呪文を打ち込む。
だが、腐っても闇に対する防衛術の先生。無言呪文でなんなく彼女の放った青い閃光を弾いた。
「やっぱり相手にとって不足はありませんわね。これなら期待できそうですわ! 簡単にやられないでくださいな!」
彼女は楽しそうに呪文を人間業とは思えない早口で次々と唱えた。
「フリペンドマキシマ! フリペンドデュオ! ヴェーディミリアスマキシマ! ヴェーディミリアスデュオ! インセンディオマキシマ! インセンディオデュオ! ペトリフィカス・トタルス! ディフェンド! グレイシアス! インペディメンタ! エクスペリアームス!」
かろうじて聞き取れたそれらの中にはすでに解説した呪文もあるがそれも含めて一気に説明する。
フリペンドは衝撃呪文、ヴェーディミリアスは緑の火花を飛ばす呪文、インセンディオは炎上呪文。マキシマは威力を最大にし、デュオは連撃にする。
ペトリフィカス・トタルスは相手を石のようにして動きを封じる呪文、ディフィンドは対象を引き裂く呪文、グレイシアスは氷結呪文、インペディメンタは妨害呪文でエクスペリアームスはみんな大好き武装解除呪文。
「プロテゴ・ホリビリス」
大量の呪文を超高速かつ一息で放ったタスさんだったが、クィレルは盾の呪文を全方位に展開し、そのすべてをはじき返す。
タスさんはタスさんでそのすべてをお得意の妖精の姿くらましを連続で行いそのすべてを避けた。
姿くらましを行うには相当の集中力が必要であり、戦闘中に連続で行うなど狂気の沙汰、いつ体がばらけてしまってもおかしくない。そのため普通ならこんなことはできないが、タスさんであれば話は別だ。
彼女は確率がゼロでなければ一にできる。つまり、絶対に失敗しないことであれば彼女は絶対に成功することができるのである。
彼女が避けられたのはいいが、はじかれた呪文がこっちまで飛んでくる。
「あたしが全部切り払うから大丈夫」
デアが飛んできた呪文のすべてを刀で切り、無効化してくれた。
メアリーは呪文の嵐の中だというのにアクロマンチュラと遊んでおり、ジェーンはそれを眺めている。マイペースなやつらだ。
ハリーが額を押えながら礼を言った。
「ありがとう。すごい動きだね。見えなかったよ」
「どういたしまして。あたしはこれくらいしかとりえがないから任せて。痛みはどう? 和らいだ?」
「ちょっとはね。でもまだ痛む。それより、タスさんは大丈夫なの? あいつには全然効いていないみたいだよ」
「心配しなくても大丈夫。本気のタスさんはもっと強いんだから」
「ああ、あんなん遊びの範疇だから安心しろ」
「そうなんだ。今までのを見てもハーマイオニーでもあそこまで攻撃呪文を扱えないって思ってたのに」
「それはワタクシが攻撃呪文や派手な呪文を中心に練習しているからですわ。呪文のレパートリーそのものなら彼女の方が上ですのよ」
姿あらわしをして移動してきたタスさんが俺らの会話に入ってきた。
「戦闘中にこっちくんな。ただでさえこっちまで飛んできてるってのに」
「デアが防御してくれたでしょう? こっちに集中させてくださいまし」
「こっちの被害も考えてくれ」
俺が抗議するがタスさんは俺の言葉を無視して姿くらましをしクィレルの前に移動した。
「私の使える攻撃呪文をすべて放ったのですけれど呪文一つでさばかれてしまいましたわね。まあ、声を発せさせただけよかったとしますわ。ねぇ、どこかの誰かさん?」
タスさんの言葉で気づいた。原作ではクィレルは一切言葉を発さなかった。声を聞かれれば自分がクィレルだとばれる可能性があるから当然である。
声を出さないように彼はタスさんの初手を無言呪文で防御した。しかし、さすがに攻撃呪文を連打されては無言呪文で防御とはいかない。その結果、声を出して呪文を唱えなくてはいけなくなってしまい俺らのその声を聞かれててしまった。
「このままワタクシたちが戻ればもしかしたら声からあなたが誰かわかってしまうかもしれませんわ。ここで全員、口封じしなければならないんじゃないですの?」
「小娘が調子に乗るな。お前の呪文はすべて出尽くしたのだろう! クルーシオ!」
彼女がにやにやと挑発するとクィレルが怒気を含んだ声を発し、許されざる呪文の一つである磔の呪文を唱えた。
