やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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移動手段は空

 と言う風な出来事があったのであるが、その事を朝潮は知らなかったので……。

 

「で、その目的地に着いたわけなんだけれど、またここにも変なマスクを被った艦娘かいるんだけれど……それにあなたは満潮ちゃん? 満潮ちゃんそんなキャラだったの!?」

 

 鈴谷に案内された先には大型のバスと彼女が所属する第12鎮守府の田沼提督と一人の少年、陽炎が聞いた話では呉防衛線で満潮達を指揮していた提督の卵とフルムーンと言うマスクを被った満潮がその場にいたのだった。呉を守った功績によってその少年が鶴崎大将の所に呼ばれたので、陽炎達と行き先が同じであるという事を陽炎は判断した。

 

 しかし、なぜ満潮がそんなマスクを被っているのか。と言う事は理解できなかった。それを聞いて満潮は肩をぶるぶると震わせ、絞り出すような声で「好きでこんな格好している訳じゃないわよ」と言っていたので、陽炎は安堵していた。

 

「まあまあ、積もる話はバスの中でじっくり話してもらって、とりあえずバスに乗りましょう」

 

 と言う田沼提督の指示で一同はバスの中に乗り込んだ。が、バスに乗り込んだ後、陽炎は奇妙な事に気が付いた。

 

「おかしいわ。朝潮ちゃん」

 

「どうしたんです?」

 

 陽炎は隣にいる朝潮に声をかけた。朝潮はきょとんとした顔をしており、異常性に気が付いていない。

 

「このバス。運転手が乗っていないじゃない。それに鈴谷も乗ってこない。しばらく待たされるってことかしら?」

 

「ああ、それでしたら。運転手なら……下にいますよ」

 

 朝潮がそう言うとバスの前方が上横行に持ち上がり、バスの下の方から「じゃあ、行くよ!!」と言う鈴谷の声が聞こえて来た。恐怖を覚えるとともに鈴谷が先ほど言った言葉を思い出した。「このコーヒーとチョコレートケーキは情報料件運賃ってことでもらっておくね」それは、一体どういう意味だったのか。

 

「え!? え!? 嘘よね!!」

 

 朝潮以外の全員が困惑していると、陽炎の嫌な予感は当たったのである。バスは上空に吹っ飛び、彼女たちはそれに付随する凄まじい重圧に一瞬苦しめられたが、瞬時にその重圧は感じられなくなり、いつの間にかバスの中に入り込んでいた鈴谷の「はぁい皆さん。空の旅にご案内」と言う気の抜けた声によって我に返らされた。

 

 彼女たちがこのような大胆な行動手段を取らされた理由は、イベント中は国内において様々な移動手段が制限されているため、もし鉄道で移動した場合、敵にその動向が知らされてしまう。とは言え、海路はグラーフ達が潜んでいることが確定しているので、彼女らの襲撃を警戒しながら進むことは現実的ではない。よって、空路という訳である。

 

 空路は冷戦時代に打ち上げられた2機の人工衛星兵器、『プロメテウス』による妨害電波によって一部の海域を除き提督の力によって中和されていないレーダーや航空機等が無力化されており、かつ高度1万メートル以上では提督の力でも無力化できない為、ほとんどの追跡を無力化できる。という説明を鈴谷から受けた。

 

「と言うか、朝潮ちゃん。知っていたなら教えてよ」

 

「すいません。この空路の移動なのですが、無力化する方法は存在しまして、それはこの移動用のバスを破壊する方法で、鈴谷仮面の移動に耐えうるバスはこの一台しか存在しません。故に敵がこのバスを破壊すると陸路か海路を選択せざるを得なくなり、危険が増します。そんな事情もあり、バスに乗って高度1万メートルまで行くまで口外しないようにとのことだったので、黙っていました」

 

 と言う朝潮の説明を聞き、納得した。仮に事前に説明を受けていたとしても、鈴谷にバスをぶん投げてもらって移動すると言う説明を聞いたら、移動方法を秘匿するための暗号か何かだと思っていただろう。因みに、後ろを見た時に提督の卵と田沼提督は気絶しており、満潮は提督の卵を介抱していた。提督たちは眠っていた方が良いだろう。何せ、着陸するときは行きとは比べ物にならない恐怖と衝撃が彼らを襲うだろう。

 

「まあ、いいわ」

 

 陽炎は奇怪な移動手段に心を奪われている場合ではないのだ。朝潮がなぜ陽炎を今回の移動に同席させたのか彼女には見当がついていた。彼女は不知火が異常を発現した状況を間直で見た艦娘の一人であり、彼女の持つ情報は朝潮が不知火を打倒するために有益だと朝潮が考えている為だろう。

 

 そんな事を考えているときに、満潮が提督たちの介抱が終わったのだろう。陽炎達の近くに座った。

 

「それで? こんな摩訶不思議な移動方法でも大して驚いていないってことは、陽炎も異常艦娘ってことでいいのよね?」

 

「いいえ。私は違うわよ。ただ、妹が異常艦娘で、その時にいろいろと話を聞いたっていうだけ。そう言うってことは満潮ちゃんも? 前戦いぶりを見た時は異常艦娘のようなそぶりは見えなかったけれど?」

 

 満潮はふざけたマスクを被っているので、表情を読み取ることは出来ないが、目を閉じて首を振りながら、

 

「そう。私が異常艦娘になったのは最近よ。私が知っている異常艦娘はどいつもこいつも変な奴らばっかりだから、一人くらいはまともな人がいると良かったんだけれど、どうやらそれは叶いそうにないわね」

 

 などと話してくるが、彼女は自分がその『どいつもこいつも』の範疇に入っていることに気づいていない様であるが、陽炎は黙っていることにした。

 

「そう言えば、なんで陽炎さんは異常艦娘の事を知っているのですか? 異常があると知らされた艦娘はその事は秘匿され、同艦隊に異常艦娘がいたとしても他の艦娘はそのことを知らされることはないはずです」

 

 朝潮はそんな疑問を投げかけて来た。陽炎は鈴谷を一瞥し、彼女はそれに対し頷く。陽炎は彼女達に自分の過去を話しながら、自分のこれまでの軌跡を語り始めた。

 

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