やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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さらば、横須賀

 満潮が部屋に入ると、不知火が朝潮に対して挑戦状を叩きつけていた。

 

 

「私はそもそも今回あなたに勝てば挑戦者の試し石としての役割から解放される予定でした。ゆえに、もし私が朝潮、あなたに勝利すれば今回の借りはそもそもなかったことになると思いませんか? あなたには陽炎と交代することで私は陽炎の思いを知ることはできましたが、そもそもあなたに勝利すればその工程は必要なかった」

 

 

 何やらよくわからないが、朝潮に死んでも借りを作りたくない不知火とそのことに対してどうでもよさそうにうんうん頷いている朝潮とそれを面白がっている金剛と陽炎がそこにはいた。

 

 

「要はわたしと戦うために準備してきたのに、その努力とかもろもろが無駄になるから、わたしに演習を申し込みたい、そういう事ですね。いいでしょう。しかし、わたしは今新たな朝潮示現流を模索しているため、今回は朝潮示現流の技を使うつもりはありません。それだけは理解してくれますか?」

 

 

 満潮はげんなりしていた。ここ3日間朝潮に一撃も与えられずぼこぼこにされる日々を送っており、若干朝潮示現流という言葉を聞いただけでも悪寒が走るようになってしまった。本題は、朝潮を倒すことではなく、解放艦娘状態で提督が攻撃を受けても気を失わない、解放状態を解除しないことが目的であるから、当然と言えば当然なのだが、

 

 

 しかし、この朝潮に手も足も出ずにぼこぼこにされるという状態が、どの程度のことであるのか確かめるためにも、異常を発現して数年たっている不知火の戦いぶりを見たい気もあった。

 

 

「なるほど、経緯はどうであれ、私以外の異常艦娘同士の演習を見るのは初めてだから、勉強させてもらうわね」

 

 

 と言って、彼女らの戦いを止めることをしなかった。

 

 

 演習の準備が整うまでに、事前知識として不知火の異常が、砲撃を相手から見えなくするというものであり、それを聞いて満潮は愕然とした。なんだか朝潮の異常、相手に恵まれないように思うのは気のせいだろうか、これも朝潮示現流の呪いか……いやいや、朝潮の言動によって来たかな。満潮はそんなことを思考しているうちに二人は所定の位置についた。

 

 

「朝潮、全力で行きますよ」

 

 

「では、始めますね」

 

 

 戦いの火ぶたが切って落とされた。戦いは一方的なものになった。

 

 

「そんな……」

 

 

 不知火は朝潮の戦闘能力を過小評価していた。こちら側が砲塔を向ける動きさえも相手にとらえることが出来なければ、多少の動きをしたところで、一方的な戦いにはならないと、そう考えていた。まさか、砲の狙いをつけることが出来ないとはそうして近づくと朝潮が分身した後、消失し、気づいたときには朝潮のこぶしが不知火の顔面に突き刺さっていた。

 

 

「ふえええ」

 

 

 満潮は半べそ書いている不知火の頭を灘ながら、ああ、異常をもって数年修業した艦娘でも満潮と同じように手も足も出ずにぼこぼこにされるんだ。異常によって最初のほうはまともに抵抗できる分私のほうがまだ戦えているんだと、少し安心した。

 

 

「よしよし、不知火。あんたは頑張ったわ。ただ相手が悪かったみたいね。少し休みましょうか」

 

 

 そういいながら陽炎は不知火を連れてドックに向っていった。

 

 

「さて、不知火の自己満足も済んだことだし、満潮の特訓も一通り終わり。これでアナタ達の特訓は終了デース。なんでか知りませんが、朝潮が戦うはずが陽炎が戦ったり、なぜか知らないですが不知火が陽炎のところに所属になったり、いろいろありましたが、まあ予想通りネ」

 

 

 金剛は無理やりこの事態の収拾をしようとしているが、さすがにそれは無理があるだろうと満潮は感じたが、気にしないことにした。解放艦娘と異常の使い方は手に入れ、提督の卵もある程度の攻撃なら解放状態を解除されず攻撃を実行することが出来るようになった。ここから先上達するためにはそれこそ数週間数か月の訓練が必要であり、そこまでここにお世話になることはできないだろう。朝潮たちは横須賀第一鎮守府の面々にお礼を言って、バスに乗り込んだ。

 

 

 

「そういえば、聞いていませんでしたね。陽炎? どうして私が異常を使っているのに、私の砲撃をよけることが出来たんですか? それに距離が近くなるとどんどんと回避性能が上がっていったように感じます。私は何かミスでもしたのでしょうか? それだけ聞きたい」

 

 

 不知火がそんな風に陽炎に尋ねると、彼女は目を丸くした後、不知火から顔をそらしながら、

 

 

「あれ? 昔からあんたは敵に砲撃を加えるときに、目の色と言うか表情が少しだけ変わるでしょう? 敵を傷つけること、命を奪うかも知らないことに一瞬だけ覚悟がいるようで、その表情で判断していたわ。あんたは、自分が変わってしまったと言っていたけれど、本質は何も変わっていない、私についてきて私に追いつこうとする自慢の妹のままだわ」

 

 

 不知火はその言葉に面食らい、少しだけ言葉に詰まったが、

 

 

「そんなことは……いえ、そうかもしれませんね。陽炎、あなたの妹でよかったと思いますよ。ありがとう」

 

 

 不知火が感傷に浸っていると、衝撃がバスを襲った。

 

 

「あ? 言うの忘れていた。帰りはバスを鈴谷が投げ飛ばして帰ることになるから、喋ると舌をかむわよ」

 

 

 それは、最初に行ってくださいよぉぉぉぉ!!! 不知火はバスにかかる重力を体に受けながら、そんなことを考えていた。

 




第3章終わりです。続いて第4章、物語もようやく半分といったところです
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