やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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ダンケ仮面との演習

ビスマルクの話が終わった後、朝潮は鎮守府の近くに存在している演習場に集まっていた。彼女の異常が何であれ、通常状態で解放艦娘を退け、ビスマルクから逃げおおせた異常であるならば、彼女を倒すためには特訓が必要であると考えたためである。

 

 

 その為に、第一鎮守府の霞にも協力してもらう事になった。ビスマルクの特訓内容とは以下のとおりである。ビルマルクが朝潮に向けて砲撃を放ち、その際に朝潮の後方に待機している霞がランダムな方向にフリスビーを投げ、叢雲がそれを観察する。叢雲の視覚を通してフリスビーの位置を特定し、ビスマルクの弾丸を異常を使って弾き、弾いた弾丸でフリスビーを撃墜するというものである。

 

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 

 ビスマルクの意図は朝潮には不明であるが、おそらく彼女には朝潮の力量を上げる何らかの手段に心当たりがあるのだろう。朝潮は真面目にその訓練を行った。そして、半日頃にその訓練は終了した。結果は100%フリスビーが破壊される結果だった。

 

 

「ふむ、なるほど。朝潮、特に疲れているところとかない?」

 

 

「大丈夫です師匠。正直今までは敵の弾丸を跳ね返さなかったら、艦隊全滅とか泊地全滅とか、そんな状態での戦いばかりだったので、今回は何と言うか、失敗してもそんな事にはならないと分かっていたので、気楽に行えました」

 

 

 弾丸を回避してくる夕立と対峙したときも、一撃一撃が必殺のtype₋γの砲撃を10発ほど返したときも、鎮守府艦の砲撃を熊手砲で跳ね返したときも、異常が発動しなければ、大変なことになっていた時ばかりであったので、それをことごとく成功させてきた朝潮にはこの程度の訓練で疲労するはずがなかった。

 

 

「なるほど。では、明日にしようかとも考えていたけれど、久々に稽古をつけてあげるわ。朝潮、構えなさい」

 

 

「師匠との手合わせですか?」

 

 

 朝潮はその言葉に胸が躍った。ここ半年のすさまじい激闘の成果を自身の師匠に披露するまたとないチャンスが舞い込んできたのだ。そして、それを披露することは自身の力量の強化にもつながる。先ほどの出来て当然の訓練とは反して朝潮の心は高ぶっていた。が、その高鳴りはビスマルクの一言で急速に困惑に傾いた。

 

 

「ええ、叢雲、朝潮を解放してあげなさい」

 

 

「師匠!! それは無茶です。解放艦娘と通常の艦娘の戦いは危険すぎます。いくら師匠が師匠でも通常状態で」

 

 

 朝潮がそう言い切る前に、ビスマルクの周りにすさまじい力場が現れ、彼女の体が水面から少しだけ浮いた。これは紛れもなく解放艦娘の姿である。まさか、ビスマルクもボックスを使用しているのか?

 

 

「私の提督の異常は艦隊を構成している艦娘を任意の数解放することが出来るの。さらに、解放艦娘にある距離の影響も無視できる」

 

 

 これが、短期でヨーロッパ全域の深海棲艦を全滅させ、半日でボックス狩りを成功させた佐倉大将の異常である。さらに、一度に解放する艦娘の数も最大24隻と言う、破格に力であり、彼がボックス狩りを行った後に提督が揃うまでの1年間をほとんど一人でヨーロッパ全域を守っていたのだった。

 

 

「なるほど、師匠も解放艦娘になったのならば、遠慮はいりませんね。朝潮、全力で勝負に挑む覚悟です。叢雲、行きますよ」

 

 

「ええ、私達の力を存分に見せるわよ」

 

 

 そして、朝潮は解放した。先手必勝、朝潮は艤装をフル稼働し、ビスマルクの目の前に移動すると、正拳突きを繰り出すが、それに合わせてビスマルクは半歩下がり、それをぎりぎりで躱す。

 

 

