ハリーポッターと物語の怪物たち   作:私の為の物語

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いよいよ賢者の石クライマックスになります。
今回はシリアス回です(当社比)。


第14話 怪物たちと賢者の石

 あーだこーだと怪物たちと間食をしていると扉が開く音がした。クィレルが到着したのだろうと扉の方向を確認すると案の定彼が入ってきたところだった。

「な、なんでここに、き、君たちがいるんだい?」

 クィレルの問いに誰も答えないので俺が答える。

「こんばんわ、先生。先生と同じ理由ですよ」

「な、なんの話かな?」

「逆になぜ俺たちがここにいないと思ったんですか?」

「こ、ここは立ち入り禁止だから」

「それとその演技の意味ないですよ。禁じられた森で声を出しておいて正体がばれないとでも?」

「き、禁じられた森? あんなところ、こ、怖くて行けるわけないよ」

「じゃあ、ハロウィーンで取り乱したこと。あなたはトロールが専門の闇の魔術に対する防衛術の先生です。そんな先生がトロール相手にビビるなんてありえないですよね? 逆にあなたが侵入させたという話の方がしっくりくる」

「と、トロールが専門だったとしても、ぜ、絶対安全なわけじゃない」

「ハリーの箒に錯乱の呪文をかけたのもあなたです。スネイプ先生は一見呪文をかけているようでしたが、唱えていたのは反対呪文だ。逆にあなたは箒をじっと見つめていた。そして火の手が上がり、あなたが箒から目を離した瞬間に箒の制御が戻った」

 後半のは別に俺が把握していないが、彼がかけていたのは本当なはずなので大丈夫だろう。

「そ、そんなのたまたまだよ」

『……もう、いい。本当のことを話せ』

 クィレルとは別の声が聞こえてきた。しわがれていて生きている者の声とは思えない。ヴォルデモートの声だろう。

「ですがご主人様」

『……いい、俺様たちの仲間に引き入れろ』

「わかりました。まだあなた様は十分に力が戻っていません。私が話します」

『……いいだろう』

 クィレルが今までの経緯を話始めた。

 世界旅行中にヴォルデモートに出会ったこと。

 彼から善と悪が存在するのではなく、力と、力を求めるには弱すぎる者が存在するだけということを教わったこと。

 彼がヴォルデモートの忠実なる下僕になったこと。

 まあ、原作を知っている俺たちからしたら全部知っていたが。

「君たちも賢者の石が欲しいのならご主人様の下僕になれ」

 普段と異なり落ち着き払った声でクィレルが勧誘してくるがタスさんがそれを否定した。

「それもおもしろそうですわね。ですが、一つ勘違いしていますわ。もし、力と、力を求めるには弱すぎる者が存在するだけということが本当であるとしたら、それならばワタクシたちは力の側。あなたは手を組んでほしいとお願いをするのが正解ですの」

「小娘が調子に乗るなよ」

「その小娘たちに禁じられた森で敗走したのはどこの誰でしたっけ?」

「貴様!」

『……こいつらが揃えばお前より強い力を持っているのは事実だ。今はまだ未熟だが、成長すれば俺様と並ぶことが可能かもしれん』

「ですが!」

『……ほう、俺様の言うことがきけないと。ならば……』

「い、いえ。わかりました。私と手をくんでいただけないでしょうか?」

「ええ、もちろんですわ!」

「おい! なにを勝手に決めてるんだ!」

 俺が突っ込むがタスさんはそのまま話を進める。

「ただし、賢者の石が手に入るまでですわ。それと条件を一つ。最初はワタクシたちにくださいな。ワタクシたちは賢者の石を少しの間だけ手に入れればいいんですの。なので用が済んだらすぐお返しいたしますわ」

