「と言う訳、そのままビスマルク達は佐倉中将のもとで、第一次アトランティスイベントで発生した深海棲艦を全滅させ、その時にプリンツとその提督候補者は、彼の指導の下、提督としての訓練を受けることになったわ」
そう、師匠は語りだした。なるほど、ビスマルクさんは霞と同じように艦娘としての力を覚醒させた瞬間から、異常艦娘としての力をふるえる特別な艦娘だった。大将のパートナとなる艦娘は違うなとわたしは思ったが、
「しかし、師匠。どうして師匠がそのことを知っているのでしょうか? もしや、師匠も佐倉大将に協力して第一次アトランティスイベントで街を守ったという事ですか?」
その言葉を聞いて、師匠は一瞬間を置いたが最終的に頷いた。さすが師匠、わたしの知らない内にヨーロッパを救っていたとは、わたしは目を輝かせていた。
「なるほど、それでアンタは、そのプリンツと言う子の面倒を見ることになったと言う訳ね。それで、一体何があったの?」
「順を追って話すわ。なんというかその、いろいろとあったから結論だけ先に話すと、私の考えを誤解される可能性があるからね」
そう言って師匠はまた話を始めた。
プリンツのパートナーの提督の卵が訓練を初めて2年間の歳月が経過していた。最初は佐倉大将、第一次アトランティスイベントの功績により対象に昇進した佐倉提督のもとで、彼の副官として訓練に励みながら、簡単な輸送作戦指揮や、出撃をこなしていたが、大体2時間艦隊運用をすると、全身に疲労がたまり動けなくなるという現象に苛まれていた。
これは、提督としての能力が18歳まで成長を続けていることの現れであり、18歳になる前は彼のように不完全な艦隊運用しかできない。その事を事前に彼やプリンツに伝えていたが、そのたびに佐倉大将がしりぬぐいをしている姿を見て、彼は追い詰められていたのだろう。そのため、彼はプリンツに18歳になるまではほかの提督のところに配属転換するように勧めたが、それはプリンツ自身が断った。
「それはダメ。私はビスマルク姉さまのように強く、かっこいい艦娘になるの。そのためには、このビスマルク姉さまの提督の副官となっている君の元で任務をこなしているのが一番いいことなの。君も佐倉大将に並び立つような提督になれるよう一生懸命頑張るのよ」
などと口では言っているが、彼女にとって提督は彼以外は考えられないと思っており、もし彼が提督になれないというのならば、彼女も艦娘になる気はないとも考えていた。その事が彼を追い詰めていたことに今の彼女は気づいていなかった。
その事に対してプリンツがビスマルクに相談すると、彼女はプリンツに拳を突き出し。
「こんな言葉があるわ、健全な魂は健全な肉体に宿る。もし、少年が提督として力が足りないとしても、パートナーであるあなたが、その力を補えばいい。それが艦娘と提督の関係というものよ。もしそのための自身が必要ならば、教えてあげるわ。私のゲルマン式格闘術をあなた様にアレンジしたあなただけの拳法、ダンケ式格闘術を!!」
プリンツは笑ってしまった。自分が悩んでいる暇があったら、自身の力を高めることに使うべきなのだ。18歳になった後に力が足りなくて提督になれないならまだしも、まだ彼は17歳、まだ焦る時期ではないだろう。
こうして、プリンツはビスマルクの指導の下、ダンケ式格闘術の修行に明け暮れた。
「司令官さん。ビスマルクさんが弟子を見つけて修行と称してプリンツさんを鍛えているのです。深海棲艦の戦いでは、深海領域の関係上、ビスマルクさんのように飛べないと格闘線なんか鍛えても全くの無意味なのに、一体何を考えているのです?」
