やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

42 / 62
最強の異常提督

「それで、朝潮示現流の欠点とは一体何なのですか」

 

 金剛に敗北し、横須賀第一鎮守府の医務室に寝かされていたわたしは、陽炎から気絶していた時の状況を聞いていたのだが、金剛の言う朝潮示現流の欠点というモノは聞き捨てならなかった。途中で金剛が天井を這うように侵入してきたが、陽炎は気づいていないし、気配を消していたのでとりあえず放っておくことにした。

 

「ええ、朝潮示現流は朝潮ちゃんが鍛え上げた脚力を起点に生み出される超高速且つ超威力の攻撃がその強さの大半を占めているわ。その力はすさまじく、もし仮に普通の艦娘であれば、艤装を装備していない状態でも地上であれば艤装による戦闘力向上分を差し引いても艤装を装備した艦娘を圧倒できる程度には非常識な練度を誇る。と、金剛さんは言っていたけれど、さすがに誇張しすぎよね」

 

 さすがは金剛、正確な分析である。実際にわたしは過去に艤装がほとんど使えない状態で雪風との一対一の戦いにおいて速度で相手をほんろうし、相手が自爆技を使わなければそのまま倒していたであろうと言うところまで追い込んだ過去がある。

 

「そう、師匠から毎日のランニングは欠かさないように言われていますからね。継続は力なり、過去の継続がその超高速戦闘を可能とする訳です」

 

「それよ」

 

 わたしが胸を張っていると、陽炎はばつが悪そうな顔でぼそりとそう呟いた。

 

「へっ?」

 

「朝潮ちゃん。朝潮示現流の弱点は、朝潮示現流の強さが、朝潮ちゃんの脚力に依存している。それが、朝潮示現流の致命的な欠点なの」

 

 陽炎は表情を曇らせ、わたしは雷に打たれたような衝撃を受けた。え? え? 意味が分からない。わたしの2年間が、わたしを支えてくれたものが音を立てて崩れたようなそんな衝撃を受けた。

 

「どういう事なんですか? 技術や技が未熟な事は分かります。でも、……」

 

「脚力による超高速戦闘は艤装によって移動速度が画一点化される海上での戦いではその強みを生かすことは出来ない。そう言う事デス」

 

陽炎がその事実を伝えられずに、言葉を濁しているときに、後ろから金剛がその事をわたしに向かって言い放ったのである。

 

「そんな……」

 

「ダンケ仮面があなたに朝潮示現流を教えた時の経緯はすでに聞いていマス。あくまで彼女はそれを陸上での護身術としてアナタに教えたようデス。陸上での護身術が海上ではうまく発揮されないのは自明の理、であれば、アナタは見つけるしかない、海上で有効に働く、新たな朝潮示現流を!!」

 

「ちょ!?」

 

「新たな朝潮示現流ですか?」

 

 わたしの力ない言葉に、金剛は強く頷いた。そうだった、今までのわたしは朝潮示現流伝承者としてある意味満足していた。故に、朝潮示現流の抱える初歩的な問題点を指摘されるまで気づかなかったのだ。

 

「そうデース!! 人の技として作られた朝潮示現流を人の技で終わらせるのか、艦娘の技としてグレードアップするのか、それはこれからのあなたの頑張り次第にかかっているのデース。そのために、ワタシも微力ながら力を貸しマース」

 

 そう言って、金剛はわたしに手を伸ばして来た。わたしはその手を力強く握り、新たな朝潮示現流の進化を誓った。なぜか、陽炎は深いため息をついていたが、わたしの新たな目標が決まった事に比べれば些細なものだろう。

 

 

「ちょっと悪い事をしたかな?」

 

「いいえ。あれで良かったのです。あとは金剛さんと陽炎ちゃんが上手くやる筈なのです」

 

 横須賀第一鎮守府執務室、4畳半ほどのこじんまりとした部屋に、かつて最強と謳われていた提督が座っていた。現在7人存在している『大将』の内の序列1位、鶴崎大将その人である。彼が朝潮と金剛を戦わせた理由。それは、朝潮に朝潮示現流を封印させることにある。

 

 朝潮の『ヴィクトリーストライク』は砲撃戦で敵に先手を取らせればほぼ無敵の異常である。よって敵の砲撃を封じて近距離戦に持ち込むと言うのが今の彼女の戦闘スタイルであるが、そもそも砲撃戦で無敵と言う優位性を捨ててまで近距離戦に持ち込む意味がない。

 

