ハリーポッターと物語の怪物たち   作:私の為の物語

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いきなり不定期になってしまい申し訳ありません。


第3話 舞台への旅路

 ホグワーツ魔法魔術学校への移動手段は汽車。魔法使いなのだから箒でも使うものだと思うのだが箒でも魔法の絨毯でもなく汽車である。

 その汽車、ホグワーツ特急はロンドンのキングズ・クロス駅、九と四分の三番線から発車する。

 九と四分の三番線なんて中途半端なホームとなっているのはマグルにその場所を知られないためだ。行き方は九番線と十番線の間の柵を通り抜けるだけなので知っていれば簡単に入ることができる。

 あの怪物たちとは駅で待ち合わせて合流することなっているため、俺は九番線と十番線の間であいつらを待っている。

 タバサさんから貰った時計を確認すると現在、午前十時二十八分。待ち合わせの時間は三十分丁度なのでまだ時間ではないのだが俺以外は誰一人として来ていない。

 特急は十一時発のためまだ三十分以上あるが、学校まで行くのに夕方になるまでかかるのでこれに乗り遅れた時点で一日以上の遅刻が確定する。新学期早々そんな大遅刻をするわけにはいかないはずなのでそろそろ来てもいい頃なのだが。

 俺が場所を間違えている可能性を考え、他の魔法使いがいないか周囲を見渡すがそれらしき人はいない。いるのは普通の服を着たマグルだけだ。

 大学生くらいの青年二人がしゃべりながらこちらに歩いてくる。ただ、服装を見るに魔法使いではない。

「いやーあのピエロ達の大道芸すごかったな」

「ピエロもすごかったけど、子どもたちもジャグリングしながら綱渡りしてたからな」

 どこかでピエロが大道芸をしていたらしい。クラブを五本ジャグリングするのは難易度が高くできるようになるには数年かかるはずだ。それを綱渡りをしながらとは正気の沙汰ではない。それも子供たちがである。いやはや、この世界にはすごいパフォーマーがいるものだ。

 ……そんなわけはない。絶対あの魔法使いの一家である。

「おはよう、アラン。待たせてしまったかな」

「今、三十分ジャスト。時間通り」

「おはようございます。久しぶりですわね!」

 噂をすればなんとやら、タスさんたちが荷物を抱えてやってきた。タスさんが抱えているのはホグワーツへ持っていくものなので理解できるが、なぜ他の二人も大荷物なのだろうか。中身は絶対パフォーマンス用の道具だろう。

「おはようございます。アランさんたちマグルの前で魔法を使いましたね?」

「なんの話だい? そんなことしたら捕まってしまうよ」

 魔法使いがマグルの前で魔法を使うのは基本的に禁止されており、それを破るとしかるべき行政機関によって裁かれることになっている。

「さっきクラブを五本ジャグリングしながら綱渡りをしているピエロたちがいるって話を聞いたんですけど」

「それはよかった。私たちのパフォーマンスに満足してくれたらしい」

「お母様には負けますわ」

「体の成長不足が原因。筋力も大きさも足りてない」

「お母様だって同じくらいでしょうに」

「その少しの違いでも影響が出る」

「魔法が使えればワタクシだってもっとできますの……」

「魔法を使わずにあのパフォーマンスをしたのか?」

「なにを当たり前のことを言ってるんですの? マグル向けにやるのに魔法なんか使うわけありませんわ」

「ああ、魔法を使わなくてもあのくらいはできないとプロは名乗れないからね」

「当然」

 本当に魔法を使わずにパフォーマンスを行っていたらしい。仕事としてやっていることだからあのくらいはできて当然なのだろうか。だとしても学生のタスさんができるのがおかしいが。

「さすがはエンターテイナーですね。そういえばデアたちはまだですか? メアリーもジェーンも見かけてないんですが」

「僕たちも見かけてないな」

「彼女たちなら三分前になるまで来ませんわ」

「なんでだ?」

「デアとメアリー、それとリリスさんが寝坊しましたの」

「何で知ってるんだよ」

「あら、あなたには大方予想がついているんじゃありません?」

 タスさんがまたあの時の玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべる。オリバンダーの店で「まんま同じ台詞じゃねーか」とつぶやいた時の同じものだ。

 確かに彼女が二次創作のオリジナルキャラクターだとは気が付いているが、逆に言うなら彼女の情報がないということなのでなぜ未来を予知できるかはわからない。

 タバサさんの予測の力を受け継いでいるというのなら話はわかるのだが、予測をしているわけでないことは本人や家族から聞いている。

「さあ、どうだろうな」

「私はT、A、S。タスさんですわよ」

 誤魔化して意味深に返してみたが、タスさんはニコニコと笑いながら俺に自分のフルネームを強調してくる。なんのことだかまったくわからない。

「まあ、いいですわ。それよりもここで待っているより先に入って席を取っておきません? ずっとここにいると邪魔になりますし」

 そうタスさんが言ったところで丁度他の魔法使いであろう人たちがやってきた。全員赤毛で顔立ちが似ているので家族だろう。子供達がほとんど全員荷物を載せたカートを押しているのでおそらく同じホグワーツ生とその親御さんである。

 その家族の顔を見た瞬間頭に文字が浮かぶ。全員の名前と設定。

 この人たちはウィーズリー家。純血の魔法使いの家柄だが、多くの純血の家系と違い純血主義ではなくマグル生まれにも友好的である。そのせいで純血主義の者たちから『血を裏切る者』と言われて嫌われてしまっているが彼らは気にしていない。

 しかしそれが原因で父であるアーサーが出世できず、大家族であるためでお金がない。

 また、みんな赤毛でそばかすという特徴があるが重要なのはそこではない。六人兄弟の五男ロナルド・ビリウス・ウィーズリー、通称ロンは主人公ハリーの親友で物語上重要な三人組の一人なのである。

