ハリーポッターと物語の怪物たち   作:私の為の物語

21 / 23
お久しぶりです。
完全に不定期になってしまっている本作ですが今後ともよろしくおねがいします。


第6話 引き篭もる理想

 ミセス・ノリスが石化した状態で見つかった日からホグワーツではその話題で持ちきりであった。ロックハートのこともそうだが、ホグワーツの生徒たちはミーハーすぎるのではなかろうか。

 スリザリンの生徒の間ではすでに『秘密の部屋』の話が広まっているし、他の寮でも時間の問題である。

 スリザリンの怪物が学校中の水道管を這いずり回っているというのに怪物たちは普段通りに朝食を取っている。デアがブラックホールのように料理を吸い込み、タスさんが優雅かつ高速でなぜか小刻みに振動しながら食べている。タスさんがそわそわしていていつもよりテンションが高いように感じるがそれだけだ。

 しかし、今日はメアリーとジェーンの姿がない。談話室で集まった時点ではデアたちから遅れてくると聞いていたが一向に来る気配がない。

「そういえばメアリーはどうした? ジェーンも見当たらないが」

「メアリーはちょっとひきこもちゃってねー。それを引っ張り出そうとしてるからジェーンもいないんだー」

「なんで突然そんなことになってるんだ?」

「なんでかはよくわからないけどベッドから出てこないんだー」

「デアが力ずくで引っ張り出せばいいじゃねーか。お前の力なら簡単だろ?」

「やったけど無理だったの」

「無理なわけないだろうが。メアリーの力じゃ抵抗したところでたかが知れてるんだから」

「デアがいるのに物理的に抵抗するわけないですわ。周囲の空間を固定して妨害してきますのよ」

「そんなんしたらすぐに生命力がつきるのは考えなくてもわかるだろ。その隙に引っ張り出せ」

 俺の言葉にタスさんが若干むすっとするが、すぐに楽しそうな表情に戻る。

「すぐにはつきませんわ。前回と違って酔ってませんし必要な分だけ力を使ってますの。彼女が考えなしに生命力を消費しないくらい考えなくてもすぐにわかりますわよね?」

「言うじゃねーか。これでも色々考えてるつもりなんだがな。主にお前らの対処方法をな」

「ですたら今回の解決方法も考えてくださいな」

「そんなの簡単だ。すぐにつきないだけで時間がたてば結局つきるんだからそれまで粘ればいい」

「それはそうですわね。でも、引きこもってる原因を解消しなければまた引きこもってしまいますわ。根本的に解決しませんと」

「確かにな。なにも考えてないと思ってたけどそんなことはないのか」

「ワタクシはいつも考えて行動してますわよ?」

 いつも突拍子もないことをするからそう思ってしまったが、彼女の考えは論理だったものである。それが正しいかは別の話だが。

「考えてないのはあたしの方だよねー」

「それはわかってる。で、原因はなんだ?」

「うーん。なんだろうね。昨日の夜寝る前までは普通だったんだけど」

「昨日の夜に何か変わったことはなかったか?」

「変わったこと? えっと、昨日は確か……」

 デアが昨日の夜の出来事を説明し始める。

 昨日の夜は寝室で他の二年生とスリザリンの継承者の話をして盛り上がったらしい。そこからミセス・ノリスの話題になりハロウィーンパーティーに話が移った。

 するとメアリーが途中で寝てしまい記憶がないと言ったため、デアがハロウィーンパーティーでの出来事を説明した。もちろん彼女の痴態も全て。

「確実にそれが原因だな。あんなことしたのに気がつけば恥ずかしくて引きこもる」

「そおー? 別に酔ってたんだしあたしたちも気にしてないんだけどな」

「俺も気にしてないが普通は恥ずかしいだろ」

「そんなもんなのかな。でも原因がわかったならそれを解決すればいいんだよね?」

「そうは言っても心理的な問題だからな。そもそもタスさんのせいなんだからお前がなんとかしろ」

「みんなで説得するほうが早いですわ! なのでアランも説得に参加してくださいまし!」

「いや、無理だろ。俺はそこまで行けない。女子寮に男子は入れないんだから」

 男子寮に女子が入ることは可能だが女子寮に男子が入ることは規則で禁じられている。入ろうとしても途中の階段が変形して寮までたどり着けない。

「別に入れますわよ?」

「入れたら規則で禁止されてる意味ねーじゃん」

「規則なんて抜け道を見つけるためにあるものですわ。はい、飲んでくださいな」

 タスさんが水筒を取り出し、コップにその中身である黒い泥のような液体をつぐ。

「なんだよこれ」

「ポリジュース薬ですの」

 ポリジュース薬は強力な変身薬である。これで女子生徒に変身すれば女子寮に入れるということだろう。

 変身したい者の体の一部、例えば髪の毛などを入れて飲めば一時間だけその者に完璧に変身することができる。この薬の調合には一ヶ月かかるはずだ。そんなものをなぜ常備しているのかは謎だ。

