やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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呑まれた結果と

「で、なんで姉さんはここにいるの?」

 

 満潮は彼女らのオセロ対決が終わるのを律儀に待ち、それが終わった後に彼女を宿舎の裏に呼び出した。彼女から以前聞いた話では、元の朝潮が鎮守府に戻ったと同時に、綾瀬大将の下に行ったはずである。

 

「はい、第15鎮守府の裏切りによって、その提督と艦娘に空きが出来たので、新たに艦娘と提督が派遣され、そのまとめ役としてわたしが抜擢されることになったのです。それまでの間、第一鎮守府に仮配属になりました。

 そちらの荒潮には非番が合った時にご飯食べに行ってその事を話したはずなんですが、満潮には伝わっていなかったのですか?」

 

 他にも、本来ならば第一鎮守府の仮配属は2週間ほどで、遅くともイベントが始まる一週間前には新しい提督が着任するはずであったが、その提督が所属している単冠湾がグラーフ達の襲撃により混乱し、イベント終了まで着任を後らされた結果、急遽満潮達がここに呼ばれたという事を話した。

 

「ここの泊地を襲ったグラーフ達が今度は単冠湾に……それで、そこでの被害は大丈夫だったの?」

 

「単冠湾にはオホーツクの巨人と言うなんと公式の出撃概数が0回で大将になったすごい提督がいるそうなので、問題はなかったみたいです」

 

「……多分すごいんだろうけれど、本当に問題ないの? その人、いろんな意味で」

 

 満潮がげんなりとした表情を浮かべ、朝潮は苦笑した。

 

「そこら辺の事情は霞から聞いていないので、詳しい事は分からないのですが、少なくともやばいレベルの裏金で大将になったとかそう言ったことはないようなので安心してとのことです」

 

 彼女との話を聞いて、満潮は少し安堵していた。彼女が言う事を信じるのであれば、朝潮はここ一か月全く出撃も演習もしていないという事であり、満潮と彼女の実力の差は確実に縮められた。そう思えただけでも、この一か月の意義があったそんな風に感じられたのだった。

 

「しかし、意外でした。荒潮から聞いた話では、満潮はこれまでとは比べようもない暗いハイペースに出撃演習を繰り返して練度を上げていったので、イベントに参加しに行っているものとばかり思っていたのですが、司令官も思い切りのいい采配をしますね。それとも、熊本大将の指示ですか?」

 

「どういう事?」

 

「もし単冠湾の襲撃が第15鎮守府に新提督の着任を妨害するものだとしたら、またこの泊地が襲撃される恐れがあるわ。着任する鎮守府が破壊されれば、その期間はさらに伸びる事になる。それをさせないために練度の高い艦娘を泊地に残しておくと言うのが、熊本大将の指示よ」

 

 会話に後方から割って入ってきた霞が、満潮の疑問に答えてくれた。彼女が霞の方を向くと工廠裏の壁にもたれかけていた背を離しゆっくりとこちらに近付いてきた。先ほどまで彼女が気配すら感じる事が出来なかったが、いつからそこにいたのだろか?

 

「霞、満潮がわたしをここに連れてきて、で、姉さん何でここにいるの? と言ったあたりからいましたが、結局会話に参加するんですね」

 

「って!? それほとんど最初からじゃない?」

 

 満潮が狼狽えていると、霞は前進を止め、腕を組んだ。

 

「私も仲間との再会を邪魔するほど無粋じゃないわ。ただ、必要があるまで黙っていただけ。先ほども言った通り、敵はイベントが終わる前の期間のいずれかにこの泊地を攻撃してくる可能性が高い。単冠湾襲撃が無差別なテロ活動でないならね」

 

「ちょっと待って? もし、それが真実ならそもそも泊地の大半をイベントに割かないで、守りを固めるべきよ」

 

 満潮は尤もな意見を言ったのだが、霞は首を振った。

 

「それが出来ない理由は3点ほどあるわ。1つ目はイベント攻略が世界全体の海の安定に最も優先されるべきことである点。イベントの海域の浄化が完全になされなかった場合、そこに現れた深海棲艦が世界中の海に定着する事になる。綾瀬大将の算出では大体3回ベント海域の完全攻略に失敗した場合、現在の鎮守府数で深海棲艦の増大による被害を抑える事が出来なくなるとされているわ」

 

 その話は、満潮はもちろん、朝潮にとっても寝耳に水であった。イベント海域の目的はそこで手に入る新艦娘の艤装や有用な装備が手に入るお祭りのような認識であったし、蓄えた資材や改修した装備を試す場所と言う認識しかなかったからである。

 

「二つ目は、泊地同士のパワーバランスが崩れる為。鎮守府の中にはグラーフ達に友好的な具体的には横須賀、大湊、リンガ、パラオに多いとされているのだけれど、彼らが泊地を攻撃されない事を良い事にイベントに大量の艦隊を送り込み成果を上げ発言権を強め、