 その程度の事は想定済みであり、朝潮は体を揺らしフェイントをかけながら右前方に回り込むようにして飛び、彼女の側面から回し蹴りを放つ、その足にビスマルクは飛び乗ると、朝潮はそれを振り払うべく蹴りの軌道を変えるが、ビスマルクは宙返りしながらふわりと水面に着地したのだった。

 

 

「朝潮、技の切れは上がっているわね。しかし、まだ足りないわ。今の攻防で私はあなたを10回は倒せていたわ」

 

 

 彼女の言葉の真偽はともかく、ビスマルクは朝潮の間合いとその動きをほとんど熟知している。ならば危険ではあるが敵の制空権に入りこんでそれをカウンターして反撃する事が最良である。ビスマルクの間合いを熟知しているのは朝潮も同じなのだ。

 

 

 朝潮は先ほどとは打って変わって、ゆっくりとビスマルクに近づく。その姿を見て、ビスマルクは笑みを見せる。

 

 

「良いわね。以前のあなたならその選択はとらなかったわ。私よりも速く攻撃を当てるために全力で体を揺らし一気に連撃を叩きこんできた。しかし、今のあなたは私に先手を打たせ、それを対処することで活路を見出そうとしている」

 

 

 ビスマルクも朝潮に倣い、ゆっくりと近づく。そして、両者の制空権がぶつかった。最初の手を出したのはビスマルクの方であった。おそらく左の正拳突きだろうが、朝潮に判別は出来なかった。それほどまで速い一撃であり、鳩尾を狙ったそれは本来なら一撃で戦いを決めていただろう。朝潮はビスマルクに対応する姿勢をとっていたために、急所からほんの少し拳をずらすことで一撃で倒されることは阻止したが、先ほどかの彼女が発言した朝潮を10回は倒せていた発言は真実であることが実感できた。

 

 

 たまらず朝潮は後方に跳び、間合いを離す。先ほどのビスマルクのように攻撃をいなしながら華麗に間合いを詰める跳びではなく、そうしなければ第2撃でやられる。そうされない為のやむを得ない回避行動であった。

 

 

「相変わらず、とんでもない突きですね。突きであっていますよね」

 

 

 朝潮は理解した。制空権の中でビスマルクと対峙してしまえば先ほどの突きが飛んできて今度は確実に敗北する。であれば、制空権ぎりぎりを維持しつつ攻撃に合わせて間合いの半歩先に移動し、飛んできた腕に攻撃し腕を破壊するしかない。

 

 

 それは奇しくもビスマルクが朝潮の第一撃を躱したやり方であった。朝潮は笑みを浮かべた。師匠との戦いはいつもわたしにとって新たな気付きを与えてくれる。その姿を感じ取って、頭の中に声が響いてきた。

 

 

「なに? 何かこの絶望的な状態を何とかする秘策でも思いついたの?」

 

 

「いいえ。全く何も、ただ嬉しいんです。今までわたしは数々の強敵やら、ピンチやらを体験してかなりその力量を上げてきた。そう実感していました。しかし、そんなわたしの前に師匠はいまだに最強の相手として立ちふさがってくれました。強者でいてくれました。それがたまらなく嬉しいんです」

 

 

 それに対して、叢雲はあっけにとられていたようだが、すぐに気を引き締め。

 

 

「そう。じゃあ、そんな師匠の強さに対して私達が報いなければならないことがあるわね」

 

 

「はい! 全身全霊で迎え撃ち、一矢報いる覚悟です。かつてのドイツの文豪ゲーテは言いました。人事を尽くして天命を待つ。倒せる方法は待ってく思いつきませんが、やれることを一歩ずつ行えば必ずその糸口が見えてくるはずです」

 

 

 朝潮たちはそう言いながら、ビスマルクに挑んでいった。

 

 

 

「はぁ……、全く歯が立ちませんでした」

 

 

 あの後2時間ほど戦闘を行ったが、朝潮の拳はビスマルクに対して一撃も触れることは出来なかった。確かにビスマルクに適うとは思っていなかったが、たった一発も中てることが出来ないとは予想外だった。そんな風に落胆していると、そんな姿を見かねた霞が近づいてきた。

 

 

