結果的に言うと、わたし達はプリンツを追いかけて捕らえることは出来なかった。霞の熊手砲の威力があれば第2射目で中破したプリンツをしとめること自体は可能だっただろうが、沈む前のわずかな時間行う悪あがきによってわたしと満潮達が沈められることは明白であり、その事が分かっていた霞の、敵を追うなと言う命令によって、彼女は呉近海から脱出した。
「ふぅ、お互いに命拾いしたわね。朝潮ちゃん、ビスマルク姉さまによろしく言っておいてね」
などと、先ほどまで命を懸けた死闘を演じていたとは思えない彼女の捨て台詞を聞き、わたしも何か返してやろうとしたのだが、どっと力が抜けたような感覚に陥り、そんな気力も失われていった。
「ふぅ、なんかどっと疲れました。朝日が昇っています。そう言えば今日はずっと働き詰めでしたからね。熊本大将に頼んで少しのんびりさせてもらいましょうかね」
その時である。綾瀬大将から通信が発せられた。
「大変だ、朝潮ちゃん。今からすぐに全速力で満潮ちゃんの所に向かうんだ」
「どういう事ですか? 満潮の所へ?」
彼女の通信と共に、満潮もこちらに向かって全速力で向かってくる。困惑しながらも、朝潮は満潮の方へ向かった。
「はぁ!? 先に言いなさいよ」
朝潮と満潮に向かられたメッセージをかい摘むと、朝潮の艤装は改造した艤装本体ではなく、壊れた艤装を彼女の謎技術によって再生して再現したものであり、時間経過によって元の壊れた艤装に戻り元の艤装は轟沈判定になっているので消滅する。
つまり、このままでは朝潮は艤装なしで海のど真ん中に放り出されると言う衝撃的な内容だったのである。
「プリンツに朝潮示現流の事を教えてしまいました。もしかしてこれも朝潮示現流の呪い? くそう、結局こうなるんですか!?」
綾瀬大将は艤装消滅までのカウントダウンを始める。しかし、あと10秒なら余裕がある。満潮との相対距離は後5秒程度、余裕で間にあう。わたしは満潮に飛び掛かり、彼女はわたしを受け止め……そして、背負い投げた。
「あ、……ごめん。癖で」
5メートルほど吹き飛んだわたしが気づいた時には見知ったベッドの上だった。
「ふぅ、酷い目にあいました」
「全くよ。朝潮姉さんは悪い意味で私の期待を裏切らないんだから、イブちゃんに念のために艤装同調システムを仕込んでもらっておいてよかったわ」
霞がわたしのベッドの横で間髪入れずに話しかけて来たので、わたしが運ばれた後ずっと横にいたのだろう。呉第一鎮守府の面々は雪風の提督が利用されただけの被害者である事を証明するために奔走していたらしく、具体的には泊地外に停泊してある筈の横島提督の鎮守府艦の捜索を開始したらしい。
そこには彼らがボックスの材料を売りつけるための顧客情報がおそらく保管されており、かかわった人間を一網打尽にすると白雪が意気込んでいたらしい。
「白雪が? 意外ですね。彼女はどちらかと言えば血気盛んになるそう言った連中のブレーキになる存在だと思っていたのですが」
「ボックスの事になるなら話は別よ。あれが世間一般に普及すれば、大変なことになるのは誰の目から見ても明らかだし、何より許されることではない。白雪はそう言ったことには人一倍責任感が強いしね」
「ふぅぅん。そういうモノですか……」
起きたはいいが、わたしはまた睡魔に襲われ、ソレだけ聞くと眠りに落ちてしまった。艤装がない以上、今のわたしにできる事は少ない。ならば、少しでも英気を養い万全の状態を維持する事、それがわたしに出来る最善だと理解していた。
満潮達が港に着いた方を聞いた司令官はそれを見届けた瞬間、眠るように気絶してしまった。最後の出撃の前に10分ほど睡眠時間が取れたとはいえ、長い夜を艦隊の制御に費やしたことで、疲労がたまっていたようである。そんな彼が目を覚ましたのは6時間ほど後の事であった。
「あ、起きた? ……ふん、今回は頑張ったみたいね。少しはアンタの事見なおしたわ○○」
「俺、もっと頑張って凄い提督になる。そして」
満潮は彼女の口を指でふさいだ。そして、
「アンタがすごい提督を目指すのと同じように私は凄い艦娘になる事を目指しているの。もし、アンタがその道を諦めなければ、私達の道が重なる事はあるかもね」
司令官は満潮の言葉に頷き、目を瞑った。彼と彼女の道はまだ始まったばかりであり、今は未来の事を口にすべきではない。帰らには無限の可能性があるのだ。
「馬鹿ね。その先にあるのは地獄よ」
彼女はそう言うと、彼の頬をそっと撫でた。
これにて、第2部完です。次から第3部に入ります