やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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最強の艦娘

ここまで話すと、それまで黙って話を聞いていた朝潮が陽炎に話しかけて来た。

 

「なるほど、分かりました。その時に陽炎さんの妹が異常を得るに至ったわけですね。しかし、陽炎さんの遭遇した敵深海棲艦……陽炎さんはソレに追い回されて生きていたなんて運がいいですね」

 

「そうね。なんだか思い出したら気持ち悪くなっちゃったわ。続きはまた今度でもいい? この後は第一鎮守府の生き残りを探しているときに、ドロドロに溶けた例の深海棲艦の死体とか、そんな感じの話になるんだけれど?」

 

 朝潮たちが頷くと、鈴谷が手をぱんぱんと叩きながら彼女らをシートに座るように促した。どうやら陽炎が昔話を語っているうちに目的地付近に来たらしい。彼女が言うにはここがちょうど横須賀基地の上空1万メートルであり、ここから下に落下するらしい。

 

「落下?」

 

「そう落下。口は閉じておいてね。舌嚙むよ」

 

 次の瞬間、車体が90度傾き、下に陸地と海が見える。

 

「え? えぇぇぇ!? 嘘? 嘘よね!!! キャァァ!!!」

 

 満潮の絶叫があたりに響き渡り、車体は重力に引っ張られぐんぐんと速度を増しながら地面に落下していく。てっきりパラシュートとかそう言ったもので減速下降しながら安全に落ちるものだと思っていた。陽炎は横を向き、この事態に何の説明もなかったことに対して朝潮を糾弾しようと思っていたが、朝潮も顔面蒼白になりながら、「これも、朝潮示現流の呪い?」などという訳の分からない事を呟いていたので、この事は朝潮自身にも知らされていなかったのだろう。

 

 などと、思考を巡らせているうちに、地面が間直に迫って来た。あと数秒後には陽炎達はバスと共に鎮守府の近くを飾るシミの一部と化しているだろう。陽炎は目をつぶり、最後の時を迎えた。

 

 が、いつまで経っても衝撃が来ない。あまりの衝撃に、つぶれた事すら理解できずに潰れてしまったのだろうか。そんな事を考えていると、

 

「やれやれ、いつもながらもうちょっとスマートな方法はない物デスかねー」

 

 と言う金剛のような口調の声がバスの前方から聞こえて来たので目を開けると、バスが金剛型の艦娘によって片手で止められていたのである。

 

「あなたは?」

 

「ワタシ? ワタシは横須賀第一鎮守府名誉秘書艦にして、頼れるみんなの秘書官、帰国子女の金剛おねーさんデース!! ワタシの事は気軽に金剛さんとでも呼んで下さいネ」

 

 彼女はそう言うと、バスを下ろした。周りには彼女の他にも電と暁型の艦娘がこの光景を目撃しており、こういった不可思議な現象を発生させる艦娘は少なくとも金剛はそうだろうと言う事が予測できた。

 

「暁よ。横須賀第一鎮守府名誉秘書官にして、最強の異常艦娘よ。以後、よろしく」

 

 そう言いながら暁は胸を張りながら一人前のレディっぽいポーズを取り始めた。

 

「なるほど、わたしは呉第1鎮守府所属の駆逐艦朝潮です。……、最強の異常艦娘というのは、どんなやばい力を持っているんですか? 霞の海を裂くチョップとか見ていると、それよりすごい力とか、あんまり想像できないんですが」

 

「ふふん、一人前のレディたるもの、自分の異常を簡単にしゃべったりしないものなのよ」

 

「『異常がない』と言うのが暁ちゃんの異常なのです」

 

「電!! なんで言うのよ!! バカバカバカ!!」

 

 暁が自分の異常が『異常がない(レディ=ファースト)』とか言うおそらく外れ能力だとばらされた彼女は電を追いかけまわしている間に、

 

「聞いての通り、暁は最強の異常艦娘ですからね。演習とか挑まれても、戦ってはいけませんヨ。それがこの鎮守府のルールですからネ」

 

 金剛はそう語った。彼女は幼い見た目をしており且つ役に戦い異常をもって生まれてしまったので、彼女のプライドを刺激しないためにそんなルールが設けられているのだろう。と陽炎は勝手に思っていた。

 

「なるほど、分かりました。ルールならば仕方ありませんね。最強の異常艦娘と言うのならば、元帥と戦う前に手合わせをしたかったのですが。かつてのドイツの文豪ゲーテも言っていました。君子危うきには近寄らず。霞の所でルールを破ったらとんでもない目に合った事があるので、わたしはルールを破りません。なぜかルールを追加されることはありますが……」

 

 そんな事を言いながら、朝潮は暁と同じように胸を張り、えっへんと言う効果音と共に金剛の方に向き直る。彼女の発言のどこにそんな偉そうな態度を取る要素があったのか理解できないが、陽炎は気にしない事にした。

 

「なるほどネ。しかし、そう落胆する事はありまセン。名誉秘書艦であることワタシがあなたの相手をしてあげます。さあ、かかってきなさい」

 

 そう言って腰を落としながら半身の姿勢になる金剛に、それに応じるように腰を落として構えを取る朝潮……、手合わせって、演習とかじゃないんだと言う前に、暁から逃げ切った電が陽炎と満潮の手を握ったかと思うと、全速力で朝潮たちとは逆方向に走り出した。ちょっと、何すんのよ!! と言おうとした刹那、地震が起こった。

 

「朝潮示現流 銑鋼」

 

 否、それは地震ではなかった。朝潮がすさまじい威力のパンチを繰り出すために思い切り地面を蹴った衝撃でまるで直下型の地震が起こったかのような衝撃が発生しており、それにより放たれる一撃は艦娘の砲撃が直撃するような威力であることは想像に難くない。

