やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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初めまして司令官(2

 陽炎はわたし抜きで特訓を再開した。今回の異常発動の件で、わたしは陽炎に何か解決の糸口を与えることに成功したので、その為にまた陽炎の艤装で異常を発動すると言う提案をしたが、その際に金剛と満潮から一撃ずつパンチをもらってしまったのである。

 

「しかし、わたしだけのけ者にされてしまったので、少し暇ですね。……満潮あたりにちょっかいを駆けに行きますか」

 

 などと呟いていると、部屋に電が入って来た。

 

「こんにちは、なのです。体の調子はいかがですか?」

 

「いいえ違います。別に、満潮の所に行って悪戯しようとか、そんな事は全く考えていませんでした。安静にしています」

 

 と言う、わたしの言葉に彼女はため息をついた後、話を始めた。

 

「そうですか。元気そうで何よりなのです。今日はあなたに会わせたい人がいるのです」

 

「会わせたい人ですか?」

 

 会わせたい人? 誰だろうか、そう言えば、ここの司令官には挨拶をしていなかったので、挨拶のために呼び出されたのだろうか? しかし、それにしては会わせたい人などと回りくどい言い方をするだろうか? そんな風にわたしが思考を巡らせている間に、目的の場所についてしまった。

 

 その場所はと言うと、わたし達がここに来た時に着陸した場所だったのである。そう言えば、そう言えば、鈴谷仮面はわたし達をここに下した後、その姿を見せていない。そんな事を思っていると、電は口を開いた。

 

「そろそろ来るはずなのです。あなたに合わせたい人、それは呉第15鎮守府に新たに赴任する司令官さんつまり、あなたの司令官となる人なのです」

 

 なるほど、わたしは納得した。本来はわたしが元帥の試練を受ける筈であり、2戦目以降は解放艦娘になる事が必須である。であるならば、わたしを元帥の試練に勝ち残らせたいのならば、提督をここに連れて来る事は自然であった。つまり、それが無理になった事を説明して納得してもらう事が必要となったのである。

 

「なるほど。その事は失念していました」

 

 そう思考した瞬間、上空が何かきらりと光ったかと思うと、バスが猛スピードで落ちて来て目の前に着地したのだった。そのバスの下には鈴谷仮面がおり、わたしを見るや否や、『やっほー』と気の抜けた返事をしながら、こちらに手を振ってくる。

 

 大淀が通常の艦娘と異常艦娘の戦力の違いにおいて、霞に対して他の通常の艦娘が勝てるかどうかを引き合いに出してきたが、今目の前にいる鈴谷仮面は霞以上に他の通常艦娘が勝てる状況が見えないとそんな事を考えていた。

 

「数時間ぶりですね。鈴谷仮面。電ちゃんが言うには、新たにわたしの鎮守府に所属する司令官を連れて来たとお聞きしたのですが?」

 

 その声を聴き、バスからは艦娘が一人飛び出して来た。どうやら叢雲型の艦娘のようである。初期艦と言う奴だろうか? 司令官はどこですかと言葉に乗せようとした時に、ふと頭によぎっていたある考えが、わたしの言動を止めた。

 

「こんにちは、わたしは呉第15鎮守府所属となりました。朝潮です。あなたが、その新たな司令官という事でよろしいですか?」

 

 その言葉に、電や鈴谷は呆気に取られており、叢雲は表情を少し崩した。しかし、彼女はすぐに元の通りの冷静な表情に戻り、

 

「あら? どうしてそう思うの?」

 

「いえ、これまでの戦いの中で、ずっと考えていました。グラーフの仲間たちと何度か戦い、そして彼女達はボックスと呼ばれる艦娘を解放させる装置を使う事が判明しました。もし、わたしがこの先どのくらいの強さを得たとしても、解放艦娘とそうでない艦娘の力の差は激しいものがあります。故に、こちらも解放艦娘として対抗しなければなりません」

 

 わたしの話をふむふむと頷きながら叢雲は聞いている。わたし自身、もしかしたら突拍子もない事を言っているのではないかと話しながら言っていたが、そう言ったことは考えないようにしていた。

 

「となると、問題は距離です。艦娘を解放する条件は、提督がその艦娘を目視している且つ、確か5キロメートル以内にいる事が条件であると、お聞きしました。しかし、それでは守る分にはそれで十分かも知れませんが、敵に攻め入るには不十分です。となると、攻めるために利用したいのが、提督の力を持った艦娘の存在です」

 

「提督の力を持った艦娘ね」

 

「はい。以前、艦娘が任務中につながっている提督が心肺停止し、その艦娘の中に提督の魂が残ってしまうと言う『呑まれる』と言う状態に陥った艦娘に遭遇した事があります。あなたも、そう言ったものではないかと推測しました」

 