「馬鹿ね。アンタの師匠はこの霞と同格のすさまじい艦娘。アンタはこれまで死線を潜り抜けてはきたけれど、その相手はこの霞よりも強い相手と言う訳ではないでしょう? これまでの敵がこの霞より弱かったことを感謝しつつ、訓練を続けるしかないわね」

 

 

 霞の言うとおりである。経験を積んだと言っても、霞に匹敵する実力者と戦っていないのに、霞に匹敵する実力者に敵うと思っていたのは彼女の傲慢だったのだろう。しかし、今回の敵は朝潮と同じくビスマルクに師事を受け、その拳を極め、さらにビスマルクを出し抜いた艦娘。その異常をビスマルクは認識を狂わせる異常、もしくは幻術ではないかと考えていた。

 

 

 本当にそうであるなら、以前の戦いのように全力で突進する戦い方をすれば、一撃目に適当なところに空振りをさせられ、その隙を狙い撃ちさせられてしまうだろう。それを防ぐために敵に攻撃を撃たせ、それを反撃する事は合理的であった。まあ、一撃でも砲撃を放ってくれれば、異常一発で終わるのだが、前回の戦闘を見るに砲撃をしてくることはないだろう。少なくともかなり追い詰めなければ、そういえば。

 

 

「霞、そう言えば。この前、プリンツと対峙したときに、彼女『熊手の爪』を放ってきたのですが、もしかして霞、彼女に熊手の爪を教えたことがあるのですか?」

 

 

「いいえ、もともと私の異常だった足以外の部分からも反重力を繰り出せる異常が淑女落ちした時に、割と汎用性が高くて有名だったからね。ちょっと古めの異常艦娘には広まってしまったわ」

 

 

 などと、霞は話してきたが朝潮のぽかんとした顔を見て、横須賀に言った時に説明されていなかったの? と聞いてきた。しかし、朝潮には心当たりがなかった。霞は嘆息し話をつづけた。

 

 

「淑女落ちとは、暁の異常『レディー=ファースト』の効力の影響を受けてしまった異常の総称。暁の異常は多分異常のないと言う異常と言う説明を受けたはずよね。故に、彼女が異常の概要を理解し、それが自分にもできそうと思った瞬間、それは異常から実現可能な技術に変化するわ」

 

 

 更には、もともと艦娘と言う存在は艦娘本体とは別に巨大な船を建造し、それに乗り込むことで単体でその船を自在に動かせる設計だったものが、艦娘開発段階で、船なしでも水面を自在に動き、敵に乗り込まれた際の護身用でしかなかった艤装から船の主砲と遜色ない威力の砲撃を繰り出せるいわば、『艦娘と言う異常』を暁が観測し自身もできると思ってしまったがために、現在の艦娘が存在していると付け加えた。

 

 

 故に、艦娘と言う異常を通常に変えている暁の異常がなくなれば、もしかすると世界中の艦娘が力を失って人類は深海棲艦から自信を守る術を失う可能性があると言われており、それが彼女を最強足ら占めている理由であった。

 

 

 そして、その仮説が提唱される以前、暁は数々の異常艦娘と接触していたわけであるが、その中で暁に異常を観測され、その異常性を失い、艦娘の技術として拡張してしまっていた。そのような異常艦娘の異常が異常ではないものに変換されることを『淑女落ち』と呼んでいる。と言う説明を受けた。

 

 

「なるほど……でも、それなら暁に異常をどんどん見せると艦娘全体がパワーアップして良い事ではないんですか?」

 

 

「いいえ、異常艦娘は他の艦娘よりも高い適性を持っているからその溢れた力が異常と言う形で収まっている。以前、イブちゃんが言っていたわ。艦娘の異常は艦娘の持つ本来の機能で、いわば艤装のリミッターであり、ダメコン。制限する機構を残すことにより、溢れた力の注ぎ先として用意されているもの、その器が狭いからこそ壊れ方もかん艦娘の力の範囲内で壊れてくれる。しかし、それを取っ払ってしまえば、その壊れ方はどうなるか予想できない。その艦娘の枠組みを超えた異常を便宜上『異形』と呼称しているようね」

 

 

「『異形』……まさか!!?」

 

