やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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2章開始です


潮は満月を映す
わたしが去った後


 朝潮が第13鎮守府を去って1か月、彼らは通常海域の攻略に腐心していた。

 

 大体3か月に一度発生するイベントと呼ばれる太平洋、もしくは大西洋の海流が安定することによって発生する新種の深海棲艦および、その海域で手に入れる事が出来る艦娘の艤装を手に入れる事の出来る現象が発生する。

 

 太平洋側であれば、泊地に問題が発生しても、比較的簡単に戻ってくることが可能だが、今回のイベントは大西洋側であり、大陸から鉄道を使って陸路で大西洋に向かうので泊地に問題が発生したからと言って、直ぐに戻ってくることは不可能である。

 

 故に、イベントの間は大規模な深海棲艦の侵攻の芽をつぶす意味も含めて、通常海域を念入りにつぶすことが必要なのである。

 

 満潮は今回の通常海域の攻略に積極的に参加していた。本人は否定するだろうが、1か月前に鎮守府を去った朝潮の影響が大きい。周りを勇気づけ、不測の事態でも的確な判断が出来る、彼女に追いつくためには、彼女自身がもっと艦娘としての経験を積み、成長しなくてはならない。

 

 以前の不測の事態に戸惑い、出撃が出来なくなったという醜態を晒すわけにはいかないのである。

 

 そんな思いや、経験もあり、彼女も第2改装を受け、その力を大幅に高めることに成功した。しかし、まだ足りない。彼女が鎮守府を去って1か月、彼女が知っているペースで出撃を繰り返しているのならば、今頃は彼女も第2改装をすでに受けているだろう。

 

「こちら満潮、サーモン海域北方海域の深部で敵艦隊に遭遇したわ」

 

 道中に出現する戦艦レ級と呼ばれる航空戦雷撃戦主砲すべての攻撃で狙った船を中大破に持っていく深海棲艦を蹴散らしながら進み。こちらの艦隊は戦艦長門、陸奥、空母瑞鶴、翔鶴、朝潮はすべて小破以下に抑えられており、この出撃前に15回ほど道中撤退させられていたので、艦隊全員にも気合が入っていた。

 

「よし、ここで決めるぞ。全艦、戦闘態勢に入れ」

 

 と言ういつもの司令官のセリフにも若干熱がこもる。この海域のボスをあと一回倒す事が出来れば、艦娘を改装するための設計図を手に入れる事が出来、改装の順番待ちになっている大潮を改装する事が出来る。

 

「全航空隊発艦はじめ!!」

 

 満潮達が敵艦隊の領域に触れる前に翔鶴と瑞鶴が航空隊を発艦させ、満潮は航空隊のカメラを次々に切り替え、敵が出してくる艦載機を立体的にとらえ、それが最も密集するだろう場所に対空射撃を浴びせる。

 

「くっ!?」

 

 その対空射撃の後、司令官が悔しそうな声を一瞬だけ漏らしたことを、満潮は見逃さなかった。満潮達には提督の力の干渉によりじかに確認することは出来ないが、深海最奥のボスには強めの編成と弱めの編成が存在しており、それは道中何度も彼女らを大破撤退に追い込んだ戦艦レ級、そしてボスには南方戦姫の混じった艦隊であることを彼女に悟らせた。

 

「司令官、いるんでしょう? 戦艦レ級、全艦魚雷回避行動を取るわよ!! 絶対ここで決めてやるわ」

 

 満潮はそう叫ぶ。航空戦、先制雷撃でほとんどこちらを行動させる前に何隻か中大破を持っていく戦艦レ級であるが、航空戦力としては弱く、制空値は取れている。残りは駆逐艦2隻に潜水艦と言う艦隊であるので、制空圏は取れているはずである。

 

 そして、魚雷が艦隊に忍び寄る。3隻から放たれた魚雷が水を切る音が聞こえた瞬間、満潮は反射的に左に飛んだ。刹那、彼女が先ほどまでいた海面は爆発を起こし、他の狙っていた魚雷は翔鶴に突き刺さり、彼女の艤装膜に深刻なダメージを与え、提督の力で何とか浮力を保っている状態になる。

 

「改装された翔鶴型、この程度では沈みはしません」

 

 しかし、朝潮が残った。彼女が艤装に詰め込んだソナーや爆雷の数々は、先制魚雷を撃とうと若干先行していた潜水艦を見つけ出し、的確にそれに爆雷をぶつけ、撃沈する。これで、戦闘に参加できる艦隊は5対5、悪夢のような先制攻撃を切り抜け、ようやく艦娘たちの時間がやって来た。