などと、佐倉大将の初期艦である電が、彼女らに冷ややかな視線を送っていたが、訓練を多くやるにしても提督の卵の能力的に2時間ほどしか訓練できないとなれば、こうして心身を鍛える方向性で訓練を行えば、提督の卵に余計なプレッシャーを与えることもないと、佐倉大将は黙認していた。
そうして半年後には、提督の卵の艦隊指揮時間は倍程度伸びており、佐倉大将も少しの間なら留守を任せられるという判断から、他の鎮守府や訓練施設に赴くことが多くなっていった。それは、佐倉大将留守中の出来事である。
「大変なのです!! 艦娘失踪事件で行方不明になった艦娘が郊外で発見されたのです」
電ちゃんが夕方ごろにそう言いながら、執務室に入ってきた。提督の卵は一通り書類に目を通し、夕食をとろうかとプリンツと話をしていた際にそう言った報告を受けた。急いで佐倉大将にそのことについて連絡を取ろうとしたが、ちょうど大将は列車に乗っている時間であり、連絡がつかない。
事件にせよ事故にせよ、急いで彼女を確保しなければならず、佐倉大将の判断を仰いでいる場合ではない。彼はプリンツにアイコンタクトをとった。
「行ってくれるか?」
「はいアドミラルさんの頼みなら、どこへでも」
彼女はそう言って電とともに現場に急いだ。あまり大所帯で行くと艦娘に警戒されてしまい、身柄を確保できないと判断した彼女らは私服で現場に急行し、必要があれば艤装を展開する作戦をとることにした。
「ここが行方不明の艦娘が見つかった場所ね」
プリンツと電は息を殺し、あたりに変わったところはないか調査していく、一体彼女はどうしてこんな所にいたのだろうか。そうしながら壁を叩いていると、一か所だけ音が軽い箇所が存在した。そこを押すと路地裏の一か所が避けたように開き、人ひとりが通れるようなスペースが出来たのだった。
「提督、聞こえている? 路地裏に隠し通路を発見したわ。このまま奥まで乗り込もうと思うの。いいわね」
「了解。だが気を付けて進んでくれ」
こうしてプリンツと電は通路の奥に入っていった。そこは、地下特集の湿り気を含んだ空気があたりに充満していたが、半分遺跡の隠し通路にしては小ぎれいだったので、ここでは頻繁に人間が出入りしていることが予測できた。
「電ちゃん、やっぱりこのまま引き返して応援を呼んできてくれない?」
「プリンツちゃん、一人では危険なのです」
「大丈夫、私にはビスマルク姉さま直伝のダンケ式格闘術がある。ちょっと見ててね」
プリンツはそう言って、気配を消しながら、電の刺客にもぐりこんだ。電の視点だとプリンツがいきなり煙のように消えたように見えたようで、彼女は『はわわわ』という声を出しながら周りをきょろきょろと見渡している。が、数分後には明後日の方向を向きながら、口を開いた。
「分かりました。プリンツちゃん一人のほうが安全そうなのです。でも、絶対無理しちゃだめですよ」
そう言うと電はもと来た道を戻っていったのだった。
「アドミラル。周りの警戒お願いね」
彼女がそう言うと、彼が頷く感覚が彼女の脳内に感じられると同時に、彼女の背後や彼女を俯瞰的に捉えたような視覚がプリンツの脳内にリアルタイムで送り込まれてきた。どうやらトラップの類はないようである。
彼女は通路を警戒しながらも迅速に下って行くと、簡易的なブービートラップ等が見つかった。なるほど、入り口にそう言ったものを設置してしまうと、侵入者が入り込んだ時に、秘密の通路の存在がばれてしまう。捕まえるのならば、基地の奥深くまで入り込んだところで、と言う事だろうか。
「これは、ただの行方不明事件じゃないようね」
そうして、天井を這うように進むと、見張りをしている艦娘を見つけた。こんなところで主砲を使うと生き埋めの危険性があるので、おそらく対人用のアサルトライフルである。こちらも主砲は使えないので、艦娘用に効果のあるテーザーガンのようなものを持ってくればよかったと彼女は少し後悔した。