「ご主人様、それでよろしいでしょうか?」

『……いいだろう』

「ということで賢者の石の手に入れ方ですが、石はこの鏡の中に入ってますの」

「どういうことだ。埋まっているということか?」

「いえ、そういうことじゃありませんの。ダンブルドアによって賢者の石を使いたい人間の手には渡らないようになっているんですわ」

「そうか、なら私たちでは無理だ。貴様らが取れ」

「できるならとっくにやってますわよ。ワタクシたちも全員使いたいんですので無理ですわ」

「ならどうするんだ!?」

「すぐにハリー・ポッターがここに来ますの。彼を使えばすぐですわ」

『……そういうことか。やはり有能なようだ。俺様が復活した暁には死喰い人に入れてやろう』

「あなたの下にはつかないと言ってますの」

「俺もだからな」

「あたしもちょっと無理かな」

「状況によってはわからないけれどまあたぶんならないわ」

「メアリーがならないなら私もなりません」

「貴様ら、ご主人様に向かって無礼な口を……」

「あっ、クィレル先生。お菓子食べる?」

「いらん!」

「そんな事言わずに。あ、ヴォルデモートは?」

「卿をつけろ卿を!」

 クィレルとデアがバカバカしい話をしているとやっと生き残った男の子が扉の向こうから現れた。

「なぜあなたが……スネイプだとばかり……」

「セブルスが?」

 クィレルは普段びくびくしている彼とは思えない冷い笑を浮かべた。そして、今までのネタばらしと経緯を話し始める。内容はすでに説明したのでカット。

 衝撃の事実にハリーが狼狽えている。クィレルが犯人だったことに気を取られ俺たちの存在が目に入っていないようであった。

「やっほー。ハリー」

 真剣な場面だというのにデアが間の抜けた声であいさつをする。

「なんでここにいるの!?」

「ワタクシもいますわ!」

「えっと、こんばんわ、ハリー」

「こんばんわ、夜遅く出歩くのは校則違反ですよ。私も同じですが」

「すまん、俺もいるんだ」

「なんで君たちまで……」

「私と同じ理由だよ。彼らも賢者の石が欲しいのだ。私もたった今知ったばかりだったが手を組んでいる」

「そんな……みんなも敵だなんて……」

 ハリーはその場でへたり込んでしまう。

「鏡の方へ行け、ポッター。早く行け。そして、鏡を見てなにが見えるかを言え」

 彼はゆっくり立ち上がるとのろのろと俺たちを通り過ぎて鏡の前へ立った。

「どうだ? 何が見える?」

「ダンブルドアと握手してる」

 これは彼の嘘である。本当に見えたのは鏡の中の自分が微笑み、ポケットから血のように赤い石、賢者の石を取り出してウィンクした後、またポケットに入れ直す様子。

 そしてこの時点で彼のポケットには賢者の石が入っている。

「僕だ、僕のおかげでグリフィンドールが優勝した」

「嘘ですわ」

 タスさんはそう言うとハリーの後ろへ姿現しをして彼に耳打ちをするとポケットの中に手を突っ込み、再び姿くらましをして俺の傍に戻ってきた。

「なーんにもありませんでしたの!」

 ハリーの後ろで袋に手を突っ込みながらごそごそとやっているところを見るに完全に嘘である。

『こいつらは嘘をついているぞ』

 ハリーは初めて聞くヴォルデモートの声にぞっとした様子で固まっている。

「ポッター! 嘘を言うな! 何が見えた? スラグホーン! 貴様もだ!」

『俺様が直に話す』

「しかし、ご主人様。あなた様はまだ力が戻っていません」

『このくらいのことをする力はある……』

 クィレルがはターバンをほどくと、その場でゆっくりと体を後ろ向きにした。

 その頭にはもう一つの顔があり、その顔は真っ白で、目は血走り、鼻が蛇のように裂け目になっている。ヴォルデモートの顔である。

『ハリー・ポッター。お前のせいでこのありさまだ。……誰かの体を借りなければ話せない。……だが、ユニコーンの血が俺に力をくれた……森の中でクィレルと会っただろう……命の水があれば、俺様は復活することができるのだ。自分の体を取り戻せる。……さて……スラグホーン、後ろに隠した『石』をいただこうか』

「スラグホーン。渡したら駄目だ」

「当然ですわ。なんでわざわざあなたに渡す必要がありますの?」

『愚かななことはやめろ。命を無駄にするな。俺様に協力すれば助けてやろう……さもないとおまえらもポッターの両親と同じ目にあう……彼らは命乞いをしながらその生涯を終えた』

「そんなの嘘だ!」

 ハリーが叫ぶ。クィレルは後ろを向いたままハリーへ近づいていく。ヴォルデモートの顔が邪悪な笑みで歪む。しかし、この状況、ハリー視点から見たら怖いけど冷静にみるとコントのようだ。後ろに顔をつけた人間が後ろ歩きで近づいてくるのだから。

『その勇気は称賛に値する……まるで両親のようだな……お前の父親もそうだった……だから先に殺した……そして、母親はおまえを守り死んだ……母親の死を無駄にするな……さあ、スラグホーンに『石』を渡すように言え』

「絶対にそんなこと言うもんか!」

『捕らえろ!』

 ヴォルデモートが叫んだ。クィレルが反転しタスさんの腕を掴もうとする。

「なに!? すり抜けただと!?」

 しかし、一フレームの猶予により当たり判定がすり抜け、そのままその場で姿くらましをして、扉の方へと移動した。

「捕まるわけないですわ!」

『捕まえろ! 捕まえろ!』

「ちっ、妖精の姿くらましか!」

『いまいましい羽虫め……』

「さあ、追いかけっこですわ!」

「クルーシオ!」

 タスさんへ呪文が放たれるがタスさんの姿は姿くらましで消え、呪文は外れた。

『お前ではあいつは捕まえられん』

「そんなことはありません」

「いえ、ありますわ」

 姿現しでクィレルの目の前に現れるタスさん。再度クィレルが彼女の腕を掴もうとするが、彼の手が触れたはずが、またすり抜けて回避すると姿が消え、彼の真後ろ、ヴォルデモートの顔の側へと移動する。

