そして今回ですが、マーカス先輩ファンの皆様申し訳ありません。
ようやくはじまった魔法薬学の授業では二人一組になりおできを治す簡単な薬を調合することになった。
メアリーとジェーン、タスさんとデアで組んだので俺は余ってしまった。しかし、途方に暮れているとドラコが快くパートナーを申し出てくれたので余ることはなかった……なかったが、できれば名無しモブと組みたかった。いや、助かったよ。実はドラコはいいやつなんじゃないかと思い始めてきちゃったし。
調合の実習中、俺のパートナであるドラコが角ナメクジをゆでようとしたときメアリーとジェーンのペアの鍋から爆発が起こり、金色の煙が充満した。
「いったいなにをやらかした! おおかた……いや、これは……だが作成には六か月……どうやってこれを作った!?」
「レシピ通りに作ったはずです。メアリーが準備した材料を私が調合しました」
「そんなはずはない。これはフェリックス・フェリシス。見た目はこのとおり金色の液体で幸運の液体とも言い、その名の通り幸運を呼ぶ薬だ。朝に大さじ二杯飲むだけで最高の一日になる。しかし、作成には六か月かかり、調合法は非常に複雑、失敗すれば悲惨な結果が待っている。……のだがなぜこの薬の材料でこんな短時間でこれを作れた?」
「彼女がメアリー・スーだからです」
「意味が分かりませんな」
「彼女がおでき薬を作ったらたまたまこうなってしまっただけです」
「たまたまでフェリックス・フェリシスは作れん! メアリーが吾輩にも不可能な方法で奇跡的に幸運の液体を作成したのでスリザリン五十点!」
今度はメアリーとジェーンがやらかした。実習前ではあまり暴走していなかったので安心していたが間違いだったようだ。フェリックス・フェリシスは調合難易度がトップクラスに高い魔法薬であり、決して学生が作れるような代物ではない。そのため、一年生が授業で作り出すのは狂気といえる。スネイプ先生ですら意味が分からずしきりにどうやって作ったか詳しいことを聞いている。
ドラコの傍を一旦離れてタスさんに話に行く。
「あれってタスさんならできるか?」
「一応できますわ」
「できるのかよ」
「バグを複数使えば可能ですの」
「なんだよバグって。まるでゲームみたいじゃないか」
「ゲームですわ」
「もうゲームでもいいや。それでバグなしでできる確率は?」
「ゼロですわ」
「完全に不正じゃねーか!」
「実機で可能ならチートではありませんわ」
「いや、これゲームじゃないし……。それで、どうやってメアリーはその方法を知ったんだ?」
「いえ、彼女の場合はバグも何も関係なく魅了の力で無理やり因果を捻じ曲げただけですわ」
「やっぱりチートじゃねーか」
「ええ、彼女はチーターですの。納得したなら自分たちの作業に戻っていいかしら」
「ああ、時間を取らせてすまん」
「このくらいならいいですわよ。別に最短を目指しているわけじゃありませんので。ただ、私がベリタセラムを作ったのに目立てなくなってしまったのでもう一つ他に作ることになってしまったのですけれどね」
「お前もお前でそんなものを作ってたのかよ!」
ベリタセラム。別名は真実薬。三滴ほど飲ませるだけで、その人物が持っている秘密を全て話させることができる強力な自白薬。作成に一ヶ月ほどかかる。
「余計なことはやめたほうがいいって話になったろ」
「嫌ですわ!」
彼女はそう言ってデアの元へ帰って行った。正直タスさんを止めたい、止めたいが、ここで無理やり止めるという手段はとれん。やらかしてこの授業が中止にでもなったら大問題である。原作だとこの後に事件が起こる予定なのでそれがなくなりでもしたら問題である。
ま、まあ、すでにメアリーがやらかしてるし、タスさんがベリタセラム級の魔法薬をもう一つ調合しようと誤差……だろう。誤差であってくれ。
