アイネスフウジンの怪文書   作:富岡牛乳

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4.皐月賞

弥生賞が終わり、アイネスフウジンは普段の日常に戻る。

トレセン学園で授業を受け、トレーナーとともにトレーニングに励む、はずだった。

(弥生賞・・・四着・・・)

しかし、フウジンは教室の机に突っ伏し、沈んだ顔で窓の外を眺めていた。

全くその顔に気力らしきものは見当たらず、彼女の周りに梅雨のような湿っぽさが漂っていた。

「元気ないね、フウジン」

メジロライアンが、苦笑しながらフウジンに話しかける。

「だってさ、ライアンちゃん。あたし弥生賞四着だったんだよ・・・。皐月賞・・・出られないんだよ・・・」

いつもと違う沈んだ声で返すフウジンだが、

「えっ」

と戸惑いの声を上げたのはライアンの方だった。

「出走登録されてるけど・・・」

と言うライアン。

何言ってるの~、と半分すねた調子で返すフウジンに、ため息をついたライアンが、自分の机に戻り、ほら、紙を手渡した。

 

死んだ眼でその紙を眺めるフウジンだったが

「えっ!!??」

と驚きの声を上げた。

それは皐月賞の出走ウマ娘の名簿。

そこには『アイネスフウジン』の文字があった。

「えっ!?えっ!?えっ!!??」

驚き机から立ち上がり、叫ぶフウジン。

「どういうことなの!?」

と、紙を手渡した本人に聞くフウジンだが

「アタシに聞かれても・・・」

と困ったようにライアンは首をかしげた。

「あたし、おっちゃんの所行ってくる!!!」

「う、うん」

勢いよく教室から出て行くフウジンである。

くすんでいたエメラルド色の瞳に光が蘇っていた事に気づき、安堵のため息をつくライアンだった。

 

「元気だねー、フウジンったら」

と一部始終を見ていたウマ娘が、ライアンに声を掛ける

「ヴァイス」

芦毛のショートカット、若干垂れ目気味のウマ娘。ヴァイスストーンだった。

「あぁ、アタシも出ることになったからヨロシクね」

と、へらへらとライアン手を振った。

しかし

「でもG1かぁ・・・はぁ・・・」

と、ため息をつく。

「アンタまでどうしたの」

と尋ねるライアン。

「だってアタシ、あーいう大舞台苦手なんだよね・・・。あーぁ、G2レース出たーい」

と好き勝手な心情を吐露するヴァイスに対して、

「そんなこと言うと他の子に睨まれるよ」

と、ライアンは声を掛け、ちょっと焦った様子で口をつぐむヴァイスストーンだった。

 

 

持ち前の健脚を持ってトレーナー室に向かって駆け込んでくるウマ娘がいる。

どたどたと慌ただしい足音に、机に座って事務仕事をしていたトレーナーは顔をしかめた。

「おっちゃん!おっちゃん!!!」

勢いよく扉を開け叫ぶアイネスフウジンに

「何だ騒々しい」

と返すトレーナーである。

「あたし皐月賞出られるの!?」

と聞くフウジンに

「そうだが?」

と表情を一切変えず応えるトレーナー。

「でもあたし弥生賞四着だったじゃん!!!」

「そうだな」

「おっちゃん『皐月賞の優先出走権は三着まで』って言ってたじゃん」

「言ったな」

「どういうことなの!?」

 

ため息をつき、トレーナーは頭をかいた。

「お前、朝日杯と共同通信杯で一着取っただろ?」

「うん!」

「その実績が認められたってことだ」

その言葉を聞き

「そっかぁ・・・そっかぁ!!!」

と満面の笑みになるアイネスフウジン。

心の中でトレーナーは、それでも結構危うかったんだぞ、と付け加えた。

「それはそうと、練習についてだが」

とトレーナーは話題を変え

「二つ、考えていた」

と切り出した。

 

「一つ目。この前の弥生賞の敗因から、重バ場対策に特化したトレーニング。二つ目。重バ場対策は無視して、加速力とライン取りを重視したトレーニング。案一の場合、お前の苦手な重バ場が多少改善されるかも知れないが、確証がない。良バ場になったらトレーニングの効果は薄れるしな。案二の場合、弱点を放置することになるが、確実に基礎力は上がるだろう」