「ですわよね?」

『残念だがそのようだな』

「妖精もどき程度私でも捕まえられます」

「できるのならやってみてくださいな」

 何度もクィレルがタスさんを捕まえようと手を伸ばすが、その手が触れているはずがすり抜けそのまま彼女の姿が消えるという現象が数十回と繰り返される。

 タスさんより先にクィレルの息が切れ、その動きが止まった。

『無理だと言ったろう。諦めてポッターを捕まえて人質にしろ』

「ですが……」

『何度も言わせるな』

「……承知いたしました」

「もう終わりですの? つまりませんわ」

 タスさんからハリーへと標的を変更したクィレルは無言呪文で縄を放った。

「そんなことさせるわけないよね!」

 デアが一瞬で間に入り刀で縄を切り落とす。

「トカゲ風情が!」

 クィレルが無言で攻撃呪文を連打する。炎、水、氷、切断。しかし、同等の攻撃呪文が跳ね返ってきたものをすべて防いだことのある彼女は当然そのすべてを振り払うことで防いだ。

「このくらいなら余裕余裕! もっと増やしてくれてもいいよー」

 今年のラスボスと戦闘中だというのに余裕の表情を見せるデア。当然のごとくこなしているが、普通に化け物である。そもそもわざわざ振り払わずにそのまますべてが直撃したところで平然と立っているだろう。

『もっと弱いやつをねらえ!』

「クルーシオ!」

 次は戦闘中だというのに大あくびをしていたメアリーに磔の呪文を放つ。ジェーンが護りに入ると思ったが、予想に反して傍観した。

「ふわぁ……え?」

 彼女が振り向きながら呟くと、振り向いて位置が変わったおかげでたまたま呪文がそれて後ろの壁に当たる。そしてなぜかそれが跳ね返ると鏡に当たり、そのままクィレルの横を通り過ぎた。

「あれ? 避けられたみたいね」

 メアリーがほっと胸をなでおろす中、クィレルが憎々し気に悪態をついた。

「外したか。だが、あくまでまぐれ。そう何度も……」

「危ないわ!」

 彼女が突然クィレルに向けて注意を発する。しかし、彼はまさか自分が言われているとは思わずその場に突っ立っている。

 彼女が避けるように言った理由。それは彼の後ろから跳ね返ってきた磔の呪文が迫っているからである。当然、その場に突っ立ったままの彼にその呪文が直撃する。

「ああああああああああああっ!!」

 自分の磔の呪文をくらい死んだ方がましだと思うほどの苦痛から床をのた打ち回る。自業自得だとはいえかわいそうになるほどだ。

 彼は放った呪文をたまたま避けられ、たまたまそれが跳ね返り、たまたま自分に当たった。そしてその放った呪文がたまたま許されざる呪文であった。すべては偶然。だが、それがメアリー・スー。作者に愛され、物語に愛され、世界に愛される世界の中心。そんな彼女にとってはすべてが必然なのだ。やった本人は彼の姿を見てあたふたしているが。

「クルーシオの反対呪文ってなんだったかしら!?」

「インぺリオです。反対呪文について調べていた時に知りました」

 原作では明言されていなかったので俺は知らなかったが、確かに苦痛を与えるクルーシオに対して、インぺリオは幸福感を与えるために反対呪文っぽい。

「ですが、許されざる呪文は人間に使ったら終身刑ですよ?」

「ばれなきゃ犯罪じゃないわ。インペリオ・ディアボリカ!」

 クィレルに向かって服従の呪文が放たれる。普通の呪文とは違い、『悪魔の』という意味の言葉が続いている。俺には違いがわからなかったが成功したようで荒くなった息を整え始めた。

「なんで許されざる呪文が使えるんだよ」

「悪魔の呪文を唱えましたからね。半分夢魔の彼女にとっては息をするようなものです」

『低級悪魔が』

「その低級悪魔にやられたんですよ」

『そいつをやれ!』

「フリペンド!」

 磔の呪文を受けた直後では闇に対する防衛術の先生といえど単純な衝撃呪文を唱えるのがやっとだったようである。彼女はクィレルへと姿を変えると無言で盾の呪文を使い弾き返すと彼が先ほどに唱えた呪文のセットを無言で唱えた。