俺の待ち望んでいた次の事件はドラコが角ナメクジを完璧に茹で、それをスネイプ先生がみんなに見るように言ったときに俺の望まない形で起こった。
「どうだ、これが優秀な僕の力だ」
「言うだけあってきれいにできてるな」
「まあ、お前らの意味不明な知識量やメアリーのありえない奇跡と比べると見劣りするが」
「あいつらが異常なだけでドラコは優秀だと思うよ」
そう、ドラコも純血の由緒正しい家系なだけあって優秀なのである。話の整合性が考えられていない怪物たちは無論、主人公であるハリーやラスボスであるヴォルデモート、その他の天才たちと比べるのが間違っているだけで彼は普通に優秀なのだ。今回の実習も勝手に全部やってくれるので助かる。
「いや、他人事のように言っているがお前も入っているからな」
「俺はあいつらと違って化け物じゃないよ……ってなんだ!?」
緑色の煙が上がり、シューシューという大きな音が広がる。ネビルが失敗してシェーマスの鍋を溶かしてしまったようだ。すぐにタスさんがこぼれた薬を消失呪文で消し、床は物を清める呪文できれいにしてしまった。
デアは大鍋が割れた時に薬をかぶってしまいそうになったネビルを庇って自身が薬まみれになっている。
「ごめん。僕のせいでぐしょぐしょになっちゃって」
「いいって。それよりネビルにはかかってない?」
「うん、君のおかげで大丈夫だよ」
「バカ者! おおかた、大鍋を火から降ろさないうちに、山嵐の針を入れたんだな? マキナは大丈夫か?」
「なにがー?」
「いや、本来ならそのように失敗した薬は反対におできができる薬になるのだが……問題ないのならいい。しかし、万が一のことがある。医務室にいきなさい」
「えー、大丈夫だよ」
本当に大丈夫だろう。ただのアホに見えるが、力づくで物語を終演へと導ける機械仕掛けの女神がこの程度で傷つくわけがない。
「ロングボトムが責任を持って連れて行くように」
スネイプ先生に命じられたネビルが申し訳なさそうにデアを医務室へ連れて行った。このとき薬を触ってしまったため彼におできができたとかできないとか。
「ロングボトムが他の生徒に迷惑をかけ、なおかつ授業を中断させたのでグリフィンドール五点減点、身を挺してロングボトムを守るというマキナの献身的な行いに対してスリザリンに五点」
それに続いてネビルの隣で作業していたハリーとロンの二人に矛先を向け、ネビルが失敗したのはハリーが注意しなかったからといちゃもんをつけてグリフィンドールから一点減点した。ハリーは落ち込んでいたがタスさんの五百点減点と比べたらどうということはない。……どうということありました。本来はネビルがかぶることになるのにデアが彼を庇ってしまった。
「デア、なんで助けたんだ」
「なんでって助けるに決まってるじゃん」
「原作だとネビルがかぶるんだよ」
「えっそうなの? ごめん。あたし映画しか見てないからさー」
「そうか、なら次は気をつけてくれよ」
「あー、……うん。わかった」
なんか間があったが大丈夫なんだろうな。
そして、最後はタスさんが満を持してバグ技を利用して作った薬である。彼女が完成を宣言した。
「先生、完成しましたわ! ベリタセラムと命の水ですの!」
タスさんの口から命の水と聞こえたが気のせいだと思いたい。
「なぜ当然のごとく指定していないものを持ってくるのだ。べリタセラムは作成に一ヶ月かかるのだぞ。しかももう一方は何て言った?」
「命の水ですわ!」
気のせいじゃなかった。終わった。なんてもの作りやがる。
命の水。生命を延長する薬で、賢者の石から作られる。飲み続ければ不老不死となる。不老不死というのもぶっ飛んでいるが問題はこの賢者の石から作られるという部分である。
そう今年一年の物語の名前は『ハリー・ポッターと賢者の石』。立ち入り禁止の四階に住んでいる三頭犬が守っているものがこの賢者の石なのである。今年はこれを狙いに来たヴォルデモートとハリーがこれを巡って争う。つまり、今年のキーアイテムである。
