個人的に歴代の『闇の魔術の防衛術』の中でロックハート先生の授業が二番目に身につかない気がします。
いつも通りと言えばいつも通りの一日目の後、二日目は魔法史の授業から始まった。
それもいつものように退屈で、変わったことは教わる内容だけ。タスさんは話を聞かずにパフォーマンスの練習、ジェーンは眠そうなメアリーに授業内容を教えていたし、デアは勝手に物を食っていた。俺を含めた生徒の大半は二度寝タイム。
そんな平和な魔法史の授業が終わり、問題の『闇の魔術に対する防衛術』が始まる。問題と言っても去年と違いヴォルデモートが頭にくっついてるなんてことはなく、ただ単にペテン師が教授職についているというだけなので特に心配はいらない。
学校ということを考えれば教える実力のない奴が教えているというのは大問題だと思うがそれはそれである。
廊下の移動中にドラコに話しかけられた。
「ポッターの奴に聞いたんだが昨日のロックハートの闇の魔術に対する防衛術はさんざんだったらしい」
「へぇ、仲よくなったな。ハリー・ポッターファンクラブに入ったらどうだ? クリービーが作るんだろ?」
クリービーとは、ハッフルパフの一年生である。彼はハリーの大ファンで、写真を撮ろうとハリーを追い掛け回している。俺は組分けの時に見かけただけだが、原作通りならドラコは面識があるはずだ。
ちなみにクリービー自身はファンクラブを作るとは言っていない。ロンが「ジーニーとクリービーが会ったらファンクラブを作る」と言っただけである。
「ロックハートのファンクラブとの二択だったらポッターの方に入るだろうね。どちらも気にくわないがポッターの方が幾分かマシだ」
「そんなにか。で、どうさんざんだったんだ?」
「小テストがあいつのことばかりで意味がないものだった。それに教室に放ったピクシー妖精に対処できなかったんだ。教科書も物語を読んでいるようで嘘くさい。あいつは本当に優秀なのか?」
「次の授業ですぐにわかるさ」
向かった闇の魔術の防衛術の教室はクィレルのときと同じものだ。同じもののはずなのだが薄暗かった去年と違い、カーテンが全開となり明るくなっている。
壁にはロックハートの写真がこれでもかと並べられており、もはや写真ではなく模様に見えてくる有様である。
女子生徒たちは頬を染めながら彼の話で盛り上がり、男子生徒たちは昨日の授業の噂によってテンションが下がっている。
「ゴホン、みなさんいいかな?」
ギルデロイロックハートの登場である。マントを翻しながら登場した彼は周りが静まるのを待っているようだ。
「今回は大人しくしててくれよ」
「わかったわ」
「メアリーにちょっかいを出さなければなにもしないです」
「あはは、そうだといいねー」
「大人しくなんてできませんの!」
「はい、そこのお嬢さん方! 静粛にお願いします」
今度こそ教室が静まる。彼は満足そうに頷いた。
クラッブの前に置いてあった彼の教科書を勝手に拝借したロックハートはウィンクをしている自分の写真のついた表紙を、俺たちに見せる。
「私だ」
本人もウィンクをすると女子生徒たちから歓声が上がる。デアとタスさんも歓声を上げたが、頬を染めている彼女たちと違いただ単にその場のノリに乗っただけである。
「私ギルデロイ・ロックハートは、勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員で、雑誌週刊魔女のチャーミング・スマイルを五回連続で受賞しています。ただし、私はそんな話をするつもりではありませんよ。バンシーと笑顔で戦ったわけじゃありませんしね!」
彼は全員が笑うと思ったのだろう
しかし、笑ったのは数人、しかも一人以外は曖昧に笑っただけで本気で笑っているのはメアリーだけである。彼女だけが笑いをこらえようと必死になって顔を隠している。
「おっと、淑女に恥をかかせてしまうほどのジョークを飛ばしてしまってすみませんね! 彼女には私のスマイルをプレゼントしましょう」
メアリーに笑顔を向けるがさらに彼女はその笑いを強める。完全にツボに入ってしまったらしい。
話すどころではない彼女の代わりにジェーンが笑顔で答える。彼女の顔に張り付いたそれは完全に作ったものだ。
「ありがとうございます。ですが、このままでは貴重な授業時間がなくなってしまいます。あなたほどの人教わる機会などにそうそうないのですから」
「ファンサービスも重要ですが確かにそればかりやってはいけませんね。それでは授業に入りましょう。おっとその前に…… 今日は最初にちょっとした小テストを実施します。君たちがどれくらい教科書読んでいるか、内容を覚えているかをチェックするだけですから心配ご無用」
小テストと言われ、これがまともではないテストだと知らない生徒たちが不安そうな顔をし、知っている生徒はそれはそれで嫌な顔をしている中、ロックハートがテスト用紙を配った。
「制限時間は三〇分です。よーい、始め!」
1 ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?
