やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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第1鎮守府へ

呉泊地襲撃事件はわたし達が夕立たちを拘束した後、3日ほどで鎮圧された。グラーフに肩入れし、彼女に情報を流していた第15鎮守府の司令官は拘束され、鎮守府にいる艦娘は全員どこかに連行され、尋問を受けたらしい。わたし以外のあの場にいた艦娘は同じ艦娘に砲を向けたという罪悪感からふさぎ込んでおり、わたしもそれに倣って出撃を休むことにした。

 

 しかし、ただ休んでいることは性に合わないので、秘書艦をさせてもらい司令官の仕事を手伝う傍ら、夕立の言っていた単冠湾の白露についての事について調べてみる事にした。彼女の意見に賛同したわけではないが、そのことに対して少し興味が出てきたのである。

 

「……あーら、朝潮姉さん。こんな所にいたの? 姉さんが秘書艦やるなんて珍しいと思ったけれど、資料室で調べもの?」

 

 そのために資料室を訪れていると、荒潮が後ろから声をかけて来た。彼女の神出鬼没ぶりには困ったものである。わたしは自分の頭を触り、私の髪が昆布か何かとすり替えられていないかを確認すると、彼女に対して返答した。

 

「ええ、午前中の仕事は終わったので、少し暇が出来たので、暇つぶしに来ました。前に、裏切った第15鎮守府の旗艦だった夕立が、単冠湾の白露がどうとか話していたので、裏切った理由がそこにあると思ったので、少し調べてみる事にしたんです。荒潮も暇なら資料を探してくれませんか?」

 

「うんとぉ、単冠湾の資料はぁ、これ?」

 

 荒潮はそう言うと、わたしが探していた資料をピンポイントで探し当ててくれた。

 

「これです。荒潮ありがとう。やはりずっと秘書艦をしていただけはあって、資料室のどこに何があるのか理解しているのですね」

 

「違うわよぉ、妖精さん、妖精さんがここに資料があるって教えてくれたのよ」

 

 と、荒潮は意味不明なことを言ってきた。彼女のキャラクター的に資料室のどこに何があるのかわかるほどここに入り浸っていることを恥ずかしく思い、こんな意味不明な言動を咄嗟に思い付いたのだろうと思うと、何だか彼女がかわいらしく思えて来た。それにしても妖精さんが教えてくれたか……。

 

「……なにか、かなり失礼なことを思われているような気がしたけれど?」

 

「いえ、わたしは妖精さんを信じますよ。妖精さんはいたるところにいて、わたし達を守ってくれているんですよね。中世の文豪ゲーテは言いました。一番好きなことは笑うこと、人として最も重要なことです」

 

「朝潮姉さんがどうしてそんな名言を言ったのかわからないけれど、ゲーテっていう人、そんな事を言っていないんでしょう? 知らないけれど」

 

 その問いにもちろんと答えると、彼女はハイハイと聞き流し、見つけた本をわたしに手渡した。わたしがそれを受け取り資料室に備え付けられた椅子に腰を下ろすと、荒潮は私の隣に座り、資料に目を通しながら、私も少し興味があるから、見せてねと上目遣いになりながらそう言った。彼女に資料を見つけてもらった手前、断ることは出来なかった。断るつもりもないが。

 

 

 

「単冠湾で起こった事件を見返しましたが、それらしい事件は見つかりませんでした。と言うか、この泊地あんまり機能していないですね。1年前に深海棲艦が1隻、泊地5キロ手前の地点まで侵入した記録はありましたが、それ以外に深海棲艦が侵入したという記録はありませんね」

 

「まあ、単冠湾泊地は現在の大将の大半が参加した大規模作戦で北極海の深海棲艦を壊滅させた後に建てられた泊地で、その時の深海棲艦は他の海域に逃げ帰ったらしいから、あんまり深海棲艦がいないらしいのよねぇ、深海棲艦たちの主な巣はオーストラリアと南極だし……ってここに書いてあるわ」