「プロテゴ!」

 盾の呪文を唱えたクィレルだったが、集中力が足りなかったためか強度が足りず破られる。

「貴様ではもう私には勝てない。自身とほぼ同じ力、だが貴様はすでに消耗しきっている。勝てるはずがない」

『おまえはドッペルゲンンガーか』

「さすがはご主人様。すぐ見破ったようだな」

 この流れだと次は俺に来る。いかに消耗しきっているとはいえ相手は闇に対する防衛術の先生、情報を知れるだけの俺が勝てる相手ではない。戦いをやめるように説得しよう。

「クィレル! もうわかっただろ! 今のままではお前は負ける!」

「だからといってやめるわけにはいかないのだ」

「そんなことはない。よく考えてみろ。力を失っているヴォルデモートとこの怪物たちのどっちが怖いのかを」

『俺様に決まっている耳をかすな』

「なに言ってんだよ。そもそも校内で姿くらましができるタスさんがなんでここから逃げないと思う? 負けるわけがないと確信しているからだ。彼女はただお前で遊びたいだけなんだよ」

「その言い方は悪意がありますわ!」

「デアに一つでも呪文が通ったか? 一切通らなかっただろ? やろうと思えば刀でお前を切り刻めるのにやらない。当たり前だ。そっちのほうがなぶれるからだ」

「ちょっと嘘言わないでよ!」

「メアリーは許されざる呪文でもばれなきゃ犯罪じゃないと言った。つまり、いつでもお前に打ち込めたのにわざわざ自爆したお前を助けた。お前の自尊心を破壊して精神的に屈服させるために」

「いやいや、そんなわけないでしょう」

「ジェーンもさっさとお前になれば人数差で俺らの勝ちなのにお前が消耗するまで待った。サンドバッグにするために。そしてお前は今そうなっている」

「いえ、ただ火の粉が飛んできたので対処しただけですけど」

 俺が折角クィレルの戦意を奪おうとしているというのに怪物たちが本当のことを言って邪魔してくる。俺はこいつらと違って戦ったら負けるのでやめてほしい。

「だが、それでも私は……」

『そうだ。お前は復讐するのだ。お前を馬鹿にしたすべてのものに。だが、お前は弱い。俺様の力を借りなければ不可能だ』

 よし、この流れならいけるかもしれない。同情心を見せて改心させよう。

 こういうときのための原作知識と二次創作知識だ。クィレルを改心させる方法を模索する。……よし、見つけた!

「クィレル、いや……クィリナスさん」

「どうして私の名を……」

「なんだかんだあなたはすごい人だからな。名前くらい覚えるさ」

「私がすごい?」

「トロールをあなた以上に扱える人間はみたことがない。スネイプ先生でも完全には抑え込めない呪詛を無言で掛けたし、機敏で捕えにくいことで知られるユニコーンをあっさり捕殺した。そして最後に先生方が用意していた護りを突破してここまで来た」

 これはお世辞ではなく本心である。ダンブルドアやヴォルデモートと比べてしまえば彼は凡才だが、才能がないわけではない。ハグリッドも彼を元レイブンクローの秀才だと称している。

「ここまで能力があるのになぜあなたは諦めたんだ?」

「私が諦めた?」

「そうだ。別に能力がなかったわけじゃない。なのにあなたはそのおどおどした神経質な性格からからかわれ、まっとうに評価されることを諦めてしまった。違うか?」

「諦めたわけではない! 闇の魔術で見返してやるのだ!」

「別に自分の力だけで見返せばいいじゃないか。ヴォルデモートなんか頼らなくてもな」

『お前には無理だ……俺様が力を貸さねば……』

「そう、私では無理なんだ。力を持たない私では」

 俺の説得能力では無理そうなので怪物たちの力も借りよう。他のやつらにも目配せして手伝ってもらう。

 まずは準備なく話すことが得意なデアから。

「クィリナスさんは天才だと思うけど?」

「貴様のような才能の塊になにがわかる!」

「いや、あたしが魔法に関してはからっきしなの知ってるでしょ。それに馬鹿だしね。だけど、身体能力に関しては誰にも負けない自信があるよ。逆に言えばそれしかないけどクィリナスさんの攻撃魔法をすべて防御できた。突出した一つの能力だけで。別になにもかもできなくてもいいんだよ。できないことは別の誰かがやってくれる。自分は自分のできることをすればいいんだよ」

「だが、私にできることなど……」

「アランが言っていたけどトロールに関してはクィレルさんの右に出るものはいないと思う。トロール使いの才能。それだけはヴォルデモートよりもすごいんだよ」

「私がヴォルデモートより優れている?」

『そんなわけがないだろう……お前はゴミだ……』

 デアの次はタスさんが引き継ぐ。

「いえ、ゴミなのはヴォルデモート、あなたの方ですわ。当時、赤ん坊だったハリー・ポッターに負けて霊魂以下の存在に成り下がったあなた。それでも生に固執し、誰かに寄生しなければ存在していられない弱い存在。全盛期であればおもしろかったんでしょうけど今のあなたはつまらない。ゴミ以下ですの」