2 ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は何?
3 現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、アナタは何が一番偉大だと思うか?
こんな質問がずっと三ページ表裏に記され続けている。やったぁ。原作ままの糞テストだぁ……。
一問目、ライラック色。二問目、この世界から悪を追い払い、自身のブランドのオカミー・エッグ・シャンプーを売り出すこと。三問目、……描写がないのでわからない。
三問目ですでに解けないじゃないか。適当にバンドンの泣き妖怪バンシーを追い払ったことって書いとこう。
白目を剥きたい衝動に駆られながら思い浮かぶ知識を総動員してテストを解いていく。
そして最後、五四問目はギルデロイ・ロックハートの誕生日はいつで、理想的な贈り物はなにか。これはなんとかなる。
生年月日は一九六四年一月二六日だから誕生日は一月二六日。
理想的な贈り物は魔法界と非魔法界のハーモニーだ。これで終わり!
三十分が経ち、答案を回収したロックハートがぱらぱらとめくって目を通した。
「私の好きな色はライラック色です。『雪男とゆっくり一年』に明記されているのに答えられないのは教科書を読みこんでいませんね」
教科書と言うか物語ですし、作者の好きな色が闇の魔術に対する防衛術のテストにでるなんて思うわけないじゃないですかー。
ちなみに俺はほとんど読んでない。
「ですが、スラグホーンさんとスミシー君は私の密かな大望を知っていました。この世界から悪を追い払い、ロックハートブランドの整髪剤を売り出すことだと。さらにスミシー君はその整髪剤がオカミー・エッグ・シャンプーだと知っていた。誰にも話していないと思ったんだけれど誰から聞いたのかな?」
まずった。まだ公表されていない情報だったらしい。
俺が言い訳を考えているとタスさんがごまかしてくれた。
「ワタクシのことはティーさんと呼んでくださいまし」
「わかりました。かわいい御嬢さんの要望ですからね。すぐに聞いちゃいます」
「お口が上手ですのね」
「私が言うのはいつも事実です」
彼はペテン師なので大嘘だが今はどうでもいいか。
「スリザリンに十点あげましょう。では授業を始めます」
ロックハートが布をかぶせた籠を取り出し机の上に置いた。
最初は冗談かと思った。さすがの彼もグリフィンドールで失敗したピクシー妖精を再度使うような真似をすることはないと思っていた。よって今回は教科書の朗読などで終わると高をくくっていたが完全に油断していた。
とはいえ生物だしメアリーがなんとかしてくれるだろう。
「さあ……気を付けて! 今から君たちは、これまでにない恐ろしい体験をすることになるでしょう。ですが安心してください。私が君たちを守ります。だから、どうかか落ち着いて!」
大それたことを叫ぶロックハートに気おされて生徒たちの顔が強張る。
少しためを入れ、芝居がかった動作で彼が布を取り払った。
「ふん、なんだやっぱりただのピクシーなんじゃないか」
噂通りのピクシー妖精だとわかったドラコが鼻で笑う。
「ただのピクシー? 侮ってはいけません。悪意を持った彼らは脅威になりえます」
ピクシー妖精は身長最大二〇センチほどの群青色をした悪戯好きの妖精だ。
飛行可能でボーっとしている人間を高いところに置き去りにすることがあり、非常に甲高い声をしていて仲間と会話できる。
彼らは籠の中で暴れており、こちらに向かって舌を出しているものもいる。
「では、君たちがどう対処するのかお手並み拝見といきましょう!」
ロックハートは声を張り上げると籠の戸を解放した。
その瞬間、またたくまにピクシーは飛び立ち、教室内を飛び回って、暴れまわり、悪戯を始める。
「タスさんってこういう妖精の中では理性的なほうだったんだな」
「当たり前ですの。ワタクシをなんだと思ってましたの」
「災害、もしくは天災」
「ありがとうございますわ」
「褒めてねぇ」
予想に反して好き勝手に動き回るピクシーたちを前にメアリーが傍観している。昨日のマンドラゴラの件を考えると魅了して止めそうだったが今回は大人しくしてくれるようだ。
ピクシーたちが暴れ回り、教室はめちゃくちゃ、壁の写真の向きも備品の位置もしっちゃかめっちゃかである。
そんな中生徒には一切被害が出ていない。ジェーンが自分とメアリーのついでに他の者にも盾の呪文を張ってくれたためである。
例外は二人。デアは持ち前の身体能力で、タスさんは無限の反応速度で、ピクシーを避けつつ自分の教科書とノートを守っている。
数分後、デアとタスさんはまだ楽しそうにピクシーの攻撃を回避している。