「なんで持ってるんだよ」

「この間の魔法薬の授業の時点で必要になることはわかっていましたのでバグ技を使って作っておいたのですわ」

 一年の最初の授業の時点で調合に六ヶ月かかる魔法薬を授業時間内に作れるとのたまっていたので可能であるのだろう。そもそもとしてメアリーが知ってたのならそうならないようにしてほしかったところである。

「飲んだところで俺は俺なんだぞ。女子寮に入っていいのかよ」

「見られて困るものなんて置いてないんだから問題ないですわよ」

「本当かよ」

「本当ですわよね。デア?」

「うん! 大丈夫!」

「それに変なことをしようとすればその前にワタクシたちが止めますわ」

「それならいい……のか?」

「いいんじゃない?」

「いいのかよ。でもそれを飲んだら誰になるんだ? お前らは人外の血が混ざってるから無理だろ」

 ポリジュース薬には欠点があり、人間以外の生き物には変身することができない。動物などに変身しようとすると中途半端に変身して元の姿に戻れなくなってしまう。

「今から調達しますわ」

 タスさんが席を立つと隣にあるグリフィンドールの机の方に移動し、座っていたハーマイオニーに話しかけた。少し話すと彼女を連れて戻ってくる。

「それで魔法薬の実験ってなにかしら!」

「今からやりますわ。ちょっとここだと危ないかもしれないので大広間から移動しますの」

 俺とデアに目配せしたタスさんはハーマイオニーを連れて大広間の外へ向かう。それに俺らも着いて行った。

 大広間の外の廊下には誰も人がいない。朝とはいえ不自然だがタスさんが行動を調整した結果であろうことは簡単に予想がつく。

 タスさんがさっきついだコップを取り出した。

「これはポリジュース薬ですわ」

「変身薬ね。スネイプ先生が数週間前に話していたわ」

「なので作ってみましたの」

「ちゃんとできてるの?」

「それを確かめるためにあなたの髪の毛が必要なんですわ」

「なんでわざわざ私に頼むのよ」

「ワタクシたちは人間以外の血が流れてますから駄目なんですのよ」

「他のスリザリンの人に頼めばいいじゃないの」

「折角なので異性に変身させることができるか試したかったのですわ。アランは変身してくれるという話になったのですけれど変身されるのに了承してくれる人がいませんでしたの」

 俺は変身するなどと一言も言っていないし、タスさんが素材を提供してほしいと頼んでいるところを俺は見ていない。明らかに嘘だがハーマイオニーは納得した。

「そういうことね。確かに男子が自分に変身するのは抵抗あるわ。でも、私だったら本当に変身できるのかを知りたがる。だから私に頼んだのね」

「さすがグリフィンドールの才女様、ご名答ですわ」

「お世辞はいいわ。それよりどうやって材料を集めたの? どこにでもあるものばかりではなかったでしょう? それに調合にも時間がかかるはずなのに……」

 材料を集めるのも難しいが作成方法が書いてある書物を手に入れるのも難しい。学校の図書館の蔵書に記されてはいるが、その「最も強力な魔法薬」は禁書に指定されている。そのため、禁書の棚をにある本を閲覧するには先生の許可が必要であるが、基本的に許可がおりないのである。

「天災妖精の名は伊達ではないですの!」

「褒め言葉かどうかは疑問ね。それでどうやって材料を集めたかを聞きたいの」

「どうやって集めたと思います?」

「それを聞きたかったのだけれど」

「やめとけ。どうせタスさんの言うことは理解できない」

「まず、道具を一種類九九個用意しますの。それを左に配置し、右は空欄、下に変化させたい道具を置いて、宝を入手すると、アドレスが一ずれますので、それを続ければ欲しい道具のアドレスより若いアドレスの道具を所持していれば理論上は手に入れることができますわ」