『黙れ!』

「嫌ですわ。それに比べてクィリナスさんは自分の才能を活かしてトロールを侵入させてくれましたの。あのすさまじいアホさを誇るトロールを意のままに遠隔誘導して、しかも五体同時ですわよ。そうそう見られるものじゃありませんわ」

「そうだ。私はトロールに関しては特別な才能があるんだ」

『そんなものは役には立たない……』

 次はジェーンが口を挟んだ。

「いえ、そんなことないです。トロールはホグワーツの警備にもついているので彼らの力を活かせる仕事はいくらでもあります。つまり、クィリナスさんの才能が役立つ場面はたくさんあるんじゃないんでしょうか?」

「こんな才能意味がないと思っていたがそんなことはないのか?」

「意味がないなんてとんでもない。確かにわかりやすく派手な才能ではないかもしれませんがクィリナスさんほどのトロール使いは引っ張りだこです。先生をやめて純粋にトロール使いとして働けばすぐに天才として名が売れるはずですよ。なぜ意味がないと思ったんですか? 自己評価が低すぎます。自分に自信を持ってください。あなたにはあなたにしかできないことがあります。あなたの力は本当に必要とする人の為に使ってください。使い捨ての駒だと思っている人なんかのためではなく」

『そんなことはできない……お前など必要とされない……』

 本来であれば同じレイブンクローであるメアリーが言葉を続ける。

「そんなことはないわ。だって誰よりもまずヴォルデモート、あなた自身がクィリナスさんを必要としているじゃないの。あなたは彼がいなければ形を保てないけれどクィリナスさんにあなたは必要ないわ。肉体を持たないあなたは彼に協力できない。彼は自身の努力と才能だけでここまでたどり着いた。だから彼が馬鹿にした奴らを見返すのにあなたは必要ないんじゃないかしら?」

『俺様が助言しなければこいつはここまで来ることはできなかった……俺様がいなければなにもなしえない』

「確かに助言がなければここまで来れなかったかもしれない。けれど助言をするのがあなたである必要はないじゃない? それにトロール使いの才能があれば彼を馬鹿にした奴らを見返すことは可能だと思うわ。彼には才能がある。私みたいな偽物のじゃなくて本物の才能が。こんな偽物の私を必要としてくれた人がいるのだから彼を必要とする人なんて腐るほどいるはずよ」

『お前はこの少女とは違う……お前は愛されない』

「そうだ。私では君のようにはなれない。私は誰からも愛されなかった。誰からも拒絶された」

 残るはあと一人、この物語の主人公、生き残った男の子。彼も今までクィリナスと同様だった。

 親戚であるダーズリ一家で育った彼は誰からも愛されなかった。友人はおらず誰からも拒絶された。だからこそ最後の一押しができるはずだ。

「その気持ち僕にもわかるよ。僕も同じだったから。もしかしたら僕もクィリナス先生のようになっていたかもしれない」

「生き残った男の子と言われてちやほやされるお前にはわかるはずがない!」

「確かに魔法界に来てからはちやほやされた。舞い上がった。でも、生き残った男の子と言われても本当はただ有名なだけの魔法界のことを知らない子供だった。ロンのようにチェスはうまくない。ハーマイオニーのようにいろんな呪文は扱えない。マルフォイみたいに魔法界のことを知らない。スミシーのような知識はない。タスさんのように妖精の魔法は扱えない。デアのような身体能力もない。メアリーのように悪魔の力なんてない。ジェーンのように変身できない。できることといえば箒に乗るのがちょっと上手いこと。あなたのように取り柄は一つだけなんだ」

「だがお前には友人がいる! 私にはいなかった!」

「そう、それだけ、それだけなんだ。僕には友人ができた。それで気づいたんだ。愛されたいのなら自分からそれをしなくちゃダメなんだって。拒絶されたくないなら自分がそれをしちゃダメなんだって。スリザリンはみんな嫌な奴だと思ってた。絶対協力なんてできないと思ってた。でもそれは間違いだった。スリザリンはスリザリンなりの信念があるだけだった。最初は絶対にわかりあえないと思ったマルフォイでさえハーマイオニーを助けにきてくれた。スミシー達だって僕を助けてくれている。自分たちのためだってことはわかってるけど助けてくれたのは本当だ。グリフィンドールと対立しているスリザリンですら協力しあうことはできる。ただ、それは双方が拒絶しなければなんだ。まず自分から愛そうとしてみなければ、自分から手を伸ばさなければ手なんか掴めるわけがない。まだ間に合う。自分から手を伸ばすのを諦めないで」

