ホグワーツの最寄駅であるホグズミード駅に到着した俺たちは汽車の通路から人が少なくなるまで待ち、小さなプラットホームへ降りた。周辺にはあまり明かりがなく薄暗い。また、夜で日差しがないからか少し肌寒い。見えないほど暗いわけではなく我慢できなほど寒いわけではないのが幸いか。
「ついにホグワーツに着いたんだね!」
デアは寒さを感じていないようにはしゃいでいるし、タスさんはちゃっかり厚着をしている。その一方でジェーンとメアリーは寒そう縮こまっており、他の生徒たちも同様に身を震わせている。
「二人とも寒そうだが大丈夫か?」
「私は大丈夫です」
「私もこのくらいなら平気だわ」
「メアリーは我慢しないでください。私の上着をどうぞ」
ジェーンが上着のローブを渡そうと脱ぎ、メアリーにローブを渡す。
「私は大丈夫だから」
「ありがとうございます。でも、私はある程度なら服を変えられるので大丈夫です」
彼女の服の上に脱いだものと同じローブが現れる。それを見てメアリーはしぶしぶ納得しローブを受け取り礼を言うと自分の物と共に羽織った。
「イッチ年生! イッチ年生はこっち!」
ひげを生やした大きな男がランプを揺らしながら叫んだ。彼の名はルビウス・ハグリッド。ホグワーツに隣接する森の森番であり、ハリーとは歳の離れた友人である。
在学生であろう人たちは呼ばれている方向とは違う方向に向かっていく。新入生だけは在学生とは別の方法でホグワーツへ向かうからである。
「イッチ年生はついてこい。足元には気をつけろ」
言うとおりにその後をついていく。彼は巨人とのハーフであり、その一歩は大きく意識しなければ置いて行かれてしまいそうだ。ホームへ降りるのが遅かった俺たちはなおさら急がなければならない。しかし、マイペースな彼女たちはゆっくり歩いている。
「急がないと遅れるぞ」
「あたしたちより遅い人たちだっているし別に大丈夫だって」
「ワタクシはスピードランではなくスーパープレイを目指しているので急ぐ必要はないんですの」
「道も険しくなってきたし暗くて足元がよく見えないのだからあまり急ぐと危ないわ」
「無駄に焦って怪我をするのはよくないです。ただ、これ以上は遅れないように気を付けた方がいいと思います」
「はーい」
「わかりましたわ」
「気を付けるわ」
「ジェーンありがとう」
「いえ、このくらいはしますよ」
間を取り持ってくれたジェーンにお礼を言い先に進む。ランプの明かりである程度は照らされているが、俺らの足元まではその光がとどかない。足場が悪く生徒の中には既に転んでいる者もいる。気を付けていても木の枝や蔦に足をとられそうだ。
「みんな、ホグワーツがまもなく見えるぞ。この角を曲がったらだ」
先頭のハグリットが振り返りながらそう言った。その角を曲がると一斉に歓声が湧き起こる。
「うぉーっ!」
狭い道が開け大きな黒い湖のほとりに出ると、そのむこう岸に高い山がそびえており、てっぺんに壮大な城が見える。大小さまざまな塔が立ち並び、キラキラと輝く窓が星空に浮かび上がっている。
「思ってたよりでかいな。全校生徒が暮らせるんだし当然か」
「ワタクシが輝くのにふさわしい舞台ですわ」
「へーあれが本物のホグワーツ城かー。中はどうなってるのかな? ってメアリー泣いてるけど大丈夫!?」
「メアリーなら大丈夫です。少し感動してるだけですから」
「空想の世界にしか存在しなかったものが目の前にあるなら感動くらいするわよ」
「そうだよね~」
怪物たちが城に気をとられていると、ハグリットが叫んだ。
「四人ずつボートに乗っとくれ!」
湖の岸辺にいくつか木製の小舟が止まっているが、ここからはそれに乗って進むようである。しかし、一つの小舟に四人乗るらしいが俺らは五人、一人余ってしまう。
「俺が別のボートに乗ろうか?」
「いえ、ワタクシが別のボートに乗りますわ。マルフォイ達の船に乗りますの」
「なんでー? 一人だけ別なんて寂しいよ?」
「タスさんはそうしたほうが楽しいんですよ。すぐに合流できますし好きにさせてあげましょう」