 

 空母がとった制空権は、戦艦の最大の武器になる。偵察機、および徹甲弾を装備している際に空母が放っている艦載機の情報から敵の位置をほとんど正確に観測しながら放つ、弾着観測射撃を使用できるのである。

 

「全砲門、うてぇぇぇ!!!」

 

 敵深海棲艦の領域、境界面に到達した満潮達は一斉に砲撃した。耳をつんざく爆裂音と、風を切る弾丸の音、そして、空母の放つ艦載機が一斉に放たれる音と共に、敵味方共に損害が出る。

 

 気が付くと、瑞鶴が満潮を砲弾から守り、その艤装を大破させていた。陸奥、朝潮は中破し、長門は健在。敵は駆逐艦2隻が撃沈し、レ級1隻が中破、残りがほとんど無傷と言うありさまで、その後、第2射の砲撃戦。攻撃できる艦娘は弾を込め、第2射を放つ。

 

「次弾装填!! てぇぇぇ!!」

 

 今度の一撃は、中破したレ級1隻を撃沈し、ボスである南方戦姫を中破にまで追い込む砲撃であったが、敵は的確に長門、陸奥を大破させた。そして、問題は戦艦レ級が残ってしまった。

 

 敵が深海領域の濃度を濃くして、逃れる態勢に入り、その際に健在の戦艦レ級から魚雷が飛んでくる。先ほどは反射的によけられたが、今回は躱せる自信はない。

 

「みんな、ごめん」

 

 満潮はそう呟いた。もし、彼女の目標の艦娘が、こんな状態になったら一体どうするのだろう。今の満潮のようにそんなな懺悔の言葉を吐かないだろう。練度が上がれば、経験を積めば、成長できるだろうと思っていた。

 

 しかし、現実は違った。強くなるたびに、経験が増えるたびに、自分のできる事と出来ない事がわかってくる。現実が見えてくる。このまま大破し失敗する。その現実の前で、満潮は押しつぶされるしかなかった。

 

「あきらめのるは、まだ早いです」

 

 そんな満潮の前に、中破した朝潮が立ち、満潮に向かう筈だった魚雷を受け止め大破する。

 

「朝潮姉さん。どうして」

 

「満潮、まだあきらめてはいけません。敵はあと2隻、そしてボスは中破しています。満潮が終わらせるんですよ」

 

 そう言って、朝潮は満潮の手を強く握る。そうだ、敵のボスに渾身の一撃を食らわせる。それだけでこの艦隊の目的は達成される。何もあきらめる必要はなかったのだ。

 

「朝潮姉さん。ありがとう。そうね、朝潮姉さん。この世界にはこんな言葉があるの。吾輩の辞書に不可能の文字はない。もし、不可能だとせせら笑う人がいたとしたら、そいつらにそう言って笑ってやるわ。そうでしょう?」

 

「満潮……私の姉妹艦の中でなんかどこかで聞いた事があるような名言を言うのが流行っているんですか? 他に、朝潮何とか流とかいう拳法も」

 

「知らないわよ」

 

 そう言って、満潮達は深海領域の薄くなった部分を進む。深部に進むにしたがって、深海領域の濃度が濃くなり、あたりが夜の闇夜のように真っ暗になる。私達はそこに進み、そして、その奥で敵と邂逅した。

 

「馬鹿ね。その先は地獄よ」

 

 満潮が魚雷を放とうとした瞬間、スロットに積まれた3本の魚雷がはじけるような感覚に襲われた。朝潮が彼女を身を挺して守った理由がそこにある。駆逐艦の貧弱な火力では戦艦や戦姫級の深海棲艦を撃沈することは出来ない。しかし、夜戦と言う通常射程の半分の位置で戦う場合は、魚雷の威力の減衰が少なく、装甲の厚い深海棲艦にもダメージを与える事が出来る。

 

 さらに、複数の装備スロットに、魚雷を装備することでその威力を2倍近くにする特殊機能が発動することがある。司令官の間ではそれを俗に夜戦カットインと呼ぶ。満潮はその魚雷を目の前の敵に放つ。それは通常の魚雷の数倍の推進力で敵に突き刺さり、それは耳をつんざくような轟音とともに撃沈された。

 

「満潮やったぞ。今のが、南方戦姫だ。全艦帰投準備」

 

 満潮は目標が達成できたことを喜び、同時に自分の精神的弱さを見つめなおす。その事を今後の課題とした。

 

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