「まだ間に合う? 私はまだやり直せるのか?」

『できるわけないだろう……お前はすでにこちら側の人間だ……』

「クィリナス先生はヴォルデモートに救われたって言ってた。けどそれは違う。ヴォルデモートは貶めているだけだ。あなたの価値を、あなたの才能を、あなたの能力を、あなたの努力を、あなたの経験を、あなたの信念を、なにもかもを。そうすることであなたを自分の都合のいい道具にしているだけだ。あなたは敵じゃない。あなたも僕と同じ、ヴォルデモートの被害者だ。友人がいないなら僕がなるよ。僕が手をのばすから先生も手を伸ばして」

「こんな私にも手をつなげるのか?」

「できるよー。あたしなんかドラゴンの血が混ざってるのに純血主義のスリザリンでやってけてるんだよ?」

「ワタクシは妖精の血が混ざってますがむしろそのおかげで目立てて万々歳ですわ」

「私も半分夢魔だけど、こんな私にも友人はいるわ。だからあなたなら楽勝よ」

「ドッペルゲンガーの私は所詮誰かの偽者にしかなれません。ですがそんな私にも手を差し伸べてくれた人がいました。なので諦めず手をのばしてください」

「俺はこいつらと違って突出した才能なんてない。ただ物事を他のやつらより知ってるだけ。しかもマグル生まれ。そんな俺がスリザリンでやっていけてるんだ。できるさ」

『信じるな……お前の手など誰も取らない……』

「私は諦めたくない! 愛されることを! 手をつなぐことを!」

「ああ、ヴォルデモートなんてさっさと心から追い出せ!」

「今のヴォルデモートが憑りつけるのは彼に心を許す者の心だけです」

「ヴォルデモートに心を許さなければ、強い心を持てば、彼はもう憑りつくことはできないわ」

「誰かを憑代にしなければ形を保てない、そんな弱い存在に負けるあなたじゃありませんわ」

「うーん、もうよくわからないけど手をとっちゃえ! そうすれば全部解決だよ!」

「そうだね! なんでもいい! 僕の手を取って!」

『なんだこの茶番は! なんだこの状況は! 俺様は認めんぞぉぉぉぉぉぉ!』

「私は手を取ることにする!」

 クィレイルが手をハリーの手を取った。

 原作であればハリーの母親がかけた古代の護りの魔法によって彼の手は焼け爛れるのだが、変化がない。つまり、ハリーにとって彼は彼を害する存在ではないということだ。

『クィレルゥゥゥゥゥゥ! 貴様ぁぁぁぁぁぁ!』

 ヴォルデモートの本体がクィレルの体から抜け、ハリーへと突進する。

『許さんぞぉぉぉぉぉぉ!』

 しかし、それに実体はなく彼の体を通り抜けるとどこかへ行ってしまった。

 ヴォルデモートは完全に逃げたようだ。クィレルの命も助かったし賢者の石も増殖させたようだし目的は達した。

 後はダンブルドアが迎えに来てくれるのを待つだけ。そしてクィレルを引き渡して裁判にかけさせれば完全クリアである。

 いやー、どうなることかと思ったが勢いだけでごり押せてよかったよかった。完全に頭お花畑だったし、お前が言うなのオンパレードだったけどなんとかなった。

 最後はどうなることかと思ったけど、さすが主人公。それっぽく押し切ってくれた。うん、今後困ったらハリーに頼もう。

 最終決戦が終わり、安堵しているとMVPである彼に礼を言われた。

「助けてくれてありがとう」

「いや、礼を言わなければいけないのは俺らの方だ。ハリーの助けがなかったらクィリナスさんを説得することはできなかった」

「僕はできることをしただけだよ」

「それをできたのがハリーだけだったんだ」

「どういうこと? みんなも説得してたよね?」

「内容の違い。説得力の違いと言ってもいい。それが違った」

 誰からも愛されず、誰からも拒絶される日常を送ってきた彼の言葉であるため共感性という面で俺らの言葉よりも勝っていたという話なのだが、ハリーは首をかしげている。

 そもそも借り物の力を振り回している怪物たちや俺に説得力などあるわけがない。ハリーがヴォルデモートに言ってたことは俺たちにも刺さっているのだ。耳の痛い話である。

「僕には違いがわからないよ」

「それならそれでも問題ないさ。ハリーのおかげということには代わりがない」

「僕一人だけだったらやられちゃってたと思う」

「そんなことはない。生き残った男の子なら一人でもなんとかできてたよ」

 原作でそうなのだからできないはずがない。

「さっき生き残った男の子って呼ばれてるだけの子供だって言ったよね? あっ、それで思い出した。マキナとタスさんが人間じゃないのは知ってたけどジェーンとスーもそうだったんだ」