「ジェーンはエンターテイメントをわかってますのね。まあ見ててくださいな。彼らと一緒に楽しませてあげますわ」
タスさんは初めからわかっていたかのようにマルフォイとクラッブ、ゴイルの乗るボートの前で待ち伏せし、同じボートに乗り込んだ。
それを確認して俺らもボートに乗り込む。ボートは思っていたより狭い。一年生の体の大きさであれば余裕をもって乗れるようには設計されているはずだが、異種族までは想定されいないようで列車の席と同様にデアの翼がだいぶ幅を取っている。
「オールがあるけどこれって自分達でこがなきゃいけないのかな」
「確か魔法でオールを動かしてくれるはずだわ」
メアリーの想定通りにオールが勝手に動きボートが進み始める。やはり魔法で動かしているんだろう。
ボートは水面に波紋を作りながら進んでいく。その途中でマルフォイの叫び声が聞こえてきた。
「危ないからやめてくれええええええ!」
タスさんがなにかやらかしたという確信を持ちつつマルフォイ達のボートに目を向けると案の定彼女が狭いボートの上でアクロバティックに動き回っていた。バック転に宙返り、ハンドスプリングやらなにやらで縦横無尽に移動している。彼女が動くごとにボートが大きく揺れるが器用にバランスと取っている。
本人はまったく落ちる気配がないので心配がないが同乗者はその揺れによって転覆しないか気が気でない。マルフォイ達には合掌しておく。
「あれは同乗しなくて助かったな」
「えー、超楽しそうじゃん。一緒に乗ってもらえればよかったなー」
「普通の人にあれは怖いです」
「見てる分には楽しいけれど自分が当事者になるのは嫌ね」
タスさんの奇行を見ているとホグワーツ城へ徐々に近づいてきた。それを見上げたときに、またハグリットの声が聞こえる。
「頭、下げぇー!」
目の前に蔦のカーテンが現れる。頭を下げればぶつからないのは知っているので指示に従い下げる。
それは俺以外の同乗者も同じようだった。全員頭を下げて蔦を回避する。
「なんで君は立ったまま蔦をよけているんだ!?」
マルフォイの叫び声が聞こえてきたのでタスさんを見ると立ったまま上体をそらしていた。おそらくリンボーダンスのように蔦のカーテンを避けたのだろう。それが終わると次は船の上でジャグリングを始めた。キングス・クロス駅で使ったボールをそのまま持ってきていたらしい。他にも色々と大道芸らしきものを次々と披露していく。
それらを見ているうちにボートは勝手に進み、崖の入り口から城の真下のトンネルを通り地下の船着き場に到着した。ボートから岩と小石の上に降りる。原作ではこのタイミングでボートに残っている一年生がいないかを確認していたハグリットがネビルの蛙を見つけるはずだ。
「ほい、お前さん! これが探してたヒキガエルか?」
「トレバー!」
カエルは原作と同じように無事に見つかった。ネビルは大喜びで蛙を受け取る。
「見つかってよかった。でも列車の中で見つけられなかったのは悔しいよ」
「列車で見つかる確率がゼロなんですから仕方ないですよ」
「しかも逆にここで必ず見つかるのですわ。確定しているなんてつまらないので変えたかったのですけれど。力不足でしたの」
「なんにせよ見つかったのだからよかったんじゃないかしら」
岩の路を登って樫の木でできた巨大な扉の前にたどり着いた。これが城への入り口だろう。
ハグリットが大きな握りこぶしでその扉を三回叩くと扉が開いた。
*
校内から緑色のローブを着た厳格そうな顔の女性が現れる。背が高い彼女は四角い眼鏡をかけている。
「マクゴナガル教授、イッチ(一)年生の皆さんです」
「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
マクゴナガル先生は変身術の先生であり、グリフィンドールの寮監でもある。ここからはハグリットに代わり彼女が一年生の案内を引き継ぐ。
彼女に連れられて驚くほど広い石畳の玄関ホールを歩いていく。松明によって照らされているが現代の照明に慣れた俺にとっては少し暗く感じる。