「先生、みなさんに被害が出ないように対処しましたけど」
ジェーンが見かねてロックハートに話しかけた。
「お二人には盾の呪文がかかってないようですが」
「デアとタスさんには必要ないので」
「おもしろーい! もっともっと! 食後の運動になるね!」
「ヌルいですわ! 同じ妖精として恥ずかしいですわよ!」
二人とも楽しそうにピクシーと戯れている。
「わかりました。身を守るので精一杯で捕まえるのは無理ということですね」
「はい、なので先生にお願いいたします」
さっきからジェーンの顔に張り付いている笑顔が怖い。メアリーに少しちょっかいをかけられたことが気に食わないのだろうか。あの程度で気分を害するのはどうなんだ。
「では私直々に……ペスキピクシペステルノミ!」
ロックハートが呪文を唱えるが何の変化もない。失敗したようである。なんで昨日の今日でできると思ったのか。
一匹のピクシーが彼の杖を奪う。これで彼は魔法に頼れなくなった。
「ロックハート先生。たかがピクシーですよ? どうしたんですか?」
「私がやったんじゃ意味がないでしょう? あなた方に経験を積ませてあげないと」
彼はジェーンの挑発にも笑みを崩さない。
「わかりましたの。ワタクシが捕まえますわ。そろそろ授業が終わってしまいますし魔法禁止でタイムアタックですわ!」
「魔法禁止でタイムアタックとは?」
タスさんは彼の問いかけを無視すると服を脱いでシャツ一枚になる。
「女の子が薄着になるものじゃありませんよ!?」
「はいはい。聞き飽きましたの」
彼女は妖精の羽を羽ばたかせるとピクシーのように教室を飛び回り始める。そして当然のごとく素手で彼らを捕まえて籠の中に入れ始めた。それは最早ピクシーが自ら進んで彼女の手の中に飛び込んでいくようだ。
彼女はピクシーの行動を完全に把握しており、行動も誘導できるので、後は手を置いておくだけでいいというわけである。
「これで最後ですわ!」
数分もしないうちにピクシーは残り一匹になり最後の一匹も一瞬のうちに捕まえられ籠の中に入れられた。
「新記録達成ならずですが、スピードランではないですので良しとしますわ」
素手ですべてのピクシーを捕まえたタスさんにロックハートが絶句していると授業終了の鐘が鳴った。その音によって我を取り戻した彼が授業を終了させる。
「これにて授業は終了です。ホグワーツの生徒は優秀ですね。スリザリンに五点。ではまた次の授業で」
そういった彼はさっさと奥の自分の部屋へと入って行ってしまった。
それを見たドラコがため息をついた。
「はぁ。相当下がってたハードルだったっていうのにそれでも予想以下か。あんなのを雇ってダンブルドアはなにを考えているんだ」
「なにも考えてなかったりしてな」
「そこは考えていてくれよ。ホグワーツの校長だろう」
頭を抱えるドラコの横でメアリーがあくびをした。彼女は夢魔の力を使うと生命力を消費して眠くなるのでそれを使った後にはよくあくびをする。つまり……。
「なにかしたのか?」
「ええっと。テストの点数とピクシーの行動の操作をちょっと……なのかしら?」
考えてみれば原作のグリフィンドールの被害に比べればジェーンが盾の呪文を使ってくれたことを鑑みても今回の授業の被害は少なかった。
「テストの点数はほどほどにしてほしいが、ピクシーの被害を抑えてくれたのは助かる」
「ごめんなさい。昨日の件があったのに」
「いや、あったから微妙に被害を抑えるだけで済んでるんじゃないか?」
「でも完全に被害を出さないこともできたはずなのよね」
「いつもあのくらいでいいよ」
「うんうん。ピクシー楽しかったしねー」
「私も今日のように協力しますので全部自分でやろうとしないでください。それよりよくないのはロックハートです」
「えー、かっこいいじゃん」
「顔立ちは端正ですがそれだけです。それよりも彼は……」
ジェーンがロックハートをこき下ろしはじめる。彼女はペテン師が教授なのが気に入らないようで彼の話題になるたび「嘘はダメです」だとか「資格がないのに不正です」だとか小言が多くなる。
「ただメアリーにちょっかいかけられるから嫌ってだけじゃないのか?」
「それは当たり前です」
「当たり前なのか」
当たり前だったらしい。
「ワタクシはロックハート先生を驚かせることができたので満足ですの。ワタクシも彼には負けられませんわ!」
「今でも十分に目立っていると思うから大人しくしててほしいんだけどな」
「それでもロックハート先生には敵いませんわ」
「俺には違いがわからん」
まだまだ目立ち足りないタスさんに、内心でため息をつきながら問題の闇の魔術に対する防衛術の授業が終わった。去年に比べれば楽なものである。
