月明かりの欠片   作:いくらう

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『迷宮59層:騎士』

 【ロキ・ファミリア】、【穢れた精霊(デミ・スピリット)】、【デーモン・プリンス(デーモンの王子)】、そして【黒い鳥】ら一行。彼らによって破壊され、蹂躙しつくされていた迷宮(ダンジョン)59階層は、それなりの時を経て、ようやく元の氷河の領域としての姿を取り戻しつつあった。

 

 そこに佇む、人影が一つ。

 

 総身に鎧を纏った騎士姿。流麗な形状と、戦神の伝説を象った彫刻の成された兜。防寒用と思しき毛皮を肩に配した、堅牢な胴鎧。具足はある程度の動きやすさを維持しながらも、並以上の防御力を備えていると一目でわかる実用的なものだ。腰には一振りの長剣を佩いている。だが、獅子甲冑とでも呼ぶべき装備を纏った騎士の得物は、すでにその手に握られていた。

 

 一本ずつの特大剣。まったく同じ形状、同じ大きさ、同様に感じる、恐るべき威圧感。

 

 まるで熔けた鉄を無理くりに剣の形に固めて見せたような武骨極まりない大得物だ。しかし同様のシルエットを備えたそれらは、片や紅い、片や蒼い炎を刀身の内から滾らせている。

 

 周囲を見渡せば、その刃によって両断された――――否。まるで消し飛ばされたかのように、不自然に体積の少ない怪物たちの体の一部が【王子】によって残された灰の大地に埋もれるように転がっていた。

 

「……不満そうだな」

 

 そこに唐突に、しわがれた、老人の声が一つ。立ち尽くしたままの騎士が首だけを巡らせて声の方向へと視線を定めれば、そこには蟠るように黒い炎が立ち上っていた。

 

 そこから、人影が歩み出してくる。襤褸を纏い、枯れはて、老いさらばえた口元のみを僅かに晒す痩身の男。

しかし目深にかぶった襤褸の奥に爛々と輝く赤い瞳は、その男が見た目通りの存在でないことをこれ以上なく示していた。

 

 一歩、二歩と騎士へと翁は歩み近づく。対して騎士は翁へと向き直り、僅かに首を傾けて腕を組んで見せる。いつの間にか、手にしていた熔鉄の剣は姿を消していた。

 

「どうだった? あの、黒い青年は」

 

 問われてすぐに、騎士は首を横に振った。ふむ、と、翁は思案するように自らの顎を撫でる。

 

「期待外れかね?」

 

 再びの問いに、騎士はまたしても首を横に振った。それを見た翁は、困ったように小さく笑う。

 

「良くもなく、悪くも無いと? 今後に期待、と云った所か」

 

 翁の返答を受けて、ようやく騎士は首を縦に振った。そしてその場にしゃがみ込むと、灰に覆われた大地にどこからか取り出した人骨を薪のように並べて、そこにいつの間にか手にしていた、螺旋(ねじ)くれた剣を突き立てる。騎士はそれから、出来栄えを見定めるように少しの間それを見つめていたが、その内に、唐突にそれに向けて手を伸ばして指を鳴らした。

 

 

 火が灯った(BONFIRE LIT)

 

 

 騎士は揺らめく火を見て、兜のスリットの内でわずかに目を細めるとそこに座り込む。

 

 翁もまた、煌々と燃える篝火へと歩み寄る。その背後、足元に唐突に木の根が生えると、翁はそこにゆっくりと腰かけた。

 

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