「この子はなにを言ってるの?」

「俺たちにもわからん」

「わからないならしょうがないわね。変身できるかだけでも確認したいわ。髪はこれでいいかしら?」

「ええ、感謝しますわ」

 タスさんはハーマイオニーから髪の毛を受け取るとそれをポリジュース薬を入れた。すると色が黒色だった薬が若干栗色へと色が変わる。

「では飲んでくださいな」

 コップを受け取りポリジュース薬を飲む。変身する人物によって味が変わるのだが、基本的においしくない。原作では煮すぎたキャベツや鼻くその味がすると描写されている。

 ハーマイオニーの場合は賞味期限が十数年過ぎた甘栗のような味がした。実物を食べたことがないので例えになってしまうがそうとしか形容できないなんともいえない味である。

 薬を飲み込むと体に違和感を感じすぐに吐き気がこみ上げてきた。全身が解ける感覚に襲われて立っていられなくなりその場に座り込む。あまりの気持ち悪さに意識が飛びそうになるがなんとか持ちこたえているとすっとそれが消えた。

「あー、あー、変身できたっぽいけどどうだ?」

 声を出してみるといつもの自分の声でない声が出る。つまり無事に変身できたというわけだ。髪も長くなっているようで額や目にかかってうっとおしい。

 しかし、ハーマイオニーに変身できているかどうかはわからない。自分が出す声は骨から伝わってくるものも混じってしまい普段聞いている彼女のと違って聞こえてしまう。

「本当に私になったわね。私がもう一人いるって変な感じ。それに口調が違うから違和感があるわ」

「だからといって私がハーマイオニーの口調を真似すると今度は私が違和感を感じるのよ。……うん、やっぱ駄目だ」

「二人ともそっくりだよ。口調がそのままなら見分けがつかないね。あー、でも服が違うからわかっちゃうな」

「なのでグリフィンドールの女子制服を用意しましたわ」

 どこからともなく女子の制服と赤色のネクタイを取り出したタスさんはそれを俺に差し出す。

「ここで着替えろと?」

「ワタクシたち以外誰もいないでしょう? なにか問題でもありますの?」

「おおありだろ。なんでわざわざ俺が女子の制服を着なきゃいけないんだよ。ハーマイオニーも嫌だろうしな」

「なんで私が嫌がるの?」

「姿が変わってる俺が着替えるってことは俺に着替えを見られるのと同じだろ」

「そうね。でもいいわよ。それよりも完璧に同じ姿になっているところを見たいわ。ということで着てくれるかしら?」

「どっちにしても俺は着たくないんだけど」

「わざわざ提供したのだからそれくらいしてくれてもいいと思うわ。それとも私に変身しておいて嫌だって言うの?」

「それを言われるとな」

 制服を受け取るとさっさと着替える。スカート以外は男子制服とほぼ同じだし、スカートもはき方の知識は能力のおかげで把握しているので問題なく着れる。というか構造を見ればなんとなくわかる。

「これでいいか?」

「ええ、口調以外は完全に私になったわね」

「うんうん、見分けがつかなくなちゃった!」

「ポリジュース薬がちゃんとできていることが確認できましたわ。ご協力感謝いたしますの」

「いいのよ。私も珍しいものを見れてよかったわ。私は大広間に戻るけれどあなたたちはどうするの?」

「どうするんだ?」

「どうしよっか?」

「決めてませんでしたわ。何もなければ寮へ戻りますけれど」

「俺は食いきったから帰ってもいいぞ」

「あたしは食べたりないけどそれはいつものことだし今日は時間がなさそうだからいいや」

「とのことなので寮へ戻りますわ」

「わかったわ。でもその姿で悪いことはしないでちょうだい。私のせいにされては困るわ」

「ああ、わかった」

「なら私は戻るわね」

 ハーマイオニーと別れてスリザリンの寮へ向かう。

 談話室へ入ると俺を見た生徒たちがぎょっとする。最初はもう変身が解けてしまったのかと心配したが今変身しているのはハーマイオニー。グリフィンドールの生徒がスリザリンの寮へ入ってくれば驚くのは当然であった。「なんでグリフィンドールが」というささやき声が聞こえる。

