やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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地下での死闘

「はいはい、みんな食べ終わったな。喜べみんな、日本にいる我々の見方が大将閣下に連絡をつけてもらい、君たちを保護してもらえることになった。明日の朝一でこの穴倉を出て舩で日本まで向かうぞ、みんな明日に向けてよく眠っておくように」

 

 

 と言う長門の声が開口一番に聞こえてきたので、ここで証拠を集めて後日と言う訳にもいかなそうである。かと言って、こんなところでやりあえば、少年たちを人質に取られる心配もある。やはり皆が寝静まったところを襲うことにしよう。そんな事を考えながら、プリンツは彼女らの話にもう少し聞き耳を立てることにしたのだった。

 

 

 

 こうして、彼女らは食事を終えると少年たちを寝かしつけにかかったようだ、長門たちが話をしている事を信じるのならば、彼らはヨーロッパ全土から集められた提督の才能がある少年たちである。どうして、そんな彼らが行方不明になっているにもかかわらず、プリンツの耳には入ってこなかったのかは謎であるが、それが事実であるのならば、日本の大将が保護を申し出ても不思議ではないと合点がいった。

 

 

 つまるところ、これは国家間の提督の卵を人身売買しているのである。そのことに対してプリンツは怒りを覚えていた。彼女の提督はもう18になるが、先日までは彼らと同じ未成年だったのだ、もしビスマルクに救われ、佐倉大将の副官をやっていなければ、彼らと同じように攫われて人身売買され異国の地で暮らすといった可能性もあったのだ。

 

 

 言うなれば、そこにはあり得たかもしれない彼の未来がそこにあったのである。そうなると、プリンツの胸に彼らを救いたいという意思がみなぎってきた。が、その他には有力な情報は何もなく、このまま彼女らが寝静まるのを待つつもりだった。

 

 

 そして、初雪は少年たちを別室に連れて行き、残されたのは長門と深雪、そして少年が一人。少年は目をこすっており、彼が眠りについたら長門たちに奇襲を仕掛けようかとそんな事を考えていた。その時である。プリンツの脳内に提督の声が響いた。

 

 

『右に跳べ!!!』

 

 

 その瞬間プリンツが跳ねると、初雪がこちらにナイフを投げて来ていたようで、もしかわしていなければ、それは彼女の胸に突き刺さっていただろう。その瞬間、初雪の姿にブラインドがかかり、姿がおぼろげにしか見えなくなる。

 

 

「初雪は攫われた被害者だと思っていたけれど、どうやらそうではないみたいね。もしくは敵の艦隊に入れられて言う事を聞かされているか……どちらにせよ、1体3か。少しピンチね」

 

 

 プリンツがそんな事を考えていると、急にブラインドが剥げ、長門と深雪が建物から出てきた。

 

 

「よせ、初雪。君は私たちの協力者だが、自ら手を汚すことはない。こう言った事は私たちに任せてもらおう」

 

 

 なぜ提督の力が干渉しあっているのにブラインドが解けたのかは分からないが、敵の姿が見えているのは好都合である、こんな地下では主砲は使えない、敵は数の有利と戦艦の装甲を武器に徒手空拳でカタをつけるつもりのようである。

 

 

「あなた達、グラーフの信奉者ってやつね。罪もない子供を攫って、日本に売りつけるなんて、卑劣だとは思わないの?」

 

 

 プリンツは腰を落とし、敵の反撃に備える。おそらく、勝負は一瞬で着くが、一人倒した後に残りの敵が子供を人質に取った時、その子供をどうするかの心構えをするためにそんな質問を投げかけた。が、それを聞いたときの反応は彼女にとって想定外だった。

 

 

「あんた、見たことあるぞ。佐倉大将のところのプリンツだろ!! 誰のせいでこんなことになっていると思っているんだ!! お前らのせいだろ!!」

 

 

 そう言いながら、深雪が突っ込んできた。プリンツには彼女の言っていることが理解できなかったが、反射的に彼女の突いてきた拳の関節を極めた後、激痛でのけぞった頭を反動で地面に叩きつけて意識を奪ってしまったのだった。

 

 

 その、鮮やか且つ機械的な動作は敵には無慈悲に見えたのだろう。初雪はその光景に言葉を失っているようだった。長門は一瞬それに目を丸くしたが、すぐさま冷静さを取り戻し、

 

 

「ビスマルクの格闘術を前にちらりと見たことはあるが、なるほど、こんなところに送り込んでくるならビスマルクの弟子を送り込んでも不思議じゃないな」

 

 

「あまり手荒な真似はしたくないから。降参してくれるとありがたいんだけどな」

 

 

 プリンツはそう言いながら、深雪の頭から手を放し、長門に対してファイティングポーズをとる。この位置関係ならばもう人質を取ることは出来ない。もし初雪が人質を取ろうと小屋の中に入ろうとすれば、捕まえて無力化するには十分な距離がある。

 

 

 その時である。長門の雰囲気が変わった。

 

 

「提督。私を解放してほしい」

 

 

 長門は虚空に向けて何かを言っている。解放? 一体何のことを言っているのか分からない。策がなくなり降参するつもりなのだろうか。

 

 

「どう? 降参する気になったの?」

 

 

