やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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わたしの異常

わたしは突如として現れた来訪者の存在に困惑していた。いつからそこにいたのか? わたしの異常(オリジナル)とは何のことを言っているのか? そして、なぜ彼女はわたしのパスタをさも当然のようにすすっているのか? 主に最後の理由から、わたしは頭突きをくらわした。

 

「天誅!! 朝潮示現流 朝頭突き!!」

 

しかし、それは彼女が手に持っていたフォークの柄をわたしのおでこに当てることによって容易に止められてしまったのだ。

 

「示現流? 薩摩には示現流と言う剣術が存在するらしいけれど、頭突きが存在するとは知らなかった。記録しておこう」

 

 そして、彼女がわたしの頭突きを止めたタイミングで、陽炎がわたしの前に掌を向け、さらなる追撃をしようとしたわたしを制止した。その顔には脂汗が滲んでおり、ただならぬ雰囲気を感じた。

 

「やめて、朝潮ちゃん。彼女は大将の一人、綾瀬大将よ」

 

 そう言えば、2週間ほど前にその名前を聞いた気がする。確か熊本大将が急遽視察に来た彼女との会話をできるだけ短くする事それが演習で熊本提督の前で戦った原因だった思い返すとそんな事だった気がする。

 

「綾瀬大将。彼女は私の妹と同じ、異常(オリジナル)艦娘の一人だとでもいうのですか?」

 

 どうやら、陽炎はその異常艦娘と言う言葉に心当たりと言うか、彼女の妹がそうだと聞かされていたのだろうか、綾瀬大将にそう聞いた。それを聞いて、彼女は肩位の長さの後ろ髪をくるくると巻きながら、少し考えた後、

 

「ふむ、呉第12鎮守府の……君は第一次深海棲艦との接触での生き残りで、妹と共に艦娘になった。そして、妹の方に異常(オリジナル)が認められ、下村元帥の下で秘書艦の一人として従事したが、下村元帥の失踪とともに行方不明。以降妹の手掛かりを得るために異常(オリジナル)艦娘を探している。で、良かったかな」

 

「はい」

 

 陽炎は驚愕の表情が張り付いており、綾瀬はその表情を楽しんでいるようだった。

 

「ちょっと待ってください。わたしに異常などある筈がありません。わたしはちゃんと素体を製造する工場で生み出された艦娘で、その段階で何ら異常はなかったと聞き及んでいます。彼女の妹のように人間から直接艦娘にされたわけではないのです」

 

 そう反論した。もし、わたしが異常艦娘というモノであるならば、そう言った製造段階でエラーとして弾かれるはずだと、

 

「少し勘違いしているようだね。ここで言う異常とは現在の艦娘としては異常と言っているだけで、本来の艦娘の性能として必ずしも異常ではないと言う事」

 

「一体どういうことですか?」

 

「艤装と言う奴はオーバーテクノロジーの塊でね、世界中の研究者が日夜研究しているわけだが、例えば君たちが艤装を展開して体を覆うバリアだが、出力的には水面を移動する必要は全くなく、空中を問題なく自在に飛行できる。

 重力や空気抵抗と言ったものにも影響されずに縦横無尽、変幻自在にね。それにもかかわらず、君たちの艤装は水面を低速で移動し、敵の砲撃すら単独では満足に躱すことができない。艤装の機能に制限がかかっているためだ。

 しかし、一部他の艦娘とは違った機能、違った性質を持つ艦娘が存在する事が分かった。例えば、陽炎。キミの妹の不知火の異常(オリジナル)は砲撃した弾を他の艦娘が認識できなくなるというモノだ」

 

「制限……」

 

 そうつぶやいた時くらいに気づいたのだが、満潮と黒潮は彼女がベラベラと機密情報っぽい何かを話しているときに、彼女には見向きもせずに二人で姉自慢大会をしているようで、こちらの事に見向きもしない。いや、認識してすらいないと言っていいのだろうか。

 

「少し話がそれてしまったが、そう言った艦娘の機能と言うのは本来艦娘が持っていた機能と考えられており、彼女らを研究することによって、艦娘の機能をさらに拡張する事が出来る。そう私たちは信じている。

 さて、そろそろ君の異常(オリジナル)について話していこう。キミはこの陽炎ちゃんとの演習において、自分の砲撃を相手の砲撃に直撃させて、自分の弾だけ跳弾させて相手に当てるという離れ業をやってみせたね」

 

「はい。運が良かったと思っています」

 

「それが間違っているんだ。キミの砲撃した弾の軌道だが、跳弾しなかった場合の軌道は敵から大きく外れる位置に着弾する事が計算で分かっている。キミは提督の弾道補正を軽く見ているようだが、敵に大きく着弾しない砲撃をしようとしても、すぐさま補正によって当たりやすい位置に軌道を補正される。運ではなく、そもそもキミの撃った位置関係からキミの撃ったような軌道で弾はそもそも撃てないんだ」

 

 彼女はそう言って手元にあるスパゲッティーを頬張る。陽炎の金とは言え、わたしのスパゲッティーをさも当たり前のようにすするその姿にはいら立ちを感じたが、本筋ではない様なので、突っ込まない事にした。

 

「弾道補正を無視して弾を打てる。それがわたしの異常と言う事ですか?」

 

「いや違う。弾道補正が効かないのではない。弾道補正を受けてもなお、あの弾を撃ったと言う事、つまり陽炎ちゃんの砲撃のタイミング、弾の軌道を果ては弾丸がどう跳弾するかも計算して撃つことができたという未来予知めいた力が君の異常さ」

 

「未来予知? 論理が飛躍しすぎています。……とは言え、もしそうならば、かっこいい必殺技を考えなければなりませんね」

 