「あんまり目立つと面倒だからさっさと行こう」

「もう遅い気がしますけれどね」

「どっちにしても時間がないし早いとこレッツゴー!」

 普段向かう男子寮とは逆方向の女子寮へ向かう。行くまでの方向が逆というだけで特に代わり映えはしない。それは寝室も同様だった。広さや設備が違ったら問題だが。

 緑翠のビロードのカーテンのかかった四本柱の天蓋つきベッドは七つある。男子寮より一つ多いので少し狭く感じる。

 一つだけ布団が盛り上がっているが、これがメアリーがひきこもっているベッドだろう。その横の小机の椅子にジェーンが座っているので間違いない。

「その様子だと駄目みたいだな」

「グレンジャーさんがどうしてここに来たんですか?」

 驚いた様子のジェーンが戸惑いながら聞いてくる。姿がハーマイオニーなのでそう思うのは当然である。しかし、彼女自身が他人に姿を変えるドッペルゲンガーであるためわかるかもしれないと思っていたがそんなことはなかったようだ。

「ハーマイオニーじゃなくてアランなんだ。こっちに来るためにポリジュース薬を飲んだんだ」

「そうですか……ってアランさん!? ああああああどうましょう!?  そうです! 錯乱の呪文を!」

「いやいや何が錯乱の呪文だ。やめてくれよ」

「メアリーの薄着姿を見せるわけにはいきませんよ!」

「俺もメアリーも気にしないと思うが」

「私も寝巻きのままで薄着ですし!」

「おい、タスさん。見られて困るものは置いてないんじゃなかったのか?」

「ジェーンはものじゃありませんわ」

「そういうことじゃない。……まったく、目を逸らしてるうちにさっさと着替えてくれ。メアリーもだ」

「はい。メアリー? 着替えるだけは着替えましょう。ほら、毛布から出てください。私は気にしていないので大丈夫ですよ。とりあえず着替えるだけです」

 なにやらごそごそやっているがメアリーは一言も発しない。しばらく待っていると着替えが終わったようでジェーンが話しかけてくる。

「すみません。私は着替えたのですがメアリーはそのままなんです」

「じゃあ俺はいる意味ないな。帰るわ」

 寝巻きのままのメアリーを見るのをジェーンは許さないが彼女は着替えない。つまり、俺がここにいることはできない。よって帰って授業の準備ができる。やったぜ、帰れるぞ。

 さっさと帰ろうと階段の方へ向かおうとするとタスさんに肩をつかまれながら呼び止められた。

「駄目ですわ。あなたも一緒に説得しますの」

「着替えない以上俺はここにいれないだろ? そもそもここにいること自体がおかしいんだから帰らせてもらう」

「折角ここまで用意したんですのよ。一緒に説得してもらいますわ。ジェーン、メアリーは毛布から出てこないのだから寝巻きのままでも問題ないですわよね?」

「それもそうですね。わかりました。アランさんもお願いします」

「嫌なら俺に協力させなくていいんだぞ」

「いえ、メアリーと同性なのはあなただけですし協力してもらいたいです」

「さいですか」

 同性と言ってもメアリーは生物学上は雌だし前世含めれば年齢が全然違う。さらに種族も人間じゃないしその上物語の怪物なんだけどな。

「ご協力ありがとうございます。とりあえずこうなってる理由はわかりました」

 原因は俺の予想通りハロウィーンパーティーで酔ったこと。

 違ったのは理由。俺たちから生命力を力づくで奪ったこととその他言動への罪悪感のため。

「……ということなので説得おねがいします。私は気にしていないどころかもっと積極的になってほしいので同じことをしてもらいたいくらいだと言ったんですが駄目でした」

「それで駄目だったなら駄目だと思うが」

「いいじゃん、駄目で元々やってみよー!」

「適当がすぎる……が、俺らも気にしてないと言えば変わるか。メアリー、俺はまったく気にしてないぞ」

「あたしも! そりゃびっくりはしたけどそれはそれで楽しかったし!」

「みなさんも気にしていないようですよ?」

 ジェーンが呼びかけるが反応がない。時折毛布のふくらみがかすかに動くだけだ。

「原作キャラにしてたら話は違ってくるが俺らだけだ。ジェーンに至っては喜んでいるし気にするな。別にまた俺らに同じことをしようがどうでもいい。そもそも酔ったせいだし、酔ったのもタスさんのせいだ。そんなことよりも今こうやって時間をとられているほうがめんどくさい。さっさと出てきてくれないか?」