 

 しかし、その一撃を金剛は人差し指一本で受け止めたのである。

 

「なるほどネ。あなたがあのダンケ仮面の弟子だという事は聞いていまシタガ、その威力インパクトだけは霞のベアークローにも匹敵するかもしれませんネ」

 

「まずは小手調べです。こうなる事は予想していました。バスを受け止めた力が異常であるのか、本人の力量の結果であるのか知りたかったのですが、おそらく前者のようですね」

 

 と言う、まるでジャンルの違う世界に迷い込んだかと思うやり取りに呆気に取られていると、電が停止し陽炎に話しかけて来た。

 

「彼女がビスマルクさんのゲルマ式格闘術の伝承者であることは聞いていたのです。それに、重点的に鍛えられた下半身から、そのバネを生かした超高速戦闘が彼女の得意とする戦闘スタイルであることは明白で、このままだと危ないと思ったので、少し移動させてもらったのです。手を引っ張ってごめんなさい」

 

 電はそう言いながらこちらに会釈をしてきたので、陽炎も頭を下げた。彼女がいなければ、彼女らの戦闘に巻き込まれシャレにならない大けがをしていたところだろう。気を失っていた提督たちもいつの間にか暁が担いできたらしく、彼女が木陰に座らせていた。

 

「いいえ。助かったわ、しかし、手合わせって演習とかじゃないのね。いきなりでびっくりしたわ」

 

「なのです。朝潮ちゃんの異常『ヴィクトリーストライク』は互いの砲撃を封じる特性上、近距離戦で敵を圧倒できる力を持っていなければならないのです。結局、海の上で肉弾戦をする羽目になるのならば、地上で戦っても大差はないと言う提督の判断なのです」

 

 と、陽炎が目を離している間に朝潮の拳が十数度金剛に向かって放たれたが、彼女はその場から一歩も動くことなく、おそらく彼女の拳を打ち落としていった。と言ったものの、陽炎の目には朝潮の拳もそれを打ち落としているであろう金剛の拳も全く目に映らないのだが、激突によって引き起こされる衝撃音だけが、その事を雄弁に物語っていった。

 

「一瞬で力量差を感じ、手数での攪乱する策に出たのはいいとは思いマスが、思い切り拳を乱打するあなたと、それを受け止めるだけのワタシ、続ければどうなるのかは火を見るより明らかデース! 早いうちに何とかする事ですネ」

 

 その瞬間である。陽炎は朝潮が不敵な笑みを浮かべていることを感じ取った。そして……。

 

「朝潮ちゃんの拳。早くなっていない? いや、最初から見えてはいないんだけれど、音が……」

 

 まるで削岩機が岩を削るようなズドドドド!! と言う音が朝潮と金剛の間の空間から聞こえている。そこには何十何百の拳の激突がその空間を埋め尽くしているのだろう。

 

「中世を生きたドイツ文豪ゲーテはこんな事を言いました。『石橋を叩いて割る』と、幾ら強靭な石橋でも、壊れるまで何万回でもぶっ叩けば、いずれは割る事もできると言う意味です」

 

「知らないけれど、そのゲーテっていう人そんな事言っていないでしょうし、そもそもそんな諺ないし、仮にあったとしても、そんな意味じゃないでしょう!!」

 

 朝潮の嘘ゲーテ発言に対して満潮の突っ込みが冴え渡った。

 

「シッ! もうちょっとなんかあると思うネ!! 攻撃が受け止められるんだったら、もうちょっと足で攪乱してみたり、砲撃を試してみたり、幾らでもやりようはある。それを無理矢理速度で突破しようとしたのはあなたが初めてデース」

 

「はい、誉め言葉として受け取っておきます」

 

「いや、受け取るな。全く褒めていないので、勘違いすんなデース!!」

 

 金剛はそう言いながら半歩だけ後ろに下がり、先ほどまで響いていた削岩機のような音が止んだのである。流石に疲れて休憩を入れるのかと思っていたが、その刹那朝潮の体がまるで操り人形が糸を切られたかのように力なく倒れこんだ。辛うじて片膝をつき、倒れる事を拒否してはいるが……。

 

「朝潮ちゃん!!」

 

「ワタシの金剛拳をまともに食らって……いや、インパクトの瞬間首をひねって若干衝撃を分散させたとは言え、まだ意識があるとは流石デース。ダンケ仮面は良い艦娘を弟子にしたようデスネ」

 

 陽炎は朝潮に駆け寄り、彼女に肩を貸すと、彼女はほとんど抵抗なく彼女に全体重を預けて来た。その時、朝潮が耳元で、囁いて来た。

 

「助かりました。彼女の異常はエネルギーを消滅させる力、そう予測できます。その力で落下したバスを受け止められたのでしょう。そして、実際に食らったらどうなるのか体験するために無茶な連撃を浴びせ続けたのですが……いやはや、全く力が入りません」

 

 とだけ彼女に耳打ちした後、朝潮は寝音を立てながら満足そうな顔で眠りについたのである。

 

「全く、無茶するんだから」

 

「しかし、ワタシが異常を使わざるを得ないほどの切れのある打撃は想像以上でした。受け止めきれずに、寸での所で躱したのが2発、1発は胴体に直撃しました。並みの異常艦娘であれば成す術なく倒されていたでショウ。おそらく熊手の所の霞とも互角か、それ以上の近距離性能を誇るようデス」

 

 と戦った金剛は褒めている。しかし、次の様にも語った。

 

「彼女の朝潮示現流には致命的な欠点を有していマス」

 

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