やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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朝潮示現流の呪い再び

 霞は舞鶴行きの列車の中で、赤く腫らした額を抑えながらふくれ面をしていた。提督の卵が満潮達の指揮を執るという重要な役目を名乗り出た時、霞は無理だと判断した。彼がすさまじいスピードで成長を遂げている事は彼女も認めていたが、それでも残っている提督の卵たちの中で実力は中ぐらいで経験が足りない。一時の感情に流されてそう発言しただけだろう。

 

 そこで、彼女は彼に満潮の艤装を展開させた後、自身も艤装を展開し、満潮の主砲を自らの額に当てた。

 

「もし、本当にそのつもりなら止めないわ。しかし、あなたにその資格があるならね。引き金を引きなさい」

 

 そう、敵は艦娘。実弾を艦娘に向けるかもしれない。その覚悟が決まっているはずがない。いや、頭で分かっていたとしても行動が伴わないだろう。しかし、次の瞬間、霞の額に衝撃が走った。咄嗟の事で、朝潮も止める暇もなく、もし撃って来たとしたら瞬間的に頭を引いて弾丸を摘まみ取ろうと思っていた彼女としても予想外であった。

 

「覚悟はできています。もし仮に、立ちふさがるのが熊本大将だったとしても俺の心は揺るぎません。満潮の力になる。それが、俺が彼女に出来るたった一つの恩返しなんです」

 

「なるほど、君の覚悟は本物のようだ。霞、異論はないな」

 

 などと、熊本大将が締めようとするが、至近距離から額に弾丸を食らってのたうち回らないように霞は必死だった。

 

「撃てって言ったけど!! 本当にすぐ撃たないでよ!!」

 

 霞はそう叫びながら執務室を後にした。

 

 

 と言う一連の流れを思い出し、腹が立って来た。しかし、万が一敵が彼らの眼前に現れたとしても、彼等ならばうまく乗り越えてくれるそう確信し、微笑を浮かべながら、仮眠をとる事にした。

 

 

 わたしは満潮とその司令官の覚悟を受けて、秘書艦代理としての執務を全うすることにした。呉周辺の人工海域を封鎖し、残っている2提督をそれぞれ別の移動鎮守府艦に乗せて下関周辺と佐賀関半島周辺を守らせ、定期的に報告させる。敵がどちらの方向から責めて来たとしても敵を発見した後緩やかに後退させ出来るだけ時間を稼ぐというのが熊本大将の案である。要は霞たちが敵をせん滅し帰投する約6時間耐えれば、こちらの勝利である。

 

と言ったものの、すでに2時間が経過しており、満潮達と支援砲撃部隊をいつでも出撃できるように待機させて入るが、霞の言ったように杞憂に終わりそうである。

 

「こちら、第一鎮守府秘書官代理の朝潮です。下関の輪島提督聞こえますか?」

 

「はいはい。聞こえているよ。この分だと、熊手のおっさんの心配は杞憂に終わりそうだな」

 

 わたしは苦笑しながら肯定した。

 

「そうですね。しかし、万が一と言う事もあります。引き続き下関に深海棲艦、もしくは不審な艦娘が通らないか警戒をお願いしますね」

 

「了解。そう言えば、一時間ほど前に、ここに来る前に熊手のおっさんが呼んでいた応援の提督がここを通って行ったけど、そろそろ着いたかい? もしかしたら、熊手のおっさん伝え忘れていやしないかと思ってな」

 

 そんな話は聞いていないし、熊本大将から作戦を聞いた時も2提督以外の提督を使う案を出されたわけでもない。わたしは彼に詳しく話を聞く事にした。

 

「応援の提督? それは熊本大将から電話か何かで言われたんですか?」

 

「電報だったけれど、どうかしたのかい?」

 

 その瞬間、朝潮の脳内に衝撃が走った。例え、敵が何隻で来ようとも、どこかのタイミングで中大破させてしまえば脅威ではなくなる。故に、支援砲撃を撃ちながら後退させるという策を弄すれば、突破は不可能だろう。そう考えていた。

 

 しかし、敵が堂々と鎮守府艦を使って乗り込んでくるとしたら、支援砲撃の打ち合いになり、こちらの優勢はなくなる。

 

「輪島提督、一部隊残して第一鎮守府に戻ってください。その、応援の提督、敵の可能性があります」

 

 最悪の事態になった。朝潮はサイレンを鳴らし、民間人及び、戦闘に参加しない提督の卵たちの避難を開始した。そして、10分後……。

 

「すまない、朝潮ちゃん。応援の提督は敵だったようだ。奴ら海域周辺に機雷を設置していきやがった。暗闇で機雷を除去しながら進むから、おそらく間に合わねぇ」

 

 と言う最悪な返事が返って来た。佐賀関半島の提督を呼び寄せるか、いや間に合わない。もし、彼らが到達するまでにわたしたちが全滅してしまったら、呉を壊滅させられたのちに救援に呼んだ提督が待ち伏せに会い、呉はその機能を失う事になる。

 

「朝潮ちゃん、これは?」

 

 わたしが頭を抱えていると、第一鎮守府の古参の一人である白雪がサイレンの音を聞きつけてやって来た。

 

「白雪ちゃん。満潮達に伝えてください。敵は鎮守府艦に乗ってやってきます」

 

 それはほとんど死刑宣告のようなものであった。

 

 

 白雪からその知らせを聞いた時、満潮は苦笑した。

 

「なるほど、朝潮示現流の呪いってやつね。ここまで来ると笑えて来るわね」

 

「満潮ちゃんごめんなさい。こんな事になるなんて、こんな事なら霞ちゃんを行かせなければよかった。そうすれば」

 

 白雪はそう言って謝罪してくるが、言い終わる前に満潮は彼女を遮った。

 

「全く、霞も朝潮もあんたも、敵が攻めて来る事は分かっていたんでしょう。それが、少しばかり状況が悪くなったからって何よ。自信を持ちなさい、この世界にはこんな言葉があるわ。吾輩の辞書に不可能の文字はないってね」

 

「満潮ちゃん」

 

「さあ、アンタがやらなきゃならない事は、ここで謝罪する事? 違うでしょう? この状況に一番責任を感じてる朝潮姉さんの所に行ってサポートしてあげて、後の事は私達に任せなさい。あいにく地獄には慣れているわ」

 

 満潮はそう言って白雪を送った。

 

「全く、我ながらかっこつけすぎよね。私も、司令官も」

 

「おやおや、その格好つけすぎの中に童たちは入っていないのかえ」

 

 白雪との少し恥ずかしめの会話を聞きつけたのか、初春たちが満潮の方によって来た。

 

「全く、提督がこの状態を聞いたらなんていうのか、満潮ちゃんに男が出来たなんて」

 

「はぁ!? そんなんじゃないし」

 

「えっ、違うの!?」

 

 満潮は赤面し、艦隊の皆はにやにやと彼女に笑みを投げかけてくる。面白そうなおもちゃを見つけた時の緊張感のかけらもない顔だった。

 

「とにかく!! ここから先にあるのは地獄よ。もし、それについてこられない様なら名乗り出て頂戴」

 

「何をいまさら、みんなやっつけてアゲアゲになっちゃいましょう」

 

 満潮は少しそっぽを向いたが、苦楽を共にした仲間たちを見て、私は彼女達と仲間でよかったと心の底から思っていた。

 

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