ハリーポッターと物語の怪物たち   作:私の為の物語

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少し遅くなってしまいましたが、二年目の授業の始まりです。
前回闇の魔術に対する防衛術の授業までと書きましたが、植物学の授業までになってしまいました。
普段よりちょっと真面目な回かもしれません。


第3話 マンドラゴラと服従の呪文

 初日の授業一発目、呪文学の前に朝食をとっている。メンバーはもう説明不要だろうが、俺と怪物たちにドラコ、パンジー、その他もろもろである。

 昨日たらふく食べたはずのデアが意味不明な量のサンドイッチを口にかっ込んでいるのを見ているとグリフィンドールの机から大音量の声が聞こえてきた。

 爆弾の爆発のような音の主は手紙だ。そして声にも聞き覚えがある。ロンの母親のモリーさんの声が空中に浮いた手紙から再生されている。

 これは吠えメール。見た目は赤い手紙で予め吹き込んだ声を百倍の大音量で再生させて怒ったり、避難したりするためのもの。怒られたくないからといって放置すると高温になって爆発するという恐怖の代物である。

 声の主であるからロンが受け取ったようでアーサーさんの車を勝手に持ち出してマグルに見られたことを怒っているようだ。爆発はさせたくなかったのか開きはしたが、彼は恐怖から机の下に縮こまっており、近くにいたハリーとネビルも同様に恐怖ですくんでしまっている。

 ロンと共犯のハリーが怖がるのは仕方ないがネビルに至ってはまったく関係がないので少しかわいそうだ。

 穏やかな朝食の時間をぶち壊す存在に大広間の大多数が注目している。普段こういう喧騒を無視して食事を続けるデアでさえそれをやめて成り行きを見守っている。

『ほんの少しでも規則を破ったら覚えていなさい! すぐにでも家に引っ張って帰りますからね!』

 吹き込んだ声をすべて再生し終えた手紙から炎が上がり燃えて灰となった。

 静まり返ってしまった大広間だったが、誰かしらの笑い声が上がるとふたたびその喧騒が戻ってくる。俺らの中で一番最初に口を開いたのはデアだった。

「びっくりしたぁ。あれなんだったっけ?」

「吠えメールです。吹き込んだ声を百倍の大きさで再生するんですよ」

「あんなに目立っていてずるいですわ」

「あれは悪い目立ち方だろ」

 他の奴らも俺を含めてそれにつられて次々と口を開く。ドラコとパンジーもそれに続いた。

「ウィズリーの奴め! 折角穏やかに朝食をとっていたと言うのにぶち壊しじゃないか!」

「こんな空気では食べる気が失せるわ。……メアリーは関係なく食べているのね」

「食べるのが遅いから食べられるときに食べないといけないの」

「サンドイッチではなくて主食の方をちゃんとと取ってほしいですけれどね」

 メアリーとジェーンの会話にパンジーが反応する。

「あら、おかしいわ。パンも入ってるから主食じゃないの?」

 パンジーはタスさんのことを夢魔だとまだ知らないようで怪訝そうな顔をしている。ロンが普通に話していたのでメアリーは話しているものだと思っていたが違うらしい。彼はハリーから聞いて知っていたのだろう。

「サンドイッチもいいけどお肉もおいしいよね!」

「あなたにとっては肉が主食でしょうね! しかもパンが主食うんぬん関係ないし!」

「君たちにとっては吠えメールが隣のテーブルで吠えようと食事には関係ないか」

 吠えメールをBGMに朝食を済ませた俺らは授業の準備をして一時間目の呪文学の教室へ向かった。

 

*

 

 二年目の授業開始日一日目、午前中の授業は終わり、昼食を挟んで今日最後の授業が始まる。二時間続きの『薬草学』の時間だ。珍しいレイブンクローとの合同授業である。温室のど真ん中には架台が二つ並んでおり、その上に色とりどりの耳当てが並んでいる。

「午前中の授業基本的には一年時の復習がメインだったから楽……だったとは言えないな。変身術の課題がきつすぎた」

 一時間目の『妖精の呪文』は一年時の復習と楽ちんだったのだが、二時間目は『変身術』はコガネムシをボタンに変えるという復習にしては難易度の高い課題をさせられ、ほとんどの生徒が失敗していた。俺もその一人である。