しかし、彼女はそれを当然のごとく最小限の動きだけでギリギリ避ける。
「そんなもの当たるわけないですわ。別に打ち尽くしたのは魔法使いの魔法だけで妖精の魔法はまだまだありますのよ」
「妖精の魔法だと?」
「いい反応をいただき感謝いたしますの。お礼に魅せてあげますわ、ワタクシの技を!」
彼女は反射された魔法を避けたときのように姿くらましと姿現しを交互に繰り返しながら、先ほどと同じ攻撃呪文を繰り返し唱える。
さっきと違うのはそれを指を鳴らしながら行っていることだ。魔法使いの呪文に加え、妖精の呪文による炎と氷、爆風、花火、閃光その他俺が把握できない魔法を次々と同時に発生させていることである。
「プロテゴ・ホリビリス」
クィレルは先ほどと同じように盾の呪文を全方位に展開する。
「無駄な事を。少し驚いたが妖精の呪文を併用したところで私には届かん」
「防戦一方で何を言ってるんですの? つまらないですわ。さあ、反撃してワタクシを楽しませてくださいまし!」
タスさんの挑発を受けたクィレルは反撃に転じようと盾の呪文を解こうとするがそれをやめる。
当然だ。この呪文の弾幕の中盾の呪文を解くなど自殺行為であるのは明白。結局盾の呪文の維持に意識を集中させることにしたようだ。
弾かれた呪文はすべてデアが処理してくれているが、さすがの彼女にも疲れの色が出始めている。
「この量を捌き続けるのはちょっときついかな? そろそろお腹がすいてきちゃった」
「デアがもう腹減ったっていってるぞ! さっさと終わらせてくれ!」
姿くらましで反射された呪文をさけながら呪文を打ち続けている彼女にも伝わるように大声で叫ぶ。
「承知しましたわ。今のワタクシの全力で吹っ飛ばしますの! 水蒸気やら粉塵やらよくわからないまま色々混ぜ込んだ特大のオリジナル広範囲爆発呪文をご覧あれ!」
「おい! ちょっと待て!」
「デアが守ってくれるから大丈夫だよね?」
「大丈夫じゃないよ! あたしじゃ広範囲は守りきれないって!」
「私じゃ対処できません。メアリー、無効化お願いします」
「え!? ちょっと!? わかった! やってみるわ!」
半分パニック状態に陥ってしまった俺らに関係なくタスさんは呪文を唱えて指を鳴らす。……が、なにも起こらなかった。
空中へ移動していたタスさんが落ちながらきれいな動作で態勢を立て直し地面へと着地した。
「クルーシオ」
盾の呪文の障壁を消していたクィレルはその隙を逃さず、彼女に向かって呪文を唱える。
しかし、呪文は失敗したようで杖を構えたまま方ままその動きを止めた。
「っ!? クルーシオ!」
もう一度唱えるがまた失敗する。いや、失敗したんじゃない。させられた。
「無駄ですわ。今、ここでは誰も魔法を扱えない」
「何をした!」
「ワタクシはなにもしてないですわ。……本当、ずるいですわね。メアリーの力は反則ですの」
「メアリーがなにかしたの?」
「い、いえ。なにもしてないわよ」
メアリーは誤魔化そうとしているが目が泳いでいるせいでバレバレである。
「目が泳いでいるけど本当?」
彼女の発言にハリーが訝しげに聞き返す。
このままだとまずそうなので俺も助け舟を出す。
「うん、いやメアリーの魔法はすごいなー」
「そうですね。あまり安定していませんが調子のいい時はタスさんよりすごいんですよ」
「なに言ってるの、魔法じゃないでしょ。だってメアリーは……」
すぐにデアの口を塞ぎ、ハリーが疑問を持たないように誤魔化した。
「いや、本当、魔法だって思えないくらいだよな」
「うん、だって魔法を使えなくする魔法を使ったってことだよね?」
「それは違うわ。ただ使えないように思うだけで本当は使えるの」
嘘だろう。彼女はこの空間を魅了して魔法の発生を止めている。原理はわからないが実際に魔法は使えない。
「本当よ。なんかすごい魅了の魔法でそうなっているだけ。嘘じゃないわ」
「へー、すごい魅了の魔法か。なんて魔法なの?」
「いや、無我夢中で発動しただけからよくわからないわ」
「そんなことできるの?」
「できてしまっているのでその問いは意味がないですよ。助かったんです。なんでもいいじゃないですか」
「そうだね。でもだったら今が逃げるチャンスじゃないの?」
「そうね。でもここを離れられると相手にも魔法を使われてしまうわ。相手が逃げるくらいにはダメージを与えないと……」