このまま、一年間平和に過ごしたいがそうもいかない。ハロウィーンにはスリザリンの後継者が動き出す。
しかし、それまでにはまだ時間はある。事件が起ころうと起こるまいと学業をこなさなければならないのは変わらない。余裕のあるうちに計画を立てて予習を進めて行かなければならないのはマグルの学校と同じなのである。
*
グラウンド前であおむけになり、下に布を引いて怪物たちと寝転がっている。なぜこんなことをしているのか。その理由を説明するには少し時間をさかのぼることになる。
スリザリンの談話室でドラコたちと話しているとクィディッチの話題になった。ホグワーツの寮対抗戦の選手になれるのは二年生から。物語の主人公であるハリーは特例で一年生で代表選手となったが基本的になれるのは今年からである。
クィディッチは魔法界で人気ナンバーワンのスポーツ。俺はなりたいとは思わないが大多数の生徒は代表選手に憧れている。
スリザリンの生徒たちもそれは例外ではなくその話題となったわけである。
その会話の中でドラコが「今年僕は代表選手になる。父上にニンバス二〇〇一を買ってもらうことになっているからね」と言ったのを聞きハロウィーンの前にもう一つイベントがあったのを思い出した。
彼は宣言通りに代表選手となり、彼を新シーカーとして迎え入れたスリザリンとグリフィンドールがクィディッチの練習のためにグラウンドの使用権を巡って言い争う。
そこでドラコとハリー、ハーマイオニー、ロンがいざこざを起こすことになるのだが、原作と比べて彼らの仲が比較的いいので同じ展開になるかが心配であった。
そのためそれを見届けるためこうしてグラウンドに寝転がってそれが始まるのを待っているというわけである。
怪物たちの中で一番退屈を嫌うタスさんが立ち上がる。ここまでなにもしなかったほうが不思議なくらいだったのでもったほうだろう。
「暇ですわ。ワタクシたちも飛行の練習をしません? 来年クィディッチをやることですしボールは魔法である程度作れますわ」
「やることないしやろー! こうやってじっと待ってるのは性に合わないよ」
「勝手にグラウンド使っていいのか? これから予約うんぬんでグリフィンドールとスリザリンが言い合いになるっていうのに」
じっとしてるのが苦手なデアがタスさんの意見に賛同したが俺たちは予約などとっていない。その辺の規則についてはジェーンが詳しいらしく彼女が答える。
「予約しなくても使っていいので大丈夫ですよ。ただ、予約者が来た場合はただちに退去する必要があります」
「ならいいのか。だが、俺は飛行能力はないし自前の箒なんか持ってない」
「箒置き場に備品のシューティングスターがたくさんあるから借りればできると思うわ。勝手に使っていいかはわからないけれど」
「備品の箒であれば問題ありません。メアリーがやるのなら私も参加します」
「飛行の練習はしたほうがいいだろうしやるわ。秘密の部屋で飛ばなきゃいけない可能性があるかもしれないじゃない?」
「じゃあやるってことでいいか。箒取ってくるよ」
「ありがとう。でも私が呼ぶから大丈夫よ」
メアリーが前に手をかざす。すぐに箒置き場の方向から二人分の箒が飛んできて彼女の周りを旋回し始めた。デアは箒が使えないしメアリーは箒で飛ぶより自分の羽で飛ぶほうがいいと考えているので彼女たちの分を用意しなかったのだろう。
俺らはそれぞれ箒を手に取る。タスさんは薄着になって妖精の羽を出した。
「やるなら私は擬態を解くけれど大丈夫かしら? 悪魔だとは言っているからいいのだけれど」
「夢魔と悪魔の差異なんて人間じゃわかりませんわ」
タスさんにそう言われたメアリーも服を脱ぎながら擬態を解いて夢魔の姿になる。夢魔の力で服を作っているとはいえこれまたすごい薄着である。
「それで、結局なにをやるんだ?」
「魔法で簡単に作れるのが普通のボールだけなのでクアッフルサイズのものを作ってパスなどの練習をしましょう。それならついでに飛行精度の練習もできます」
「ワタクシが妖精の魔法を使えばブラッジャーやスニッチもある程度再現できますわよ?」
「だとしてもまずはボールを扱うことからなれたほうがいいです。タスさんは余裕かもしれませんが私たちはそんなことはないですから」
「ああ、俺は飛行訓練で飛んだだけで飛びながらボールを扱うなんてできないからな」
「あたしも最初は簡単なことからやりたいよ」
「わかりましたわ。クアッフルサイズのボールだけ作ればいいんですのね」
メアリーが指を鳴らすとサッカーボールが二つ、彼女の足元に現れた。
「サッカーボールじゃねーか」
「大きさはだいたい同じですので代替できますわ。五人で二個なら回せますわよね?」