 さらに末っ子の妹、ジニーがハリーの結婚相手になるのだ。

 重要人物にあまりかかわると原作からストーリーがはずれてしまいそうなのでできるだけかかわりたくない。さっさとホームへ入ってしまおう。

「人が来てしまったし早く行きましょう」

「そうだね。その方がいい。時間になったら僕たちがここに来てマキナさんたちを迎えよう」

「ではワタクシから行きますわ」

 タスさんが意気揚々と九番線と十番線の柱に突っ込んでいき、一瞬で壁の向こうへ吸い込まれてしまった。

「さあ次はアラン、君だ。通れるって確信がないと入れないから自信を持って」

 俺は絶対に通れるということを知っているから大丈夫だ。そう意気込み飛び込む。

 壁を抜けるとそこは九と四分の三番線と書かれたプラットホームだった。

 タスさんを確認し後ろを向くとすぐに後の二人が入ってきた。

 人混みをかき分け進んでいく。ホームにはすでに紅色の蒸気機関車が停車してるが、あれがホグワーツ特急だ。

 原作通りであればそのはずであるし、ホームの上にホグワーツ行き特急十一時と明記されているため間違いない。

「あれがホグワーツ特急ですね」

「そうだよ」

「なら早く行きましょう! 席が取られてしまいますわ!」

 タスさんが俺の手を引っ張り汽車へと乗り込む。早めに来たので全車両ガラガラだと思っていたが、すでに先頭の二、三両は生徒でいっぱいだった。

 俺はどこに座ってもよかったのでタスさんに任せると「もう座る席は決まってますわ!」と言って前の方ではなく後ろの方の空いているコンパートメントの席に座った。

「てっきり前の方に座るのかと思ってたんだが」

「なぜですの?」

「いや、タスさんのことだから「一番前が一番目立ちますわ!」とか言うのかと」

「甘いですわね。それなら一番前に座れるように調整しますわ」

「それならなんでわざわざここなんだ?」

「それは後のお楽しみですの」

 タスさんの笑顔を見て俺は嫌な予感がした。しかし、彼女が窓から顔をだし、二人を見つけて声をかけると、彼女たちが雑談を始めたため、それに気を取られ、それはすぐに忘れてしまった。頭に思い浮かぶ情報とこの世界の情報を照らし合わせるために俺も彼女たちと雑談をしていると発車五分前になった。

 二人が待ち合わせ場所に行きタスさんの宣言通りに三分前になるマキナ家がホームへ現れた。デア達に手を振り声をかけて場所をしらせると彼女たちは急いで汽車へ乗り込む。

 息を切らしたイーヴァさんたちは窓の外に駆け寄ると俺たちに謝罪した。

「ごめんなさいね。うちの子たちが寝坊してしまって。私がもっと早く叩き起こせばよかったんですけど」

「まあ、間に合ったのでよかったですよ。それにタスさんが遅れることを予言してくれたので困りませんでしたし」

「へぇ、予言の才能があるのですね。そんな子たちが友達になってくれなんてうれしいわ」

「ありがとうございます。でも予言とは違うんですの」

「でも、私たちの遅刻を言い当てたのは事実でしょう? それなら同じことよ」

「未来に起こることがわかるのなら一緒だからね。君たちが娘たちと仲良くしてくれると助かるよ」

 アダムさんとイーヴァさんはいるがリリスさんは今日来ていないらしくその姿が見当たらない。

「そういえばリリスさんはどうしたんですか?」

「彼女は今日は来れないんだ」

 アダムさんがそう言ったタイミングでコンパートメントの扉が開きデアたちが入ってくる。

「やっほー! 二人とも久しぶり! リリスおばさんはまだ寝ちゃってて起きなかったから置いてきたんだよ」

「デア! あなたも寝坊したでしょう! あれほど寝坊しないように言ったというのに!」

「すみません。私がちゃんと起こしてあげられればよかったんですけど」

「ジェーンは謝らないでいいんですよ。逆にごめんなさいね、家事を色々手伝ってもらってしまって」

「叔母様、ごめんなさい。私も寝坊してしまって」

「メアリーは別にいいのよ。体質もあるでしょうし」

「なんであたしだけ怒られてるの!?」

「昨日の晩の行動を思い出しなさい! メアリーは寝ようとはしてたけどあなたは思いっきり遊んでたでしょう!」

「うっ。それはそうだけどさー」

「なら文句いわないの!」

「わかったよ。アラン、タスさん、遅れちゃってごめんね」

「遅れなくてなによりだ」

「わかってたので問題ないですわ」

「デア、リリンはどうしたのです? 姿が見えないようですが」

「兄さんなら女の子たちに連れていかれちゃった。別のコンパートメントにいると思う。「見送りできないと思いますが心配しないでください」って言っといってって」

「それならよかったです」

「さすがはお兄様だわ」

「メアリーも負けてないですよ。私とデアさんが止めてなければ今頃別のコンパートメントです」

「いやー大変だったね。男の子だけじゃなく女の子も混じってたぶん兄さんより人が多かったよ」

「私なんかよりお兄様の方に行けばいいのに。それにハリー・ポッターもいるんだから私にかまってる暇なんかないと思うわ」

「ハリー・ポッターがいたのか?」

 それは重要な情報だ。彼の動向がこの物語を左右すると言って過言ではない。変に干渉しないためにもできるだけ把握しておきたい。

「うん、隣にいるよ!」

「ね、後のお楽しみと言ったでしょう」

「ああ、そういうことか」

 そういうことかああああああ! タスさんにとって一番前に座ることなど眼中になかった。少しちゃんと考えれば有名人のハリーの近くの席に座ろうとすることくらいわかる事だったのに!