大理石の階段や在校生が集まるホールの横を抜けてホールの脇の小さな部屋へ誘導された。
「まずは、入学おめでとう。新入生の歓迎会がまもなく始まります。しかし、その前に大広間の席に着く前に皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組分けはとても大事な儀式。ホグワーツにいる間は同じ寮の仲間たちがみなさんの家族です。教室でも彼らと共にに勉強し、共に寝る。自由時間も寮の談話室で過ごすことになります……」
この後も大体原作で話していたことと同じことを説明された。
寮が四つあり、それぞれ輝かしい歴史があって、偉大な魔法使い・魔女が卒業した。ホグワーツにいる間、よい行いをすると、自分の寮に得点が与えられ、逆に規律に違反すると原点される。学年末に、最高得点の寮には名誉ある寮杯が与えらる。
「……どの寮に入ることになったとしても、皆さん一人一人が寮にとっての誇りになることを望んでいます」
マクゴナガル先生はそう説明した後、全校列席で組分けの儀式が始まるから身なりを整えておくようにと言って部屋から出ていった。組み分けの準備が終わるまではここで待っていろということだろう。静かに待っているように言われたが、不安からか周囲はざわめき始める。
当然、怪物達も静かにしているわけがなく彼女たちは各々で好き勝手なことをやりはじめる。
「紳士淑女の皆様! ワタクシ、タスさんのショーを始めますわ! ショータイムですの!!」
「うげ、この百味ビーンズミミズ味だ。まっず」
「そろそろ夕食の時間ですね。時間がありますしメアリーは今のうちに生命力をとってしまいましょう。」
「いえ、遠慮しておくわ。……アラン助けて」
タスさんは勝手に大道芸を始めてしまうし、リアは車内で買った様々な味を楽しめるビーンズ、百味ビーンズを食べている。メアリーはジェーンに迫られて俺に助けを求めているがその本人との約束を守り傍観する。一応タスさん以外は騒がしくはしていないのだが、タスさんは完全にアウトである。
ハーマイオニはテストを用いて組み分けを行うと思っているので覚えた呪文を暗唱していたのだが、その喧騒に耐えられずタスさんに話しかけた。
「ちょっと、タスさん! 静かに待っているように言われたでしょう!」
「けれどみなさん不安で緊張していますわ。こういうときこそエンターテイメントですの。緊張しすぎるといい結果はでませんわよ」
「それはそうだけれど勝手なことをしてはいけないわ。いきなり退学なんて馬鹿なことになりたくないわよね」
「このくらいでは退学にはなりませんわ。引き際はわかってますの。それがわからない道化師はただの愚者ですのよ」
「引き際がわかっているなら今すぐやめなさいよ。こんな勝手なことを……」
ハーマイオニーが言い切る前に急に回りの生徒が悲鳴をあげて言葉を遮った。
悲鳴の原因は後ろの壁から現れた二十体ほどのゴーストである。真珠のように白いそれらは一年生の方は見向きもせずにスルスルと部屋を横切っていく。
「ゴースト? いるのは調べていたけれど本当にこんなにいるのね」
「もう、あなたが止めるからゴースト達に目立たれてしまいましたわ。負けられませんの!」
「もう知らないわ。私はやめたほうがいいって言いましたからね!」
ゴーストに負けじと大道芸を再開したタスさんにハーマイオニーは呆れてしまい、諦めて呪文の暗唱へ戻った。
タスさんの大道芸を見ていると組み分けの準備が終わったようでマクゴナガル先生が部屋に入ってくる。
「なにをやっているのです。静かに待っているように言ったでしょう。あなた名前は?」
「タスさんと呼んでくださいな」
「ミス・タス、ホグワーツにいる間は勝手な行動は許されません。先ほども言いました寮の誇りになるような行動を心がけなさい」
「ミセスですの」
「本当ですか?」
「もちろん冗談ですわ。それとタスさんはさんも含めてニックネーム、敬称じゃないんですの」