「わかった! 魔法が使えないならあたしの番だね!」
メアリーがしゃべっている途中でデアがクィレルに突っ込んだ。
「プ、プロテごぁっ!」
人間とは思えないほど高速でミサイルのように突っ込んでくるデアに対し、反射的に盾の呪文を唱えるが当然呪文は発動しない。
彼はそのまま、すさまじいスピードのタックルを無防備に体に受けて森の向こうへぶっ飛ばされ見えなくなった。
「これで……大丈夫……かしら? もう……そろそろ限界……眠……」
メアリーがしゃべっている途中で地面にへたり込み眠ってしまう。すると、無傷のタスさんが姿現しをして俺らの前に現れた。魔法が使えるようになったようだ。
「ワタクシの相手でしたのに!」
「あっ! そうだった。ごめんね」
「もう、ワタクシの全力も披露できませんでしたし」
「当然だ馬鹿!」
「メアリーが余裕で防いだでしょう?」
「そういう問題じゃねえ! ていうかあいつは!?」
「安心してくださいな。デアがダメージを負わせたのでもう逃げましたわ」
怒りを感じさせる表情のジェーンがタスさんに近づいた。タスさんが原因でメアリーが無理をしたのが気にくわないようである。
「タスさん? メアリーを巻き込むのはやめてください。いくらメアリーとはいえ限界はあるんです」
「わかってますわ。でも彼女が本気で魔法を止めたらどうなるか知りたかったんですの」
「試したんですか?」
「ええ、彼女の本気を知りたかったんですわ。妖精の魔法まで完全に止められるなんて予想以上でしたの」
「ふざけないでください」
「ワタクシは大真面目ですわ」
「そうやっていつもあなたは!」
「まあまあ落ち着いて、とりあえずハグリッドの所へ戻ろうよー」
喧嘩になりそうな二人をデアが仲裁しようとすると更地になっていない森の中からハーマイオニーが走ってきた。
「ハリー! 大丈夫なの!?」
「僕は大丈夫だよ。でもメアリーが疲れて寝ちゃったんだ」
ハグリッドもその後ろから息を切らしながら現れる。
「いったいなにがあった?」
ハリーがハグリッドにこれまでの経緯を説明した。
ユニコーンを見つけたこと、その傷を治したこと、黒い影に襲われたこと、それを倒すためにタスさんが広範囲爆発呪文を使おうとしたこと、メアリーがそれを阻止したこと、謎の影はデアが吹っ飛ばしたこと。
「それにしてもあの影はなんだったんだろう?」
ハリーが疑問を口にする。原作ではさきほどであったケンタウロスのフィレンツェが彼を助け、その後に影の正体に関するヒントを口にし、ヴォルデモートという答えにたどり着くのだが今回はきていない。
このままハリーが気が付かないと物語上まずいので俺がその代わりを務める。
「ユニコーンの血って死にかけのやつも復活させることができるんだよな? もしかしてさっきの影は例のあの人だったりして」
「ありえん。あいつは死んだ。ハリーが倒したんだ。それにユニコーンの血を口にすればその瞬間から呪われて生きながらの死を味わうことになる」
「それがもし生きていたら? 他の手段で永遠の命を手に入れるまでのつなぎとして利用していたら? ……なんて冗談です。ハリーも本気にしないでくれ」
「永遠の命? 賢者の石に命の水に……わかった! あの黒い影はヴォルデモートだったんだよ!」
「その名前を言っちゃなんねぇ! 賢者の石の名前も! ここにはスミシー達もいるんだぞ!」
ハリーがハッとして口をつぐむ。
「賢者の石ってなんだ?」
「そんこと言ってないよ」
「ああ、なにかの聞き間違いじゃねーか?」
「俺の聞き間違いか。そうだな」
わざとらしく聞き間違ったふりをしてその場を切り抜ける。これでハリーがヴォルデモートの名前にたどり着いた。
俺らが話し終わってもジェーンとタスさんの口論は続いていた。
「そんなに戦いたいなら私が相手をしてあげます。さっきの爆発呪文をそっくりそのまま返しますので覚悟してください」
「おもしろいですわ。でもオリジナルのワタクシの方が強いですわよ?」
「今の消耗しているあなたなら私の方が強いですよ。私はあなたと違って無駄な事をしてませんから」
「無駄じゃないですわ! いいですの。勝負、受けて立ちますわ。 さあ、さっさと用意してくださいまし!」