「すまないが、君はここで倒れてもらい、佐倉大将に対する人質になってもらう」

 

 

 長門がそう言うと、長門の周りをまとっていたエネルギーが爆ぜた。何が起こっているのか分からない。このままではまずいと彼女が距離をとるために後方に下がるが、それが運命の分かれ道だった。長門はプリンツのところまで突っ込んで蹴りを放ったらしい。

 

 

 らしいといったのは、500メートルほど吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられたからである。蹴りの瞬間が見えなかった。ビスマルクの本気の蹴りに匹敵するその速度に、驚愕したが、ビスマルクの蹴りに匹敵すると分かれば対策は可能。全神経を集中し、初動を見極める。

 

 

「すまないが、これも運命だとあきらめてくれ」

 

 

 長門はこちらにゆっくりと近づいてくるが、プリンツはそれに対して逃げることは出来ない。もし、下手に動いてしまえば、追撃を食らって今度こそ意識を奪われてしまうだろう。敵はプリンツが長門の速度についてこられないと思っている。そのすきを突き、一撃をお見舞いするしかないだろう。

 

 

「ごほっ、一発当てただけで勝った気にならないでよね」

 

 

 どこで飛び込んでくる? プリンツは全神経を集中し、長門の飛び込むタイミングを計った。が、いつまでたっても飛び込んでこない。こうしている間に彼女との距離は2メートルほどになった。この距離だと……かわせない。

 

 

「聞きたいことは山ほどあるが、君を倒してからゆっくり聞くとしよう。その前にだ、どうしてここがわかった? 私たちは情報が漏れないように細心の注意を払っていたはずだが?」

 

 

「知らない。私はそこの行方不明の初雪ちゃんがここらへんで見つかったと聞いて調査したら、隠し通路を見つけただけ。正直、ここを見つけたのは偶然」

 

 

 プリンツは数秒後に自分の意識が長門に刈り取られることは目に見えていた。しかし、敵への情報を少しでも残すために、提督への通信が途切れていない今痕跡を残すために彼女の質問に答えることにした。

 

 

 それを聞いて、長門の表情が曇った。

 

 

「もしや、佐倉大将の命令で送り込まれたのではなかったのか?」

 

 

「大将は結構忙しくてね。ヨーロッパ中を飛び回っていつ帰ってくるかもわからない。それで、簡単な仕事をこなして大将の負担を軽くしようと、行方不明の艦娘を探していたらこんなことになったのよ。今日は厄日ってやつかな?」

 

 

「そいつはお互いさまと言うものだな。もし、ここを見つけたのがビスマルクだったとしたら、私たちは全滅していただろうし、君がその関係者と知った以上、無傷で返すことは出来ない。彼女の怒りを買うのは避けたかったが……」

 

 

 彼女が言葉を言いきることは出来なかった。その場をけたたましいサイレンの音が支配したためである。長門はうろたえているが、プリンツはこうなることを予期していた。提督は長門の隙を作るために応援を連れてきた電にトラップを踏ませたのである。

 

 

 トラップを踏ませた際にどのような仕掛けが起こるかは運次第ではあったが、彼女の口ぶりから誰かが侵入したことを知らせるような例えば警報が鳴る類の仕掛けだと予測し、その予測は的中したのだった。

 

 

 ゆえに、プリンツは長門に一瞬だけ早く拳を振るった。しかし、長門はそれに瞬時に反応し、彼女に向けて拳を振るってきた。速度はプリンツよりも早い、このままだと相打ちになる。彼女は覚悟を決めた。

 

 

 しかし、それは杞憂に終わったのだった。長門のこぶしがプリンツの頬に触れた瞬間、彼女は一瞬だけ拳を止めたのである。なぜそんな事をしたのか分からない。が、彼女は長門の頬に拳をめり込ませ思い切り振りぬいた。

 

 

「はぁ……はぁ」

 

 

 前回のお返しとばかりに5メートルほど吹っ飛ばしたが、先ほどのダメージの影響もあったのだろうか、彼女は呼吸を乱し、肩で息をしている。長門の気まぐれで先ほどは攻撃を当てることが出来たが、もう二度と先ほどの手は使えない。

 

 

 しかし、逃げることは出来ない。プリンツを助けるために罠を踏んで敵に増援が来たことを知らせてしまった。もし、ここで逃げれば増援部隊が待ち伏せを食らうか、敵に逃げられるか少なくともろくなことにはならない。そうこうしているうちに、長門は立ち上がった。

 

 

 首を回しているが、ダメージはなさそうである。今度はどうすれば長門と戦えるか思考したが、彼女はプリンツの予想外の行動に出だのだった。

 

 

「何のつもり?」

 

 

「見ての通り降参だ。さきほどの一撃で私の解放が破られてしまった。もう君に対抗する方法はない」

 

 

 彼女は手を上げて降参したようで、プリンツは彼女の行動に不信感を覚えながらもその手を手錠で拘束したのだった。

 

 

「長門……どうしてさっき拳を止めたの? そうしなければ、今手錠につながれていたのは私だったかもしれない」

 

 

「ん? いいや、そんな事はしていないぞ? もし、そう見えたのだとしたら、そうだな。優れた格闘家は集中力が高まると敵のパンチが止まって見えるそうだが、君にも似たような事が起こったのではないかな」

 

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