一息にそう話したトレーナーは

「・・・どうする?」

とフウジンに尋ねる。

少しフウジンは考えた後、

「・・・案二」

と答えた。

「理由は?」

「うまく言葉に出来ないけど・・・天候次第で自分の走りを諦めたくないの」

「そうか」

その言葉に納得すると、

「じゃ、早速トレーニングだ。皐月賞まであと一ヶ月しかない。やるぞ」

とトレーナーはトレーニングに促す。

「うん!!!」

いつもの笑顔を取り戻したアイネスフウジンは、トレーナーとともに練習場に向かうのだった。

 

 

4月中旬。

天候晴れ。良バ場。

芝、2000m。G1レース。皐月賞が遂に始まった。

『さぁウマ娘達、一斉に並んでスタートしました!』

ウマ娘達が勢いよく駆けて行くその刹那

「うわっ!!!」

「あっ!!!」

アイネスフウジンは隣のウマ娘、ヴァイスストーンと接触しバランスを崩した。

(フウジン!)

心の中でトレーナーが叫ぶが、何とかフウジンはバランスを立て直し、先団に向かって加速する。

しかし

(出遅れた・・・!!!)

フウジンが自覚した通り、明らかに出遅れを喫してしまっていた。

 

『先頭はアズマイースト!二番手にフタバアサカゼ!そしてアイネスフウジン三番手、ハクタイセイが四番手に付けている!』

しかし第一コーナーになる前に三番手まで順位を上げるアイネスフウジン。

(焦らない!冷静になるの、冷静に・・・)

心の中でそう自分自身に言い聞かせながら、脚を進めるフウジンである。

『第二コーナーに入りました。先頭はフタバアサカゼ、2バ身のリード!アイネスフウジン二番手になりましてバックストレートに向かいます!』

じわりとスピードを上げたアイネスフウジン。

冷静になれと自分自身に話しかけた彼女は、取るべき策を頭に思い浮かべていた。

『ウマ娘達、800mを通過しました!先頭、フタバアサカゼ頑張っている!アイネスフウジンがほぼ半バ身差で並んでいこうとしています!』

それは朝日杯と同じ展開。

先頭のフタバアサカゼはじりじりとスピードを上げさせられ、顔中に汗が噴き出している。

(このまま、ペースを上げてレースを支配するの!)

そう決心したフウジンの脚は鋭く、ペースに緩急を付け始めていた。

 

そして第四コーナーを抜けてる直前、アイネスフウジンは左右後方を確認する。

さすがの皐月賞である、朝日杯の時とは異なり、後方のウマ娘達の差は大きく離れていなかった。

つまり末脚勝負。どこまで逃げ切れるか。どこまで差しウマに差を付けられるか、それに全てがかかっていた。

(ここで、勝負を決めるの・・・!!!)

思い出したのはメジロライアンの姿。弥生賞での鋭い差し脚。

次はこうはいかない、絶対に差させないとの思いが脚に伝わり加速する。

運命の、最後の直線にさしかかった。

 

『アイネスフウジン先頭に変わった!!!アイネスフウジン!しかし外からはニチドウサンダー!内からはストロングクラウン!』

沈んでいくフタバアサカゼに対して、追ってくる二人のウマ娘。

しかし

(くそっ!!!)

(追いつけない・・・!)

二人とも先頭の石竹色の風神の後塵から抜け出せない。

だがアイネスフウジンは油断していなかった。

まだ彼女が来ていない。

そしてその予想したウマ娘の姿を実況が甲高い声で叫び出す。

『後ろからはハクタイセイ!そしてメジロライアンが追い込んでくる!!!』

(勝負だよッ!ライアンちゃん!)

後ろからライアンが来ている。ライアンにはもう負けたくない。

ゴール板手前で失速し、一位を逃した弥生賞。その悔し涙は今でも心の中に残っている。

 

『さぁ逃げる逃げるアイネスフウジン!!!二バ身のリード!!!』

直線巧者とは彼女の事を言うのだろう。腰を低く顎を引き、彼女の脚がどんどん伸びる。

このまま一位を取れる。

最も早いウマ娘の勲章を手にできる。

そう彼女は考えていた。

だが

『しかしハクタイセイ並んできた!!!!!』

並んできたのは、メジロライアンではなかった。

(ふふっ・・・もーらい♪)

レース中盤から、フウジンの後ろにぴったりと張り付き、体力を温存していたウマ娘。

その名はハクタイセイ。

 