「それはあるものがないと作れないはずだ! お前まさか!」
「別にそんなもの使ってないですわ。嘘だと思うならこのべリタセラムを使ってもらって構わないわ」
「それが本物という証拠がないだろう!」
「なら彼に協力してもらいますわ」
魔法で三滴分浮かしてドラコの口の中に放り込む。
「なにをするんだ!?」
「あなたの杖が何でできているか教えてくださいな」
「サンザシにユニコーンの毛」
「あなたが気になっている女の子は?」
「言うわけな……うーん。メアリーは変わってるが謙虚だし、ジェーンは真面目で優等生、パンジーは特別なわけではないが逆にそこが親しみを持てる。それに僕を慕ってくれているし。ダフネも……」
「もう、いいですわ」
「私は謙虚ではないと思うわ」
「メアリーは自信がないだけですからね。ただ、そこが好きなのでそのままでいてください。あと、ドラコさん、私はメアリーのものですし、メアリーに手をだしたら駄目ですよ?」
「ドラコったら。なんだかんだ言いながら気にしてくれてるのね」
「私は名前だけで中断されたわ。気になるじゃないの」
「ここにミリセントっていう名前すら上がっていない人がいるんですけどね」
「あたしもだよー。仲間だね」
「聞いた当の本人もですわよ」
ラブコメの波動を感じる。スネイプ先生はその波動が嫌いなのかとてつもなく嫌そうな顔をしながらべリタセラムの効果を認めた。
「本物のようだ。さあ飲んでみるがいい」
「いいですわ」
再度三滴分を魔法で浮かべると今度は自分の口の中に入れた。
「これらをどうやって作った?」
「まずアイテム変化バグで材料を変えますの。そして、調合結果変更バグであらかじめ逆算して変えていた材料を用いて任意の物体ができるようにしますの。調合成功バグを使い確実に成功できるようした後に時間短縮バグで即調合できるようにすれば任意の物体が完成しますのよ」
「まったく意味がわからん。命の水の作成に必要な石を持っているか?」
「もっていないですわ」
「使ったことはあるか?」
「ないですわ」
「命の水は本物か?」
「本物ですわ」
「命の水はどうやって作った?」
「まずアイテム変化バグで材料を変えますの。そして、調合結果変更バグであらかじめ逆算して変えていた材料を用いて命の水ができるようにしますの。成功率バグを使い確実に成功できるようした後に時間短縮バグで即調合できるようにすれば命の水が完成しますのよ」
「……もういい結構だ。タスさんが吾輩にも理解不能な方法でべリタセラムと命の水を作成したのでスリザリン五十点! これにて今日の授業は終了だ。タスさんは終了後残るように」
スネイプ先生が匙を投げようやく原作が蹂躙し続けられた地獄のような「魔法薬」の授業から解放される。
タスさんがなにかしないか心配だったため、後片付けをした後、俺も残っていたが先生に帰されてしまった。
*
魔法薬学で今日の授業がすべて終わったので、談話室へと戻ると上級生たちに詰め寄られた。他のところで加点され続けていたとはいえ二回も合計点をゼロにされたのだから当然である。
「前の授業は魔法薬学のはずだろ。なんで授業中に二回点数が〇点になってるんだ」
上級生の一人、マーカス・フリントに減点の理由を聞かれ、怪物たちの中では一番まともに見える優等生のジェーンが答えた。
「申し訳ありません。先生をからかった子がいたんです。私がちゃんと止められればよかったんですけど……」
「どうからかったらあの授業でスリザリンがそんなに減点されるんだよ!」
俺もそう思う。あそこまでわかりやすいスリザリン贔屓のスネイプ先生の授業で大量減点されるとかありえないはずだった。
説明しようとしたとき、諸悪の根源であるタスさんが魔法薬学の教室から帰ってくる。先生となにを話していたのかは後で聞く。とりあえず今は上級生たちに説明をしないといけない。