「はぁ、私にニックネームを名乗り、冗談を言うその大胆不敵さは称賛に値しますね」
「買っていただき感謝しますわ」
「皮肉に決まってるでしょう。初日ですから大目に見ますが今度やったら罰則です。みなさんもこのようなことはしないよう、くれぐれも気を付けてください。さあ行きますよ。組分けの儀式がまもなく始まります」
部屋を出たマクゴナガル先生の後に一列になってついていく。玄関ホールに出た後、そこから二重扉を通って大広間に出た。
大広間には数え切れないほどの蝋燭が空中に浮かんでいた。上級生は寮ごとに分かれた四つの長テーブルに座っており、その上にはきらきらと輝く金色の食器が置いてある。儀式が終わるとここに食べ物が現れ夕食へと移行するはずだ。
上座には段差の上にもう一つの長テーブルが横に設置されていて校長であるダンブルドア、駅から城まで案内してくれたハグリッドをはじめとする先生方が座っている。
マクゴナガル先生が上座の長テーブルの側まで一年生を引率し上級生の方を向かせると彼らがこちらに注目する。どんな一年生がいるのかが気になっているのはもちろんのこと生き残った男の子がいるのだから当然である。
「本物の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』という本で読んだわ」
ハーマイオニーが上を見上げる。俺も同様に見上げると上空に天井はなく夜空に数々の星々がきらめいていた。
視線を戻すとマクゴナガル先生が一年生の列の目の前に四本足の椅子を置き、その上に古びたとんがり帽子を置いた。その絵に描いたような魔法使いの帽子こそ組分けの儀式を行う組分け帽子である。所々破れておりボロボロだが数百年も前に作られたものであるのだから仕方ないだろう。
帽子のつばの縁の破れ目が口のように開くとその帽子が自己紹介と寮の説明を兼ねた歌を歌い始める。
内容をまとめると……私は見た目はきれいじゃないが、賢い帽子だ。寮の組み分け帽子なのでかぶれば被った者の行くべき寮を教えられる。
グリフィンドールは、勇気と騎士道で他とは違う。ハッフルパフは正しく忍耐強い、そして苦労を苦労と思わない。レイブンクローは意欲があるならば機知と学びの友人を得ることができる。スリザリンは手段を選ばず目的遂げる。
以上、大まかにいうとこういうことである。歌が終わると大広間が拍手の嵐で包まれた。一年生もそれにつられまばらに手を叩きはじめる。
「ABC順に名前を呼びます。呼ばれたら帽子を被って椅子に座って組分けを受けてください」
最初に呼ばれたのはアボット、ハンナ。マクゴナガル先生が生徒の名前が書いてあるであろう長い羊皮紙を読みながら彼女の名前を呼ぶと金髪おさげの女の子が転がるように前へ出る。
彼女が帽子をかぶると組分け帽子が悩む動作をはじめ、そして止まった。
「ハッフルパフ!」
帽子が叫び今年初の一年生の寮が決まる。右側のテーブルから拍手と歓声が上がり、ハンナはハッフルパフの席に着いた。彼女を皮切りに次々と帽子が寮を決定していく。ラベンダー・ブラウンが初めてグリフィンドールに組分けがされたときはロンが話していた双子の兄である二人、フレッドとジョージが口笛を吹いて歓迎していた。
初めてのスリザリン生は、ミリセント・ブルストロード。化け物達とルームメイトになる彼女には同情する。
その後何人か組み分けられ、ジェーンの番が来た。フルネームはジェーン・ドゥということになっているので苗字の頭文字がDとABC順では早めである。
「ドゥ、ジェーン」
帽子をかぶり組み分けられるのを待つ。小声で帽子に話しかけているが彼女は順当にいけばスリザリンなので何の問題もないだろう。
「スリザリン!」
予定通りにスリザリンに組み分けをされた彼女はこちらに笑いかけながらスリザリンの席に座り、組分けの儀式が続けられる。
「グレンジャー、ハーマイオニー!」
原作三人組の一人ハーマイオニーの名前が呼ばれる。彼女はグリフィンドールに選ばれるはずだ。違うと頭に思い浮かぶ情報と差異ができ、俺が困るためグリフィンドールであってほしい。