 

 わたしが見たかったのは、深海棲艦が泊地に侵入したという記録ではなく、行方不明事件とか、司令官の蒸発とかそう言った事件がないか確認していたのだが、平和そのものである。艦娘の異動も2年前に第4鎮守府に響。1年前に第6鎮守府に曙。そして、8か月前に第13鎮守府に叢雲が着任した以外は目立った艦娘の異動はなく、大抵はレア艦と言われる特殊海域で手に入る艤装が適合する素体のみである。

 

「まぁ、予想はしていました。綾瀬大将が非合法な方法で、艦娘を誘拐したならば、その痕跡を残すはずはありませんよね。いや、裏切り者の話なんで話半分で聞いているので、本当は何もない可能性もありますが」

 

「ふぅん? 朝潮姉さん、その事を調べてどうするつもり?」

 

「言ったでしょう。ただの暇つぶしです。例えば、考古学者が失われた文明の残された資料から当時の生活様式や文化を想像するように、第15鎮守府がなぜ泊地のみんなを裏切ってまで綾瀬大将を狙ったのか、その過程を想像したいだけです」

 

 そう言うと、荒潮は変わった趣味ねと、言って資料の方に目を戻した。彼女にはああ言ったが、今思えばわたしは夕立が裏切った原因である白露に一方的な同族意識のようなものを感じていたのだろう。

 

 わたしは自らの居場所を他人の建造運によって理不尽に奪われた。そのおかげで師匠にも巡り合えたし、この鎮守府で朝潮として使命を全うできているので、その事に対してどうこう言うつもりはないが、それはわたしが救われたからそう思うだけである。

 

勝手な想像だが白露はおそらく異常艦娘がらみの件で、理不尽に綾瀬大将の毒牙にかかったのだろう。ただ、自分が異常艦娘だったという理由だけで。今のわたしにはそのことは分からずにいた。

 

 そんな風に、ぼうっと中空を眺めていると、わたしの両わき腹に激痛が走った。荒潮がわたしの脇腹の筋肉の隙間に人差し指を押し込んだためであり、「ひゃぅぅ」と言う悲鳴を上げてしまった。

 

「こらぁ!! いきなり何するんですか!?」

 

「朝潮姉さん、そんな可愛らしい声を上げるのねぇ。今まで忘れていたんだけれど、朝潮姉さんに司令官から伝言よ。午後から3日前の呉襲撃事件の事で、司令官と共に第1鎮守府に行ってね!?」

 

 脇腹を突いた説明にはなっていない上に、先に言えよ発言を聞いたので、急いで執務室に向かった。

 

 

 執務室に向かったわたしはそこにいた阿武隈に、司令官ならもう鎮守府の入り口で待っていると聞いたので、そのまま鎮守府の入り口に向かった。が、そこにいたのは荒潮だった。

 

「……どういう事ですか?」

 

「はぁい、一日臨時司令官の荒潮よ」

 

 荒潮は司令官のダボダボの司令官の軍服を着ており、悪戯の制裁をするために、頭突きをくらわせようとしたが、先ほどの発言が荒潮の発言ではなく、わたしの脳内に直接伝わったことに気づいたので、それを止めた。

 

「行きましょう、司令官」

 

 わたし達はそう言って、鎮守府の目の前に止まっていた車の後部座席に乗り込んだ。中には何度か見かけたことのある鎮守府間の移動の際によく見る中年の男性が運転手をしていた。以降わたし達は艦隊の通信を使って会話を行った。

 

「あら、朝潮ちゃん、てっきりいつものように頭突きが飛んでくると思っていたけれど、素直にこの状況を理解してくれて助かったわ」

 

「別に何も理解していないです。ただ、この通信が行われているという事は、司令官がわたし達を編成したという事です。これが悪戯なのか、そう言った命令なのか分かりませんが、それに司令官が関与しているとなれば、わたしはそれに従うしかありません」