「ワタクシは服まで作れたので満足ですわ! ただ、『妖精の呪文』では折角呪文を組み合わせてプチサーカスしましたのに皆さんの反応が薄かったですの……」

「一年続けられればそりゃ慣れるさ」

「……次はもっと派手にやりますの」

「やらんでいい」

「嫌ですわ!」

 この掛け合いも去年から数えたら何度目になってしまうのだろう。

「あたしはなにもできなかったよー」

「それも恒例だろ」

「そうだね! ジェーンは今年もなんでもできてるよねー」

「なんでもはできませんよ。変身術が得意なだけです。メアリーなんて杖が勝手に課題をするのですからそちらのほうが素晴らしいです」

「私自身はなにもできてないのだけれどね」

 メアリーも平常運転で杖が課題の呪文を唱えるわ、コガネムシの形をなんとなくボタンっぽく変えるわで、彼女がのろのろとしているうちになんでも勝手にやられてしまっていた。

「そろそろ時間です。おしゃべりはこのくらいにしましょう」

 時計を確認していたジェーンがそう言うと、すぐに始業時間になった。スプラウト先生が全員そろっていることを確認し、今日の授業の説明を始める。

「今日やることは、マンドレイクの植え替えです。マンドレイクを説明できる人はいますか?」

 原作ではグリフィンドールとハッフルパフの合同授業しか描写されておらず、その授業ではハーマイオニーしかこの問いに答えられていなかった。しかし、今この授業はスリザリンとレイブンクローの合同授業。勤勉さが特徴なだけあってレイブンクローの生徒がちらほらと手を上げている。

 優等生のジェーンも手を上げているのでこの状態あれば俺だけが答えて目立つということはない。俺も体質上ある程度知っているので手を上げてみる。

「たくさんいるようですね。勉強熱心な生徒が多くてうれいしいです。ではパドマ」

 彼女ははグリフィンドールのパーバティ・パチルの双子の妹である。姉と同じく黒い瞳と長い黒髪を持つインド系の彼女は、原作では双子の姉と同じくグリフィンドールのディーン・トーマスから姉と共に「学年一の美少女」と評されるほど端正な顔立ちをしている。

 原作と違い同じ学年に異常なほど整っているメアリーとジェーンがいるが、彼女たちは理想的過ぎて人間味が薄くもはや作り物の人形に見えるレベルなのでパチル姉妹の「学年一の美少女」という肩書はこの世界でも変わらない。俺も怪物とパチル姉妹のどちらが美少女かと聞かれれば後者と答える。

「別名はマンドラゴラ。その根っこは醜い男の赤ん坊の姿をしており、地面から引き抜くと泣き出します。そしてその泣き声を聞いた者は命を落とします。マンドレイクが若い場合、命は落としませんがそれでも数時間は気絶します」

「たいへんよろしい。レイブンクローに五点」

 俺の知識と照らし合わせても差異は見当たらない。才色兼備とは羨ましい限りである。

「マンドレイクは魔法薬の材料に使用されますがその理由はなんでしょう? 次はスリザリンの生徒にしましょうか。はい、ジェーン」

「一定の効果の解毒剤の主成分になるためです。姿形を変える呪いをかけられた人を元の姿に戻す効果のものに使われます」

 ジェーンが教科書丸呑みと描写されたハーマイオニーと同じように答える。さすが学年二位なだけはある。

「たいへんよろしい。スリザリンにも五点」

「他になにかマンドレイクについて知っている人はいますか?」

 今まで手を上げていなかったタスさんが天を衝くばかりに手を伸ばす。目立ちたがり屋の彼女だが、なぜかこの授業では挙手していなかった。疑問に思っていたがただ単に最後に追加で答えて目立ちたかっただけだったようである。

「最後にタスさん」

「マンドレイクの亜種としてアルラウネがありますの。叫び声が危険なのは同じですが、取り扱い方と効果が違いますわ。まず、赤ブドウ酒できれいに洗い、紅白模様の絹布で包み、箱に収めますの。そして毎週金曜日に取り出して風呂で洗い、新月の日には新しい布を着せたそれに質問をすると、未来のことや秘密のことを教えてくれるのですわ。ただ、あまり大きな要求をすると力が弱って死んでしまうので注意が必要ですの」