途中で合流したのか医務室に行っていたデアも一緒だった。
「スネイプ先生を学生時代のあだ名で呼びましたの!」
「それだけで何十点も減点されるわけないだろ!」
「何十点ではなく百点と千点ですわ。次元が違いますの」
「桁違いすぎてもはや意味が分からない。〇点になった後せっかくすぐに何十点も追加されたのにまた〇点になるなんて本当にあだ名で読んだだけなのか?」
普通なら学生時代のあだ名で呼んだくらいではそんなに減点されるわけがない。しかし、スネイプ先生となると話は別になる。タスさんが最初に使ったスニベルスというあだ名は愛称として呼ばれていたものではなく蔑称として呼ばれていたもので先生はよく思っていない。その後に使ったセブという呼び名は先生にとってはさらに苦い思い出に関するのであの場で本気で怒られても文句は言えないものであった。タスさんの代わりに俺が心の中で謝罪しておこう。スネイプ先生ごめんなさい。
「先輩、それが本当なんですよ。誰にでも踏んじゃいけない地雷ってあるじゃないですか。スネイプ先生はそういうの多そうですけどそのあだ名はその中でも特大のやつだったんです」
「そうか。……と納得できるわけないだろ。一週目から首位を独走していたのになんでそんなことをしたんだ」
「おもしろいからですの。あの魔法薬学で百点どころか千点も減点されたらみなさん驚きますわよね。だからですわ」
「おもしろいからとかいう理由で減点されに行くなんて許すわけないだろ。大事な寮杯がかかってるんだぞ」
「大丈夫ですわ。減点された後にワタクシと彼らで荒稼ぎしたので大丈夫ですの。圧倒的な一位ですわ」
「減点されなければもっと差をつけられていたのに。寮杯は数年連続でうちが獲得してるんだぞ。今年取れなかったらどう責任とるつもりなんだ!」
「今年は負けますわ。グリフィンドールにあのハリー・ポッターがいますもの」
「あんなのちやほやされて舞い上がってるだけのただのガキだ。純血の俺のほうが優秀だね」
「今のスリザリンはあなたみたいな純血というだけで思考停止するような人ばかりだから負けてしまうんですの」
「羽虫のくせに偉そうなこと言いやがって!」
「あなたはヴォルデモートを倒せるほど優秀ですの?」
「なっ、お前、例のあの人名前を……」
「ヴォルデモートの名前すら言えないあなたじゃ一年のワタクシにすら勝てないと思うのですけれど?」
「言わせておけば!」
「そうだそうだ。一年に立場を教えてやれ!」
「生意気を許すな!」
「上級生の力を見せてやれ!」
「よくも〇点にしてくれたな!」
「僕はやめたほうがいいと思うフォイ……」
ごく一部を除いてほぼ全員が上級生の味方である。一年生の中にも上級生を応援する声があるくらいだが、無駄に先生を煽って大量減点されているので残念ながら当然である。
「みなさん落ち着いてください。喧嘩は駄目です」
「ジェーンの言うとおりだよ。みんな仲良く!」
ジェーンとデアが二人の間に割って入るがタスさんは楽しそうに笑っていて挑発しているように見えるし、マーカスは頭に血が上っているようでまったく引く気配がない。
「俺もやめておいたほうがいいと思います。彼女には俺から言って聞かせますので」
俺が何を言ったところでタスさんは好き勝手するとは思うが、今はマーカスを止める方が先決だ。
「知るか好き勝手言いやがって! デンソージオ!」
しかし、タスさんに挑発されたマーカスは歯をリスの前歯のように伸ばす呪いを彼女に向けて放つ。彼女はそれを最小限の動きで避けながら原作を知っている者ならおなじみの呪文を唱えた。
「エクスペリアームス」
狙いから逸れた歯の呪いは彼女の後ろの壁にぶつかって消えた。武装解除呪文を受けたフリントの杖が吹き飛び転がる。
「アクシオ。杖よ来い」