 

 荒潮はわたしのその言葉を聞いて満足したのか、蠱惑的な笑みを浮かべている。例えるならば、アリがアリジゴクに落ち、それがもがき苦しみながらもだえ苦しむのを笑いながら眺めているようなそんな笑みだった。

 

「なるほど、悪戯ねぇ。朝潮ちゃん、わたしは悪戯が大好きなの」

 

「ええ、知っていますよ」

 

「でも、他人に悪戯をされるのは苦手だわ。そんな事をされたら、私困っちゃうの。例えば、熊本大将を驚かせるために司令官に成りすまして車に乗り込んだのに、その道中で司令官を狙った裏切モノの残党が、この車を襲撃してきたとしたら、とっても困るわ」

 

 彼女はそう言って、車の進路の先を眺めた。そう言えばこの先、人気のない農地を通る。わたしは艤装を構えた。そして、そこを通って数秒後、艦娘が一人、車の前に飛び出した。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 運転手は悲鳴を上げ、ハンドルを切るが、彼女は車を力で強引に押しとどめ、間髪入れずに左右から艦娘が一人ずつ強引に車のドアを開けた。

 

「取った! 司令官を抑えました。第4鎮守府の司令官。手荒な真似はしたくありません。あなたには私達の司令官を取り戻す為に人質になってもらいます」

 

 彼女はそう言って、司令官の格好をした荒潮に銃口を向けた。荒潮は帽子を深くかぶっているので、荒潮だと気づかない。彼女は駆逐艦吹雪。

 

「朝潮ちゃんも提督さんの命が惜しかったら、無駄な抵抗は止めるっぽい」

 

 と、左からドアを開けて来た夕立も私に向けて銃口を向ける。因みに、先ほど、車を強引に止めたのは睦月だった。3日前の戦闘で対峙した敵艦隊にいた艦娘と同じである。まずい、彼女らの姿が見えているので、彼女らには司令官による補正が働いていないが、確か今の荒潮は艤装が装着できない筈で、実質3対1、かつ、夕立の強さは先日の戦いで異常艦娘であることが知られている。

 

「第15鎮守府の艦娘だな。熊本大将から第15鎮守府の艦娘を尋問した結果、何人か別鎮守府から派遣されたかのような辻褄の合わない証言をした艦娘が何人か発見された。熊本提督の話では、ここにいる艦娘は襲撃を成功させるために、外部の艦娘と入れ替わった者たちだろう」

 

 そんなわたしの憂いを晴らしてくれるように、荒潮が司令官の声真似をしながらそう言った。彼女たちは襲撃後に脱獄した艦娘ではなく、襲撃前に入れ替わりどこかに潜伏していた艦娘であるという事。

 

「発言は許可していません。あなたは人質です」

 

 そう言って、銃口を向ける吹雪の艤装を、何かが吹っ飛ばした。えっと、呆気に取られている吹雪に向かって、荒潮は帽子を脱ぎ棄て、彼女を巴投げした後に、持っている主砲を彼女のこめかみに突き当てた。

 

「吹雪ちゃん!?」

 

「荒潮、艤装は使えなくなっていたんじゃなかったんですか?」

 

 わたしは呆気に取られている夕立の艤装を取り上げ、彼女の右腕をねじりながらその腕を逆間接に極めながら顔面を地面に叩きつけながらそう言った。

 

「司令官の周りを四六時中警護する為に、出撃機会がかなり減る事になるから、いっそのこと出撃できない事にしちゃおうと言う、おちゃめな嘘よ。よく言うでしょう? いい女っていうのは、いいウソがつけるってことなの」

 

 ハイハイといいながら、極めた腕の骨を折り、夕立を気絶させ、襲撃が失敗し絶望している睦月の下に、わたしはゆっくりと近づく。そんな彼女にわたしは無慈悲な拳を加えた。

 

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