ハクタイセイも遂に加速し、じりじりとスピードを上げてくる。

ゴールまで200mを切り、二人は肩を並べてゴール板めがけて歯を食いしばる。

『アイネスフウジン!ハクタイセイ!アイネスフウジン!!!ハクタイセイ!!!』

実況の声にも力が入る。

甲乙付けがたいレース展開。

どちらが勝ってもおかしくない展開。

しかし終わりは訪れた。

『ハクタイセイ差しきるぞ!!!』

ゴール板手前10m。

『ハクタイセイ、ゴールイン!!!!!ハクタイセイです!!!ハクタイセイがアイネスフウジンをゴール前で捉えました!!!』

アイネスフウジンは二着で皐月賞を終えた。着差はクビ差だった。

 

 

「おっちゃん・・・」

控え室に戻ってきたアイネスフウジン。

暗い顔をした彼女に

「悪くなかったぞ」

と、あっさりした様子で、トレーナーは話しかけた。

「最初、ヴァイスストーンとぶつかって出遅れたもんな。それでも途中で冷静さを取り戻して、朝日杯と同じ展開に持ち込もうとしたんだな」

「うん・・・」

「出遅れたことが最後まで響いたな。最初から展開を作れなかったのが一番の敗因だ。しかし冷静になったのはいいことだ。ただ、今回はお前もハクタイセイにマークされてたことに気づけるとなお良かったな」

うつむいたままの、アイネスフウジンの頭に手を優しく乗せて

「それだけ、お前が他のウマ娘から警戒されてるんだよ」

と、一言付け加えた。

「次は勝とう」

「うん・・・!」

トレーナーの手を握ったアイネスフウジン。

目尻には朝露のような涙が乗っていたが、その顔には春の朝日のような温かい笑顔が浮かんでいた。

 

 

皐月賞が終わった、次の日の早朝。

トレーナーは携帯電話の着信音で目を覚ました。

眠気眼をこすって画面を確認すると、「駿川たづな」の文字があった。

『もしもし、トレーナーさん?朝早くからすみません』

「あぁ、たづなさん。いつもお世話になります」

『ちょっとお話がありまして・・・本日、お時間を少々いただきたいのですが・・・』

「はぁ」

 

電話に出て早速トレセン学園に出勤するトレーナー。

自分のトレーナー室に向かうと、そこには既にたづなの姿があった。

慌ててトレーナー室の鍵を開け、たづなを中に入れ、応接ソファに座らせる。

こんなものしかありませんが、と買いためた缶コーヒーを彼女の前に置き、向かいあうようにトレーナーはソファに座り込んだ。

「どうしました、たづなさん」

「その、大変申し訳ないお話がありまして・・・」

「先月の弥生賞の、そして先日の皐月賞のアイネスフウジンさんの結果を見て、奨学金団体の理事の方々から・・・その・・・」

「あぁ、なるほど・・・」

大体の事情をそれで察したトレーナーである。

奨学生のアイネスフウジンが一位を取りこぼしていることで苦情が来たんだろう、と彼は思った。

「トレーナーさんにアイネスフウジンさんを紹介したのは私です。ですので、この件は私の方で収めるつもりです。ただ、トレーナーさんとアイネスフウジンさんにご迷惑が掛かった時の事を踏まえて、この度はお話に参りました」

 

「それで、奨学金団体のお偉いさん達は何て言ってるんですか?」

「えっと・・・」

すこしためらいの顔を見せるたづな。

「いいですよ、そのまま伝えてください」

と答えるトレーナー。

しばらく視線を泳がせていたたづなだったが、

「・・・・・・『トレーナーを変えろ』、とのことです・・・」

観念したように、そう言葉を吐き出した。

「でしょうね」

と答え、トレーナーは乾いた笑いを浮かべた。

どうやらよっぽど嫌われているらしいな、と自嘲したあと、

「たづなさん、折り入ってお願いがあるのですが・・・」

とたづなに話を切り出すトレーナーだった。

 

 

