やがて僕は荒潮に呑まれる   作:ANMC

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つかの間の休息

「と言う事が10日前にあったんですよ」

 

 

 朝潮はそう言いながら、目の前に差し出されたパスタを嬉しそうに啜っていた。これは前に満潮におすすめされたパスタの店で、結局食べ損ねたままであったが、今回ようやく食べることが出来たのだった。

 

 

「なるほど、大変だったわね」

 

 

 同席しているのは荒潮と満潮、そして陽炎である。彼女達から新生呉第15鎮守府結成のお祝いとして、ここに呼ばれたのだったが、その際に話の種として近況の報告を要求されたため、情報共有も兼ねて、彼女らに状況を説明したのだった。

 

 

「はい。と言っても今度の敵が私の兄弟子であることは満潮には前々から伝えているはずです。敵が解放艦娘を使えることも、私達を狙っていることも前々から分かっていた事なので、なんというか大体の理由が判明したところでやることは変わらない。実質的に進展なしと言ったところですね」

 

 

「進展なし? 私にはそうは思えないけれど?」

 

 

 朝潮はパスタを口に頬張り、満面の笑みを浮かべる。そこにはプリンツとの宿命の対決を控えた焦りなどは見られない。相手がビスマルクと言う怪物から逃げおおせた艦娘であると言うのに、その様相はいつも通りである。おそらく、ビスマルクとの戦いの間に何かしらの秘策を思いついたのだろう。

 

 

「まあ、いいわ。いくら敵が強力だと言っても、ここには霞や熊本大将もいるし、私達もいる。呉に滞在している限り、早々攻めてくることはないでしょう。あんたは兄弟子との宿命の対決だ何だと盛り上がっているかもしれないけれど、そんな事にこだわる必要はないわ。私達を頼りなさいよ」

 

 

「はい。中世の詩人ゲーテはこんな言葉を残しました。戦いは数、いくら個として強大でも大群をもってすれば、必ず倒せるという事です」

 

 

「いや、大勢で囲んでぼこぼこにするとは言っていないわよ」

 

 

 陽炎がげんなりとしていると、荒潮がゆっくりと立ち上がり、朝潮の唇をピンとはじいた。

 

 

「フフフ、兄弟子との宿命の対決ね。私たちの鎮守府に来たときは、艤装の展開の仕方も知らないただ、ちょっと拳法が使える子だったのに、いつの間にか背負わされるものが大きくなってしまったわね。ちょっと焼けちゃうわ」

 

 

「荒潮……」

 

 

「ここにいる誰もが知っているわ。朝潮姉さん。あなたは今回も逃げないんでしょう。そして、今回も多分何とかするんでしょう。そうして助けられたからこそ、私達はここでテーブルを囲って、ご飯を食べているの。それは分かるわ」

 

 

「そうです。今回もパパっと解決してあげますよ。なんたって……むぐ」

 

 

 朝潮が言い切る前に、荒潮の人差し指が彼女の口をふさぐ。その表情からは何も読み取ることは出来なかった。

 

 

「朝潮姉さん。もしも、もしも、朝潮姉さんが無理だ。進みたくない。もうたくさんだ。そう思った時は、立ち止まって、誰かにその重荷を渡してもいいのよ。その日が来ることを待っているわ」

 

 

 

 

 こうして、彼女たちのランチタイムは終わった。彼女たちは各々自分が所属する鎮守府に向けて足を進める。そんな中朝潮は第15鎮守府を過ぎ、どんどんと人気のないところに向けて歩を進め、第一鎮守府と第4鎮守府の中間あたりの丘にある竹藪のところで足を止めた。

 

 

「さて、ここなら大丈夫でしょう。出てきてください」

 

 

「気づいていたの? さすがはビスマルク姉さまから師事を受けたほどの事はあるね。『朝潮示現流』だっけ?」

 

 

 先ほどまでかすかに感じていた殺気が朝潮を貫く。先ほど陽炎が言っていた『霞や熊本大将がいるから呉に手出しは出来ない』と言うのは、おそらく的を射ているだろう。ここで戦いでも始めようものなら、私なら霞がここに到着するまでの時間を稼げる。ただ時間を浪費するだけの結果になることは目に見えている。

 

 

 しかし、その対象が私や霞でないとしたら、例えば、今回テーブルを囲んだ陽炎、荒潮、満潮誰をターゲットにされても、瞬時に拉致されてしまうだろう。今回尾行されていたのは陽炎だったが、彼女は尾行されていることに全く気づいておらず、満潮や荒潮も同様だった。満潮に至ってはプリンツと面識があるにもかかわらずである。

 

 

「それで、話って何?」

 

 

 わたしは彼女たちを危険にさらすわけには行けない。今回彼女が潜んでいた事に気づけたのは、彼女が陽炎を尾行していたからであり、呉に潜んでいた場合、見つけることは出来なかっただろう。その危険を排除するために、わたしがしなければならない事は、

 

 

「プリンツオイゲン、わたしは貴女に決闘を申し込みます」

 

 

 一対一で彼女を打ち負かし、捕獲する事だった。

 

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