この組み分けは少し時間がかかる。適性が一つの寮に飛びぬけている場合はすぐに終わるが複数の寮に適性がある場合は帽子が悩むためである。彼女の場合、グリフィンドールに適性があるが、この学年の主席となる頭脳の持ち主でもあるのでレイブンクローにも適性があるためである。
OGであるマクゴナガル先生も同様に帽子がグリフィンドールとレイブンクローで五分半以上悩み今の寮監であるグリフィンドールに決まった。余談だがこれをハットストールというらしい。
もしかしたら、怪物たちと会った影響で別の寮に組分けされるかもしれないが……。
「グリフィンドール!」
帽子は悩んだすえに原作と同じグリフィンドールを選択した。よかった。これで原作通りに進む。
「ロングボトム、ネビル!」
ネビルは転びながら前に出て帽子をかぶる。彼の組分けしばらく時間がかかりグリフィンドールに決定した。
カエルに逃げられ泣いていた彼には勇気がないように見えるが実はそんなことはなくただ自信がないだけである。このホグワーツで自信をつけ、素晴らしい魔法使いに成長するだろう。
彼は帽子を脱ぎ忘れてかぶったまま歩いていってしまい上級生たちに笑われる。恥ずかしそうに戻った彼は次の生徒に帽子を渡すとグリフィンドールの席に座った。
次はデアの番である。彼女は通常ならハッフルパフであるためタスさんが調整してくれることになっているがどうなることやら。
「マキナ、デア!」
彼女の名前が呼ばれると周りが少しざわめく。見た目からして異種族の血が混じっているからであろう。
しかし、当の本人はまったく気にしていないようでタスさんに話しかけた。
「よし、あたしの番。タスさん頼んだよ!」
「了解ですわ」
デアが帽子をかぶろうと前に歩いていく最中にタスさんは組分けの儀式を待つ列を外れ、少し歩いては元の場所に戻り、ルートを変えてまた少し歩いては戻るという奇行を繰り返す。このなぞの儀式が今回の乱数調整らしい。
デアが帽子をかぶるが帽子が反応しない。帽子になにか言われた彼女が目のところまで深くかぶるった瞬間組分け帽子が叫んだ。
「スリザリン!」
乱数調整は成功したようである。最初にかぶったときに反応しなかったのは目以外の部分が魔法の効果を受けないため性質を読めなかったからだろう。
「マルフォイ、ドラコ!」
「スリザリン!」
マルフォイはその頭に帽子が触れるか触れないかのところで帽子が叫び、スリザリンへ組み分けられる。どれだけスリザリンの適性が飛びぬけていたらこうなるのだろうか。ちなみに彼のお供であるクラップとゴイルはすでにスリザリンに決定している。
どんどん生徒の名前が呼ばれ、組分けがなされていく。そしてついに生き残った男の子、ハリーの番になった。
「ポッター、ハリー!」
「今ハリー・ポッターって言った?」
「あのハリー・ポッター?」
大広間に囁き声が広まる。英雄の組分けであり、当然自分の寮に来てほしいので仕方がないのだろう。
囁き声の中ハリーは帽子をかぶり椅子に座った。彼の組み分けが今年の一年生で最長と言えるくらいに長いはずなので気長に待つことにする。どの組にも入れる彼は帽子に「スリザリンに入れば偉大になれる」と言われるが、ヴォルデモートと同じ寮であるスリザリンには入りたくない彼はグリフィンドールに入ることになるはずだ。
「グリフィンドール!」
ハリー・ポッターは原作と同じくグリフィンドールに決まった。校長であるダンブルドアをはじめ、彼の両親や後見人、友人であるハグリットもグリフィンドールである。
ロンの双子兄たちが「ポッターを取った」と歓声を上げている。今までで一番大きい歓声の中ハリーはふらふらと席へ向かいロンの三番目の兄であるパーシー、その彼とさきほど部屋を横切っていったゴーストの一人、グリフィンドールのゴーストであるニコラス卿と握手していた。
ハリー・ポッターの後はタスさん。ハリーはかなり目立っているのでそれには負けられないと意気込んでそうだったのだが、彼女は嫌そうな顔をしている。そんなにハリーに目立たれたのが嫌だったのだろうか。