 故に、ある程度近距離戦に慣れている金剛に彼女の土俵で勝負させ、圧倒的に勝ち、さらに朝潮示現流の弱点を伝える事で、近距離戦を封印させ、遠距離の主体の戦い方を学ばせる。それが、彼の狙いだった。実際は熊本大将から、そうするように頼まれたのであるが……。

 

「全く、熊手のおっさんも俺に憎まれ役をやれなんて、いや、まあ、本当に下村元帥の艦娘を3人以上勝ち抜くためには、そうさせた方が良いんだが……はぁ」

 

 彼がそう言ってため息をつくと、電が淹れたてのコーヒーを台に若干強めに置いた。

 

「彼女の事は一旦おいておきましょう。今は私達の仕事を済ますのです。そろそろ、満潮ちゃんたちが来ますよ」

 

 彼女の言葉に鶴崎は頷き、先ほどまでのだらけた背筋をピンと伸ばし、きりっとした表情を作り終えるころ、執務室のドアが二回叩かれた。

 

 

 満潮と提督の卵が執務室に入ると、長身のサングラスをかけた若干長めの髪の男と、電がこちらに鋭い観光を放って来た。彼女達は彼の座っている机の前で敬礼をし、たどたどしい声で所属を名乗り、彼もそれにこたえる。

 

「よく来てくれたね。私は横須賀の鶴崎だ。一応私の方が階級とか諸々は上だが、フランクに話をしようじゃないか。その前に、君たちに謝らなければならない事がある」

 

「私に起きた『異常』の事ですか?」

 

 満潮はそう答えたが、彼は首を横に振る。二人は面食らった。満潮も提督の卵も霞からは異常が発言したことで、鶴崎大将から話を聞かなければならないと聞いていたので、その事ではない事に驚いたのである。

 

「いや、謝らなければならない事を話す為には、なぜ今回一緒にここに来た朝潮が一時期君の鎮守府にいたかという事まで話さなければならない」

 

「え? どういう事?」

 

 そこから話された内容は、満潮には衝撃的内容ばかりだった。朝潮の艤装不備の事故として伝えられていた出撃中に実際には深海棲艦type-γとの邂逅によって朝潮が腕を遺して飲み込まれ、その際に深海棲艦に心臓の魂を呑み込まれ、朝潮轟沈、司令官は心肺停止、荒潮に提督の力が残る『呑まれる』と言う現象が起こり、提督の心臓の魂と朝潮を救出するために別の朝潮が満潮の鎮守府に送られたと鶴崎大将は語った。因みに、その時に深海棲艦type-γが一隻で泊地が全滅しかねない力を持っており、司令官の魂を回収する方法も、飲み込まれた艦娘の魂を助けに来た艦娘の魂と交換するという手法を取るため、助けに来た艦娘は大体消滅してしまう事が同時に語られていた。

 

「ふざけんじゃないわよ!! それじゃあ、……それじゃあ、朝潮姉さんは死ぬために、死ぬために、でも待って? 今の朝潮姉さんは前の朝潮姉さんと違うってこと?」

 

「いや、本当はこんな事になる筈ではなかったんだ。話を続けるぞ」

 

 と言うのも、このサルベージ方法が許可されるのは司令官が心肺停止していなかったらの場合で、そうでない場合その泊地外の大将によって何かしら理由をつけて否認されるのである。と言うのも、『呑まれる』と言う現象は数が少なくデータが欲しいのと、深海棲艦type-γが危険な存在であり、不安定な提督もどきの力では泊地全体を危険にさらすからである。故に、朝潮は事実上の正規の着任であった。が、ここで例外が起こったのである。

 

「例外?」

 

「そうだ。朝潮が初めての演習で『異常』を発現した。異常とは、異常の因子を持つ艦娘が高練度数、値に直すと練度99が以上の経験を経て初めて発現するものだが、彼女は一度目の演習で発現してしまった。これによって、ある仮説が立てられ、熊本大将は君の提督を救わなければならなくなったんだ」

 

 そして、朝潮と荒潮はすべてを救い、今に至る。だから、君の知っている朝潮は他の誰でもない朝潮だよと鶴崎大将は断言し、満潮は安堵した。

 

「それで? そのある仮説と言うのは何? と言うか、私も大体練度80くらいで、朝潮姉さんほどではないけれど、大将の言う例外だと思うけれど?」

 

「そうだ。君がその仮説の裏付けになったんだ。呉第4提督の異常、それは『一定期間旗艦にした艦娘を異常艦娘にする異常』だ」

 

 異常艦娘を作り出す異常。それが、どの程度この世界のパワーバランスをひっくり返す力なのか、今の満潮には想像すらできていなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。