「そうそう。あのくらいなんでもないって。早く出てきてよ」

 俺の説得が通じたのか毛布からひょっこりと顔を出すメアリー。若干目が腫れぼったいので泣いていたようだ。

「おっ。出てきてくれたか。よし、じゃあそのまま制服に着替えてくれ。俺は男子寮に戻るからその後で頼む」

 メアリーへのメンタルケア完! アラン・スミシー先生の次回作にご期待ください。

「……駄目」

「なんでだよ。俺がいたら着替えられないだろうが」

「そうじゃないんだ。アランが出て行っちゃ駄目って意味じゃなくて俺が駄目って意味だよ」

 なんか口調が元に戻っている。ちょっと酔ったくらいで追い詰められすぎだ。

「それこそなんでだ。全員気にしないって言ってるんだ。問題ないだろ」

「みんなが気にしてなくても駄目なんだ。力を乱用しないって言ったのに、この身体を利用しないって言ったのに、飲んだら、酔ったらまずいってわかってたのに、駄目だった。やらかした。自制できなかった。駄目、駄目、駄目。前世でもそうだった。わかってるのにできない。裏切りたくないのに約束が守れない。どうせまた失敗する。またやらかす。また迷惑をかける。なにも変われてない。結局理想にはとどかない。なんでこんなんが生まれ変わったんだ。もっと優秀なやつはいたろう。そいつらが代わりに生まれ変わってくれれば良かったのに。……死にたい」

 これ説得するの糞めんどくさいなっていうのが一瞬でわかった。変な自虐スイッチが入ってやがる。前々から自意識過剰だとは思っていたがこれほどとは思ってなかった。これではもはや自意識の怪物である。

「これ説得できんのか?」

「できますわ! さあさあ色々試しますわよ!」

 タスさんはおもしろいゲームを見つけた子供のように楽しそうである。俺はめんどうなのでさっさと終わらして授業の準備を始めたい。

「色々試さないでいい。答えを教えてくれ」

「それじゃつまりませんわ。まあ、そもそもワタクシも知りませんので教えようにも教えられないんですけれどね。このパターンは始めてなのでよくわからないんですの。だからさっきからわくわくしっぱなしですわ!」

「なんか楽しそうだったのはそれが理由だったのか」

「そうですの。始めての事象に出会うことはあまりないんですの。冷静でいられる自信がなくなってしまうくらいですわ」

「できるだけ冷静でいてくれ。なんだかんだいっていつも冷静なのはお前くらいだからな。それにお前が原因でこうなってるんだ。本来責任を感じるべきはメアリーじゃなくてお前だからな」