 そういえば二人は自分が人間でないことを隠してたんだっけか。メアリーはできるだけって感じだったがジェーンの方は公になるのは避けたいようだった。

「メアリー、ジェーン。ちょっといいか?」

「どうしたんですか?」

 タスさんと話していた二人が俺に呼ばれてこちらに来る。

「ハリーに人間じゃないとばれたが大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです」

「だよな」

「僕に知られちゃまずかったの?」

「はい。ドッペルゲンガーはあまりいい印象の生き物ではないので。他の人には秘密にしておいてくださいね」

「わかったよ。スーも?」

「うーん。夢魔もいい印象はないけど、まあ話したかったら他の人にも話していいわよ」

「ちなみに約束を破った場合はジェーンがさっきは出さなかった全力で叩き潰しに行くから口を滑らさないように気をつけたほうがいい」

「え!? 本当に!?」

「そんなことしませんよ。でも、だからといって約束は破らないでくださいね。お願いします」

 雑に脅した俺とは異なり、ジェーンは深々とお辞儀をしてお願いをした。

「私からもお願いするわ。話したくなったら私の方だけを話して」

「大丈夫だから頭を上げて。そんなことしなくても約束は守るよ。スーの方も親しい人に聞かれたときだけ話すようにするから」

 ハリーは快く秘密にすることに承諾してくれた。万が一話されてもどうとにでもなりそうなので大丈夫だろう。

「みんな! 気を……つけ……」

 一件落着と落ち着いた雰囲気の中、クィレルが不穏なことを言った。

『ま……だ……だ。』

 すると、再びクィレルからヴォルデモートの声がする。

「なんでまだいるんだ!?」

『お前たちがクィレルを弱らせてくれたおかげで完全に支配することができた。礼を言おう。とはいえ時間がないな。そう、ポッター。お前だけでも始末しておく!  アバダケダブラ!』

 ヴォルデモートに乗っ取られたクィレルが死の呪いを口にする。突然の現象に動きが止まっていたハリーに緑の閃光が迫っていく。このままでは死の呪いによって命を落とすことになるだろう。

 まあ、そんなわけはない。彼の呪文に反応したデアが、その閃光を振り払っ……。

「もう眠……痛っ」

 ……払うはずが、眠そうに目をこすっていたメアリーが段差でコケてしまい、その前に倒れる。そして、彼女に緑の閃光が命中した。

 それはとても呆気なかった。

 

*

 

 

 その日俺は思い出した。彼女がメアリー・スーだったことを。

 作者の自己満足から生まれた物語の怪物は理想で既存の世界を塗りつぶし、キャラクターの人格を歪め、原作のすべてを破壊しつくす。

 そして最後にはその焼野原にて惜しまれながらその生涯を終えるのだ。

 彼女が死んだことで登場人物全員が悲しみに包まれるという約束は俺には例外でなかった。怪物怪物言っていたが一年学業を共にした仲間であったことには変わりないのだ。感情が表に出ない俺にも思うところはある。

 だから俺は談話室にある彼女の遺影に祈りを捧げている所だ。

「なにやってるの?」

「見ての通りお前の遺影に祈ってる」

「私ここにいるけど」

 そう、メアリー・スーは死ななかったのである。よくよく考えれば彼女が死ぬのはあくまで物語最後である七年目。一年目で死ぬはずがない。それに死ぬ時は劇的に死ぬ。あんな喜劇のような死に方をするはずがなかったのだ。

 一応死んだと思った時は悲しみを覚え、自分でも驚いたので嘘は言ってない。

「その遺影どうやって用意したのよ」

「タスさんがくれた」

「まったくタスさんは。あの時本当に死んだかと思ったわ」

「俺も驚いたぞ」

 あの時彼女は確かに死の呪いの直撃を受けた。それで命を落とすはずだった。現にあの時彼女は一度死んだのだが、すぐに息を吹き返した。

 なぜか。答えはお菓子を食べた際に飲んだミネラルウォーター。あれはミネラルウォーターなどではなく、タスさんが魔法薬学の授業の際に作成していた命の水だったのである。

 後は簡単、命の水の効果によって不老不死になっていたメアリーには死の呪いが効かなかった。ただそれだけの話である。

 事の発端であるタスさん、それに他のやつらも話に参加してきた。

「折角命の水を調合したのだからそれを使ってみんなを驚かせたかったのですわ! 驚いて貰えたようで何よりでしたの! ハリーも驚いてくれたようでしたし!」

 とても嬉しそうに話す彼女だが突然やられるのは俺たちの心臓に悪い。とはいえ、冷静に考えたら例え眠くても世界に愛されるメアリー・スーに死の呪いが何もなく当たるはずがなかったのだ。命の水により死ななかったからこそあそこで死の呪いが命中したのである。