「マンドレイクそのものについてではありませんがアルラウネがマンドラゴラの亜種だと知っていたこと、それについての正しい知識を持っていたことに三点差し上げます」

「感謝いたしますわ!」

 先の二人より点数は低いが最後に答えたことで目立てたのがうれしかったのかタスさんは大満足のようである。

「さて、ドゥーが言ってくれたように、マンドレイクは非常に有用な効果を持ちます。ですが、パドマが教えてくれたように危険な側面も持ちます。なので今日はマンドレイクを安全に引き抜く方法を学びましょう」

 先生は用意した苗床を指さした。紫がかった緑色のふさふさした葉が地面から生えている。

「これはマンドレイクの苗です。みなさんには耳当てをして苗を引き抜いてもらいます」

 一歩間違えば死ぬ作業をすることにどちらの寮の生徒も文句を垂れ流す。声が大きかったのはもちろんスリザリン生であり、特にドラコだった。

「こんな危険なことをやらされていると父上が知ったらただじゃすまないぞ!」

「まだ非常に若いので安心してください。万が一叫び声を聞いても数時間気絶するだけです。命に別状はありません」

「十分危険じゃないか!」

 文句が多いドラコではあるが今の一言には俺も同感する。まあ、こんなメアリーに危険が及びそうなことなのにジェーンが黙ってるということは安全なのだろう。メアリーが温室に来てから眠そうなのが気になる。

「スプラウト先生、ちょっといいですの?」

「なんですか?」

「耳当てだなんて危ないですわ! 犬を使ったほうがいいですの!」

 さっきアウラウネの知識を披露したことで満足したものだと思っていたのだがそんなことはなかった。

「犬ですか?」

「マグルの思いついた犬を茎に繋いでマンドレイクを抜かせるという方法ですの」

 イタリアの著述家ヨセフスによって提案された方法がある。まず自分になついている犬を紐でマンドレイクに繋いで、自分は遠くへ行きそこから犬を呼び寄せる。すると犬は自分のもとに駆け寄ろうとするので、その勢いでマンドレイクが抜ける。犬は悲鳴で死んでしまうが、犬一匹の犠牲で無事にマンドレイクを手に入れることができるという方法である。

 これをタスさんが説明するが、自分になついてくれている犬を犠牲にするという方法にスリザリン生でさえドン引きしている。隣のパンジーもその隣のドラコもだ。スリザリン生は身内に対しては親愛の情が深いためむしろレイブンクローより引いている。

「家族を犠牲にするなんて私にはそんなことはできないわ」

「やはりマグルは野蛮すぎる」

 同室のセオドールだけは冷静に問題点を指摘した。

「別に犬一匹どうなろうとかまわないが、本当にこちらに来る保証がないのはどうするんだ?」

「ワタクシたちは魔法がありますの。服従の呪文を使えばいいんですのよ」

「確かに犬に使うのは法に反しない。だが、それなら直接マンドラゴラに使えばいいと思うが」

「かかったかどうか確認ができないんですのよ。かかってないと判明するときは絶命するときか気絶するときですわ。不確定要素はできるだけ少ない方がいいですわよね。服従の呪文であればかかったか試した後に行かせれば済む話ですの」

「そうだな。でも、犬がこのあたりにいないだろ」

「別に犬でなくてもいいんですのよ。人間以外の生き物であればいいので禁じられた森から適当に見繕えますわ。ケンタウロスがいるのは去年の罰則で確認していますの」

「さすがにヒトたる存在になりえる彼らを捨て駒にするのはよくないと思うが」

「どうしてですの? 使えるものは使うのがスリザリンですのに。別にヒトたる存在だろうとなかろうと盤面にある駒だというのにはかわりないんですわよ?」

 さすがにスリザリン生の中でも冷徹で割り切る性格のセオドールでも亜人を駒扱いするタスさんの言葉に絶句している。口ぶりからして彼女はこの世界をゲームだと認識している節があるので、彼女にとっては魔法使いやマグルどころか自分でさえ駒の一つだと思っている可能性がある。