「言われなくてもわかってますわ。この機会を逃すなんてもったいなくてできませんわよ。ワタクシの全力をもって説得しますの」

「じゃあ全部頼んだ」

「それじゃおもしろくないですの。ワタクシ以外と話し合わないとつまりませんわ」

「おもしろいとかつまらないとかひどいです! あなたのせいでメアリーが落ち込んでいるんですよ!」

「ワタクシが原因と皆は言いますけれど、遅かれ早かれ似たようなことは起きてたとは思いますわ」

「あなたがこういうことをしなければメアリーは理想のメアリー・スーなんです!」

「ワタクシはそう言うあなたが原因だと思いますわ」

「なんで私のせいにするんですか!」

「まあまあ、原因の人がこんなやりたい放題してれば責任感を感じるなんて馬鹿らしくなるって」

「逆に怒りはじめそうで嫌だけどな」

「なんでもいいですわ。順番に試していきますわよ」

 作戦その一。三人がそれぞれ気にしていないことを全力でアピール、タスさんは自分が原因だと主張し、罪悪感を取り除く。

「さっきも言ったがそもそもタスさんのせいだ。校則を破ったわけでも原作をぶっ壊したわけでもないんだからさ。今の方がよっぽど面倒なんだけど」

「ごめん。迷惑をかけてしまっているのはわかってる。でもそういうこと。俺に関わると面倒なことが起きる。だから関わらないでくれ」

「お前はこの世界に存在している時点で面倒なんだ。それはお前がここに閉じこもっても変わらん」

 俺の言い分を聞いたメアリーは黙り込み、彼女の周囲の空間の歪みがいっそう強くなっていく。

「ちょっとアランさん? なんで悪化させてしまうんですか?」

 それを見たジェーンは声に怒りを混じらせて俺を非難する。

「この世界に存在しているのが面倒と言われたらメアリーはなおさら世界に干渉しないように引きこもってしまうに決まってます」

「引きこもったところで危険な存在には変わらんだろうが」

「ほらまた言いましたね。そういうことを言うと駄目なんです」

「なら俺には説得は向いてないな。ジェーンが説得してくれよ」

「ちゃんとメアリーのことを考えて説得すればいいんです。なんでそんなことも考えられないんですか」

「俺は考えてると言ってるだろ。考えた結果ずれてるんだから無理だろうが」

 俺とジェーンが口論をし始めるとデアが俺たちの間に割って入る。

「まあまあ。あたしたちが喧嘩してるとメアリーが怖いからやめよーよ。アランが駄目駄目だったから次はあたしの番ね!」

「駄目駄目ってお前……」

「事実じゃないですか」

 説得に失敗したとはいえひどい扱いである。

 俺の次はデアが説得を始める。彼女は考えるのは得意そうではないが、その楽観的な価値観にメアリーが影響されて考えを改めるかもしれない。

「今度はあたしがメアリーを説得するよ!」

 デアがメアリーの布団を剥がそうとすると空間が歪みその手が阻まれる。

「なにをそんなに気にしてるの?」

 俺が悪化させてしまったからかメアリーはデアの問いに一切答えない。

「あたしは迷惑だなんて思ってない。むしろ色々やってくれる方が楽しいよ。やらかしたっていいじゃん。むしろずっと冷めてる方がつまらなくない?」

「……そうかもしれない」

 メアリーから反応が返ってくる。これはいい感じかもしれない。

「でも、今までたまたまデアが迷惑だと思わなかっただけでいずれ迷惑をかけると思う」

「今はかけてないからいいじゃん」

「いつか迷惑をかけられてしまう奴と付き合うのは嫌じゃない?」

「わざと迷惑かけてくるような人とはお近づきになりたくないけどさ。そうじゃなかったらそれはそれで楽しめるって思うな。人間なんて迷惑かけてかけられてなんぼじゃん?」

「……デアは人間ができてるんだな」

「そんなことないよ。メアリーよりあたしの方がみんなに迷惑かけてると思うし。でも迷惑かけちゃったならその分みんなのためにがんばらないとだよ!」

「……そういう前向きなところ本当に尊敬するよ。俺には眩しいけど」

 それだけ言うとまたメアリーはだんまりを決め込む。俺の後よりは空間の歪みがマシになったような気がする。

「やっぱりメアリーの事はジェーンに任せるのが一番だね!」

「私が言えることは言ってしまったのですが」

「まだまだだって。思いつく限りのことをやってみよう!」

「わかりました」

 メアリーのことを理解しきっているジェーンならどうにかしてくれるかもしれない。しかし、それならばこうならずすぐに解決できているはずなので不安が残る。

「誰も迷惑だなんて思ってないんですから気にする必要なんてありません。あなたは迷惑なんてかけてないんです。そう思ってしまっているだけなんです」

「本当にそうだったらいいんだけど、こんな存在しているだけで災厄を振りまくような怪物は迷惑以外の何者でもない」

 メアリーの言うことは間違っていない。彼女は物語の怪物。その存在しなかったはずの異物は世界にひずみを発生させる。ただそこにいるだけでそのひずみを広げ、最後はこの世界を破壊するのだ。それに間違いはないのだから。

「だからなんなんですか?」

「だからそんな怪物は世界と関わってはいけない」

「あなたは理想なんです。世界そのものなんです。だから災厄を振りまいたとしてもそれが世界の意思。あなたがルールなんですから余計なことを考える必要なんてありません」

 ジェーンがとんでもないことを言い始める。怪物たちの中では常識人の彼女もメアリーが関わると怪物になってしまうようである。

「よくないだろ。なに言って……うぐっ」

「ちょっと黙ってて! 今はいいじゃん。メアリーが立ち直らせるのが先!」

 デアに小突れる。彼女にとっては軽く触れたつもりだったのだろうが俺にとっては思いっきり殴られたのと同等の衝撃だったので動けなくなる。

「……どうでもいい?」

「そうです。どうでもいいんですよ。なぜメアリーが我慢して苦しまなければならないんですか? あなたが幸せになれない世界は理に反しています。世界があなたを否定するのなら私は世界を許しません」

「そう思ってくれるのはうれしい。でも俺にはもったいない。そこまでの価値はない。この世界に比べれば俺は無価値だ」

「いいえ。私にとっては世界なんてなんの価値もありませんよ」

「こんな化け物、いや、中身はただの人間だ。汚くて無能で無価値な、でも力だけはある。それを考えなしに振り回すだけの人間。逆らえない力を使って無理やりなんてそんなものは唾棄すべき最低な行為だ」