「どういうことー?」

「ワタクシがハリー・ーポッターの隣になるように調整したんですの」

「そうなの!? ありがとう!」

「どういたしましてですの」

 ここで汽笛が鳴った。時計を確認するとその針はもう三十分を指している。

 俺以外のみんなが窓の外に顔を向けてお別れを言う。

「もう出発ですわね。いってきますわ!」

「……いってらっしゃい。アランくんも頑張って」

「ありがとうございます、タバサさん」

「ティー、エンターテイメントを忘れたら駄目だぞ!」

「もちろんですわ! 向こうでも目立って、魅せて、楽しませますの!」

「パパ、ママ、ばいばーい!」

「校則違反をしないようにするのですよ!」

「うーん。それは約束できないかな!」

「なんですって!」

「まあまあ、いいじゃないか。でも、できるだけは守りなさい」

「善処はします」

「私が気を付けておきますので心配しないでください」

「いつも迷惑かけてごめんなさいね。ジェーン」

「好きでやってることなのでいいんですよ」

「いってらっしゃい。メアリー」

「あなたなら大丈夫ですよ」

「いってきます、叔父様。ありがとうございます、叔母様」

 汽車が発車する。手を振る親御さんたちに手を振りかえすが、だんだんとその姿小さくなり見えなくなったところで手を振るのを止める。

 揺れる車内で立ちっぱなしというのは危ないので席に座ることにした。

 俺とタスさんは座っていた席にそのまま座る。その向かい側にデアたち三人が座るが、少し狭そうだ。元々二人用に設計されているという理由もあるとは思うが一番の原因がデアの翼が大きい事なのは明白だ。

「デアを含めて三人だと狭くないか?」

「ごめんね。翼が大きくて。どうすればいいかな?」

「メアリーかジェーンがこちらにくればいいと思いますわ」

「位置的にメアリーがこっちに座るのが楽だな」

 前の席には窓側からタスさんと俺が座っている。後ろの席は窓側からデア、ジェーン、メアリーの順で座っているので彼女が俺の横に来るのが一番簡単である。

「それは駄目です!」

 大人しいイメージだったジェーンがいきなり声を荒げたので少々驚いた。

「どうしてだ?」

「えっと……駄目だからです」

 その理由を知りたかったから聞いたのだが帰ってきた答えではそれがわからず困ってしまう。

「じゃあ君が来る?」

「それも駄目です」

「それならどうすればいいんだ?」

「ジェーンがワタクシの横に座わってデアの横にアランが座ればいいですわ」

「あっ、はい。それでお願いします」

 驚いた様子でジェーンが答える。なんで驚いてるんだ?

「ちょっとめんどくさいが俺はいいぞ」

「迷惑をかけてしまってすみません」

「このくらい気にするな」

「ありがとうございます」

 ジェーンとなぜかメアリーがお辞儀をすると俺と入れ替わった。

 席替えが終わり一息ついたので雑談を始める。できるだけ物語を原作通りに進めさせるためにもオリジナルキャラクターの情報は把握しておきたい。俺はこの世界のため、なによりも自分のためにも雑談を利用して情報の収集をすることにした。

 

*

 

「だからパパも兄さんもあたしも目が悪いんだ。二人とも眼鏡かけてるでしょ。あたしは眼鏡は動きづらくて嫌だからコンタクトだけど」

 ドラゴンは強大な魔力保有し、強靭な肉体による破壊能力と共にその鱗によって高い防御能力を誇る。半端な攻撃では彼らを傷つけることはできない。それは物理的なものでも魔法的なものでも同様である。

 そんな無敵に近い彼らにも弱点はある。それは目だ。目には耐性がないので彼らには結膜炎の呪いが有効であると言われている。

 ドラゴンの血を継ぐ彼女たちにもそれは同様のようで視力が低くなりやすいそうだ。特に血が濃い彼女は角や尻尾、翼や牙が生えており、彼らの特徴を強く受け継いでいる反面、致命的に目が悪くコンタクトレンズを外すとほとんどなにも見えなくなるらしい。魔法界にコンタクトってあるんだな。

「……でね、燃費が悪いからすぐにお腹が空いちゃうんだよ」

 そして、必要なエネルギーが高くすぐにお腹がすくので大量にものを食べなくてはならないようだ。

 雑談の中で他のやつらの事も大分わかった。

「ワタクシにも羽はありますわ!」

 タスさんが妖精の血を継いでいるのはわかっていたが、彼女にも彼女たちと同様に翼が生えているということが新たに発覚した。デアのものほど大きくなく服の中に隠せるほどのものなので翼というよりは羽という方が正しいかもしれない。彼女曰く「虫の羽みたいなんですの」とのことだ。

「お母様が夢魔と言ってしまったから言うけど私もそうなの」

 メアリーはお母さんのリリスさんと同様に夢魔である。そのためリリスさんと同じように角などが生えているらしいが、それは擬態することで隠すことができるため普段は出していないとのこと。

 彼女は夢魔の力である魅了の力を扱えるようだ。とは言っても純粋な夢魔ではないせいか制御はできておらず、自動で勝手に発動してしまうようで困っているらしい。

 腹違いの兄であるリリンも同様で彼が女の子たちに連れて行かれてしまったのはそれが原因である。彼女の方が血が濃いらしく彼女の魅了はその効果範囲も対象も兄の比較にならない。彼のものは生き物、特に異性だけしか効かないが、彼女のものは無生物にまで影響する。