「あたしもびっくりして心臓止まったよ!」

「実際に止まったのはメアリーですけれどね。私はメアリーがあの程度で死ぬはずがないとわかってましたが」

 死の呪いをあの程度とはいったい……。

 何はともあれ復活したメアリーと怪物たち、ハリーと弱ったクィレルの介抱をしているとダンブルドアがどこからともなく姿現しを使い現れた。

 後はハリーが彼に経緯を説明し、クィレルを弁護したが、罪は罪だとクィレル自身が言ったため、然るべき機関で裁かれることになった。

「クィレル先生、トロール使いになるって言ってたね~」

「ええ、刑期を終えるのが楽しみですわ。賢者の石もゲットできましたし最高でしたわね」

 流石のダンブルドアも本物が複製されているとは思わなかったのか、タスさんから一つ賢者の石を受け取るとそれ以上は要求してこなかった。しかし、彼の場合はすべてわかっていて泳がしていることも十分ありえる。

 ただ、これで賢者の石の話はほとんど終わり、最後は寮の点数発表のみ。原作であればグリフィンドールが逆転優勝するのだが今回は俺らがこのイベントに参加しているためどうなるか。タスさんはしっかり調整しているといっていたため彼女を信じることにする。

 それ以外に気にしなければならないことはもうない……いや、ちょっと待て。クィディッチの寮対抗戦のことを忘れていた。原作ではレイブンクローが優勝する。それはクィレルとの戦いでハリーが気絶してしまい寮対抗戦に出ることができなくなるからなのだ。しかし、この世界では気絶せずに寮へ帰ってしまった。このままではハリーが両対抗戦に出場することができてしまう。これではグリフィンドールが優勝する可能性が出てくる。確実にレイブンクローが優勝してもらうにはハリーの出場を止めなければならない。

「そういえば、このままだとクィディッチの最後の寮対抗戦にハリーが出場してしまうが大丈夫なのか?」

「んー? なにか問題でもあるの?」

「原作通りにグリフィンドールが優勝して終わるのだからいいと思うのだけれど」

「いや、原作で一年目に優勝したのはレイブンクローだ。このイベントでハリーがこのイベントで気絶して出場できなかったせいでレイブンクローに大敗した」

「ごめんなさい。間違えていたわ」

「いいじゃないですか。メアリーも完全に暗記しているわけではないのですから。それよりハリーが参加した場合でもレイブンクローが勝てるかどうかです。そこのところどうなんですか? タスさんならわかりますよね」

「ええ、もちろんですわ。ハリーが参加した場合はほぼ百パーセントレイブンクローが負けますの」

「なら出場してもらっちゃ困るな。試合前にメアリーが気絶させてくれ。今日の疲れとかなんとかで理由はつく」

「やれるとは思うけれどわざと誰かを負けさせるようなことをしていいのかしら?」

「そうだよ! 勝負は正々堂々しないと!」

「まあ、面白くはありませんわね」

「ですが、このまま試合をすれば私たちがハリーに手を貸してレイブンクローを負けさせたということになります。そもそもグリフィンドールが勝つのが正しい歴史なんですから」

「メアリーがやりたくないならほかの方法を探す」

「デアとタスさんはどう思うの?」

「うーん、すでにハリーを助けちゃったならその分レイブンクローも助けないといけないかな」

「ワタクシはそれでは面白くないと思うのですけれどハリーが参戦しても圧倒的な試合になって面白くないのでどちらでもかまいませんわ」

「それはやってもかまわないということ?」

「そうとってもらっていいですの」

「じゃあやるわ。やらなきゃいけないタイミングになったら教えて」

「承知しましたわ」

 たった今思い出した問題も解決できるだろう。賢者の石を守りつつ複製し、クィレルも死なないように対処できた。メアリー・スーもなんか死ななかったのでまだ世界は続きそうである。さてと、今年の寮の点数発表はどうなるのだろう。グリフィンドールの優勝でないと困るけどな。




クィレル先生が救えてよかったです(白目)。その代わり怪物たちが暴れましたし、謎理論がゴリ推しされました。メアリー・スーまみれでシリアスになるわけありませんでした。

クィレル先生には確かにトロール使いの才があるはずなので天才のはずですし秀才のはずなんですけど実際どうなんでしょうかね。

メアリー・スーの件は彼女が死ぬときは劇的に死ぬのであっけなく死ぬわけないよねってオチです。賢者の石編でのプロローグ回収のつもりです。シリーズとしては回収できていないのでメアリー・スーの物語はまだまだ続きます。

次回はエピローグ(寮の点数発表)です。あと、もうちょっとだけ続くんじゃ。次で本当に賢者の石編完結なのでお付き合いもらえるとうれしいです。
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