やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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謝らなければならない事

「異常艦娘を作る異常ですか? 満潮みたいな」

 

 これまでの話は呉第4鎮守府内で起こった真実だったので、提督の卵はなかなか話についていけなかったが、ようやく彼も口を開く事が出来た。とは言ったものの先ほどまでの会話のほとんどは満潮にとっても寝耳に水と言った話だったのだ。

 

 付け加えておくと、ここに来る前の数日間の間に満潮は彼に自身の異常が発言したことを話していた。と言うのも、彼が初の演習で嘔吐した理由が、異常が発言する前の不安定な艦娘につながった事でめまいを起したのが理由であり、その事を彼に伝える為である。

 

「という事だから、もしアンタが私に何かしらの恩を感じているとしたら、筋違いよ。もし普通の艦娘を指揮していれば、こんな事にはならなかったんだから」

 

 一通りその事について話した後、満潮はそう言って突き放したつもりだったが、彼は満潮の頭を撫でながら微笑むだけだった。そんな事を満潮が思い出していると、鶴崎大将が口を開いた。

 

「その通りだよ提督の卵君。艦娘の素体……いや、止めておこう。ともかく艦娘が誕生する過程である程度の個性によってうまく艤装と相性が良くなる人とあまり相性が良くならない人が存在する。その成長過程で、異常と言う本来の艦娘の力以上に艤装の力を引き出せる人が現れる事がある。第4提督はそれを艦娘に促す才能があるという事なんだ」

 

「それは問題なんですか?」

 

「その異常というモノは発生する可能性が極めて低く、泊地全体で4隻ほどしかいない。そして、熊本大将が敵対しているグラーフの仲間はおそらくその3倍の12隻ほど異常艦娘を保有していると推測されているが、その大部分の異常は謎に包まれている。彼が泊地を離れられない理由はそこにある」

 

 満潮は先ほど発生した金剛と朝潮の常軌を逸した肉弾戦や鈴谷のバスをぶん投げて呉から横須賀まで運ぶと言った異常を見ていたので、その警戒理由も納得がいった。

 

「なるほど、敵が金剛さんや鈴谷さんみたいなやばい異常の可能性もあるなら、そりゃあ呉を開ける訳にもいかないわね。もしかして、他の大将がほとんど出撃しない理由もそんな感じ?」

 

「なるほど、君は勘が良いな」

 

 そう言って鶴崎大将は満潮に感心しているようだった。しかし、同時に満潮は気づいてしまった。仮に熊本大将が提督に彼の異常を話し、彼の艦隊全員を異常艦娘に変えたとしたら、呉全体の異常艦娘数は200以上、おそらく現在確認されている異常艦娘の数倍の艦娘を保有する事になる。いや、満潮が1か月かかった事を考えるとそうなるのには18年以上かかるが、それでも一年で12隻。泊地3つ分の異常艦娘数である。

 

「君が考えていることは起こらないかな。もし、熊手が……熊本大将がその気なら、黙って君の考えていた事を実行に移したさ。しかし、君と言う例が生まれてしまった後、第4提督には旗艦を定期的に交代させることを徹底させ、就寝前には旗艦を異常が発言したことが知られている荒潮に代えてから就寝する事を義務付けているから、もう異常艦娘は増える事はないだろう。そして、説明のために君たちをここに寄こして来た」

 

 それが、仮に熊本大将が己の地位が脅かされる保身であったとしても満潮は胸をなでおろした。もし、そんな事をすればパワーバランス崩壊を恐れたグラーフの仲間や今回呉を襲撃した集団によって拉致されるか暗殺されるか、悪い様にしかならないだろう。

 

「さて、司令官さん。話は済みましたよね。ここらへんで本題に入るのです」

 

 鶴崎大将の隣にいた電が口を開くと、鶴崎大将は眼を逸らした。そう言えば、謝らなければならない事があると邂逅一発目に行っていたような……。

 

「そう言えば、そんな事言っていたわよね」

 

「いや、……熊本大将は第4鎮守府を使って異常艦娘を増やさせる気はなかったんだが、第4鎮守府で朝潮、荒潮、満潮と立て続けに異常艦娘が発生した事が、いずれ敵に露見して第4提督が危険に陥らないように、これは綾瀬大将がしでかしたことなんだが、……その、彼がこん睡状態に陥っていた時に副官として提督の卵君が臨時提督として着任していたと改ざんしやがって……おそらく異常艦娘が立て続けに発生した事がバレると、まず真っ先に、提督の卵君が狙われると言うやばい状態になっているんだ」

 

「はい?」

 

 満潮が横にいる少年の方を向くと、ぽかんと口を開けている。

 

「それで、君たちには呉第4鎮守府に副提督として入り、第4提督が異常艦娘を増やす行動をしないかどうかチェックし、敵に対しては囮としてその任務を全うして欲しい」

 

「はい」

 

 満潮がふざけた事言ってんじゃないわよアンタと掴みかかる前に、彼は即答してしまった。

 

「だよな。よし、この状況に陥らせた綾瀬の奴は今度土下座させるし、熊手にも命令を撤回させるから、少しの間ここで……はぁ?」

 

 鶴崎大将は少し考えた後、

 

「えーっと、熊手と綾瀬の無茶な要求と改ざんでやばい事になっているから、敵の襲撃が多分来ないここで匿う為に君たちを呼んだつもりなんだけれど、……あれか、危険性を認識していないのか。異常艦娘を作る異常はその性質上その可能性がある提督は欲しがる団体は無限に存在し、それを狙うすべての存在から狙われるんだ。その囮役にさせられそうだったんだが、もしかして、それを分かったうえで囮役を引き受けると言うニュアンスで返事をしたのかい?」

 

 彼はその言葉に頷き、満潮は閉口し、電は絶句した。鶴崎大将は頭を抱えた。

 

「だって、それを引き受ければ、満潮と一緒にいられるんでしょ? 奇跡的に交わった満潮との縁、たった2週間ほどで終わる筈だった縁が、それを引き受ける事でここから先も続くと言うのなら、理不尽なんてとんでもない。むしろ二人の大将に感謝したいくらいです」

 

 それを聞いて、鶴崎大将はもう一度だけ考え直す機会を与えたが、答えは変わらなかった。

 

「電、満潮達に異常の使い方を教えてやってくれ。彼の覚悟が無駄にならないように」

 

 こうして、満潮達は電に連れられて執務室を出た。

 

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