続いて彼女は離れた場所にある物体を、術者の側に呼び寄せる呪文を唱ると杖が彼女の手元へ飛んでいきその手のひらへと収まった。四年生の「呪文学」で習うはずのものだが、「呪文学」は「妖精の呪文」の続きの教科、つまり妖精の呪文であるそれは半分妖精の彼女なら簡単に扱えるということなのだろう。
「インペディメンタ。後は妖精の魔法でもいいですわよね」
丸腰になった彼に妨害の呪文を唱え動きを鈍らせた後、彼女は自身の杖にそう言い指を何度か鳴らす。彼は意味のない言葉をつぶやき錯乱し始めたと思うと口にチャックをしたように黙り込み突如出現したロープで縛り上げられ石のように固まった。
これは、彼女の完全勝利以外の何物でもない。ごめんマーカス、何もできなかったよ……。
「はい、これでサンドバッグの完成ですわ。フリペンド」
「プロテゴ」
彼女の放った対象に衝撃を与える初歩的な攻撃呪文をジェーンが盾の呪文を用いて弾く。盾の呪文はほとんどの呪文、さらには矢などの物理攻撃までも防ぐことができる為便利なのだが、習得するのは困難である。一年生で扱えるジェーンはあきらかにおかしい。
「もう十分です。ここまでならまだ小競り合いと言い訳できますがそれ以上やれば確実に校則違反になります」
「そうそう。決闘は駄目なんだってー」
「これ以上はやりすぎだ。ここまでなら先にやられたので動きを止めましたで済む」
「まだまだこれからですわ。どうせならあなたたちと戦いたいですわね。フリペンド」
「プロテゴ」
タスさんがもう一度衝撃呪文をサンドバッグと化したフリントへと向けて放つがさっきと同様にジェーンが盾の呪文で防ぐ。
「これ以上やったら本気で止めます」
「なら本気で止めてくださいな。フリペンド・マキシマ」
「プロテゴ・マキシマ、エイビス、オパグノ、ステューピファイ」
ジェーンは最大限に効果を高められた衝撃の呪文を同様に最大の守りで防ぎ、鳥を出現させる呪文を唱え、生き物に対象を襲わせる呪文でその鳥を向かわせながら本命の失神呪文を放った。
いくらタスさんが無限の反応速度を持っているとしても物理的に避けれないほど大量の鳥をけしかければ避けることはできない。
そして彼女に武装解除呪文や動きそ阻害するような呪文を使っても杖や動作を必要としない妖精の呪文を使える彼女には意味がないが失神となれば話は別である。
絶対に避けられない鳥で行動を妨害し、失神呪文で完全に行動を止めることができるというわけだ。これならタスさんであっても失神は免れない。……魔法を用いなければ。
「甘いですわ!」
彼女が指を鳴らすとその姿がポンという音とともに消え、バシッという音とともにフリント真後ろへ現れる。
おそらく姿現しだろう。特定の場所から姿を消し、その後別の場所に出現する魔法である。消えるときは姿くらまし、出現するときは姿現しという。
難易度の高い術で、失敗した場合、身体が一部移動できずに残ってしまう危険性があるため、試験を合格した魔法使い以外はこの術を使ってはならないと定められている。
その試験は十七歳以上でないと受けられないうえにホグワーツ城の敷地内では使えないようになっている。
しかし、彼女が用いたのはおそらく妖精が扱うもの。それならば魔法使いの魔法とは異なるため敷地内でも使うことができる。法律に引っかからないかはわからないが、魔法使いのものとは別物なのでおそらく問題がない。
「フリペンド・デュオ!」
連撃で放たれる衝撃の呪文を唱えながら指を鳴らし、炎と氷、爆風を同時に発生させた。
しかしそれらは大きくなる前にかき消える。失敗したのか、否、デアが一瞬でそのすべてを自身の杖という名の刀で振り払ったのだろう。
呪文が消滅すると同時にジェーンの隣にいた彼女はタスさんの目の前へと移動していた。
「危なかったー。そんなの使ったら談話室がぐちゃぐちゃになちゃうよ」