彼女たちの口論にハグリッドが割って入った。
「ドゥ! スラグホーン! 余計な事をするんじゃねぇ!」
ハグリッドの静止も聞かずにジェーンがタスさんへと変化する。彼女は自分がドッペルゲンガーだということは隠していたはずだったが頭に血が上っているせいで忘れてしまっていたようである。
「変身しよった」
まずい、ドッペルゲンガーだとばれる。
「ジェーンは変身術が得意ですから」
「そうなのか?」
「はい。…… お前ら! 頭冷やせ!」
「そうですわね。やめておきますわ」
「そうしたほうがいいみたいですの。……はい、戻りました」
俺の言葉が通じ、ジェーンがすぐに元の姿へ戻る。
「よかった。珍しく俺の言うことを聞いてくれたな」
「違いますよ。別にあなたに言われたからやめたわけじゃないです」
「そうですわ。さすがのワタクシも世界が壊れてゲームオーバーなんて予想がつかなかったですの」
「は!? どういうことだ!?」
俺の問いに彼女たちはすやすやと眠っているメアリーを無言で見つめた。彼女の傍ではアクロマンチュラの幼体が心配そうに歩いている。
メアリーが世界を壊したなら俺が今ここでこうしているのはおかしい。
ジェーンの頭が冷えたのは彼女がタスさんになってから。つまり、タスさんの力を扱えるようになってからである。ということはメアリーが世界を壊したのは別の未来ということか。
二人はこのまま喧嘩を続けると世界が壊れることを知り喧嘩をやめたのだ。
安らかな寝顔で寝ている彼女を見ていると無害にしか見えないが、こいつは物語を壊す化け物だった。それにしてもなんてことしやがる。
「今日の目的は達した。森を出るぞ。メアリーも寝ちまったみたいだしな。ファングとマルフォイ、を見つけて合流してからだがな。ネビルの居場所はわかってる」
ハグリッドが二人が落ち着いたのを見計らい、ファングとマルフォイの捜索を提案する。
ネビルと合流した後すぐにファングとマルフォイも見つかった。
ホグワーツへの帰り道、彼女たちは口論どころか、メアリーがいかにやばかったかで盛り上がり意気投合していた。
仲直りをしたのはよかったのだが、聞こえてくる言葉が意味がわからないものばかりだったのが俺の不安を煽った。
次の朝、メアリーに「なにかあっても世界を壊すのはやめてくれ」と言うと「そんなことできるわけないじゃないの」と笑いながら返されてしまった。
ちなみにこの件に関してデアは「本気で怒ると世界を物理的に終わらせるのがあたし。ゲームにならなくするのがタスさん。周りを巻き込んで概念ごとぶっ壊すのがメアリー。全部できるのがジェーン。だからこの話はおしまい。仲直りしたんだしなんでもいいんじゃない?」と言ってすぐに別の話題に話を変えた。こいつらが本当に怪物だったのを再認識し、背筋が凍る。これ以上は考えたくない。俺もそれでよしとしよう。
タスさんがやりすぎたのとそれのせいで彼女とジェーンが喧嘩になりかけたという問題はあったが禁じられた森でもイベントも終わった。
残る原作のイベントは一つだけ。学期末、ダンブルドアの外出を見計らい賢者の石を手に入れようとクィレルが立ち入り禁止の部屋へと侵入する。そしてハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が彼の企みを阻止する。それだけである。なんだかんだ言いながらも明らかな乖離はない。放っておいても勝手になんとかしてくれるだろう。
その前に一番大事な学期末試験があるのだ。試験まで時間があるとはいえ気合を入れて勉学に励むことにしよう。
禁じられた森に入ってクィレルと対決したと思ったら知らぬ間に世界が壊れていた……こんな感じで実はちょっとしたことで怪物たちが物語を崩壊させますという話でした。
全員メアリー・スーなだけあって暴れさせると周りに被害が及んでしまいますね。フィレンツェファンの皆様申し訳ありませんでした。
このくらいの下ネタならばR-15タグで大丈夫なのでしょうか。全然問題ないのか, 下手するとBANされかねないのかわかりません。
私個人の意見ですが、芋虫やカエルより蜘蛛やG、ゲジゲジのほうがかわいいと思います。異論はめっちゃ認めます。
次回、ようやく賢者の石編の最終話です。もう少しお付き合いください。