敵からの第2射には、わたしの艤装展開が間に合い、綾瀬を抱えながら、店の外に飛び出るように回避した。満潮も同様に生存者を抱えている。司令官の力の干渉によって陽炎たちの姿は判別できないが、彼女たちも同様に店の外に飛び出たのだろう。そんな中、頭の中に司令官の声が聞こえて来た。
「朝潮及び満潮の艤装展開と、周囲に敵性勢力を確認した。何があったか状況を報告してくれ」
「はい。呉市郊外の飲食店、場所は別途送りますが、そこでグラーフ・ツェッペリン型の艦娘と遭遇、彼女の攻撃により飲食店は全壊し、中にいた十数名が死亡。これより、交戦に入ります。彼女は空中を飛行しており、異常をもつ艦娘であることが推測されます。他鎮守府からの増援を進言します」
「無駄だよ」
わたしの発言を、綾瀬大将は無駄だと切り捨てる。何が無駄だと言うのかと、わたしが怒声を浴びせようとした時、
「奴が街中に現れて標的を狙うときには、増援が出来ない状況を作り出してからそれを行う。今頃、泊地の周りは大量の深海棲艦でおおわれているはずだ。第4鎮守府の提督君、聞いているんだろう? 熊手に確認を取ってみると良い」
と言う不都合な事を突きつけて来た。それを聞き、司令官は数秒間わたしの思考から姿を消した。その間に、大将は「まあ、そうでない事を祈るがね」と舌を出しながら私にささやいた。因みに後で聞いたのだが、熊手とは熊本大将の大将間での愛称であるらしい。
そして、数秒後に司令官がわたしの思考に戻って来た。
「綾瀬大将の情報を確認したところ。結論から言う増援は期待できない。泊地周辺に大量の深海棲艦の群れが出現している。数は10万……市民の避難とその数の深海棲艦の対応で、他鎮守府は混乱している。残念ながら増援を送ることは出来ない。朝潮と満潮だけで対処してほしい」と言う絶望的な返事が返ってきた。
それを聞いて、わたしは脳裏にある考えが浮かんだ。彼女の口ぶりから、彼女は何度かグラーフと対峙した経験、もしくはデータを持っているのではないか。その中には、彼女の弱点や対処法があれば、危機を脱出する可能性が十分に上がる。
「綾瀬大将。グラーフの事を知っているのならば、彼女の弱点とか知っているなら教えてください」
わたしがそう言うと、綾瀬大将は首を振った。
「私が知る限り、彼女の異常は空中を自由自在に移動できる。艦載機や姿を目視しない限りそれを知覚することは出来ないという二つ。知られているのはこれだけだ。対処法は艦載機を広範囲に展開してすべて見つけてしまうことだが、今の状態ではできないな。しかし、其のうえで何とかしよう」
その時である、見えない筈の陽炎と黒潮の姿がはっきりと見えるようになったのである。
「ええ!? どうしたの、朝潮ちゃん!? 姿が見えるわよ。早く、あなたの提督との同調を解いちゃ駄目でしょう……」
と言う陽炎の声が頭の中から聞こえてくる。綾瀬大将はにやりと笑った。
「これが私の艦娘の異常。二つの艦隊を同一の艦隊として扱い、それによって提督の力の干渉を軽減する。キミたちが連合艦隊と呼んでいる力だ。これによって、第4と第12艦隊をつないだ」
わたしはその言葉を聞いて、カメラを次々切り替え、彼女の言ったことが真実だと確認した後、声を上げた。
「司令官、綾瀬提督の力で、第12艦隊と連合艦隊を組めたので、彼女達と協力し、敵艦を撃破します。司令官、ご命令を」
陽炎は訳の分からないといった「え、……なんで第4艦隊の提督が……え!?」と言う声を上げているが、詳しく説明している暇はない。まずは、現状を確認しなくては、陽炎と満潮が抱えている生存者は2名ずつ。ぐったりしているが、動く分には問題がなさそうである。
カメラを切り替えると、黒潮の腕には泣き叫ぶ少女がパパぁ!! と大声で叫んでいるが、残念ながら彼女と似た男性を満潮や陽炎からは確認できなかったので、おそらく彼女の父親は……。しかし感傷にひたっている場合ではない。