 メアリーは自分のことを考えなしだと言うが本当に考えなしならこのようなことは考えない。むしろ考えすぎである。

「酔ってただけで普段はそんなことしないじゃないですか」

「酔ったらやってしまったということは本質的にはそういう人間ということ。だから俺は外には出ない」

「それは違います。それはあなたの本質的なものではありません。あなたにとって生命力を吸い取るということはものを食べるのと同じこと。食べたいなんて根源的な欲求、生き物ならあって当然です。逆にないほうが生き物として欠陥なんですから」

「だとしても無理やりキスなんて……」

「私は生命力を毎日渡してますから大丈夫です。今してもいいですよ?」

「ジェーンはそう思ってくれるかもしれない。でもデアにも、アランにも……」

「あたしも別にあのくらいどうってことないよ。海外なら……いや、ここが海外だけど、キスくらい挨拶でするんだから」

「でもそれは頬とかおでことかで」

「口ってこと? そんなの生前に数え切れないくらいやってるんだから今更気にしないよ。なんでそんなに気にしてるの?」

 デアのヒロインとしてあるまじき発言にメアリーが固まる。ああ、まあ生前が高校生ならそのくらい余裕でありえるな。こういう物語のヒロインとしてはありえんけど、ヒロインじゃなくて怪物だしそんなものなのかもしれない。

 はっとしたメアリーが俺にもおそるおそる聞いてくる。

「……アランは?」

「俺はお前らと違ってこれが一生目だし俺はモテないからな。あれがファーストキスってやつだ」

「落ち着いてて大人っぽいしそういうのは済ませているものだと……」

「年はまんまこの年だしこんな斜めに構えたいけ好かない性格になったのはつい一年前だ」

「本当にごめん」

「謝られたほうが不憫になるから謝るな。相手が理想のメアリー・スーでラッキーくらいに考えるさ。少なくとも見た目は完璧だろ?」

「中身はゴミクズだけど」

「それでもかまわないくらいなんとも思ってないってことだ。それにお前の言う通り中身はお前なんだからノーカンだろ」

 俺もこの前までは恋愛に少しはくらいは興味があったはずだがこの体質になってからいまいち実感がわかないというかその感覚がわからなくなってしまった。すべて他人事のよう思えるのでなんとも思ってないのは嘘ではない。

「デアもアランさんも大丈夫みたいですよ?」

「ジェーンにはそれ以上のことをしかけた。それだけは冗談じゃすませない」

「別に私は構いませんよ」

「……そうだとしても駄目だ。いつたかが外れてしまうかわからない。いつ傷つけてしまうかわからない」

「優しすぎるんですね。誰も傷つけずに過ごすことなんて不可能なんですから普通の人はそれを気にしない。でもあなたは気にしてしまう。それはあなたのいいところですが欠点でもありますね」

「俺は優しくないよ」

「そのとおりですわ!」

 順番的に最後であるタスさんが口を挟んだ。自虐を肯定されたメアリーが動揺してまた固まってしまった。

「なにがそのとおりなんですか。そんなことありません。優しくなかったら自分以外のためにこんなに悩まないでしょう?」

「あなた、メアリーのことは自分が一番わかっているみたいな雰囲気を出していますが全然わかっていないようですわね」

「そういうタスさんはわかってるんですか?」

「メアリーは他者のためになんか動いていませんの。究極的には自分のため。彼女が他者に優しくするのは自分が傷つきたくないからですわ。あなたたちに謝るのは嫌われて自分が傷つけられたくないから。世界を拒絶するのは世界から拒絶されたくないから。自虐をするのは失望されないためにハードルを低くしたいというだけ。今もそんなことはないとワタクシたちに否定されて自分を肯定しもらうのを期待していたのですわ。だからワタクシに自虐を肯定されてしまって動揺しているのんですの。メアリー、そうですわね?」

 図星だったのか彼女は目をそらして沈黙する。

「沈黙は肯定とみなしますわ」

「そうなんですか?」

「……そうなんだと思うよ。だから今もそんなことないと言ってもらえるのを望んでる。タスさんの言うとおりに」

「私が失望するわけないじゃないですか。こう言ってほしいんですよね? なら私は言いますよ」

「自分のためとはいえ相手のことを思えるのならそれは優しいんじゃないのー?」

「根本的には相手のことなんて考えてない」

「自分のためでも他の奴のためになるのなら別にいいじゃねーか。やらない善よりやる偽善だ。偽善だとしても他の奴のためになってる時点でそれは偽善ではなく善だろ」

「動機が純粋な善意じゃない」

「誰にも傷つけられたくない。ある意味純粋じゃないか? それに体の悪用うんぬんの話、俺もこの体になってそれがどのくらい人の敵意を買う可能性があるのか考えた。それは自分の身を守るためなのかもしれない。それでも自ら進んで悪用する奴よりはマシだと俺は思うね」