「そうだな。まずは地上で回そう」
「そうでしたわ。折角なら全員素の能力でやりませんの?」
「どういうことだ?」
「ワタクシは時間の力を、メアリーは魅了の力を、ジェーンは変身の力を、それぞれセーブしませんかって話ですわ。デアとアランはセーブのしようがありませんけれど。これなら来年いい勝負ができますわ」
「好き勝手やられるよりはいいが、メアリーはセーブとかできるのじゃ?」
「勝手に魅了しちゃうから無理よ。やれるならやってるわ」
「それが短時間ならできるんですの」
タスさんが袋から謎のアクセサリーの山を取り出した。ペンダントに腕輪、指輪、イヤリングなどそれぞれガーゴイルがあしらってあり、基本なんでもありそうである。
「なにこれ、見るだけで眠気が襲ってくるのだけれど」
「魔よけの呪文がかかったアイテムですわ。悪魔のような魔の存在の力を抑えられますの」
「これを付けろってこと?」
「ええ、そうですわ。とりあえず三十個以上つけてくださいまし」
メアリーがペンダントや腕輪をジャラジャラつけていき、まるで成金のようになった。
「すごい眠いわ」
「これで魅了の力が抑えられているはずですの」
「だったら普段もすればいいじゃないか。なんで今まで黙ってた?」
「こんなので抑えきれるわけありませんわ。一つ一分持てばいい方ですの」
パキリと嫌な音をたててメアリーのしていた指輪が砕けた。
「三十秒持たないのもありますわ」
「使えねぇ」
「そういうことですの。ワタクシは力を使わなければいいだけですし、ジェーンも今のまま普通にプレイすればいいですわ。二人はそのままですけれど、代表選手とやり合うのであればそうでなければワタクシたちが何も出来ませんわ」
「わかりました。メアリーもがんばるようですし、私もこのままでやります」
「あたしはそのままでいいんだよね?」
「ええ、ですが、普段と違ってワタクシたちがあなたに対応できませんのでそこは気をつけてくださいな」
「わかったー」
「俺は変わらんぞ」
「そうですわね。いつも通りに頑張ってくださいな」
「わかった。じゃあ始めるか」
俺から時計回りでタスさん、ジェーン、メアリー、デアの順で丸くなる。タスさんがボールを拾いひとつはデアに投げ、もうひとつは自分が拾った。
「では、回しますわよ」
タスさんは利き手でないほうの手、左手にボールを移動させるとそのまま投げる。ボールは放物線を描き、それをジェーンがギリギリで手の中に収める。
「力はつかってないんだよな?」
「当然ですの」
「よく利き手じゃないほうで投げられるな」
「このくらいできないとエンターテイナーは名乗れませんわ。とはいえやはり難しいですわね。筋力が足りませんの」
タスさんは小柄だし線も細い。ツールアシストと魔法で誤魔化してはいるが身体能力自体は低いのである。
「次はあたしがアランに投げるね!」
「手加減してくれ。全力で投げられたらキャッチできないどころか死ぬ」
「わかってるって。ほい!」
デアが腕の力だけでボールを放る。その瞬間、俺は嫌な予感がしたのでその場から全力で飛びのいた。
衝撃音とボールの破裂する音がする。体勢を直してその音の方向を見るとグラウンドがえぐられその周囲にボールの残骸が散らばっていた。
「あっごめん。これでも手加減したんだけど」
「やってからなんかやっちゃいましたじゃ遅いって言ってるだろ」
「ごめんてば」
「次は気をつけてくれよ」
「オッケー、次は大丈夫」
「ボールはもう一回ワタクシが作りますわ」
再度指を鳴らしてサッカーボールを作成し俺に投げる。やはり受け取ったボールは軽かったし、距離もギリギリだった。
「私がメアリーに投げる番ですね」
ジェーンも腕だけの動きでボールを投げる。デアの場合手加減するために手の力だけで投げたのだが、彼女の場合はただ投げ方がわからないだけだったのだろう。ボールはメアリーには届かずに地面に落ちて転がる。
「すみません!」
「大丈夫。私もうまくできないと思うから」
ジェーンはなんでもこなせるイメージがあったからボールもうまく投げられるものだと思っていたがそんなことはなかったらしい。
次は俺がタスさんに投げる番。特別得意なわけではないが友達とドッジボールやらキャッチボールやらをやっていたから月並みにはできる。体全体を使って投げたほうがいいってくらいの知識もある。
「タスさん、パス」
オーバースローで投げたボールはそれなりのスピードでタスさんの元へ到達し、彼女も難なくそれをキャッチ……することはできずに反動でボールを落としてしまう。
「痛いですわ」
「ごめん、タスさんなら取れると思ったんだが」