「でも、勝手に発動するし、眠くなってしまうしいいことないわよ」

 その力が発揮されるたびに大量に生命力を消費し、力を使わなくてもそれは消費される。それを回復するためには他者から吸収する必要がある。夢魔が人の生命力を食らう生き物であるからとのことだ。

 プライドが高く忠誠心を得るのが難しいサクラと不死鳥の尾羽根の杖を完全に手なずけることができたのはこの力のおかげである。しかし、そのために杖を持っているだけでガンガン生命力が消費されていくという状態になっている。難儀なものだ。

 オリバンダーの店でジェーンが「もし足りなければ私のをあげます」と言った意味が、今やっとわかった。あれは生命力のことだったのです。

 デアが話している最中にメアリーが大あくびをする。すぐに口に手を当てて恥ずかしそうにしているのがかわいらしいが彼女は夢魔である。油断をした瞬間に食われかねない。

「ふわぁ。……ごめんなさい。気にせずに続けて」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。少し眠いだけだわ」

 夢魔は生命力が少なくなると眠くなる。イーヴァさんが言っていた寝坊の原因の「体質のせい」というのもこれだったのだろう。

「足りないなら私のをあげますけど」

「ありがとう。でもまだ平気よ」

「無理しないでよ。眠いってことは生命力が足りないってことでしょ? 恥ずかしいならあたしたちは出ていくから」

 夢魔が他者から生命力を吸収する方法は二つ。体液から吸収するか、夢の中で性交するか。後者は選択肢から外れるので自動的に前者になる。前者の場合一番効率がいいのは対象と粘膜接触すること。つまり、キスをすればいいだけである。

 しかし、生命維持のために同性とするのだとしても他人にキスをしているところを見られるのはいい気持ちはしないだろう。

「すぐ出ていくぞ。俺らからしたら空腹で倒れそうってことだからな」

「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」

「我慢はよくないですよ。そうやっていつも倒れるまで我慢するんですから」

「倒れるくらい足りないなら仕方ないけど少し眠いくらいでもらうのは悪いわ」

「それならあたしがあげる!」

 デアがメアリーの顔にその顔を近づけた瞬間、ジェーンの姿がブレたかと思うとが二人の間に目にも止まらぬ速さで割って入った。なんだ今の動きは……。顔は無表情だし……こわ。

「やだなー冗談だって。だからそんなに怖い顔しないで」

「ですよね。わかってました」

「本当かなー」

「本当です」

 無表情になる前の優しそうな表情に戻ったジェーンは再び元の場所に座る。

「今取らなくても結局必要になるんですから別に今でもいいじゃないですか」

「ホグワーツに行けばいっぱい生き物がいるのだから彼らから適当にもらうわ」

「……それは本気ですか?」

「え? 本気よ? 今のようにあなたを拘束してしまっているのはよくないわ。そうしたらあなたは自由に好きな事ができるでしょう?」

「今やってることこそ自由に決めた好きなことなんですから別に問題ないです。そして、その方法ですが他の生き物を毎回わざわざ探すのは手間ですし、事後処理も面倒です。もし、懐かれでもしたらずっとつきまとわれます。そうなってしまった場合、引き離すのは一筋縄ではいきません。特に理性がない生き物だったら説得をすることすらできないですし、仮に理性があったとしてもそれはそれであの手この手で抵抗するでしょう。つまり理論的に考えてもそれは確実に危険であり悪手です。わかりましたか?」

「はい」

 なにか押してはいけないスイッチを押してしまったようだ。ジェーンはさきほどと違い無表情ではなくいつもの優しそうな笑顔だったが逆にそれが怖い。

「そもそも私以外から摂取する時点で却下ですよ?」

「……どうすればいいの」

 困ったメアリーが助けを求めデアに目線をやるが、彼女は高速で首を横に振る。

「ちょっと! あたしに振らないでよ! 飛び火させないで!」

「仮にですわ、アランがキスしたらどうしますの?」

「おい! 勝手に俺を巻き込むんじゃねーよ!」

「もう、からかわないでくださいよ。よくわかりません」

「すみません、俺の方がよくわかりません。怖いのでその無表情やめてください」

 いや、本当、マジで勘弁してほしい。シャレになっていない。もし、魅了を食らっても死ぬ気以上で抗うと今心に決めた。できるか知らんけど。

「お二人は仲がいいんですのね。なぜですの?」

 いや、仲がいいとか言うレベルではない。というかメアリーの反応を見るにジェーンが一方的に慕っているように見える。メアリー・スーだからか?

「お昼をご一緒したときにも言いましたが、両親を亡くして当てもなくさまよっていた幼い私をメアリーが見つけてくれたんです。魔法使い達に襲われていたところを庇ってくれて……それからずっと一緒に過ごしてきました。だからです」

 そう、ダイアゴン横丁で食事をした時はそういう話だったはずだ。

「私は魅了で止めただけで結局生命力切れで倒れてしまったし、今日まで育ててくれたのは叔父様と叔母様だわ」

「あたしもおなじくらいずっといるよね~」

「お二人には感謝しています。仲良くしてくれたデアさんにも。ただ、最初に救いの手を差し伸べてくれたメアリーに一番恩があります」

「だから、メアリーと一番仲がいいんですわね。でも、なんで魔法使いに襲われていましたの?」

「食べ物を買うお金がなくて仕方なく盗んでしまったところを見つかってしまったからです」

 盗みは悪いことではあるが、両親を無くし身寄りもなく、お金もない幼い子生き残るためであれば仕方がないと言えるだろう。そのくらいは許してあげてもいいとは思うが悪いことは悪いものであるので魔法使いの方も間違ってはいない。