「デアさん、ありがとうございます。油断していました。ホグワーツ城内では姿現しできないはずなんですけど」
「ワタクシのは妖精のものですのでできるんですのよ」
「魔法使いの魔法とは違うんでしたね」
「おい! お前らもう流石にやめろ!」
やめるようにしか言えないのが悲しいところである。頭に情報が浮かんでくること以外はただのマグル生まれの俺に明らかに一年生レベルではない攻防を行う彼女たちの間に割って入れという方が無茶だ。
「大丈夫です。もうできませんので」
「できない?」
「そのようですわ。降参ですの」
突然タスさんが杖をしまい両手を上げる。なぜだかはわからないが一応自体は収束したようである。
「もう、ずるいですわ。メアリーが出張るのは反則ですの」
「メアリーが止めてくれたのか?」
「いえ、私は姿現しができないようにしただけだわ」
「この空間を魅了してですわ。下手をすれば魔法も止められますの。ワタクシはジェーンとデアと戦ってみたかったのであって、あなたとは戦いたくありませんでしたわ。戦ってもあなたが必ず勝つのでつまらないんですのよ」
「私とタスさんならタスさんの方が強いと思うけれど」
「謙遜はいいですわ。あなたが絡んだ時点でワタクシの勝率はゼロ。それが事実ですの」
「タスさんなら私を絡ませずにそのまま詰ませることもできるわよね?」
「ええ、絡まないようにできれば勝ってますわ。ねぇジェーン?」
「なんのことですか?」
「まあいいですの。全力が出せて楽しかったですし、まだまだ実力不足とわかりましたわ」
「もー、決闘は駄目だって言ったのに。まあでも収まってよかった。本気で動いたらお腹すいちゃったよ。お菓子ちょーだい」
「そうですわね。夕食までは時間ありますし、みんなで軽食しましょう。お菓子買ってきますわ」
「あたしも行く!」
元気そうな二人とは対照的にメアリーはその場で座り込んでうとうとしており今にも眠ってしまいそうである。
「生命力の使い過ぎですよね。すみません、私のせいです。一緒に寝室へ行きましょう」
「ジェーンのせいではないわ。私の力の使い方が荒いせいよ。眠れば大丈夫。一人で行くわ」
タスさんとデアはお菓子を買いに行こうとしているし、メアリーとジェーンは女子寮へ向かっている。
事の発端のはずの呪文で行動不能になっているマーカスを放置したまま彼女たちは各々のやりたいことをし始めようとしている。
「お前らお菓子を買うのも寝るのも自由だが呪文は解いてやれよ」
「忘れてましたわ。はい、元通りですの」
タスさんが指を鳴らすとかかっていた呪文がすべて解けた。マーカスはハッとして辺りを確認している。状況が呑み込めていないようだ。
杖がないのに気が付くとタスさんに取り上げられたことを思い出したようで一人でこちらに近づいてくる。他の上級生は、一年生どころか上級生でもまず不可能な化け物じみた動きをした怪物たちには近寄りたくないようで遠巻きに見ているだけだけだ。
「杖を返せ!」
「それも忘れてましたわ。今返しますの。はいどうぞ」
「さっきのは油断しただけだ。もう一度勝負しろ! 決闘は禁じられているが決闘クラブでなら許されている」
「どっちかというと油断していたのは不意を突かれたワタクシのほうですわ。来るとわかっていたので油断はしてませんでしたけれど。それに昔はありましたが今は決闘クラブはなかったはずですの」
「うるさい! そんなもの今から作ればいい! なんでもいいからもう一度正式な場で勝負しろって言ってるんだ!」
「ワタクシは決闘してもいいですわ。もっと色々できなければメアリーたちに勝てませんからね。練習になりますわ」
「決闘クラブでという話であれば校則にのっとっていますし問題はないです」
「クラブ活動なら仲良くできていいよね」
「致命的な問題が起きないならなんでもいいわ」