「ワタクシもそう思ったのですけれど、この体か弱すぎますわ」
「今みたいにしてる方が可愛いんじゃないか?」
「そんなことよりも楽しませられる方が大事ですの。あなたは逆に意外にちゃんと投げられますのね」
「意外で悪かったな。マグルの学校にいるときはドッジボールとか普通にやってたんだよ」
「デア、いいかしら?」
「いいよ! バッチ来い」
彼女は俺と同様にオーバースローで勢いよく投げる。運動は苦手だといっていたわりにはまともなフォームだ。これなら普通に届くだろうと思った矢先に手からボールがすっぽ抜けてあらぬ方向へ飛んでいった。
「アランみたいにはいかないわね」
飛んでいったボールが地面へ着く前にデアが着地点へと移動してキャッチする。
「無理じゃないよ。ちゃんとキャッチできたし!」
「いや、デアじゃないと無理だったでしょう」
「できたはできたんだから次がんばろー」
一回りしタスさんがジェーンにボールを投げると今度は力が足りず届かなかった。ジェーンがそれを拾おうとしている最中にデアから俺にボールが飛んでくる。今回は手首だけで投げてくれたのでなんとかボールをキャッチすることができた。それでも相当な勢いだったが。
ジェーンはもう一度メアリーに投げるが、今度はあらぬ方向へ飛んでいく。ジェーンはまず投げ方が悪い。そこから直さなければどうにもならなそうである。
俺は特に問題なくタスさんへパスしメアリーが投げたボールは今度は飛距離が足りなかったがデアが移動したため手に中に収まった。
このような感じで何回か回し、逆回しも試し終えた。始める前よりは全員勝手がわかってきたため上手くなったと思う。
今度は飛行しながら同様のものをはじめる。
飛行こそ何とかできていた俺だったがまず手を離してボールを持つのが難しい。集中していないと箒から落ちてしまう。さらにそのうえでボールを投げるとなると重心が移動するので地上の比にならないくらいそれが難しくなる。ボールを投げるのでやっとのジェーンはとてつもなくきつそうだ。
メアリーとデア、タスさんは羽で飛んでいるためその心配がなく両手が使えるのはうらやましい。
空中でのパス回しに四苦八苦していると地上から誰かの声が聞こえてきた。
「今日このピッチは僕たちグリフィンドールが予約している!」
グリフィンドールチームのキャプテンであるオリバー・ウッドである。時間が来たのだろう。下にはハリーをはじめとする選手たちが勢ぞろいしている。
待ち人が来たのに続ける必要はないので怪物たちとともに地上へ降りた。メアリーは数点砕けずに残っていたアクセサリーを外す。しといてくれればいいのに。
「我々の練習時間だ。そのために特別に早起きしたんだ! いますぐ立ち去ってもらおう!」
「わかってます。あなたたちが来るまでちょっと使わさせてもらってただけなのですぐに退去します」
俺らはそそくさとグラウンドの隅へと移動しようとすると緑の衣装の選手たち、我らがスリザリンチームがピッチへと入ってきた。スリザリンのキャプテン、マーカス・フリントがオリバーに話しかける。
「別にいいじゃないか。俺たち全員が使えるくらいに広いだろ」
「なんでスリザリンの生徒どころかチームまでいるんだ。ここは僕たちが予約してるんだ!」
自分たちグリフィンドールが予約したというのにスリザリンの生徒たちがいることに怒りが抑えられないようだ。
「ところがどっこい俺たちにはスネイプ先生から特別に許可を頂いているんだ」
「新人シーカーの教育のため、スリザリン・チームが練習することを許可する……だと? 新しいシーカー? 五人もか?」
「違う。そいつらじゃない」
大柄な六人の後ろから俺らほどの身長の人影が現れる。もちろんドラコだ。それに対してウッドは嫌悪感を示す。
「ルシウス・マルフォイの息子がどうしたんだ」
「その方がチームにくださった物を見せてやろう」
選手たちがニヤつきながら黒い箒を見せつける。その柄に金色で書かれているのは『ニンバス二〇〇一』の文字。
「先月発売の最新型さ。二〇〇〇よりも性能がいい。旧型のクリーンスイープとは……比べる必要もないね」
マーカスはクリーンスイープ五号を使っているフレッドとジョージを鼻で笑った。ドラコもそれを見て得意げに笑っている。
「おいおい、乱入かよ」
マーカスが言うとロンとハーマイオニーが何事かとこちらに歩いてきていた。原作通りになっているため安心する。
「どうして練習を始めないのさ? マルフォイもクィディッチのユニフォームなんか着ちゃって」
「僕が新しいシーカーだからだよ。父上が買ってくださった箒を、お前のところのチームに見せてやってたところだ」