 二人の会話が一時的に止まったのでスプラウト先生が話を先に進めた。

「えー、そんな非道な行為を認めるわけにはいかないので普通に耳当てをして抜いてもらいます」

「そんな! 効率よく安全にマンドラゴラが引き抜けるんですのよ! これで何人が救えるようになるとお思いですの!?」

「ケンタウロスを犠牲にしているので駄目です」

「一匹犠牲にすれば何人も何匹も助かりますのに……」

 なんだかんだあったがマンドラゴラを抜く作業に入れば平和に授業が終わった……となればよかったのだがそうは問屋がおろさなかった。

「駄目なんてそんなこと言わないでくださいまし! 今連れてきますの! メアリーも一緒に来てくださいな!」

 そう言ったタスさんがメアリーを連れて姿くらまししてしまう。メアリーはインペリオ使ってたからな、魅了の力がある以上その必要があるかは謎だが。

 一分ほどで彼女たちは帰ってきたが、その隣にはケンタウロスの姿があった。

「本当に服従の呪文を……」

「ええ、悪魔の……ですけれど変わりはないですわね」

「そんな……なんてことを……」

「彼に紐をたくさん括りつけてマンドレイクを一気に引っこ抜きますわ!」

「そんな非道な行為を認めません! すぐ解放しなさい!」

「別にいくらでも湧くモブなのですから問題ありませんわ。アランも無限に出現する雑魚敵を踏み殺してもなんとも思いませんわよね?」

「俺に同意を求められても困る。いいから元に戻してこい」

「たかがモブですのに……」

「ケンタウロスも私たちと同じ生き物です! そんな彼らにこんな仕打ちを……」

「なら、耳あてを付けさせますわ。これで問題ないですわよね?」

「そういう問題ではありません。服従の呪文が問題なのです」

「法律上問題ないはずですわ」

「だからそういう問題ではないのです」

「なにが問題ですの?」

「そのケンタウロスの意思を無視して操っているところですよ!」

 スプラウト先生の言葉にメアリーが青い顔をする。そうだな、お前がやってるんだもんな。

「ごめんなさい。無理」

「むっ、ここはどこだ?」

 自責の念に耐えられなかった彼女が服従の呪文を解いたようでケンタウロスが正常な思考を取り戻す。

「あーあ、解けちゃいましたわ」

「では、さっさと元のいた場所に送ってあげなさい」

「まだ諦めませんわ。ちょっといいですの?」

 タスさんがケンタウロスに話しかける。

「なんだね?」

「メアリーの頼みですの。耳あてをしてマンドレイクを一気に引っこ抜いてくださいな」

「私そんなこと言ってな……」

「メアリー? ああ、フィレンツェが言っていた。確かに髪が白いし左右の瞳の色が違うが、君がそうなのか?」

「え? ええ、私がメアリーだけれど」

「そうかそうか。君がか。面白い女の子だと聞いている。よし、わかったぜひやらせてくれ」

 そう言うとケンタウロスは耳あてをつけてタスさんからすでに彼女によってマンドラゴラの茎に括り付けられている紐を受け取る。

「私は何も任せてないわってもう聞こえてないわ……」

「これなら頼んだだけですわよね?」

「ですがね……」

「もう、引き抜いちゃいましたわ!」

 彼女の言葉にこの場にいる全員が驚き、彼を見た。言葉通りマンドラゴラが複数引き抜かれている。

 そして、温室が阿鼻叫喚で包まれた。そう、全員耳あてをしていなかったのである。だが、すぐにそれは収まった。

「なんで気絶しないんだ?」

 俺の問に答えてくれたのは顔を真っ青にしたスプラウト先生だった。

「それはマンドラゴラが泣き叫んでいないからです。今日の授業はこれで終わります。空いた時間は予習復習をしてください。あとスリザリンはタスさんの勝手な振る舞いにより20点減点です」

