わたしが目を覚ますと、そこは見覚えのない天井ではなく、一度だけ見た天井だった。確か第1鎮守府の談話室、霞と綾瀬大将に調書を取られた場所である。ただ違うのは、今回横にいるのが霞と荒潮であると言う違いだろうか。
「わたし……わたしが生きているという事は、司令官は、沈んだ朝潮は、わたしは失敗してしまったのでしょうか? こうしてはいられません、すぐに再戦の準備を……」
わたしがそう言った時に、荒潮はわたしを抱きしめた。
「大丈夫、司令官も朝潮姉さんもそして、あなたも全員無事よ」
彼女はそう言って事の経緯を話してくれた。まず、朝潮と司令官は無事に帰投し、司令官の魂は体に戻った。2か月も深海棲艦の腹の中で過ごしたので、異常がないかの検査を今行っており、問題がなければ明日にでも鎮守府に戻れるらしい。
そして、わたしであるが、あの後深海棲艦から吐き出され、それを荒潮が救出したらしい。脳波などには異常はないが、体つきのドロップの可能性も存在していたのでわたしの意識を確認するまではわたしかどうか判断がつかないでいたらしい。
「ふん、当然よね。今回は特殊な例だったけれど、type-γから司令官の魂を救う方法は確立
されているから、朝潮姉さんみたいな練度の高い艤装を持った艦娘が成功しないわけがないのよ」
そう霞が言った時に、荒潮は怪訝な顔を浮かべた。
「そんな訳ないわ。解放した朝潮姉さんが異常を使って10発、その後、救い出した朝潮姉さんが近距離から弾をありったけ撃ちこんでようやく沈める事が出来た相手なのよ」
「えっ?」
「えっ?」
霞は信じられない事を聞いたような反応をしている。そして、しばらく天井を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「荒潮ちゃん、type-γから司令官を救う方法、誰が話したっけ? わたし、それとも熊本大将?」
「霞ちゃんよ。でも、そうねぇ、確か具体的な方法については、確か熊本大将に聞いたわ。本当な駄目なことをしているから、霞に話させるわけにはいかない。なぁに、発覚した場合すべての責任は俺がとるみたいなこと言って、霞ちゃんを外に出したわ」
「そうよね、ようやく思い出したわ。あのクズ、今度折檻してやるわ」
そこから霞の口から語られた、本当のtype-γに対しての対処法を聞いてわたし達は絶句した。それは、深海棲艦を主食とする生き物であり、艦娘の体や艤装は消化するのに莫大な時間がかかるので餌としての範疇に入っていない。
故に、それと対峙するときには無害を装うために遠距離からは砲弾を一発も撃ってはならない。いや、数発撃っても問題ないが、断続した砲撃や生命の危機に瀕した場合本気になった場合、一匹で泊地が壊滅する恐れがあり、トラックとリンガはそれで一度壊滅的な打撃をこうむったことがある。
そして、威嚇射撃を数発放つとそれ以降はほとんど攻撃してこないので、それのお腹に銃を当てそこが比較的柔らかくなっているので、解放艦娘の砲撃ならば傷をつける事が出来る。そこから精神を飛ばして朝潮を吸収する。
その後、司令官の魂に紐づいた朝潮の魂を回収したら、そのままお腹に砲弾で傷をつけて朝潮の肉体を回収して任務完了。と言うのが流れだったのである。
「つまり、最初の威嚇射撃にあたって腕とか足が吹き飛ぶような状態にならない限り、失敗するような任務じゃなかったわけよ。司令官の魂を救うだけならね。問題は、最後に朝潮の肉体を回収したときに、その肉体に入れ替わった朝潮姉さんの魂が無事に定着しているのかだけが問題だったの。と言う説明をクズはしなかったの?」
わたしは荒潮の方を向く、彼女はぽかんとした顔をしており、彼女は腰を抜かしていた。
「私は司令官の魂を救うには、解放艦娘の力を使って近距離でお腹に砲撃を浴びせるとしか聞いていなかったわ」
「あのクズ!!」
霞の怒号と共に、何があったと熊本大将は部屋に入ってきたが、それが彼の運の尽きである。彼は霞に折檻されたが、わたしは助けなかった。彼のおかげでわたしたちの司令官は助かったが、同時にわたし達は無駄にひどい目にあったので自業自得だろう。ところで霞さん。そこで折檻されると、熊本大将の異常によって、わたし達苦しいんだけれど、その言葉を発する力はわたし達には残っていなかった。
2か月間深海棲艦のお腹にいたと言う話を聞いた時には、びっくりしたが、私が荒潮と繋がって戦った深海棲艦と、それを倒した後にその体から出て来た右腕のない朝潮、彼女に冷凍保存されていた右腕を修復材でくっつけるところを見て、その後私が彼女の体に触れると、魂が入れ替わったように眠っていた朝潮の体に私が入り目覚め、私がいた体は意識を失うという奇妙な感覚を経て、その事が真実であると実感できた。
なんにせよ。私はこの第4鎮守府に帰って来る事が出来たのだ。司令官と荒潮と共に門をくぐると、2か月ぶりの私の帰還に所属する艦娘総出で出迎えてくれた。
「ありがとう皆さん。朝潮、帰投いたしました。皆さん、心配をおかけしてすいません」
しかし、その中に、私の姉妹艦が見当たらない。一体どうしたのかと思っていると、鎮守府の屋上から高笑いが聞こえて来た。
「あーっはっはっは!!!」
皆がそこを見ると、黒い全身タイツにマントと言う恥ずかしい格好をした朝潮が姉妹艦と共に腕を組みながら整列していた。
「わたしは朝潮示現流伝承者、朝潮!! わたし達第8駆逐隊の面々で、あなた達に見せたい物があります!! とぅ!!」
そう言いながら彼女達はなにかを持ちながら飛び上がった。それは手作りの横断幕だった。文面は、
『第8駆逐隊、参上!! おかえりなさい朝潮姉さん』と言う文面であった。彼女達はこちらに走って来た。私は彼女たちにお礼を言った。
「さて、良いですか。本当に良い悪戯と言うのは、人を幸せにするのです。かつての文豪ゲーテは言いました。我が第8駆逐隊は永久に不滅ですと。其れでは皆さん、また会う日まで」
そう言って私とは別の朝潮は去っていった。なるほど、あの子が荒潮ちゃんの尊敬する艦娘か。私は彼女のようにすごい艦娘になろう。そう心に誓うのだった。
今回で第一部完です。次は外伝の後2部やります