 

「そう、それが『淑女落ち』の副産物にして禁忌とされている理由。『熊手の爪』を通常に変えた暁は代わりに私に異形を残した。そして、私と繋がっていた熊手も自身の配下の艦娘以外との接触が出来ない異形を持ってしまった」

 

 

 以前、彼女が明らかに『熊手の爪』と言う異常な力を使っているのにもかかわらず、異常は使わないでおいてあげると言ったのはそういう事情があったのかと朝潮は納得すると同時に、そんなお手軽パワーアップの存在があったのなら、異常を見せるべきだったと少し残念に思っていた。

 

 

「朝潮姉さんが何を考えているかは手に取るようにわかるわ。暁に異常を見せておけば、艦娘の枠を超えた力が手に入るとか考えているんでしょう? ほとんどの異常艦娘は、異常を通常に堕とされて、異形に至ることはないわ。だから馬鹿な真似はやめる事ね」

 

 

 霞がと朝潮がそんな話をしていると、ビスマルクが叢雲に向って話しかけてきた。

 

 

「ねぇ、朝潮だけれど、いつもあんな戦い方をしているの?」

 

 

「あんな戦い方って?」

 

 

「とぼけないで」

 

 

 ビスマルクは話をつづけた。ビスマルクは朝潮に朝潮示現流の新たな戦い方について何か心当たりがないかと言う相談を受け、朝潮の異常の練度を確かめることにした。朝潮の異常は砲撃戦において、相手の砲撃を少なくとも先制攻撃を封印すると言う強力な異常である。しかし、それを選択せず、近距離戦を挑むという事は、朝潮自身以上に対する信頼度が足りていないと彼女は考えた。故に、ビスマルクの砲撃を朝潮の砲撃で弾かせ、それを後ろの霞が投げたフリスビーに正確に当てるという、異常と精密な射撃の両方を鍛える訓練を行い、彼女かからその不安を取り除けるようにしたのである。

 

 

 しかし、かなり長い時間続けても一発たりともミスをしない。何かビスマルクは思い違いをしているのかと思い、演習を仕掛けることにした。ビスマルクの想定では朝潮は敵の砲撃を異常で封殺しながら、距離を取り得意の射撃戦もとい一方的に砲撃を浴びせる戦術をとることが想定されており、それを高機動で強引に距離を詰めると、距離を取り、砲撃によって朝潮の有利な状況下で近距離戦を強いられることが推測できる。

 

 

 故に、彼女の意表を突いた戦術が要求されるわけであるが、その為の策を考えてると、朝潮は開幕と同時に艤装をフル稼働し、こちらに突撃をしてきたのである。これにはビスマルクも意表を突かれる形になったが、遠距離主体の異常を持つ朝潮が近距離戦の鬼であるビスマルクに適うはずもなく、結果的に一方的に勝利することにはなったが、もし彼女が砲撃戦を選択すれば、状況は下手すれば朝潮の勝利で終わっていた可能性もあった。

 

 

 故に、その選択を取ることに反対しなかった叢雲に対して、どう言うつもりだと問いただしたのである。

 

 

「そうね。確かに貴女の言うように、敵に砲撃を一発も撃てない状況にして一方的に砲撃を浴びせるのが最も簡単で安全な方法であることは私も朝潮も分かっているわ。でも、それは彼女の目標ではない。朝潮は近距離戦で、あなたの教えた朝潮示現流で強くなろうとしているの。朝潮にとって、グラーフの信奉者は倒すべき敵ではあるけれど、同時に居場所を失い、それを攻撃に変えた救うべき艦娘たち、そんな彼女たちの目を覚まさせるには天から与えられた異常ではなく、朝潮示現流と言う彼女の努力の結晶、それしかないと彼女は信じているわ」

 

 

 それを聞いたビスマルクは全く、正気じゃないわねと苦笑し、叢雲もそれに同意した。朝潮と言う熱病は、叢雲を蝕んでいるようだった。しかし、それも悪くはない。ビスマルクもその熱病にかかったのだろう。彼女の言う、朝潮示現流の新たな戦い方を模索することに協力することにしたのだった。

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