やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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未来を繋いだ代償

霞が呉の現状について知らされたのは、舞鶴に集まっていた深海棲艦を全滅させた直ぐ後の事であった。

 

「霞ちゃん、聞こえる?」

 

 呉からの電話の電話口に白雪が出たため、朝潮も敵を捌くのに四苦八苦しているようであるが、電話をかけて来たという事は敵に攻勢も一時期落ち着いたのだろうと一先ず安心していた。

 

「白雪、今回は朝潮じゃない様ね。まあいいわ。報告しなさい」

 

 しかし、白雪の報告を聞き、霞は絶句していた。侵入した敵の中に提督が二人おり、片方が第15鎮守府のセキュリティーを解除して二隻で第一鎮守府に攻勢をかけて来たという、絶望的な報告がなされた。

 

「はぁ!? それでどうやってその二隻を捌いたの? まさか、もうみんな捕虜になってしまったなんて言うんじゃないわよね!!」

 

「違うよ。第15鎮守府の砲撃が第一艦隊に支援砲撃を浴びせるその瞬間、朝潮ちゃんが熊手砲を使って第15鎮守府を沈めたの。そんな事が出来るなんてすごいよね。それで、敵も熊手砲の射程に入らない位置に移動して……」

 

「朝潮は……?」

 

「どうしたの霞ちゃん?」

 

「今すぐ朝潮の所へ行きなさい!!!! あんな状態で熊手砲なんか撃ったら死ぬわよ!!」

 

 霞の怒号があたりに響き渡った。

 

 

 わたしが目を覚ますと、そこは見知った天井だった。第一鎮守府に来た時に艤装の調子を確かめるために水面にジャンプしてそのまま気づいた時にはこの入渠ドックに寝かされていた。

 

「いやぁ、危なかったですね。両腕粉砕骨折に、眼球破損、全身複雑骨折。その他もろもろで後数分入渠ドックに入れられるのが遅かったら死んでいるところでした。何とか体の傷は完治しましたが、艤装の方はまだリンクを保てているのがやっとと言う感じで、今度艤装を展開すると間違いなく崩壊するので気を付けてください」

 

 整備担当のピンク髪の艦娘である明石からそんな事を言われながら、ここに運ばれた経緯を思い出そうとしていた。

 

「明石さん。朝潮ちゃんが目を覚ましたって」

 

 何も思い出せず、焦点の合わない瞳で天井を眺めていると、一人の少女が入渠ドック室に入って来た。名前は確か……。

 

「白雪……わたしは上手くやれましたか。熊手砲は!?」

 

 急速に現実に引き戻された。私はここに運ばれる前、熊手砲を構え、新たに表れた第15鎮守府艦に狙いを定めその支援砲撃が放たれる、わたしの異常が発揮されるタイミングを狙って引金を引いたのだ。引いてからの事は覚えていない。

 

「大丈夫。第15鎮守府艦は撃沈。もう一方の敵鎮守府艦は熊手砲の射程から身を隠すように移動したわ。もう大丈夫」

 

「大丈夫ではありません。絶望的な状況を五分に戻しただけです。敵はすぐにでも出撃スロットすべてを使い、艦隊をここに差し向けてきます。敵が鎮守府艦を差し向けられない理由である熊手砲を破壊するために!! ありったけの対艦娘にも使用できる罠を用意してください。そして、わたし以外の全員は別館に移動、熊手砲のあるこの本館にはわたし以外はいらないようにしてください」

 

 わたしは立ち上がり工廠に急いだ。

 

 

 敵が4部隊すべてを突撃させてくると言う朝潮の予言通り、第一鎮守府からは見えない位置から艦娘の部隊が突撃してくるのが確認できた。編成はいずれも戦艦1の駆逐5。戦艦一隻を盾にしながら少しでも突破率を上げるための編成である事が読み取れる。それに対して満潮達一部隊と支援砲撃でこれを食い止めるほかない。

 

「いい。ここからが正念場よ。さっきは囮のために練度の低い艦隊をぶつけて来たと予想されるけれど、今回はそうではない筈。気合入れていくわよ」

 

 満潮が気負っている理由は本館に残った朝潮の事である。もし、彼女の狙い通り、本館の熊手砲を破壊しに敵が侵入した場合、彼女が敵を足止めすると申し出た為である。

 

 その理由は別館に第2から4艦隊の設備を移動したがために、それを守るための戦力が必要であり、現在艤装が使用できない朝潮は別館に行ったとしても戦力として役に立たない事。もう一つは狭い空間ならば朝潮示現流の力をフルに発揮して十分な足止めが出来る事である。

 

 それに当然満潮は反対したが、

 

「満潮、信じますよ。満潮達がほとんど敵を退けてくれて、わたしの出る幕がなくなる事を。かつての中世の文豪ゲーテは言いました。信じる者は救われる、満潮達の事、わたしに信じさせてください」

 

 などと言われては、彼女に肯定せざるを得なかった。

 

「そうじゃ、敵はたかが4艦隊。数自体は4倍じゃが熊手砲を警戒して艦隊同士の間はかなり開けておる。一艦隊と4回戦うと考えればそう悲観した話でもあるまい」

 

 初春も先ほど不意打ち気味に大破を食らってその仕返しをしたいのか、そう言って艦隊を鼓舞している。そうこうしている間に最左にいる敵艦隊と会敵した。

 

「各艦、砲撃準備。うてぇ!!」

 

 司令官の合図とともに一斉に砲撃を加える。敵艦隊は全員戦艦の艦娘の後ろに隠れているようで、他の艦娘に当てることは出来なかったが、戦艦は大破させて航行不能に陥らせた。そして残りの敵艦娘は全速力でこちらに向かってきたのである。

 

「そうね。そうするしかないわね。盾を失った以上、支援砲撃に狙い撃ちされないためにそうするしかない。でも、そんな近くに来たんじゃ目を瞑っていても当たるわ」

 

 こうして第2射が的確に敵艦隊を貫くが、敵はバルジを装備していたようで、攻撃能力を失わせるに至らなかったが全員中破させることに成功した事で、彼女らは勝利を半ば確信していた。

 

「いけない。全員、離れて!!」

 

 その異変に気付いたのは長良だった。しかし、遅かった。敵の目的は支援砲撃から逃れる為ではなく、満潮達の艦隊を無力化する事にあったのである。

 

「この距離は……まずい」

 

 艦娘は中破させられると攻撃能力が著しく劣る。しかし、それは深海領域の射程100メートルから50メートル前後の話であり、それよりだいぶ近い距離では減衰威力が小さすぎて無傷と同じ威力となる、正確にはかなり威力の差はあるのだが、あらゆる攻撃が当たれば艦娘を確実に大破させる事が出来る最終兵器と化しているという点において差がないと言って差し支えないだろう。

 

 深海棲艦との戦いでは敵に深海領域があるためそんな事にはならないが、敵は艦娘同士の戦いを満潮達以上に熟知していたのである。

 

「みんな散れ!!」

 

 無論、この距離ならば放塔の向けられている向きと撃つタイミングを計れば回避は容易であるが、それを見越して満潮達を囲うように敵は展開を始めたので、それを察知した司令官から指示が飛んできた。

 

「上等じゃない。私達とワンミス即死のデスゲームをおっぱじめようってなら、言ってやるわ。馬鹿ね、その先にあるのは地獄よ!!」

 

 満潮は敵に対してそう啖呵を切った。

 

 

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