やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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ミスト仮面参上

 

「ちょっと待て待て待て、待ちなさい!!!」

 

 なんですかと話をぶった切られて不服そうな朝潮だったが、当然である。どこから突っ込んでいいか分からない。何でこの子、窓から不審者が侵入してさもそれが好意的な状況かの様に語っているの? ダンケ仮面って、こんな感じの変態と他にも別の場所であったことあるの? そもそも、艦娘パワーって何? 等の突っ込みたい事は山ほどある。

 

 それよりも、もっと気になる事は!!

 

「何でその鈴谷仮面とか言う変態がいつの間にかこのテーブルにいるのよ!!」

 

 そう、彼女の話を聞き言っているときに、気づいたらテーブルに腰掛けわたしが注文したはずのコーヒーとチョコレートケーキを貪る変態全身タイツがそこにはいた。特徴を見るに、彼女が話していた鈴谷仮面に相違ない。

 

「具体的には陽炎さんが、久しぶり元気してた? と聞いたときにはすでにこのテーブルに座っていました」

 

「それって最初からってことじゃないの!!」

 

「ちーっす。鈴谷は鈴谷仮面。あなたの妹である不知火の居場所を知るもの。このコーヒーとチョコレートケーキは情報料件運賃ってことでもらっておくね」

 

 そう言いながらチョコレートケーキを頬張るものだから、情報を引き出していない手前、強く突っ込む事すら出来ない。

 

「それでは陽炎さん。話を続けてよろしいですか?」

 

 釈然としないが、陽炎は朝潮のその提案に頷き、朝潮は話を続けた。突っ込まない、何言われても絶対に突っ込まないわよ。陽炎はそう心に誓うのだった。

 

 

 鈴谷仮面の圧倒的艦娘パワーに気圧されて次の言の葉がつむげないわたしに対して、その場にいた霞がその静寂を破った。

 

「全く、今回は誰の差し金? 私達は呉襲撃事件の後始末に忙しいの、用があるなら早く言いなさいな」

 

「霞ちゃん、相変わらずノリ悪いよねぇ。鈴谷がここに来た理由は二つ」

 

 そう言いながら、彼女は一枚のカードをわたしに投げてよこした。それを受け取ると、滅んだはずのわたしの艤装が復活したのである。そして、その艤装の感触に覚えがある。呉襲撃事件の際にわたしの命を救った艤装。それがわたしの元に戻って来たのである。

 

「ひとつはイブちゃんから朝潮ちゃんに艤装を渡すように言われて、その為に。もう一つは朝潮ちゃん、下村元帥に言われてあなたを彼のもとに招待するように言われて来たってわけ」

 

 下村元帥の名前を聞いて、霞はピクリと反応した。

 

「おかしいですね。下村元帥は行方不明だと聞いていますが?」

 

「ちっちっちっ、確かに下村元帥は行方不明とされているけれど、その所在を知る人物が一人だけ存在する。横須賀第一鎮守府の鶴崎大将。鈴谷の仕事は朝潮ちゃんをそこまで連れて行くまでで、後は鶴崎大将に聞いてね」

 

 わたしはなぜ下村元帥がわたしを呼び出そうとしているのかが分からなかった。しかし、霞の言う通り呉が混乱している時期に今は他の艦娘が肩代わりをしているとはいえある程度仕事を手伝えるわたしが抜けるのはあまりよくないと思い、彼女の話を断ろうと思っていた。しかし、

 

「断るのはいいけれど、そうすると陽炎ちゃんは不知火ちゃんに当分会えないよ」

 

 と言う鈴谷の一言で事態は急転した。

 

「それはどういう?」

 

「下村元帥は昔っから、優れた艦娘や提督を呼び出して彼女らと自分の艦娘との戦いを見て楽しむと言う悪癖を持っているわ。その戦いに応じてその艦娘の提督に地位や権力を与える。そこの鈴谷も下村元帥に認められて彼女の提督は単冠湾第一鎮守府で大将としての地位を恣にしている」

 

 わたしの疑問に霞が答えてくれた。単冠湾第一鎮守府のオホーツクの巨人が一度の出撃もなしに大将に昇進できたのはそう言ったカラクリがあったのだ。鈴谷はそれ、鈴谷のセリフなのにぃと霞に不満をぶつけているが、わたしには関係がないので無視することにした。

 

「それで、不知火に会えないと言うのは?」

 

「下村元帥が朝潮ちゃんと戦う相手が、この泊地で陽炎ちゃんが探している不知火。陽炎の話している自分の妹が異常艦娘であると言う彼女の言う事が本当ならね」

 

 なるほど、下村元帥は戦う相手を不知火にすることで、わたしを戦いから降ろさないようにしているのだ。特に出世とかそう言ったものに興味はなかったが、グラーフの信奉者と戦う際に地位が高いに越したことはないだろう。

 

「分かりました。しかし、下村元帥は見逃しています。そう、わたしが謎の美少女ダンケ仮面2号である事を!!」

 

 そう言ってわたしは懐に忍ばせていたダンケ仮面2号のマスクをかぶり高笑いを浮かべる。

 

「そのマスクは!! そう、朝潮ちゃんダンケ仮面の弟子だったのね!! いいじゃん、いいじゃん。鈴谷仮面、ダンケ仮面2号のサポートを全力でするよ」

 

 などと、わたし達が仮面同士の友情を確かめ合っていると、霞が深いため息をついている。なるほど、一人だけ仮面をつけていない疎外感を感じているのだろう。そんな彼女のために、とっておきの品を渡した。

 

「霞、これが謎の美少女ミスト仮面のマスクです。これを付けてあなたもマスクド艦娘になるのです」

 

「はぁ!! つけないわよ!!」

 

 彼女はそう言って受け取ろうとしない。そう、彼女は恥ずかしがり屋なのである。

 

「えっ!? つけないの? 霞ちゃん相変わらずノリが悪いよねぇ」

 

「そんな事で、そんなバカみたいなマスクをつける訳ないじゃない!!」

 

「……」

 

「……」

 

「ああああああああ! もう分かったわよ。付ければいいんでしょう、付ければ!!」

 

「霞、掛け声は謎の美少女ミスト仮面、参上です」

 

 霞は切れながらマスクをかぶり、そして、

 

「霞、仕事ひと段落したから……」満潮が執務室に入って来た。

 

「わたしは謎の美少女、ミスト仮面。熊手に代わって、お仕置きよ」

 

 満潮と霞はお互いに顔を見合わせフリーズした後、満潮は執務室のドアを閉めた。霞はマスクを脱ぎ捨て執務室のドアを蹴破り、満潮に先ほどの奇行に対しての弁解を始める。

 

「違う、違うのよ」

 

「霞、アンタは私の側だと思っていたけれど、朝潮姉さん側だったようね。武士の情けよ。今回の奇行は黙っておいてあげるから、ちょっと一人にして」

 

 謎の美少女ミスト仮面の噂は、第一鎮守府中を駆け巡るのに、時間はかからなかった。

 

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