 ただ、それをするなら保護をしてあげたほうが再発防止になるのでマキナ夫妻はいい判断をシたと思う。当時同様に幼かったメアリーが複数人の魔法使い達相手に彼女を守ったということに少し感動してしまった。出自とその能力から警戒してしまっていたが少し認識を改めるべきかもしれない。

 そう思ったところでタスさんがこの話を否定した。

「それ、嘘ですわよね」

 その言葉にここにいる全員の顔が強張る。

「嘘なんかじゃありません! あの日魔法使いに襲われているところを助けてもらったから私は!」

「そうだよ。メアリーがジェーンを助けてあたしの所に連れてきたんだから」

「そうですわね。それは本当ですの」

「じゃあ何が嘘だっていうんですか!?」

「あなたが襲われたのは食べ物を買うお金がなくて仕方なく盗んだからという部分ですの」

「なんでそう思うんですか?」

「スペシアリス・レベリオ」

 タスさんが突然ジェーンに杖を向けて呪文を放った。

 デアはその閃光を刀で振り払う。高速で放たれる呪文を振り払うとか化け物なんだけど。いや、怪物なのだから合ってはいるか。

「いきなりなにをするのかな?」

「本当だよ。なんでいきなり化けの皮を剥がす呪文なんて打ったんだ? メアリーなら夢魔の姿に戻るんだろうがジェーンはただの人だぞ?」

「別に化けてなければなんの影響もない呪文ですのになんで振り払ったんですの?」

「聞いてるのはこっちなんだけどまあいいや。そりゃいきなり友達に呪文を打たれたらガードするでしょ?」

「あなたの耳と反応速度ならワタクシが唱えた呪文くらいわかるはずですの。それなのにガードした。ということはあなたは彼女が化けているということを知っていて守った。つまり、彼女は化けている。違いますの?」

「その呪文が化けの皮を剥がす呪文って知らなかったの。だから守った。これならいいでしょ」

「確かに未知の呪文だったら護って当たり前ですの。では、これでどんな呪文かわかったのでかけてみてもいいですわよね」

「駄目!」

「なんでですの? 別に問題ないですよね。だって化けてなんかないのでしょう」

「化けてないけど駄目なの!」

「これはタスさんが合ってるぞ? 化けてないなら一度かけられた方が化けてないと証明できるはずだ」

「魔法使いに襲われたときについた顔の怪我のあとを魔法でごまかしているんです。だからそれを使われてしまうと魔法が解けてしまうのでやめてください」

 なぜ呪文をかけてほしくないかをジェーンが説明するがタスさんは聞く耳を持たない。

「それも嘘ですわ。仮に事実だとしても私は気にしませんの。スペシアリス・レベリオ」

 再度タスさんが呪文を放ち先ほどと同じようにデアがその閃光を刀で振り払う。

「スペシアリス・レベリオ、スペシアリス・レベリオ、スペシアリス・レベリオ」

「なんで連打するの!? 駄目だっていってるじゃん!」

「スペシアリス・レベリオ、スペシアリス・レベリオ、スペシアリス・レベリオ」

 呪文を連打するタスさんに対してそのすべてを振り払うデア。魔法使いの魔法剣士の決闘のようになっている。本物はみたことないので想像でしかないが。

 硬直状態に陥ったところで今まで大人しくしていたメアリーが今までとは違った荒い口調でタスさんに命令した。

「止まれ! 呪文を止めろ! ジェーンに対して疑問を持つな!」

「い、や、で、す、わ! スペシアリス・レベリオ、スペシアリス・レベリオ、スペシアリス・レベリオ」

「なんで打ち続けてるの!?」

「わからない。本心じゃないから? いや、もしかしてデアと同じて耐性が? でも妖精にはそんな耐性ないはず。いや、別にそれが本当っていう保証もないし、だとしたら対処方法がわからない。そもそも能力が通じなかった時点で……」

 先ほどと口調が変わったメアリーがぶつぶつ独り言を始めたところでタスさんがいったん呪文を打つのをやめて確信に触れた。

「というかあなたたち全員隠していることがありますわね? ジェーンはもちろん、デアも、メアリーも、アランも。それはワタクシも同じですけれど」

「なんの話だ?」

 俺の隠していること? 俺はこいつらと違って普通のマグル生まれだ。変わったことといえば、頭に知らないはずの情報が入ってくるという体質だけだがそれもつい最近なったばかりである。

 ただ、もし知られると厄介なことになるのは目に見えているので誰にも話していないし、誤魔化せるのなら誤魔化す。俺は適当にしらばっくれたがデアはそうはいかなかったようである。

「えー! もしかしてタスさんもアランも同じなの!? あたしも前世の記憶があるんだよ!」

「なんで言っちゃうんですか!? できるだけ隠しておく約束だったでしょう!?」

「能力も効かないのに危ないわ」

「いいじゃん。仲間だったら助け合わないと」

「同じ境遇でも仲間になるとは限らないし逆に敵対する可能性だってあるのよ」

「大丈夫だよ! だって私たちは友達やってるんだから。それに敵を無くすには排除するより味方にしちゃうほうが楽だよ。ね? タスさんも仲間だよね?」

「そうですわ、協力した方がおもしろくなりますの」

「あたしもそう思う! もうばらしちゃったんだしちゃんと自己紹介しよ?」

「もういいわ。ここまできたなら言わない方が信頼してもらえないから」

「そうですね。まだ信じて話したほうがいいです」

 前世の記憶だって? なにを言ってるんだ。俺には全く意味が分からない。タスさんにもあるのか。というかそれなら俺のこの知らないはずの記憶は前世の記憶なのか?