 そう、この叢雲は、司令官を助けられなかった場合存在していた荒潮の未来の姿。と言う予測である。わたし自身、もし予想が違っていた場合、ほとんど情報を伏せずに話しているので、もしかしたら罰を受けるかもしれないなと、発言してから気づいたが、言ってしまったものは仕方がない。叢雲はわたしの話を聞いた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「霞や綾瀬から呉に行くように言われたときには、どうなる事かと思ったけれど、なるほどアンタもそれなりの経験を積んできたようね。アンタの言う通り、呉第15鎮守府に配属になった叢雲よ。よろしく」

 

 彼女はそう言いながら、敬礼してきたので、わたしもそれに合わせて敬礼した。

 

「そうと分かれば、今から解放のためにトレーニングよ。霞や綾瀬がアンタをここに送り込んだ理由、それは元帥の試練を受けさせて、それ相応の地位を手に入れる事。それによってわたしの裁量である程度軍を動かせるようになるわ。そして、第4戦目の蒼龍までの敵の異常とその対策を考えて来たわ。

 

 まあ、蒼龍に関しては対策を講じても勝率五分五分と言った感じだけれど、その前の戦いに勝利するだけでも少なくとも中将クラスの権限を手に入れる事が出来る。少なくとも、そこに行くまでの相手には勝ってもらうわよ」

 

「それなんですが……」

 

 上機嫌に話す叢雲にわたしは事の経緯を話した。

 

 

「……」

 

 叢雲は絶句している。叢雲だけではない。電もそう言った類の表情を浮かべており、鈴谷は苦笑いを浮かべながら、あちゃーやっぱりこうなるかと呟いている。そんな中、電が口を開いた。

 

「朝潮ちゃん。そんな事をしてはいけないのです。幸いにも元帥の試練が始まるのは3日後、陽炎ちゃんにも事情を話して、撤回してもらいましょう」

 

 電ちゃんの意見は尤もである、しかし、それを受け入れ得ることは出来ないと、きっぱり断ろうと思った時に、叢雲が口を開いた。

 

「朝潮、つまらない感傷ね。不知火も陽炎に助けを求めて来たわけじゃないんでしょう? 救いを求めていない相手に救いの手を差し伸べるなんて、ましてや自分の立場を危うくしてそうするなんて、つまらない感傷と言うしかないわね」

 

 わたしはそれに答えられない。相手は正論で攻めてきており、こちらはどこまで行っても感情論でしかないのだ。しかし、それしかできないのならば、とことん感情論で対決しよう。

 

「つまらない感傷? 自己満足、分かっています。しかし、ここで行動しなければあの姉妹は救われない。わたしもかつて、自分を見失い居場所を失っているときがありました。生きている意味を見出せない時も、自己犠牲を強いられ、それだけがわたしのいままで生きていた意味だと、無理やりに納得して意固地になって……。

 

 でも、そんな時に周りには誰かがいた。わたしを助けようとしてくれる人、背中を押してくれる人、わたしの行いを正そうとしてくれる人。そう言った人がいたから、わたしは今ここに立っているのです。陽炎は、不知火に対してわたしを救ってくれた人と同じ事をやろうとしています。

 

 かつて救われたものの一人として、陽炎がそれをしようとしているのなら、わたしはそれを手伝いたい。かつてドイツの文豪ゲーテは言いました。人と言う字は人と人が支えあってできているのだと」

 

「そう……。なるほど分かったわ。朝潮の考えは良く分かった。しかし、絶対その言葉、ゲーテの言葉じゃないでしょう」

 

「もちろん」

 

 私は胸を張ってそう答え、その場にいる皆がげんなりとした表情を浮かべていた。

 

 

 叢雲はしょうがないわねと言った表情を浮かべていたが、その表情の奥にある喜びを隠し切れずにいられない様だった。なぜなら、叢雲には陽炎と不知火に少なからずの因縁があったからである。

 

 叢雲が呑んだのは陽炎達が深海棲艦type-γと遭遇し、不知火が異常を発現したその日である。叢雲はその泊地の第1鎮守府に所属しており、type-γとの戦闘でそれを撃退したが、その過程で彼女の父である提督の命が失われ、彼女はそれを呑み込んでしまった。

 

 その後、記憶を失った彼女はその事実を知られることなく艤装を解体され、約5年もの間、一般の少女として監視されながらではあったが暮らしていた。

 

 しかし、情報が洩れ、グラーフの仲間たちによって洗脳され、彼女達側の司令官兼ボックスの代わりとして、彼女の父親が倒れた時に、彼女を解放し指揮を執った元少年、現単冠湾第13鎮守府の提督と対峙し、無事洗脳を解かれ、そのまま単冠湾第13鎮守府の副提督として執務を補佐していた経緯がある。

 

 朝潮の言葉で、納得して綾瀬大将や霞の計画を台無しにしかねない采配をしたのは問題だろう。しかし、救われた側の彼女にとって、元トラック泊地の生き残りが、彼女と同じように救われた側に回って欲しい。おそらく、そんな事を思っているのだろう。そんな鈴谷の表情を察したのか、叢雲は

 

「なによ。にやにやして気持ち悪い」

 

「べっつにー、相変わらず叢雲ちゃんはかわいいね」

 

 その二人の会話を聞いて、朝潮は首をかしげていた。

 

 

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