 授業が突然終わり、寮へ返される。減点はいつものことなのでもう突っ込むスリザリン生はいない。

 寮へ戻る途中に怪物たちと話をする。

「久しぶりに皆さんが驚いてくださったので満足ですわ!」

「あれはよくない驚き方だろ。次からああいうのはやめてほしいが、言ったところでやめないか」

「当然ですわ」

「はぁ、……まあなんとかなるだろ。そういえばなんでマンドラゴラが叫ばなかったんだ?」

「そんなの簡単ですわ」

「ええ、メアリーのおかげに決まってます」

 温室入った時点で彼女の魅了がかかっていたため抜いても泣き叫ばなかったのである。眠そうにしてたのはそれが原因か。

 しかし、そんなこととは知らない先生はちゃんと成長していないどころか死んでしまったのではないかと心配し、青い顔のまま授業を終えたという訳だ。

「眠かったのはそれが原因だったのね」

「自覚なかったのかよ」

「なんとなーく察しは着いてたけれど、自分で制御できるわけじゃないから」

「制御してくれ」

「……善処するわ」

「それにケンタウロスにインペリオかけたろ」

「それは、タスさんがどうしてもと言うから」

「服従の呪文をかけなくても魅了するのなら関係ないじゃありませんの。なら服従の呪文の方がインパクトがありますわ!」

「問題なのはそれじゃないから」

「なら効率のことですの? 確かに魔法で鳥や蛇などの疑似生命を作り出してそれらを用いた方がいいですわね」

「いやそうじゃなくて……というか服従の呪文以外に手があるならそっちにしろよ」

「それじゃおもしろくありませんわ! マグルの機械を使うという手もあったのでそちらとも迷いましたけれどホグワーツ内で使うのに手間がかかりすぎるのでやめましたの」

「まだそっちの方がよかったぞ」

「なら次はそちらにしますわね」

「やらんでいい」

「なぜですの! 皆さんが楽しめる上に、効率の良い方法を知ることが出来て皆さんがハッピーになりますのに!」

「今日のを見るにあれは楽しんでたんじゃなくて驚いてただけだろ」

「同じことですわ! 人は本能的に新しいもの好きですの。だから皆さんゴシップが好きなんですのよ」

「ホグワーツの噂の広がり具合とか見てると全く否定できないな。それに効率もいいんだろう」

「ならいいじゃないですの」

「だけど皆さんがハッピーとはいうが、今回のはケンタウロスに無理にさせてたろ」

「彼はメアリーの役に立つことが出来てハッピーでしたわよ? 服従の呪文でも幸福な気持ちになれますし」

「あれは酒飲んで正常な判断ができてないから幸福とかと同じ状態だ。メアリーの魅了もそんな感じだしな」

「メアリー、そうなのー?」

「私に聞かれてもわからないわ」

「メアリーがわからないのならもしかしたら本当に幸福なのかも知れませんわ」

「魅了の力で無理やり幸福にさせられているのを幸福というのか?」

「彼が幸福だと思っているのなら幸福なんじゃありませんの? それに彼が幸福でなかったとして何が問題ですの?」

「問題しかないだろ」

「なぜですの? 彼の犠牲によって他の皆さんが幸福になるのであれば彼にとっても幸福ですわよね?」

 最大多数の最大幸福。最も多くの人々に最大の幸福をもたらす行為を善とみなすらしい。原作既読者には『より大きな善のために』と言った方が伝わりやすいか。

 しかしこれは裏を返せば、少数派の幸福は悪であり、つまり少数は多数の為に切り捨てていいということになる。

 だから彼女は一人のケンタウロスより多数の者のために効率よくマンドラゴラを引き抜く方を選ぶというわけだ。

 そしてケンタウロスも多数の者を幸福にすることができたことを幸福に思うことが当然だと。

 流石に悪意がある解釈だけどな。

「俺はわからん。これに関しては下手なことは言えん」

「私は個人の幸福も大事だと思うけれど」

「あたしもそうかなー。一人一人が幸せならみんな幸せだよ!」

「私はメアリーと同じ意見です……と言いたいところですが、多数のために少数が犠牲になるのは仕方ないことな気がします」

「その割にはメアリーと多数だったらメアリー取りそうだけどな」

「決まってるじゃないですか。世界と多数なら世界を取りますよ」

 さも当然のように言っているため納得しかけたがメアリーと世界が等価だと言ってるのは常識的に考えておかしい。

「ジェーンはいつもそんな調子だよねー。なんでアランはどっちか言わないの?」

「そりゃ俺は中立でいないと駄目だろ」

「なんで?」

「なんでってそんなの決まって……」

 俺の中では当然のことだったのだが、説明しようとすると言葉が出てこない。なんとか説明しようと理屈をコネ始める。

「どっちもどっちだから中立なんだよ。全体のために少数を切り捨てていいということはいじめを認めることになる。あれも全体のストレス解消のために少数が犠牲になるだろ?」

「そうね。あとは生物としてのサイクルを考えるのであれば子供を産んで育てる以上の寿命はいらないし、足でまといもいらないから定以上の年齢になったり病気になったらさっさと自殺した方がいいわね。あと私みたいな無能も」