「まあ、それなら大丈夫か? だが、原作から乖離しないように気をつけてくれ。精神崩壊とかされたらしゃれにならん」
「善処しますわ」
「なんか不安になることを言っているが決闘できるのならなんでもいい。よし、なら次の週の……」
マーカスが予定の日を提案する前に遠目に見ていたドラコが決闘すること自体を止めてくれた。
「いや、やめておけ。お前じゃ絶対にこいつには勝てない。無論その周りの連中にもな」
「さっきは油断しただけだと言ってるだろ!」
「お前は途中で錯乱させられたから覚えていないだろうがこいつは化け物だ。彼女はこの年で姿現しができる」
「校内じゃできないだろ。それに使っていいのは十七歳からだ」
「言葉が足らなかったな。彼女のものは妖精の魔法だ。しかも戦闘中にも難なく使用できる。つまり、彼女に勝つには連続でされるであろう瞬間移動に対応できなければどうにもならん。まあ、それ以外にも勝てない理由はいくらでもあるが……友人にでも聞け。そうすればわかる。これは彼女をかばってるのではなくお前をかばってるんだ。再起不能になっても知らんぞ」
「この俺をかばう? 相手は一年で純血じゃないどころか下等生物の家系だぞ? さすがマルフォイ家、親父と同じで腰抜けだな」
「僕も父上もただ慎重なだけだ。うかつなお前と違ってな。気が変わった。僕がじきじきに説明してやる。お前は盾の呪文が使えるか? ジェーンはそれを最大の呪文で使える。お前は同時に複数の呪文が唱えられるか? タスさんは連撃にした衝撃の呪文と炎、氷、爆風の呪文を同時に放ったぞ。お前はそれらが完全に効果を発揮する前に潰せるか? デアは魔法も使わずそれをやってのけた。お前らはこいつらの争いを止められるか? メアリーは全員無傷のまま収めた。お前はそんなやつらが好き勝手するのを抑えられるか? アランはこいつらをまとめているある意味一番の化け物だ」
「ありがとうございます。でも盾の呪文は練習さえすれば誰でも習得できるのでよろしければ教えますよ」
「まだまだですの。もっと派手に、もっと美しく、もっと壮大で強力な魔法が使えるはずですわ!」
「魔法を使わなかったじゃなくて使えなかったんだよ。あたしは魔法がまともに使えないから……」
「あれはジェーンとデアのおかげよ。タスさんだって本気じゃなかったし」
「俺をこいつらと一緒にするな! 抑えられてたらこんなことになってないだろ!」
「お前ら褒めてやってるんだから黙って聞け! それで話を戻す。こんなやつらに喧嘩を売るなど自殺と変わらん。これだけ言っても挑むならお前はスリザリンに相応しくない。自己防衛能力が欠如している。そう無駄に危険に突っ込むグリフィンドールのやつらのようにな。まだ文句があるなら聞く。だが、お前の親は魔法省のどこの勤務だったか、……たしか父上の部下だったような気がするが、マグル製品不正使用取締局に飛ばされなきゃいいがね」
魔法省はイギリス魔法界の政府であり、マグル製品不正使用取締局はマグル製の道具を不正に使用しないよう取り締まる部署である。マグルの道具、例えば車などに魔法をかけて使用をしてはならないという法律があるためそのような部署がある。物置小屋のような狭く小さい部署であり、魔法省ではぶっちぎり不人気部署でもある。
ちなみに局長はロンの父親なのだが、彼は好きでこの仕事についている変わり者である。
「……わかった」
「ああ、わかってくれてなによりだ。そしてこいつらを責めたいやつらに寮の点について補足だ。減点を加味しても今日までスリザリンに入った点数の大半がこいつらの点。減点に値する行為をわざわざしてプラスマイナスゼロにするのは馬鹿としか言えないが、この大馬鹿どもは優秀には違いない。こいつらを敵視するやつらは争う相手を間違えている。こいつらは協力するべき仲間だ。僕たちが争うべきは他の三寮、特にグリフィンドールだ。わかったか?」
「おー!」