ロンは七本もの最新型の最高級箒を見て口がふさがらなくなっている。しかし、最高級とはいえ魔法界は物価が安い。一本二万しないのでそこそこの野球のグローブやテニスのラケットと同じくらいしかしない。グローブを特注するとなると五万くらい平気で超えるのでぶっちゃけ安い。ニンバス二〇〇一が七本あっても一四万なので特注グローブ三個分ぐらいでしかない。
ハーマイオニーの両親が少し無理をすればすぐに揃えられるだろう。彼女の性格からしてそんなことはまずありえないが。
マグルからしたらそんな値段でもないのにもかかわらずドラコは自慢げに続ける。
「いいだろう? そっちのチームも資金を集て新しい箒を買えばいいのに。いつまで骨董品を使うつもりだい?」
スリザリンの選手たちが笑い始める。それを見たハーマイオニーが言い返した。
「グリフィンドールの選手は、お金では選ばれないの。純粋に才能だけで選ばれてるのよ」
ドラコの自慢気な顔が歪む。よし、この後彼がハーマイオニーのことを『穢れた血』と罵倒するはずである。ついに彼が口を開く……前にタスさんが口を挟む。
「お金を集めることができるのも才能ですけれどね」
「でもそれは親のお金であって自分のものじゃないわ」
「グリフィンドールの選手たちの才能も親からもらったものじゃないですの」
「才能は自分自身のものよ」
「才能の半分以上は親から遺伝して受け継いだものですのよ。あなたなら遺伝のことくらい知っていると思うのですけれど」
「……それなりには」
「ならわかりますわよね。神経質、外向性、開拓性、同調性、勤勉性は三〇から五〇、知能は七〇以上、学力は五〇から六〇パーセント。そして今話しているスポーツに関しては遺伝の寄与率が八〇パーセントにもなりますわ。これで親のおかげでないと言えますの?」
タスさんの言っていることは諸説あるし絶対とは言い切れない。しかし、ハーマイオニーもマグルの学校で習ったのか、自分で調べたのか、歯医者である両親に聞いたことがあるのか、どれかはわからないがなんとなく理解しているらしくすぐには言い返せないでいる。
「もし、親から与えられたものだったとしても才能は自分の力でしょう? お金は自分の力にはならないわ」
「親の力に頼っているという点では一緒ですわ。親がすごかったからすごいだけですの」
元が親の力でも自分の才能は自分のものなので全く違う。タスさんもそれをわかってて言っている。彼女は討論が好きだが勝つのが目的ではなくするのが目的なので適当なことを言ってわざと長引かせているだけだ。
「お金は使えばそれまでだけれど自分の才能は磨けば磨いただけ能力が上がるのよ。その点で違うわ」
「別に使えるお金があるのだから使うのは間違いじゃないと思いますわ。ちゃんとした道具をそろえるのも大事じゃないんですの? 才能だけで勝てるのならぜひ今もっている箒をワタクシにくださって備品のシューティングスターで対抗戦に挑んでくださいな」
雲行きが怪しくなったから話をそらしやがった。お金と才能の違いについて話していたのに。そして、怪物たちはやろうと思えばシューティングスターで対抗戦に勝てるから困る。才能があれば勝てるのはわかっているのにこの問いはひどい。
「確かに道具は必要よ。でも一番大事なのは選手の技術。道具に頼っているようでは一流にはなれないわ」
「そこのハリーは去年最新型のニンバス二〇〇〇で大活躍でしたわ」
「ハリーは才能もあるわ!」
「そうですわ。グリフィンドールの選手たちは才能があってハリーは最新型の箒。ならスリザリンはどうやって勝つか。努力で差をつけるしかないでしょう? 足りない才能は努力で補う。それにはできるだけ良い道具を使うというのも入っていますのよ」
「おい! なんで僕らが才能がない前提なんだ!」
「逆にあると思っているんですの?」
「自分の寮のチームに言う言葉じゃないと思うが。まあいい。ないと思ったら選手にならないしなれないだろう?」
「あなたがそう思うならそれでもいいですわ」
「引っかかる言い方をする。そもそもタスさんは……」
タスさんがドラコと話し始めてしまいほったらかされてしまったハーマイオニーが二人の話に入る。
「私が話していたのに入ってこないでくださる?」
「なんだ今僕が話しているだろう。話し終わるまで待つことすらできないのか」
「私が話している最中にあなたが割って入ってきたのだけれどね。品がないのはどちらかしら」
「この僕が品がない?」
「そうは言ってないわ。けれどそう聞こえたならそうなんじゃないかしらね」
「マグル生まれのお前に品がどうのと言われたくないね」
「あら、純血が偉いとかそういうのかしら」
タスさんが原作から流れを変えてしまったのでどうなるかと思ったがこの流れならドラコが『穢れた血』と言ってくれそうである。