「えー、あたしはそれ嫌だなー」

「ちょっと悪意のある捉え方ですね。メアリーは全能ですし」

「そうだといいのだけれど」

「話を戻しますわ。とは言っても逆もまた然りですわよね?」

「ああ。ロリコンっているだろ?」

「お父様連れてきますの?」

「あの人は違うだろ……たぶん。別にこの話はショタコンでもなんでもいいしな。で、それらは少数派だ。多数がそうだったらそれが常識になってるからな。少数の幸福考えた場合、彼ら彼女らの幸福を考えて、全体でどうにかする必要がある」

「どうにかって?」

「全員でマイノリティの彼ら彼女らに合わせる。つまり色々合法化してしまえって話」

「そんなの駄目に決まってるじゃないですか!」

「そう思うよな。でも、少数派に完全に合わせるってことはそういうことだ。特にデアは物理的に傷つかない。で、精神的には成人してると」

「そうだけど」

「よし、なら大丈夫だな。今から全国のロリコンたちのために頑張ってくれ!」

「なにが!? 全然大丈夫じゃないけど!?」

「あと、メアリーも夢魔だしいけるわな」

「え? いやいやいや、リリスさんと違って中身人間だから! それに風評被害がひどい! 大多数がノータッチの人だろ!? あ、口調が……」

「だからこそ少数派のタッチしちゃう人の幸福もなんとかしろって話だよ」

「まあ、そうなりますわよね。個人を尊重すれば別の個人とぶつかる。当たり前のことですわ。無数にいる個人一人一人が納得する答えなんて出せませんの」

「殺人にしか幸福感を覚えない人間を尊重して自分を殺していいとは言えませんからね」

「そうは言ってもそういう人を排除していいとなると常時制御出来ない力を垂れ流してる私は殺されるけど」

「それは世界を殺すことになるのでありえないですよ」

「それは駄目だってあたしは思うな」

 そうは言うが物語の怪物自体がこの世界の異物であるわけで、世界全体としてはさっさと排除するべきなんだよな。俺が逆立ちしたところで返り討ちに合うだけだからやってないだけで。まあ、一応友人なわけだし、今やれるからやれと言われても困るが。

「あと、狼人間とかも危険だから排除しましょうの流れにならないかしら?」

「それは駄目だよ! ルーピン先生とかいい狼人間もいるじゃん!」

 ルーピン先生は来年の闇の魔術に対する防衛術の先生であり、彼は狼男である。それが原因で色々起こるのだが、それはまた来年の話だ。

「良いか悪いかはヒト側が勝手に決めたことだし、狼人間としては同類を増やしてるだけと言えばそうなのよね」

「ヒト全体としては彼らを排除する方向は間違ってませんけどね」

「それが本当に世界全体のためになるかは話は別ですけれど」

「うーん。あたしには難しいよ。全部助けるっていうのはできないの?」

「できたらやってますわよ」

「結局は時と場合によるしどちらかが絶対に正解って訳じゃないから中立ってこと。いくら話しても答えなんて出ないんだからこの話は終わり! でもタスさんは少し自重してくれ」

「うーん。難しいですわ」

「まあでもタスさんが色々やってくれると楽しいし!」

「たしかに新しいことやってくれるわね」

「私はメアリーを巻き込まないで欲しいのですが。規則も守って欲しいですし」

「規則規則言っていたら新しことはできませんわよ?」

「規則があるから秩序があるんですよ」

「はい、これ以上はメアリー大変なことをするから駄目だよ」

「私はそんなことできないわよ?」

「できるの!」

 タスさんもジェーンも同意するが、本人は首を傾げている。

 彼女たちが二年目も好き勝手にやってくれるわ、答えのない問題を考えさせられるわでいきなり頭が痛くなったが、こうして初日の授業は平和とまではいかないがなんとか終了した。




さっそく名もなきケンタウロスの犠牲者が出た植物学の授業でした。
作戦会議回だった前回よりも真面目に話し合っている気がします。

短くまとめていくつもりが、なぜか植物学の授業からそれて『より大きな善のために』について怪物たちが語りはじめました。おかしいです。
答えはないだろう話なので世間の皆様はどう考えてらっしゃるのか気になるところです。原作でもなんとなく扱われている気がしますし。

『より大きな善のために』についての彼らの立ち位置は以下になります
(全体)ジェーン > タスさん > アラン > デア > メアリー(個人)

今回は変に難しい話になったので次回の闇の魔術に対する防衛術の授業は軽い話にしたいです(願望)。
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