「よし、各艦抱えている生存者を近くのシェルターに避難させる。まずは黒潮からだ。生存者をシェルターに避難させた後、砲撃でけん制。しかし、深追いはするな。第4、12鎮守府から援軍を向かわせる、彼女たちが合流次第、敵艦を拿捕する」
彼の命令通り、黒潮が近くの壁に生存者を抱えて走り出した。それに対して、グラーフは何の行動も示さない。彼女には目もくれず、ただわたし達だけをじっと見ているだけだった。それを見て、陽炎と満潮にも生存者を送り届ける指示を出すが、反応は変わらなかった。
「どうやら、彼女の狙いは私のようだ。我々が動くのは得策ではないが、最悪私をおとりにして逃げることも視野に入れるべきだ。そう、キミの司令官に伝えて欲しい」
「馬鹿なことは言わないでください」
そう言いながらわたしは視点を満潮に切り替える。彼女たちが抱えて移動した生存者たちは、壁近くのシェルターに避難させる事が出来たようで、安心した。あたりを確認させ、艦載機がシェルターの周りにいない事を確認した後に、シェルターの壁を人一人分の隙間を開けて一人ずつ中に放り込む。
しかし、面倒なことになった。わたしが左足をほんの少し動かした瞬間、私の左足のほん横に向かって、どこかからか艦載機のガトリング砲が地面を抉った。
「司令官、先ほどの敵の行動から、敵の目標は綾瀬大将だと推測されます。わたしは動けませんので、満潮達で彼女の注意をそらしてください。その間にわたしは敵艦に砲撃を叩き込みます」
「朝潮、綾瀬大将を危険にさらすつもりか? 満潮たちで注意をそらした後、彼女もシェルターに避難させるべきだ」
わたしは首を横に振った。
「駄目です。わたし達では艦載機全てを追うことは出来ません。敵は綾瀬大将を狙うために艦載機を私たちの周囲に展開していると推測されます。彼女をシュエルターに避難してその中の一機でも綾瀬大将を追ってシュエルターに入ったら、シュエルターに避難している全員が危険にさらされてしまいます。それよりは」
「敵艦を中大破させて、艦載機の飛行能力を失わせた方が安全……と」
その話を聞いていたのだろうか、綾瀬大将はわたしの腕から抜け出し、背中の艤装に捕まった。
「それでは、作戦開始!!」
満潮が右から突進し、黒潮が左から突撃する。
「さあ、道を開けるわよ。朝潮姉さん。しくじらないでね」
満潮はそう言ってグラーフが彼女を迎撃するために繰り出した艦載機に機銃を斉射する。黒潮も左で同じように機銃を斉射する。1機2機と艦載機は落とされるが、代償として、彼女たちの耐久が減らされていく……。が、グラーフは眼を逸らさない。
「司令官。……突撃します」
「待て。まだ彼女の注意を逸らせていない。もう少しだけ……」
満潮と黒潮が中破になるが、艦載機の猛攻は止まらない。先ほどから艦載機はほとんと落ちなくなっている。そんな時、後ろから陽炎の気合のこもった怒声が聞こえて来た。
「どっこらせぇしょ!!!」
陽炎の方を見ると、直径5メートルの岩の塊が、ぶん投げられていた。敵はたまらず艦載機の機銃でそれを破壊しようとするが、間に合わない。グラーフは左に大きく避けた。
しかし、それはわたしが彼女の真正面に立つのに十分な距離だった。わたしは彼女に向かって渾身の砲撃を繰り出し。彼女の装甲を吹っ飛ばした。と、同時に敵の周囲に隠れていた艦載機が私に一斉に襲い掛かる。わたしは大破した。
「グゥゥゥ!!」
しかし、敵は中破。艦載機の飛行能力は失われ、空母である敵の攻撃能力は皆無になったはず。そして、周りには満潮と黒潮が彼女に向けて砲を構えており、陽炎も投げた岩に飛び乗ってここまでやって来たようで、彼女も敵に向かって砲を構える。
「馬鹿ね。あんたが殺した人たちに詫びなさい」
「全艦!! 砲撃!! 撃てぇぇ!!」
司令官の怒声が響き渡り、彼女らは砲を撃ちこむ……。が、カシャンと言う乾いた音を立てて、砲はロックされた。
「いったいどういう事よ……」
その言葉に答えられるものはその場にいなかった。