朝潮たちが南極基地に連れ去られていた頃、荒潮達呉第4鎮守府はイベント海域からの帰還を果たしていた。そして、第一鎮守府に出向していた長良達も第4鎮守府に帰還したのだが、
「長良さん。今回の演習お疲れ様でした。そう言えば、満潮は見えませんが、どうしたのですか?」
「ええと、なんか大将の所の霞ちゃんが言うには今回の事で相当無理をした事で、艤装に異常が見つかったらしく、検査のために横須賀まで行ったらしいよ」
「なんだか、はっきりしないと言うか、満潮から聞いたわけではないんですね。艤装の異常ですか。まあ、直るのなら問題はなさそうでしょう」
そう、艤装に異常が見つかったらしく、横須賀に行っているはずである。長良はちらっとしか見ていないが、満潮が……いや、満潮と思われる艦娘が、謎のマスクをつけていたのを数日前にちらりと目撃していた。
その二日前に霞も同様に謎のマスクをつけており、朝潮や鈴谷も同様のマスクを着けていた事が判明していた。
「それより……、満潮がいない代わりになぜか20人ほどの艦娘が後ろにいるように見えるのですが、彼女らは一体誰なんですか?」
「あ? やっぱりそれ聞いちゃいます?」
彼女らは、呉を襲撃した艦娘たちである。が、彼女たちや彼女らの提督を操っていたとされる黒幕は海に沈んでおり、彼女らの提督もグラーフの仲間であるプリンツオイゲンに重傷を負わされている為、呉に軟禁されているのだった。
そして先日、霞たちの決死の調査によりその裏が取れたので、今回の事は不問とされたのだが、壊れた鎮守府艦の修理と、彼女らの提督の療養のためにしばらく呉に留まる事になったのだった。
その際に、満潮が横須賀に行く話を聞きつけた彼女らが、少しでも彼女に対する恩を返すためにも、第4鎮守府で艦隊運営を手伝わせて欲しいと言う申し出をしてきたのだった。そして現在に至るという訳である。
「ハーイ!ワタシは大湊第12鎮守府秘書艦の金剛デース!! 以後お見知りおきをお願いしマース!!」
長良がどう言ったものか言葉を紡ぎあぐねていると、大湊の金剛が話に割って入ってきて、ファイルを一つ取りだし、朝潮に寄こした。彼女はそれを受け取りペラペラとそれをめくり、しばらくすると、
「なるほど、第一鎮守府不在のために呉に応援に来た際に、敵軍に背後からつかれてその際に宮本提督が負傷したために、満潮達に助けられたと……そして、提督が復帰するまでここに所属するように命令を受けた。……なるほど、それは災難でしたね」
「ハーイ!! それでは、そちらの提督に挨拶に行きたいのですが、よろしいデスカ?」
そうして、一通りの挨拶を終えた後、金剛たちはそこで決められた業務に従事していったが、大湊の雪風は荒潮を外に呼び出したのだった。
「忙しい中お手数をおかけします」
「構わないわ。それに、貴女にも聞きたい事があったし、……満潮ちゃんに異常が見つかったと言う話だったけれど、そんな事ってあり得ると思う?」
「いいえ。彼女の練度は80程度、一般に艦娘の異常が発現するのは、わたしや霞ちゃんのように、人間から直接艦娘に改造された例を除くと、才能のある艦娘でも練度99以上のいわゆるケッコン艦に本来は限定されます。しかし、彼女は明らかにそうではなかった」
荒潮が彼女の提督に異常があるかもしれないと言われたのは朝潮が異常を発現したときの事である。彼の魂がtype-γに奪われた後、荒潮は提督の魂をその艤装に宿し、提督の力を行使できる『提督を呑んだ』という状態に陥ったのであるが、そうなった例は希少であるので、例え提督を助ける方法があったとしても、その提督はなにかと理由をつけて助けない事になっていた。
しかし、朝潮が指揮に入って初めての演習でいきなり異常を発現した際に、状況は一変したのだった。それはtype-γに魂が飲まれた際に、提督が『異常を発現させる異常』を持ったのではないかと言う仮説である。
そして、たった2か月でずっと旗艦にしていた満潮に異常が発現した。本来異常を潜在的に有する艦娘が異常を発現する艦娘練度大きく下回っているにもかかわらずである。その事は雪風には知らされていない様だったので安堵していた。
「なるほどね……しかし、それは他の子たちよりも満潮ちゃんに才能があったという事でしょう。しかし、寂しくなるわね。大将クラスでもないと異常を持つ艦娘を複数隻持つことは一般的には許されていない。満潮ちゃん、別の鎮守府に配属になっちゃうのかしら」
荒潮自身はこんな結果になるまで、彼女の提督が『異常を発現される異常』を有している事を信じていなかった。故に、満潮をしばらく旗艦に固定しておくと言う実験に反対しなかったのだが、そうなってしまった事は彼女の胸を締め付けた。
「おそらくそうなりますね。かつて人間を艦娘に改造した艦娘が各鎮守府にいて、今よりも鎮守府の数自体が少なかったころはもっとたくさんの異常艦娘が各鎮守府に複数隻いたこともざらでしたが、彼女らは大将配属にされた後、たまに他の鎮守府にも振り分けられるようになりましたから、おそらく満潮ちゃんもそうなりますね」
雪風はかく言う私もそのクチですからねと付け加えた。そして、雪風は金剛とは違った色のファイルを取りだし、荒潮に見せた。彼女はペラペラとそのファイルをめくる。
「なるほど、これがここにいる真の理由ね。横島提督のボックス集めの手伝いをさせられていたと……。おかしいと思ったのよ。金剛さん以外の艦娘が、なぜか極度に朝潮ちゃんを怖がっていて、話を始められなさそうだったのを、鎮守府中の艦娘をたった一隻で全滅させられたんじゃそうなるわね」
「おかげで私達の鎮守府の皆朝潮ちゃんを見るたびにガタガタ震えて困っているんですよ。一体あの子は何なんですか? 私は横須賀の金剛さんとか、瑞鶴さんとか呉の霞ちゃんとかを見て来たから、常軌を逸した艦はたくさん見て来たので、大丈夫ではあるんですが、彼女はそれ以上です」
「まあ、彼女は私の『勝利の女神』ですもの」
その時である。二人の目の前に何か良く分からない渦が巻き起こり、おそらく時空の裂け目から、知った顔が姿を現したのである。
「やぁ、久しぶりですね。荒潮に雪風。お久しぶりです」
やあじゃないわよ。荒潮は何が何だか分からなかったが、彼女の次の発言を待った。