 そう、重要なことは分からない。おそらく詳しく説明されても分かる筈はないが、大将が演習それを見た後に2週間経過したのち、そう結論付けた後にわたしの下に現れたという事は、そう結論付けるに足る根拠を用意して来ているのだろう。

 

「必殺技か……迎撃弾……そんな事は考えたこともなかったな。記録しておこう」

 

「じゃないでしょう!! 朝潮ちゃん、あなたはこの状況を理解しているの!!」

 

「はい、大将がわたしを異常艦娘と見抜いて、おそらくヘッドハンティングしに来たとか、そんな感じの事でしょう。それも、他の人間には知られない形で、そう言えば先ほどからおかしくないですか? 大将が機密っぽいことをベラベラしゃべっているのに、それに対して満潮をはじめとした周りの人間の反応がないことを」

 

 陽炎はそう言ってあたりを見渡し、まるでこの空間だけがこの場から切り取られているような錯覚に陥った。満潮と黒潮は互いの鎮守府の日常会話に花を咲かせている。まるでわたし達のことが目に入っていないような、そんな雰囲気を醸し出していた。

 

「これは一体……」

 

「私の艦娘の異常だ。彼女とつながっている間、私の存在は周りから認識できなくなる。私だけではなく、私が望めば5人くらいなら同じような状態にできるという訳さ。この効果は強力で、監視カメラなどの機器すら映らない大体完全なステルス状態と言ったところかな」

 

 そんな説明をしている間に、わたしは満潮の顔に猫のひげを書いたが、彼女と対峙する黒潮の会話に変化はない。

 

「あんた何してんの!!?」

 

「完全に閉じ込められました。外部から認識できないのではなく、ここは内部から外部へも干渉できない深海棲艦の海域と似た空間になっているようです。外部への物理的な接触は無効のようです」

 

 満潮に悪戯をして、私がその場にいない事を気づかせて外部から異常を破ってもらう作戦は失敗した。

 

「さて、陽炎ちゃん。キミには2つの選択肢がある。私は異常艦娘の研究のプロだ。もし、キミが朝潮ちゃんが私と来る事を説得すると言うのならば、行方不明のキミの妹の不知火に対して私が知りえる限りの情報を開示しよう。さて、君はどうする?」

 

 わたしが恐れていたのは今まさにこの状況だった。陽炎を妹の情報を出しにして懐柔し、わたしを攫うことを協力させる。

 

「駄目よ。彼女は私の永遠のライバルなの。裏切る事なんてできないわ。不知火の事は私が必ず見つけ出して見せる」

 

 そう言って、陽炎は綾瀬に対峙した。わたしは陽炎さんと、呟きながら彼女を疑ったことを恥じた。

 

「陽炎さん。中世の文豪ゲーテは言いました。わたしを殴れ。力いっぱいに頬を殴れと」

 

「そのゲーテっていう人、やばい人なの? 絶対そんな事言っていないでしょう」

 

「わたしはあなたと言う人を誤解していました。妹のためならば、わたしを売るような非情な人間だと、このままではわたしにはあなたにライバルだと言ってもらうことは出来ません。故に、あなたに殴ってもらうのです」

 

 陽炎はそれを聞いて頷いた。

 

「私もあなたを売って不知火の情報を聞いた方がいいと、一瞬だけ思ったわ。だから、あなたを殴った後、わたしも殴りなさい。そうしなければ、わたしもあなたにライバルと言う資格がなくなる。でも、それは」

 

「このピンチを切り抜けてからですね」

 

 そう言った感じで、わたし達が熱い友情を確かめ合っていると、綾瀬はテーブルに置かれた水をグイっと一気飲みし、

 

「降参だよ。2対1じゃ、勝ち目はないからね。しかし、本当にいいのかい? どちらかと言えば、わたしは朝潮ちゃん、キミの見方だよ。キミの置かれている状況は、キミにスケープゴートを強いるようなものだ。断言しよう、わたしに連れていかれなくて後悔する。そんな日が必ず来る。本当にそれでいいのかい?」

 

「はい」

 

 わたし達のピンチは呆気ないほど簡単に終わった。そして、わたしの返事を聞いた時、彼女少し悲しそうな顔をしていた。

 

「うわ!? いつの間に!?」

 

 満潮の反応から、綾瀬の艦娘の異常は今解かれたのだろう。

 

「こんにちは、私は綾瀬大将。大体2週間前の演習で朝潮ちゃんの艦隊と陽炎ちゃんの艦隊の演習を見てね、すっかり彼女たちのファンになってしまったんだ。ここの支払いおごるから、ちょっと話を聞かせてくれないかい?」

 

 いつの間に、大将と知り合ったのとか、そう言った質問攻めされた後、彼女たちの姉自慢が先ほどのように始まり、大将は頷きながら、記録しておこうという発言が聞こえた。

 

 わたしは大将に食べられてしまったパスタを追加注文し、待っている間暇なので、

 

「陽炎さん。不知火さんの事、もし分かったら連絡したいので、通信番号の交換をしませんか?」

 

「こちらこそお願いするわ。だって、私達ライバル同士だもんね」

 

 その時である。綾瀬の伏せろと言う怒号と共に、彼女は私たちを突き飛ばすように飛んだ。刹那、耳をつんざく破裂音と共にその店は爆発した。屋根は爆発によって吹き飛んでおり、綾瀬の怒号通り、伏せる事が出来なかった人間の肉塊があたりに散らばる。

 

 そして、綾瀬の視線の先には一人の艦娘が空中に浮遊していた。全身を白で塗り固めたような服装に、銀髪で氷のような瞳、グラーフ・ツェッペリンの艦娘である。

 

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