「スラグホーン・ティー」
タスさんの名前が呼ばれてなぜ嫌そうにしていたかわかった。彼女は本当の苗字を言われるのが嫌だったのだ。
それにしてもタスさんがスラグホーン家の人間だったとは驚いた。
スラグホーンといえば代々続く純血の家系である。しかも、一九三〇年代時点で間違いなく純血の血筋と認定された二十八のイギリス人家系、聖二十八一族にも数えられるほどの由緒正しい純血の一族だ。マルフォイ家もウィズリー家もそうなのだが、マルフォイ家はこれを非常に誇りに思っている一方ウィーズリー家は不快に思っている。彼女は後者だったようだ。
「ワタクシはティー・エー・エス。タスさんですわ。スラグホーンだなんてつまらない名前で呼ばないでくださいまし」
「今は公式の場です。なにか事情があるにせよ正式に呼ばせてもらいます」
「……わかってますわ」
マクゴナガル先生に言われしぶしぶ前へ進む。進んだのだがまた同じ場所に戻ってくる。
「納得したのではなかったのですか!?」
「もちろん納得していますわ。これは乱数調整ですの。移動経路で乱数を消費する炎紋章式ホーリーマジックライトストーンバージョンですのよ。本当は移動を行わないので違いますけれどね」
「なにをわけのわからないことを言ってるのですか。さっさといきなさい」
タスさんが帽子をかぶり組分けをはじめる。
「スリザリン!」
乱数調整は成功したようで彼女もスリザリン寮の席へ座る。マルフォイに握手を求められ、少し嫌な顔をしながらも彼女はそれに応じていた。
「スミシー・アラン」
ついに俺の番がやってきた。何回も見ていたのでどうすればいいのかはわかっている。前へ進み、帽子をかぶり椅子に座る。すると帽子の声であろう低い声が耳の中に聞こえてきた
「フーム、難しい。とても難しい。ここまで難しいのは初めてじゃ」
「どうしてですか?」
「まったく君という人間が見えてこない。言い方は悪いが君は人形のようだ。君という人形を誰か別の人間が動かしているように感じる。君の前の彼女も同じように感じたが彼女は彼女たちといえるなにかがあった。しかし君にはそれがない」
「なら俺が好きに決めていいですか?」
「少し待ってくれ。見た目はおんぼろだがホグワーツの創設者四人が作った至高の組分け帽子、このままでは組分け帽子の名が廃る」
「わかりました」
俺の体質が原因なのか組分け帽子でも組み分けができないらしい。しばらく時間がたったが帽子はうんうんと唸っているだけだった。
「悔しいが私の負けだ。これなら君の好きに決めるのが最善だろう」
「スリザリンで頼みます」
「君はマグル生まれなのに純血主義のスリザリンでいいのかの?」
「だからこそらしいです。それにしてもそれはわかるんですね」
「ああ、逆にそれくらいしかわからなかったが。そして、らしいとはずいぶん他人事だのう。これが私でも読めなかった原因かもしれんな。なにはともあれ読めなかった以上、君が願うならばそれでよろしい! スリザリン!」
「ありがとうございます。助かります」
「いや、こちらこそ珍しい体験ができてよかったよ」
無事にスリザリンに決定したのを安堵しつつ、怪物達と過ごす七年間を想像して恐怖を感じる。前の人たちに習い帽子を置いて、拍手を浴びながらタスさんの隣へ座る。
「やはり時間がかかりましたわね」
「わかっていたのなら言ってくれ。俺はすぐに終わるものだと思ってたよ」
タスさんと会話をかわしているとマルフォイがニコニコしながら握手を求めてきた。
「汽車で会ったマルフォイ家のドラコだ。スミシー、聞いたことがないが君も純血の一族だろう。なにせスラグホーンと仲がいいのだからね」
「俺はマグル生まれだからこういうことしてもいいことはないぞ」
俺のマグル生まれ宣言にスリザリンの生徒たちが爆笑する。
「気に入った。なかなかおもしろい冗談を言う。純血主義のスリザリンにマグル生まれだなんてありえない。あそこにトカゲが座ってるくらいにね」
