流星のごとく
陽炎達呉第12鎮守府がイベント海域から離脱したのは、イベント終了予定日の一週間ほど前の事であった。呉泊地に鎮守府艦が侵入し、鎮守府同士の打ち合いに発展すると言う異常事態に発展したそれは、第一鎮守府の精鋭たちによる必死の抵抗により終息した。
「朝潮ちゃん、久しぶりね。元気にしていた」
故に、陽炎達が一週間も早くイベント海域を離脱する理由がないのだが、彼女達が呉泊地に戻った理由はほかにある。彼女から陽炎宛に送られてきた通信文には一言、『不知火が見つかった』とだけ書かれていた。
提督を説得して泊地に急いで戻り、朝潮に電話を掛けると、明日の正午に郊外の喫茶店で待ち合わせしたいとの返答が帰って来たのだ。そして、今日がその指定された日時と場所である。
「あ、陽炎さん久しぶりです。何といいますか、塞翁が馬と言いますか、妹さんの不知火さんの居場所を知っていると言う人に出会いました」
なんというか落ち着いた雰囲気の喫茶店の奥で彼女は猫の人形が置かれた古びた樫の木の椅子にもたれ掛かりながら紅茶を啜っていた。陽炎は彼女の目も前の椅子に座り、店員にコーヒーとチョコレートケーキを注文する。
黒色を基調としたシックなドレスに身を包んでいる彼女は彼女が知るおてんばな感じの姿とはうって変わって気品すら漂わせていた。そう言う陽炎も白いワイシャツにジャケットを身にまとい髪を黒く染色してこの場に居合わせているので、人の事は言えない。
「しかし、面倒な話よね。イベント期間中、基本的に艦娘は出払っているので、目立つから変装して行きなさいなんて」
「そうですね。わたしも変装と言われて、ダンケ仮面2号の服を取りだしたら霞に無理やりにこの服に着替えさせられてしまいました。完璧な変装だったはずなのに、おかしいですよね」
「やっぱり訂正するわ。霞が正しかったようね」
陽炎の裏切りに不平不満を漏らす朝潮であったが、彼女が世間話もかねて鎮守府艦呉侵入事件の顛末を聞くと、満面の笑みを浮かべながら話を始めた。流石は私のライバル等の相槌を打ちながら話を聞き流していたが、何というか彼女が提督から聞いた話とは別物レベルで盛に盛られまくっていた。
特に、霞をはじめとした主力部隊が遠方の応援で不在の中、敵の戦力分断の策を受けて他鎮守府の援軍もままならない状態でほとんど朝潮の判断で敵鎮守府を防ぎきると言う、この子こんな事言う子だっけと言うようなほら話に近い話や、最終的に敵艦と一対一の肉弾戦にもつれ込んで敗北寸前のところを霞に救われると言う、漫画の見過ぎのような話も飛び出し、若干今回の信ぴょう性が疑わしい内容であった。
「なるほど、大変だったわね。それで、朝潮ちゃんはどうやって不知火の居場所を知る事になったの?」
と、さりげなく本題に軌道を修正すると、はぁ! そうでした。と、白熱した苦労話を打ち切り、話し始めた。
あれは、わたしが呉の事件を解決して3日ほどたった頃、具体的には7日ほど前の事である。本来ならば熊手砲の無断使用や、第15鎮守府を沈めた際の始末書、宮本提督の身の潔白の証明のために奔走する必要があったが、霞、白雪、満潮その他大勢の休め! と言う命令のため、暇を持て余していた。
命令通り3日ほど実質でゴロゴロしたり、熊手砲の際に力を借りた少年とオセロに興じたり暇をつぶしたのであるが、休暇を終えいざ執務室に戻るとわたしの仕事は何一つ残っていなかった。
「霞! これは、どういう事ですか?」
「ああ、これ? 満潮達が朝潮姉さんを休ませるためにと言って雑務やらなんやらを引き受け、白雪たち居残り組も今ここに私達が生きているのも朝潮ちゃんのおかげだと仕事を処理したら、姉さんの仕事がなくなっちゃったの。まあ、そんな訳で、もうしばらく休暇を楽しみなさい」
「それで好きに訓練しようとしたら、満潮から怒られたんですけれど?」
「まあ、当然よね。休めって言われているのに」
わたしは絶望した。無限の休息、ダンケ仮面師匠から朝潮示現流を習う前の自堕落で何もない生活を思い出す。そう言えば今のわたしは艤装が轟沈し何もない。再びアイデンティティの危機に陥っていた。しかし、呉を救った恩を返したいと言う仲間たちからの厚意も無駄に出来ない。
そんな中、救いの神はやって来た。遥か彼方から飛来し、熱と光を発しながら恒星のように輝く身体!! 一筋の流星となって、この鎮守府の窓を破る。 のではなく、礼儀正しく窓を開けて執務室に入って来た。
「あなたは一体!!」
緑色全身タイツに緑色のマスク!! そして、赤のマントに身を包むその姿。腰のベルトは金色に光り輝き、顔のマスクにはSZYの三文字が浮かんでいる。そう、彼女の名前は!!
「私は謎の美少女鈴谷仮面!! 鈴谷仮面参上!!!」
わたしは雷に打たれた衝撃を受けた。ダンケ仮面師匠の艦娘パワーにも匹敵するその威圧感。鈴谷仮面!! 彼女はいったい何者なのだ!!?