「力を持った偽善者が外に出たら悪影響しかないわ」

「そうだろうな」

 何当然のことを言ってるんだこいつは。物語の怪物、しかも存在するだけで世界を自分の都合のいいように改変するメアリー・スーなのだから当たり前の話だ。だけど、それは他の怪物たちも同じなのである。であれば目には目を歯には歯を怪物には怪物をぶつければいい。俺には無理だが怪物なら怪物を止められる。

「でももし、本当に危険なら俺……は無理だけど他の奴らが止める。それともこいつら全員相手にして好き勝手できると思うほどお前は自信過剰か?」

「それはない。俺なんかが全員と敵対して勝てるわけがない」

「だろ? なら大丈夫だ」

「本気になったあなたならいざ知らず迷っているあなたなら私たちでも止められます」

「そうだよー。メアリーが間違ったことをしちゃったときはあたしたちが止めるから心配ないって!」

「ワタクシはあなたがいてくれたほうがおもしろいですわ。そもそも今回の件はワタクシが原因ですしね」

「……大丈夫なの……かしら?」

 余裕が戻ったのか普段のメアリーの口調に戻っている。

「大丈夫です。さぁ、着替えて授業の準備をしましょう」

「……そうね。わかったわ」

「ちょっと待……」

 立ち直ってくれたのはよかったのだが俺が止める前にメアリーが布団から出てきてしまう。なので俺はさっさと目をそらした。

「……アランさん?」

「見てない見てない。俺は帰る。でも俺の体はいつ戻るんだ?」

 よくよく考えたら面倒だ。服も着替えないといけないが、解ける前に向こうで着替えるわけにもいかないし、ここで戻るのもまずい、さらに誰かが見てる前で戻るのも良くない。

「ワタクシが姿くらましで人目のつかないところに連れて行きますのでそこで着替えればいいですわ」

「頼む」

 タスさんの手を握り、付き添い姿くらましに備える。彼女がそれを行う前にメアリーに礼を言われた。

「ごめんなさい。ありがとう。変身までさせてしまって……」

「そう思うならこういう面倒ごとはこれっきりにしてくれ」

 メアリーは困ったように顔をしかめると無言のまま首をかしげる。

「これっきりにするとは言わないのかよ」

「善処はしたいけど断言はできないわよ。だって今回の件もどうにもできなかったのだから」

「そこは次はどうにかできるようにしてくれ……」

 俺の願いに対して曖昧な笑みを浮かべてごまかすメアリー。 まったく彼女も他の怪物に負けず劣らず厄介な怪物である。

 後ろを向いた状態で彼女ととやり取りをし、それが終わったのを見計らったタスさんが指を鳴らすと景色が歪み別の場所へ移動した。

 比較的大人しかったメアリーだったが、彼女も自意識がとんでもなく肥大した化け物であることを再確認した朝だった。世界を根本から変えることすら可能な力を持ってるくせにメンタルが豆腐すぎる。

 彼女も他の奴らにと同等にめんどくさいのだ。それは逆もまた然り。他の奴らもいつ暴走するのかわかったものではない。

 とはいえ、今回のように怪物をぶつけて相殺すればいいので問題なさそうである。そう考えると、朝の出来事は、タスさんに転送された先が禁じられた森でおもしろ半分で放置されたことに比べればマシな出来事だったかもしれない。……と思ってしまっている時点で俺も相当毒されてしまったような気がする。




申し訳ありません、決闘クラブまで話が進みませんでした。ただでさえ亀更新になってしまっているのに。
メアリー・スーなので自意識過剰をテーマにしたら面倒くさいことに……。メンヘラの処理に一話分使うとは思っていませんでした。この拗らせた面倒くささが物語の怪物である由縁ということで一つ……。

次回は流石に決闘クラブに入れると思います!
怪物同士ぶつければ被害者が出ないことに気がついた今日この頃(なお原作キャラの出番が減少する模様)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。