ドラコがデアを指さしながら言った。明らかに異種族の血が混じっている彼女はスリザリンでは忌避の対象なのだが、空気を読まず話しかけては無視されている。
「ちょっとー。無視しないでよ。あっ、アランやっほー。ごめんね気が付かなかった」
他の生徒に話しかけるのに夢中で俺が来たことに気が付いていなかったらしい。適当に手を振り返す。
「あの、ちょっと困ります。次は友達の組分けなので見せてもらってもいいですか?」
その一方でジェーンはスリザリン生に囲まれて困っているようだ。それのせいで俺になにか反応する余裕もない。
囲まれているといってもいじめられているのではなく人形のように整っている容姿のせいで気に入られているというだけのようなので心配はいらなそうである。
「なぜ君はあんなトカゲと仲良くしてるんだ?」
そんなことは決まっている。あいつが物語を破壊しかねないオリジナルキャラクター、物語の怪物であるからだ。できればかかわりたくないが知らぬ間に勝手なことをやられるよりは目の届く範囲でやってくれたほうがまだましである。
「見ていないと何をするかわからないからだよ」
「そうか。あれは下等生物だし気を配っておかなければ危険だな」
「デアだけでなくタスさんもジェーンも同じように危険だから気を付けた方がいいと思うぞ」
ドラコの評価が高いタスさんも同様にオリジナルキャラクターである。というかドラゴンは下等生物ではない。
「確かに彼女は優秀だが落ち着きがないな。船の上で暴れられたときは転覆するかと心配になった。しかし、ジェーンは大人しい子にしか見えないが、どこが危険だというんだ?」
俺も騙されていたが彼女は性質も能力も色々危険である。そう答える前にタスさんが船の上での行為に異論を唱えた。
「あれは暴れたのではなくアクロバットをしただけですわ」
「わかっている。君はあれをなんなくこなすほど優秀な家系の人間だからね。ただ考えなしなところはいただけない。僕たちスリザリンはグリフィンドールの連中のように無鉄砲ではないのだから」
「優秀なのは家系ではなくワタクシですわ」
「ああ、君自身ももちろん優秀さ」
「スー、メアリー!」
メアリーの名前が呼ばれ、タスさんが再度儀式を始める。立ち上がって少し歩いては戻ってきて座り、また歩いては戻ってくるという動作を繰り返す。
「って言ってる傍から落ち着きがないじゃないか!」
「諦めた方がいい。タスさんはいつもこんなんだ」
「スリザリン!」
無事にすべての乱数調整を済ませたタスさんが何事もなかったかのように自分の席へと戻る。
組み分けを終えたメアリーがあくびをしながら俺の隣に座るとどこからか殺気を感じ、ジェーンの方を見るとこちらを恨めしそうに見ていた。メアリーが遠慮がちに手を振ると目に見えてテンションが高まり大きく手を振り返す。
「メアリーとジェーンは双子だと思っていたが違うんだな」
「ええ」
ドラコに声をかけられたメアリーは短く答えると俺の陰に隠れた。あまり密着するとジェーンが怖いのでやめてほしい。
「ウィーズリー、ロナルド!」
「あいつはグリフィンドールだな。ウィーズリー家はみんなそうだ」
ロンが前に出るとドラコが彼の寮を予想した。マルフォイ家が代々スリザリンであるようにウィーズリー家も代々グリフィンドールだからだ。
「グリフィンドール!」
彼の予想通り、そして原作通りにグリフィンドールに決まる。そして最後の「ザビニ、ブレーンズ」がスリザリンに決まり今年の組分けの儀式は終了した。
全員が乱数調整でスリザリンに入るという組分け帽子の意味がない組分け回でした。
タスさんの乱数調整ですが、聖魔の光石では移動経路表示で乱数消費するので移動で調整しているタスさんの方法とは違くなってしまってます。
また、RTA勢の先駆者様曰く、乱数調整のみでは組分けを指定できない仕様らしいのでメアリーがあくびをしています。チート使えばええねん!
いつものように分けたら組分けしか終わらなかったです。次回は彼女たちとドラコたちが雑談する予定です。