皐月賞の翌日の朝。

トレセン学園、正門前。

「ごめん!本当にごめん!!!」

アイネスフウジンの前で平謝りをしているウマ娘がいる。芦毛のウマ娘、ヴァイスストーンである。

先日の皐月賞。スタート直後接触を起こした彼女は、ずっとそのことを引きずっていた。

「いいのいいの、気にしないで」

とケラケラわらうアイネスフウジン。

勝負は時の運だと彼女は感じていた。あのときぶつかったのは自分。ヴァイスストーンが悪いわけでなく、よけられなかった自分が悪い。それが彼女の出した答えだった。

 

「ごめんな、フウジン・・・。アタシのヘマのせいで・・・」

「だから大丈夫なの。気にしてないから」

そう優しく答えるフウジン。ヴァイスストーンの眼は彼女の優しさで緩み、

「フウジンーー!!!」

と彼女に抱きついてしまうのだった。

「おーおー、よーしよーし」

と頭をなでてなだめるフウジン。

大きな妹のようなの、と彼女は思い、苦笑いを浮かべている。

そんな中

「あなたがアイネスフウジンさんね?」

と、スーツ姿の妙齢の女性が話しかけてきた。

「えっ、あ、ハイ」

とヴァイスストーンの頭をなでながら答えるフウジンである。

「私たちこういう者だけど、ちょっとお話いいかしら?」

そう言って差し出された名刺には『奨学金団体 理事』と書かれていた。

 

 

トレセン学園の会議室にて。

「この度は私の指導不足のせいで、成果を出せず大変申し訳ございませんでした」

トレーナーは目の前に居るスーツ姿の女性達に頭を下げていた。

「全くですよ、アイネスフウジンさんのような優れた生徒がこんな体たらくなんて」

そう言う彼女たちは、トレセン学園奨学金団体の理事達である。

トレーナーがたづなにお願いしたのは理事をすぐに招集して欲しいとのことだった。

全員の招集は当然出来なかったが、トレーナーが直接謝りたいと伝えると、ある程度の理事が集まったのだった。

口々にトレーナーの指導不足をなじる彼女たちの言い分を、ただただトレーナーは聞いている。

それは彼女たちが、ただトレーナーに罵詈雑言をぶつけたいだけの理由からだったかも知れない。

彼女たちの言い分は、トレーナーには的外れな言葉ばかりにも聞こえたが、どうせ反論しても意味が無いだろうと、半分以上彼は諦めた様子で黙って聞いている。

「この度ねぇ、普段は私達も育成の方針には口を出さないんだけどねぇ・・・」

いい加減、彼女たちの言葉が出尽くした後、

「単刀直入に言うわ。申し訳ないけど、あなた、アイネスフウジンさんの担当を外れてくれない?」

と、本題を切り出した。

 

 

その頃アイネスフウジンは、別の理事達に連れられて、喫茶店に来ていた。

「アイネスフウジンさん、コーヒーでいいかしら?」

「あっ、ハイ」

「砂糖とミルクはいる?」

「いえ、ダイジョウブです」

何故こんな所に連れてこられたのだろう、と理由も分からないまま、目の前のコーヒーを見るアイネスフウジンである。

たづなもまさか理事達が直接フウジンを尋ねるなど、そんな強引な事をするとは思っていなかった。

フウジンに『トレーナーが外れるかもしれない』などと言えば、彼女のモチベーションにも関わることである。

トレーナーと理事が話し合ってからと考えていたが、その常識的な判断が裏目に出ていたのだった。

 

「最近のあなたのレース、成績が芳しくないわね」

「・・・すみません」

「いやいや、あなたが謝る必要はないのよ、全部、あの実績の伴わないトレーナーが悪いんですから」

「えっ」

「トレセン学園にはね、多くの実績をあげた優れたトレーナーがいるわ。シンボリルドルフ、ミスターシービー・・・優れたウマ娘の陰には優れたトレーナーとの信頼関係があってこそ」

にっこり理事の一人が笑い、

「どう?あなたもそう思わない」

と、フウジンに問いかける。

「・・・思いません」

フウジンは真っ黒なコーヒーを見ながら言葉を紡ぐ。

「お・・・あたしのトレーナーはすごい人です。練習もアドバイスも的確で・・・あたしのことを一番に考えてくれて・・・」

「それはトレーナーとして当たり前のことです。それに貴方はあのトレーナーしか知らないからそういう事が言えるのよ。『自分のトレーナーが一番だ』って言うのは世間を知らないだけの勘違い」

大人の語気に押され、言葉が喉に詰まるフウジン。

それを見て、理事は言葉を続ける。

「よろしければ他のトレーナーの紹介も出来るけど、いかがかしら」

 