「そうだ。誇り高い純血の一族だからな。品がないなど思われてはドラコ家の名が廃る。話に割って入ってしまったことに関しては謝っておこう」
「は? なんで謝ってるんだよ。『穢れた血』って言えよ」
原作どおりにいかないことが心配すぎてぽろっと声が出てしまった。そのとたんグリフィンドールから非難の声が上がりはじめ、フレッドとジョージに至っては俺に飛び掛ってくる。それを俺の前に立ったデアが一人で止めてくれた。
「ロンのお兄さんたち落ち着いて」
「これが」
「落ち着いて」
「「いられるかってんだ」」
女生徒、名前はおそらくアリシア、が金切り声を上げた。
「よくもそんなことを言ってくれたわね!」
そしてロンはというとローブのポケットから暴れ柳にぶつかった際に折れた杖を取り出して俺に向けながら叫んだ。
「アラン、許さないぞ!」
大きな爆発音が競技場に響くと緑の閃光が杖先ではなく折れた部分から逆方向に放たれてロンの胃の辺りに当たった。
「ロン! 大丈夫なの!?」
ハーマイオニーが悲鳴をあげる。
ロンが口を開くが出てきたのは声ではなくゲップとナメクジ数匹だった。
スリザリンの選手たちは笑い転げている一方でグリフィンドールの選手たちは心配そうに周りに集まる。
俺も彼らをかきわけナメクジを吐き出し続けるロンの元へ移動する。
「ロン、大丈夫か?」
「大丈夫も」
「なにも」
「「お前のせいだろうが!」」
フレッドとジョージに掴みかかれる前に誤解を解こうとする。
「ちょっと待ってください。俺もマグル生まれです」
「は?」
「だったらなんで」
「『穢れた血』なんて言ったんだ?」
「スリザリンはマグル生まれでも純血主義なのか?」
「純血主義ではないです。だったらあいつらとつるむわけないでしょう?」
擬態を解いて悪魔のような風貌となっているメアリー、背中から妖精の羽が見えているタスさん、説明不要のデアのほうを見て言う。
「それもそうだな」
「ドラコが言いそうだなって思ったのが口に出てしまっただけです」
「そうか」
「うちのロニー坊やの」
「「早とちりってわけだな」」
「でも失言は失言です。すみませんでした」
ロンについていたハリーとハーマイオニーが答える。
「仕方ないよ。なにか知らないけど聞いた感じマルフォイなら言いそうだからね」
「聞こえてるぞ!」
スリザリンのほうにいたドラコが反応したが二人は特になにも返さない。
「ええ、どういう意味か知らないから大丈夫だわ」
「それよりロンをなんとかしないと。ハグリッドのところに連れて行くよ。一番近いし」
ハリーとハーマイオニーはロンを二人で支えるとハグリッドの小屋の方へ歩いていった。
「まったく早急なやつだ。さあ、クィディッチの練習を始めるか」
「ちょっと待て。ここの予約はグリフィンドールが取ったと言っている」
練習を始めようとするスリザリン・チームにウッドが異を唱える。それに対して先ほどと同じようにマーカスが返した。
「だからスネイプ先生が、特別にサインしてくれたと言っている。そこの羽虫とマグル生まれは別のことで言い争っていたがそもそも論点はここの使用権についてだ。俺たちは先生から特別に許可を取っている。文句があるのならスネイプ先生に言うんだな」
「一旦帰るぞ!」
ウッドは悔しそうな顔をしながら、グリフィンドールの選手たちを引き連れてグラウンドを離れる。俺らがそれを見ているとドラコに話しかけられた。
「今から練習するがお前らはどうする。お前らが見たいというのなら見せてやってもいいが」
「いや、遠慮しておく。俺らは帰るよ」
「えー! 見ようよ!」
「そうですわ! そしてあわよくば練習に参加させてもらいたいですわ」
「そうなるから帰るんだ」
「宿題もありますし今日は帰りましょう」
「今は見て後でやってもいいんじゃないかしら?」
「そうやって後回しにすると終わらないですよ。やりましょう」
「はい」
「ということだ」
「そうか。残念だ。まあ、試合での活躍を楽しみに待っているがいい」
「ああ、期待しておくよ」
俺らもウッドたちのように競技場を後にした。これで本当にハロウィーンまでやることはないだろう。
ドラコの選択が原作から離れてきているのでアランが墓穴を掘りました。
やはりアランも怪物たちも二年目に入って完全に油断してますね。リスク管理が雑になってますし、舐めプし始めました。
魔除けに関しては完全にオリジナルです。魔法界にはそういうものもあるんじゃないかなと。ちなみにガーゴイルには魔除けの意味があるらしいですよ(知らなかった人)。
次回は、二年目のハロウィーンパーティです。普通はさらっと終わるイベントな気がします。