デアがドラコの演説に乗って掛け声を叫ぶ。お前も原因なんだがわかってるのか。
「さすが私のドラコ。誇り高い純血の一族!」
ドラコがスリザリンをまとめてくれたおかげで今回の騒動も収まった。とはいえ、完全に怪物たちがメアリー・スーになってしまった。彼女たちを称賛するだけの舞台装置と化してしまった彼に謝罪の意味を兼ねて礼を言いに行く。
マーカス先輩は……うん、あれだ、天災に巻き込まれたと思ってもらいたい。ごめんなさい嘘です。いつかなにかでお返しします。
「あいつらを止められなくてごめんな。ありがとう助かった」
「別にいい。スリザリンが団結して勝つためにやっただけだ。むしろ結束力向上に繋がって助かったよ。僕のカリスマ性もアピールできたしな。それにフリントの奴、助けなかったらお前らがぶっ壊してたろ。あいつはクィディッチの代表選手だ。それは困る」
「さすがにそれは何とかしてたとは思うぞ」
「どうだかな。それよりこれを見てくれ」
ドラコが持っていた新聞を見せてくる。
「日刊予言者新聞がどうかしたのか?」
魔法界の新聞である『日刊予言者新聞』はダイアゴン横丁に本社があり、イギリスの魔法使いにとって重要な情報源となっている。
「グリンゴッツに泥棒が入ったらしい。だが、その泥棒は捕まらなかった。あのグリンゴッツに忍び込んで捕まらないってことは強力な闇の魔法使いがやったってことだ。でもなぜかその泥棒はなにも盗んでいかなかった。陰に『例のあの人』がいるんじゃないかって噂になっている」
「そうかあのグリンゴッツに強盗か。でも、ドラコはその噂が本当のほうが都合がいいんじゃないか? 『例のあの人』は純血主義だっただろ」
「まさか、さすがにそうは思わないさ」
グリンゴッツに入った泥棒はヴォルデモートに取りつかれたクィレルである。賢者の石を盗もうとしたがそれはすでにハリーの付き添いで訪れたハグリットが回収してホグワーツへ隠した後だったためまぬけにもなにも盗めず終わってしまったというのがこの事件の真相だ。
お菓子会の準備が終わったのかデアが話しかけてきた。
「アランもドラコも一緒にお菓子食べよー」
「あんまり食べると夕食が食べれなくなるぞ?」
「あたしは全然大丈夫! みんなも少しくらいなら平気だよ」
パンジーも杖型甘草飴をなめながら誘いにきた。
「そうよ。一緒に食べましょう」
「僕も食べよう。皆が食べている中一人食べないのも悪いからね」
「それもそうだな。まあいいか、俺も食べるわ」
「やったー」
こうしてお菓子を食べながら夕食まで談笑をした。スリザリン生の大半がお菓子を食べすぎて夕食があまり食べられなくなってしまったが、デアとクラッブ、ゴイル、参加しなかったメアリーとジェーンは普通に食べていた。
目の前で原作キャラが蹂躙されていったが、上級生と話すことで学年の垣根を超えてスリザリン生と親しくなれたのでよかったということにしておきたい。
あと、舞台装置と化した原作キャラたちにはお悔やみを申し上げます。怪物たちを止められなくて申し訳ありませんでした。今後はこのようなことはないように……いや、無理そうだな。
マーカス先輩ファンの皆様申し訳ありませんでした(土下座)。
ということでついに原作キャラクターから怪物たちの犠牲者が出てしまいました。
怪物たちのパワーバランスですが、相性を考えなければ全員同等、現時点(賢者の石)では、怪物単体だとダンブルドア、復活後のヴォルデモートには全力で来られたら勝てません……くらいに考えてます。
主要キャラクターと比較しても、飛行センスではハリーに及びませんし、ロンにチェスでは勝てません、ハーマイオニーの方が勉強は得意ですし、ドラコほど世渡り上手ではありません。(怪物としての力でごまかせますが……)
だんだん被害がでるようになってきました。飛行訓練では被害者がでないことを祈って……。