 

場面はトレセン学園の会議室。

「お断りします」

そうきっぱりトレーナーは言い放った。

理事達に視線を合わせ、真っ直ぐに見据えて。

「・・・貴方、何を言ってるか分かってるの?」

「アイネスフウジンは私が責任を持って指導します」

「まともな成果が出せてない人がそんなこと言うんじゃないの!!!」

語気が荒くなる理事達。

あぁ、これだからトレーナーはイヤなんだ。何も知らない素人が、何も出来ない口だけの連中が、しきりに威張り、なじり、わめきちらす。

何なんだこの状況は。一番現場で体を張っているのは、知恵を振り絞っているのは、迷った末の判断を下しているのは誰だと思っている。

そう頭の中でぐるぐると思考が何度も飛び交うトレーナーの口から出た言葉は

「お願いします」

懇願だった。

「お願いします!!!」

力強い懇願だった。

「俺にアイネスフウジンをこのまま指導させてください!!!」

 

 

場面はトレセン学園近くの喫茶店。

「結構なの」

そう言ってアイネスフウジンは席を立った。

「うん?」

途惑う理事をよそに

「あたし、あのおっちゃんと一緒にレースに挑みたいの。コーヒーごちそうさまでした」

といい、一口も飲んでないコーヒーを尻目に喫茶店の出口に向かって歩き始める。

「あ、あの、ちょっと冷静になりなさい」

「あたしは冷静です。あたしはずっと冷静です。ちゃんと話を聞いています」

「あのね、貴方・・・」

「あたしの事を一番に考えてくれてるのは、おっちゃんです。あたしの事を一番支えてくれてるのは、おっちゃんです。辛いときも苦しいときも楽しいときも、一緒に居てくれたのは、おっちゃんです」

理事の言葉を上から被せる。

力強い語気で、アイネスフウジンが何周りか年上の大人の女性達に、毅然とした態度で、言葉を放つ。

 

 

違う場所に二人はいる。

トレーナーは会議室に。

アイネスフウジンは喫茶店に。

しかし。

「俺は!あいつと!!!」

「わたしは!あの人と!!!」

彼と彼女の言葉は、

「「一緒に夢を見たいんです!!!!!」」

全く同じものだった。

 

 

「感動ッ!それが事の顛末という訳だなッ!」

場所はトレセン学園の理事長室。

秋川理事長、駿川たづな、そしてトレーナーとアイネスフウジンが一同に会していた。

二人がそれぞれに奨学金団体の理事達と面会した後、秋川理事長とたづなを通じて、話がまとめられた。

「トレーナーとウマ娘の強固な絆ッ!!!殊勝ッ!!!素晴らしいッ!!!」

秋川理事長は、扇子をばさばさと仰ぎ、ひたすらに興奮している様子である。

「トレーナーさんとアイネスフウジンさんの思いが奨学金団体の皆様にも伝わりました」

笑顔でたづながそう話す。

「それじゃ・・・!」

その言葉にアイネスフウジンは顔を輝かせた。

「えぇ、お二人の関係は継続です」

その言葉を聞き、フウジンはトレーナーの顔を見る。

少し照れくさそうに頬をかいたトレーナーだったが、視線を逸らしたまま、フウジンの頭に手を乗せた。

 

それを見たたづなが少し困った様子で

「ただし、条件がありまして・・・」

と切り出した。

「何ですか、条件って」

フウジンに乗せた手を下ろし、トレーナーが尋ねる。

「次のレースで一位を取ること、です。それと・・・」

「課題ッ!レースも指定されたぞッ!」

たづなと秋川理事長が、二人にそう告げる。

しかし、肝心のレース名を二人とも言うのを憚っている様子だった。

お互い視線を交わしていた二人だが、諦めたように秋川理事長が笑う。そして二人に背を向け、窓の外を眺めた。

そして

「指定されたのはッ・・・日本ダービー!」

と、二人の顔を見ず、高らかな声で宣言した。

「日本、ダービー・・・・・・」

アイネスフウジンが震えた声で復唱する。

トレーナーは眼を見開き、何も言えずにいる。

誰もが知る若きウマ娘の三冠の一つ。

5月最終日曜日。東京、芝、2400m。

高き高き壁が、二人の目の前にそびえ立った瞬間だった。

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