「アドミラル。奥で艦娘を発見したけれど、あたりを見たっているように移動しているし、多分侵入者用にアサルトライフルを携行している。明らかに行方不明者じゃないよ。どうする?」
プリンツのその報告を聞いて、彼はその艦娘に主砲を向けるよう指示した。その意図がプリンツにはわからなかった。こんな所で主砲を撃てば、おそらくプリンツごと生き埋めになってしまうだろう。それに、もともと主砲を使うつもりもなかったので、艦娘用の敵味方ロックの解除も行っていない。
しかし、彼の意図は不明だが、ロック解除していないならば、弾は出ないから大したことにはならないだろうと、彼女はその艦娘に主砲を向けた。そのあと、彼はなるほどと言った後、プリンツに対して自身の考えを述べた。
「彼女に主砲を向けても君の主砲がロックされないことは確認できた」
「え? そんなはずない。彼女はどう見ても艦娘よ。それとも何? 彼女、新型の深海棲艦かなにかで、ここはその住処ってこと?」
「いや、そうじゃない。彼女は確かに艦娘だ。しかし、艦娘の中にも人類を裏切って人間に危害を加えたり、鎮守府運用に重大な破壊行為を加えたり、その他さまざまなテロ行為をする事で、艦娘ではあるが、艦娘としてのカテゴリーから外されることがたまにある。彼女はそういった艦娘たち世間を騒がせている『グラーフの信奉者』なんじゃないのか?」
グラーフの信奉者、それは1年ほど前から日本やヨーロッパを中心に活動しているテロ集団であり、艦娘や提督の拉致、主に艦娘研究を目的とした鎮守府や海軍で高い地位を得ていた人物がそのまま提督になっているような鎮守府を主に狙う集団である。
構成人数や目的は不明であり、もしかしたら複数の別団体を総称して使っている可能性も存在するが、最初に彼女らの活動が表に出てきたのは、日本のとある鎮守府で、通称『アドミラルレクター』と呼ばれる人物に対する襲撃である。
彼は非合法に艦娘や提督に対する人体実験を繰り返し、艦娘の生存率の向上や艦隊運用上のありとあらゆる分野に絶大な功績をもたらしたが、その中には、提督や艦娘を解剖でもしなければ得られないような情報が多段に含まれていたため、そこに一時収監されていた。
もし、この襲撃がなければ艦娘に対する貢献から今頃は3人いる元帥の中の幻の4人目、少なくとも7人いる大将の8人目となっていたとされる人物であり、彼女らが彼を襲撃し行方不明としたことは大変な損失であった。と言う事が少年の口から語られた。
「アドミラル? その話長くなりそう?」
「いや、脱線したな失礼。そういう感じで、主犯格であるグラーフとその仲間達に遭遇した時に、すぐに対処できるように彼女たちに対しては主砲のロックがかからないようになっているんだ」
彼の説明を聞いて、彼女らがなぜ地下のこんな場所に拠点を設けているのか分かった気がした。もし、地上の建物を拠点に選んでしまうと、もし拠点がばれた時に建物を犠牲にすれば多数で建物を取り囲んで一斉に砲撃可能であり、逃げたとしてもその対象に主砲を向けてロックがかからなければ判別は容易である。
地下であれば、敵と一緒に生き埋めになってまで主砲を使う可能性は低く、逆に敵側はそうなった時のためにある程度の準備が可能となるだろう。
「しかし、敵さんも不運よね。今回忍び込んだのが私じゃなければうまくいっていただろうに」
プリンツはそういいながら、艦娘の死角から背後に回り込み、彼女の首元を素早く、しかし正確に圧迫し締めた。うめき声をあげる間もなく、彼女は糸の切れた人形のようにだらりと横たわった。プリンツは素早く彼女を壁のくぼみに押し当て、その場を後にする。
「彼女、提督と繋がっていなくてよかったな。繋がっていたらどうするつもりだったんだ?」