「じゃあ、まずはあたしから。前世は高校生だったんだけど子供がトラックに轢かれそうだったから助けたら自分が死んじゃったの。それで気が付いたらこの世界に転生してたってわけ。ちなみにこの世界がハリー・ポッターの世界なのは知ってるよ! 映画は何本か見たから。本は読まなかったし内容も忘れちゃってるからあんまりわからないんだけどね。それと前世では年上だったとして今は同い年だからタメ口のままでいいよ。まあ、他の二人の中だと私が一番年下だったんだけど」

 一気にべらべらと話したと思ったらとんでもない自己紹介をしやがった。マジで言ってるのかこいつは。オリキャラだとは思っていたが転生キャラだったとは。原作を映画のみとはいえ知っているとはどうすればいいんだよ!?

「鱗が硬いって言ってたけどあれは嘘。本当は目以外なら物理も魔法も効かないんだ」

「確かめますわ。フリペンド」

 タスさんが呪文を唱えると水色の衝撃がデアに向かって飛んでいくが、彼女にぶつかるとそれは何事もなかったかのようにかき消えた。

 いや、意味がわからない。さっきの説明でも割と設定盛ってただろ。それを完全に無効化とかメアリー・スーと言われても文句は言えないぞ。死因がトラックというのも異世界転生のテンプレすぎる。

「次は私。前世は大学生。死因はたぶん心筋梗塞。まだ若かったんだけどなる人はなるのね。私は映画も見たし、本も読んだ。二次創作を読むくらいには好きだったからわりと詳しいわ。夢魔の力に関してだけど、本当はこの世界も魅了できる、つまり事象や現象、概念も含めるの。例えばほらこんな感じでコインを数枚投げると……全部表。私もデアと同じでタメ口のままでいいわ」 

 映画だけじゃなく本も二次創作も知っているというのはかなりやばい。自称ではあるが詳しいらしいので変な誤魔化しは効かないだろう。というか世界を魅了とかこいつもメアリー・スーかよ。ってこいつはメアリー・スーか。

「それと一番大事なこと。私、いや、俺、前世男だったからそこんところよろしくお願いします」

「え!? いやいやいや、じゃあなんで普段ああいう口調なんだ!?」

「普段あの口調なのは他に同じ境遇の人やその存在を知っている人がいた場合、彼らと敵対する可能性のことを考えたから。彼らにばれるような言動をしたくなかったからであって他意はない。まあ結局、ばれたんだけど」

 まあデアの力を知るとわからないでもない。

「ちなみにこの状況を利用してあれやこれやするのはプライドが許さないので絶対にしない。まあ、もしすればジェーンに殺されるから大丈夫」

「そんなことするわけないじゃないですか。全身全霊で縛り付けるだけです」

「……俺にそんな価値ないよ。絶対、リリンさんの方がいいと思うんだけど。元男の俺でも惚れるくらい、いい人だと思うし」

「そういうところがメアリーの方がいいんです」

「え? メアリーって兄さんのこと好きなの?」

「いやいや、違う違う。言葉の綾だよ。確かにリリンさんはいい人だけど。それにリリスさんは俺にとっても兄だからね」

「なんでわざわざ男だって言ったんだ? 言わないこともできただろ?」

「前世の記憶があるってばれたから。中身が俺の美少女とか嫌悪感どころか殺意湧いても文句は言えないのは自覚してるけど、後でばれるよりは今拒否されたほうがマシ。その場合、俺からはかかわらないから代わりに俺にかかわらないでくれ。言うことは以上だけど補足。あくまで俺がこの恰好してるというのが気持ち悪いだけで他人の性癖や趣味嗜好は否定してないからそこもよろしく」

「いや、俺もそういうの気にしねーよ。どうでもいいだろ」

 こいつらが転生していたということと、世界観が崩壊しかねない異能力を有していることに比べればどうということはない。ないのか? もうなにがなんだかわからなくなってしまった。

「そうなの? じゃあよろしくお願いするわ」

「ばれてもそれを通すのな」

「アラン以外に同類がいるかもしれないからね」

「そういうもんなのか」

 まあ、俺は同類じゃないんですけど……。

 というかうん? メアリーの中身が男ということはつまり、こいつら全員見た目と中身が一致しない可能性があるってことか。そもそも転生してるって言ってるんだから当たり前か。見た目は美少女だから騙されるところだった。危ない危ない。……まじでなにも信じられないな。

 メアリーの次はジェーンである。

「じゃあ次は私ですね。私は前世は社会人でした。前世だと現実がつらくて自殺してしまったんですけどそのおかげでメアリーと出会えたので結果的に最高でしたよ。映画も一通り見ましたし原作も一応読みましたが詳しくはないです」

 いやいや、全然よくないんだけど。デアは事故だったし、メアリーは病気だったから問題なかったけど自殺は問題しかない。

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫ってなにがですか?」

「自殺するくらいに精神が追い詰められてたのに大丈夫なんでしょうか?」

「はい、今は大丈夫です。心配くれてありがとうございます。あと私もタメ口でいいですよ。私が丁寧語なのはクセですので」

 絶対大丈夫じゃないだろと思ったが、メアリーへの反応を見るに闇が深そうなので触れないでおこう。

「わかった。それでさっきなんで呪文に当たりたくなかったんだ」

「それはですね。私が人間じゃなくてドッペルゲンガーだからです」

 彼女がそう言うと体が真っ黒な影の塊のようになり、もう一度形を変えて俺と瓜二つの姿になる。

「俺はさっきまでメアリーの姿を基準に魔法使いに化けていたってわけ。だから化けの皮を剥がす呪文から二人が守ってくれてたんだ。そうしないと正体がばれるからな」

 体が黒い影の塊のようになって次はタスさんに変身した。

「それで、さっきの話は本当はドッペルゲンガーとして退治されかけていたワタクシをメアリーが助けてくれたというのが本当の話なんですわ。自身のドッペルゲンガーを見たものは死ぬという迷信のせいで魔法使いから攻撃されたんですの」