逆に他の泊地がグラーフ達に攻め込まれないように少数の艦隊しか送れないとなった場合、結果的にグラーフ達によって彼女たちの信奉者の発言権を強める結果になる。こんなことは許されないわ」

 

 このグラーフの信奉者と言うのは、グラーフ達のテロ活動を容認していると言う意味ではないが、彼女らが艦娘と言うシステムが出来たころに行われた非道な人体実験によって離反した被害者であり、彼女らのテロ活動を止めるために、そう言った行為を禁止するべきと言った主張に賛同する者たちの事である。

 

「最後の3つ目は……今は言うべきではないわね。ともかく、危険な状況であるという事は覚えておいておくといいわ。最も、敵がこの熊手の霞(ミスティング=ベアー=クロー)に直接ケンカを売る度胸があれば、の話だけれどね」

 

 霞はそう言いながら、腕を組んで胸を張っていた。満潮は一体だれがそんなださい二つ名を付けたのかと疑問に思ったが、ひとまずそこは置いておく事にした。

 

「そうよね。霞と朝潮姉さんがタッグを組めば、どんな相手だって怖いものなし。朝潮姉さんはどんな相手にだって一歩も引いた事なんてなかったんだから」

 

 そう言いながら、朝潮の方を向くと彼女は目を伏せ、「ごめん」とポツリと呟いた。そんな朝潮を満潮は見たくはなかった。

 

「ごめんってどういう事よ。朝潮姉さんはいつだってどんな敵とだって前向きに対峙して、いつでも勝利を収めて来た。どうして今回に限ってそんな事を言うの? そんなの朝潮姉さんらしくないわ」

 

 そういきり立つ満潮を霞は制止した。

 

「説明するより見てもらった方が早いわ。そして、その為にあなたを呼んだのだからね。朝潮、艤装の展開を許可するわ」

 

 霞がそう言うと、朝潮の艤装が虚空から姿を現した。が、何か様子がおかしい、艤装は半透明のままであり、数秒たつとパリンと音を立てて消滅した。

 

「何よこれ?」

 

「艦娘は製造されて初めて艤装を装備されてから、艤装と繋がっていない期間が3年を超えると、艦娘としての機能を失う。朝潮姉さんはその期間が2年間。そして、度重なる無茶な戦いの数々によって、艤装との適合率が著しく減少している状態にあるわ。こんな状態で海に出たら、確実に沈むわ」

 

 満潮は衝撃を受けた。彼女の知らない所で朝潮は出撃すらままならない状態になっている。自分の目標として常に追いかける対象でい続けて貰いたい彼女がもう出撃すら出来ない体になっている。その事は彼女に衝撃を与えた。

 

「今度、わたしの提督になる筈の人が一緒にわたし用に調整された艤装をもって来るそうですが、万が一その艤装の展開も失敗したとしたら、いよいよわたしの艦娘人生も終わりという事です。まあ、調整したのがあの綾瀬大将とのことで、その心配はないでしょう。別の心配はありますが……」

 

 朝潮は若干遠い目をしながらそう話している。おそらく彼女も不安なのだろう、自分が戦えない事による罪悪感と自分が戦えなくなるかもしれない恐怖感、後者は満潮にはどうする事も出来ないが、前者の不安を取り除く事が出来る。自分にはその力がある。

 

「大丈夫よ」

 

「えっ?」

 

「どんな敵だろうが、この満潮が全部蹴散らしてやるわ。だから、朝潮姉さんは自分の事に集中して」

 

 満潮は胸をどんと叩いた。それを聞いて霞は満足しながら、「それでこそ、満潮を呼んだかいがあったわ」と、意味深な事を呟いた。

 

「霞? 満潮を呼んだと言うのはどういうことですか?」

 

「熊本大将曰く、今回の襲撃では敵は深海棲艦をけしかけるのではなく、艦娘を使って直接この泊地を攻撃してくる可能性が高い。だから、演習以外で実際に艦娘に砲を向けたことのある満潮が適任だと、言うのが彼の思惑よ」

 

 と言う、酷い選出理由だった。そして、あの時の司令官や荒潮がなぜあんなにも頭を抱えていたのか、理解した。

 

「なるほど。敵は全力でこちらを倒しに来るのに、味方が狼狽えて砲撃をためらうばかりでは数の有利を活かせないですからね。理解は出来ました」

 

 朝潮は朝潮で、その采配に納得しているようである。満潮は自分の感性が若干不安になったが、朝潮の過去の言動や行動を思い出し我に返った。

 

「いいわよ。敵が深海棲艦だろうが、敵の艦娘だろうが要は全部ぶっ倒せばいいんでしょ? いいわよ、やってやるわよ!!!」

 

 その時の満潮は若干自棄になりながらそう叫んでいた。

 

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