「いやだって、こっちが繋がっているのに、こっちの通信にジャミングのようなものが感知できなかったのと、結構ここは地下から浅い場所だから、そう言った感じの事はしていないかなと、と言う事でアドミラル。ここから奥はそういった提督同士の干渉によって敵に察知されないように、同調は最小限で行くわね」
「大丈夫かい? 電ちゃんが応援を呼ぶまで待つ選択肢も」
「ううん、このまま先に進むわ。私だからここまでトラップに引っかからずに来たけれど、電ちゃんたちが大人数で来た時に罠に引っかかると、奥にいる人たちに気付かれて逃げられる恐れがある。それは避けなきゃならないわ」
それを聞くと、少年はプリンツにあまり無理はするなよだけ言うと、彼女の意識から薄れていった。その事は若干彼女の心に不安を残したが、自分から言い出したことなので訂正もできず、奥へ奥へと歩を進めることにした。
地面のほうはどうかは確認していないが、少なくとも彼女がへばりついている天井にはトラップのようなものはここから先は設置されていないようで、500メートルほど奥にある遺跡の最深部に到達することが出来た。
そこは、地下の水脈と直通しており、おそらく艦娘であればここから容易に大海に逃れることが出来るのだろう。彼女の予測通り、ここに大勢で踏み込んだとしても、トラップを踏んでしまえば、たちまちここを拠点と選んでいる何者かの逃走を許してしまう。となると、敵が表向きにはどこの鎮守府に所属しているか、などの証拠集めをして後日その拠点に踏み込むなどのからめ手を考える必要がある。
などと思いながら水路を沿うように移動していると、簡素につくられた小屋を発見した。小屋は20人ほどの人間が寝泊まりできるほどの大きなつくりとなっており、中では人間の話声が聞こえてくる。艦娘を見張りにできる程度にはバックに大きな組織がおり、中には十数人の艦娘が待機している可能性もあり、その場合ではさすがに対処できないと思いながら恐る恐る中をのぞくと、10人ほどの少年たちと、それを世話する3人の艦娘が中にはいた。
艦娘の内訳は戦艦長門型の艦娘と、吹雪型の艦娘深雪と初雪型の艦娘である。長門は少年たちおそらく10代かもしくはそれ以下の年齢の彼らにシチューをふるまっており、シチューをこぼしたり、コップを倒したりしている少年たちに対しては深雪がかいがいしくお世話していた。
そんな彼女らを初雪は遠目で見ながら部屋の隅で体育座りしているようであり、もしこの場所が地下になければ、保育園か何かの一室の風景としてみることが出来ただろう。しかし、ここはそうではない。ゆえにその光景は彼女にとってはとても異質で不気味に見えた。
「もしかして、艦娘誘拐事件ではなくて、幼児誘拐事件の中にたまたま艦娘が誘拐されていただけだから表に上がってきたってことかしら。確か、行方不明になった艦娘は初雪型のあの子、となるとほかの二人が誘拐事件の犯人と言う事かしら」
そんな事を考えながら、プリンツは少しでも情報を手に入れるために危険ではあるが、小屋のすぐそばで中の様子を確認することにした。
「はいはい、みんな食べ終わったな。喜べみんな、日本にいる我々の見方が大将閣下に連絡をつけてもらい、君たちを保護してもらえることになった。明日の朝一でこの穴倉を出て舩で日本まで向かうぞ、みんな明日に向けてよく眠っておくように」
と言う長門の声が開口一番に聞こえてきたので、ここで証拠を集めて後日と言う訳にもいかなそうである。かと言って、こんなところでやりあえば、少年たちを人質に取られる心配もある。やはり皆が寝静まったところを襲うことにしよう。そんな事を考えながら、プリンツは彼女らの話にもう少し聞き耳を立てることにしたのだった