 タスさんの次はデアに変身する。

「あたしの力は見たまま、他人の姿を複製できるんだ。普通のドッペルゲンガーは見た目だけで能力はそのままなんだけどあたしは能力もコピーできる。だから魔法使いになれば魔法も使えるし杖も扱える。絶対にオリジナルには及ばないのが唯一の欠点かな」

 最後はメアリーの姿を複製し、目の色と髪の色を真っ黒にして俺の見知った姿に戻った。

「さっきから何回か高速で動いてたのはデアの力を複製したからですわよね」

「正解です。私たちは全部教えました。次はあなたたちの番です」

 もう、お腹いっぱいなんだけど。すでにメアリー・スーかつ転生者が三キャラも登場してるんだ。そんなキャラ一人で充分だろ。

「ワタクシが妖精の先祖返りなのはもう言った通りだけど、別に力があるのですわ。時間に関する力、それが本来の能力ですの。まあ、タイムトラベルはできませんけれどね。できるのは、任意の時間の状態の保存と読込、スロー、コマ送り、早送りといった体感時間の操作、身体を思った通りに操作できるのと因果を認識できること。以上ですわ」

「それだけでなぜ私の魅了が効かなかったの?」

 だけってなんだだけって。相当おかしいから。この世界に時間をどうにかする魔法なんか……、いや、あるのか、それはあるのか。どうなってんだハリー・ポッターシリーズ。

「言い忘れてましたわ。ワタクシは色んな世界と時間のワタクシと思考を共有してますの。なので一人が魅了されたところで他のワタクシで思考すれば問題なく動けるので効かなかったように見えたということですの」

「あれー? 前世の記憶はどうしたのー?」

「そんなものないですわ」

「え!? あたしたちを騙したの!?」

「違いますわ。ワタクシはこの世界において異物ということで仲間だと言ったんですの。それに、ワタクシは他の世界のワタクシの記憶も持っているのだから同じようなものではないのかしら」

「そっかーそれなら仲間だね! 最後はアランだよ!」

 まずい。俺には前世の記憶などない。あるのはこの世界の情報だけである。

「ちなみに彼も前世の記憶など持っていませんわ」

「知ってるなら俺にこういう流れで振らないでくれよ。その調子なら俺の体質も知ってるんだろ? 俺はみんなと違って大層な力なんて持ってないんだから」

「いいからいいから!」

「私たちだけ言わせるのはずるいわ」

「そうですよ。、アランさんも言ってください」

「わかったよ。俺の体質は知らないはずの情報が頭が浮かんでくる。ただ、すべての情報が必ず入ってくるわけじゃない。ハリー・ポッターシリーズの情報はほとんどすべて入ってきてて大体わかるが、原作にないお前らの情報はまったくわからなかった。シリーズ以外のことも常識的な範囲ではわかるぞ」

「へー、ハリー・ポッターに関することがすべてわかるなんてすごいねー」

「あくまで原作で登場したものの範囲でな。一部の二次創作、三次創作等もまあ一応。ただ、原作のものより安定してない」

「私がシリーズに関してなにか質問していいかしら」

「いいぞ」

「ハリー・ポッターが今から二、三年後に叔父から貰う箒の名前と最高速度は?」

 原作未読者にとってはネタバレだなこれ。それにまだなんで箒を買ってもらう必要があるか説明していないしな。まあ、二次創作を読む奴が原作を知らないわけがないから大丈夫だろう。

「ファイアボルト、今から二年後の一九九三年に五○○ガリオンで発売。元はレース用に開発された箒で、十秒で最高速度の時速二四〇キロに到達。あと叔父じゃなくて後見人だろ。名前はシリウス・ブラック、今はアズカバンに幽閉されているが実は冤罪」

「たぶんあってるわ。細かいところは私もおぼえていないけれど名前も最高速度も名前もあってるはずよ。それとごめんなさい、叔父と勘違いしていたわ」

「まあ、ハリーからしたら同じようなものだから気にするな」

「あれ? まだ販売してないんだ。ハリーって今年もうもらうんじゃなかったっけ?」

「ハリーが最初にもらったものとは別箒なんだ。最初にもらうのはニンバス二〇〇〇。一九九九一年に二〇ガリオンで発売。ハリーが一年生の時にミネルバ・マクゴナガルから貰い、三年生の時に「暴れ柳」に壊される。その後、ファイアボルトを買ってもらう。だから二、三年後にシリウスから貰うのはファイアボルト」

 ミネルバ・マクゴナガルも暴れ柳も未登場だ。マクゴナガルはホグワーツの先生、暴れ柳は名前そのまま暴れる柳の魔法植物である。

「二年生のときにスリザリン生たちが使った箒はなんでしたっけ?」

「ニンバス二〇〇一は一九九二年に二一ガリオンで発売。ドラコ・マルフォイをはじめ、スリザリン寮チームが使用。ちなみにこれらのニンバスシリーズには尾の先端に傾斜があて、経年によりスピードが落ちる弱点があるんだよな」

 スリザリンはホグワーツの寮の一つである。詳しい話は後ですることになると思う。ドラコ・マルフォイはハリーのライバル的存在の純血主義者である。つまりは俺の敵でもあるな。

「ごめんなさい。そこまでは知らなかったです」

「ニンバスシリーズの弱点はたぶんあってるわ」

「さすがメアリー」

「さすメア!」

「あくまで記憶している中ではの話だけれどね……」

「他になにかあるか?」

「いえ、もういいです」

「私もとりあえずは信じるわ。私の記憶を読んでいたり未来予知をしていたり、他の能力の可能性もあると思っているけど」

「えー、それならそう言ってよー」

「いや、そんな力があるならお前らのことがすぐわかってたはずなんだが」

「嘘を言っている可能性もあるじゃないの」

「信じられないなら仕方ないが信じてくれとしか言えないな」

「あたしは信じるよ!」

「私もわざわざそんなことするようには思えないですし信じます」

「魅了を使えばなんとかなるし、逆にそれでどうにもならないなら諦めるしかないから私も信じるわ」

「それは信じてるか微妙なところだが信じてくれたならいいや」

「これで全員ネタばらしできましたわね。これで腹を割って話せますの」

 全員が誤魔化していたものを公開し終わると通路でガチャガチャと大きな音がして、おばさんがニコニコとえくぼを作りながら戸を開けた。

「車内販売よ。何かいりませんか?」

 原作ではこの車内販売は十二時半ごろここを通るはずだ。もう一時間半もたっていたらしい。

 時計を確認すると十二時二十八分だった。予定通りである。

 時間的にはここで昼食を取るのだが、ここで売っている食べ物はお菓子ばかり。かぼちゃのパイやケーキも売っているのだがそれも甘いもの。

 よって俺は家からサンドイッチを持ってきた。お金も好きに使ってもいい金額が月に決められているのであまり無駄遣いしたくない。

「俺は特にないが」

「あたしも大丈夫かな」

「私もいらないわ」

「二人ともそう言って食べないからいつも倒れてしまうんですよ」

「でもぶっちゃけうち貧乏だからお金ないよ?」

「叔母様たちに迷惑はかけられないわ。私の主食は生命力よ?」

「駄目ですちゃんと食べてください。メアリーはその生命力を我慢してしまうのでその分他で代用しなきゃいけないんです。デアも持ってきている分では足りませんよ。ただ、私たちがマキナさんたちの負担になってしまっているのは事実ですね。私が我慢するのでお二人が食べてください」

「それこそ駄目だよー。みんなで仲良く食べなきゃ」

 買うか買わないかで揉めている彼女たちを見て車内販売のおばさんは辺りをきょろきょ見回している。このコンパートメントにずっといるわけにもいかないので困ってしまっているのだろう。

 ジェーンもそれに気が付いようで居心地が悪そうにしているがどうこの場を収めていいかはわからないらしい。

「このままだらだら揉めるのはおばさんに悪いです。でも、どうすれば」

「ワタクシが全員分買えばすむことですの。全部五つずつくださる?」

「いや、俺は家からサンドイッチを持ってきてるんだが」

「あたしたちもママが作ってくれた昼食があるから大丈夫だよ」

「それは知っていますけど、ジェーンが言ったように足りませんわ。みんなでお菓子会をしたほうが絶対おもしろいですわよ」

「でも、多すぎないか? タスさんだけに払ってもらうのも悪いし俺も出すが」

「あなたはドラゴンの食欲を舐めすぎですの。それにお金の心配もいりませんわ。なぜワタクシが大道芸をしたとお思いですの?」

「目立ちたかったらからじゃないのか」

「それは大前提ですわ。この時のためにおこずかいを稼いでいましたの」

「それでも全部というのはな」

「ええ、悪いわ」

「やっぱり私は我慢しますよ」

「そうだよ。タスさんばっかり負担を押し付けるわけにはいかないって!」

「なら、これは貸しですわ。後で別の何かで返してくださいな」

「まあ、そういうことならいっかー。なんでも言ってよ。まあ、貸しなんかなくても協力するけど」

「ありがとうございます。困っていることがあったら言ってください。できることならなんでもしますから」

「私もできるだけなら協力するわ。タダより高いものはないからなんでもとは言わないけど」

「……でもちょっと待って。あたしはそんなに食いしん坊じゃないよ! そうだよね?」

 それは心外とデアが抗議し、メアリーとジェーンに同意を求めるが二人は困ったように笑うだけで否定しなかった。

「というわけでお願いしますわ」

 タスさんは宣言通りには両腕いっぱいのお菓子を全員分買ってくれた。しかし、置き場所に困ったそれはコンパートメント内を占領し中がお菓子だらけになってしまった。

「本当にこんなに買って大丈夫なのか?」

「大丈夫。見てればわかりますわ」

 明らかに買いすぎだとは思ったが、タスさんが大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。

 俺は持ってきたサンドイッチを、デアたちはそれぞれ大、中、小のランチボックスを、タスさんは重箱を取り出して昼食を始めた。

 もちろんランチボックスの大きさはデアが大、ジェーンが中、メアリーが小。日本とは異なりイギリスではランチタイムにガッツリ食べるわけではないので量が少ない。しかし、デアの物は異常に量が多く、逆にそれを考慮してもメアリーのものは少ない。

 そしてタスさんに至っては異彩を放つ日本の重箱である。しかも量が多い。日本基準でも明らかに大きい。彼女の身長の半分はあり、どこにそんなものを入れていたのかは謎である。

 その理由は「みなさん元は日本人だったのでしょう? だから懐かしい味のものを用意しましたわ」とのことだった。デアたちは全員元は日本人だったらしい。

 タスさんの持ってきた日本食を全員でわけながら各々の昼食を食べる。三人は久しぶりに日本食を食べることができてうれしかったようだった。




舞台へ全然たどり着きませんでした……。

怪物はみんな、タスさん以外ぶっ壊れ転生者です。メアリー・スーです。
そして、メアリーは中身男です。必須タグの大半はこいつが原因です。
その他二人も、他のキャラクターもどうだかわかったものではありません。タスさんにはそもそも人格が存在するのか怪しいです。

次回は、次回こそはたどり着きます。
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