さよなら私のファンタジスタ   作:ベンチ街

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よろしくお願いします。


1話

きっかけはインターネットで見た古い映像。そこには濃い水色のユニフォームに身を包む小柄な男が足で巧みにボールを操り、自身より一回りも大きい男たちを翻弄している姿があった。

 

前を向くためのターンで一気に2人躱し、そこからドリブルでさらに2人。終いにはキーパーまで抜き去り無人のゴールへボールを叩き込む。

 

ドリブルでも他の追随を許さぬほどの走力。DFを翻弄するボディフェイント、ボールが足許から離れない繊細なボールタッチ。何か一つでも欠けていたら存在しなかったスーパーゴラッソ。

 

どれを取っても超一流。

ディエゴ・マラドーナの伝説の5人抜きのプレーである。

 

そして、ここにそれに魅了された幼女がいた。瞳を輝かせpcの画面を食いつくように凝視している。

 

「………うわぁ」

 

瞳をキラキラと輝かせて周囲のことなど御構い無しに、そのプレーを何度も何度も画面に穴が空くほど見直した。

 

何度も何度も、何時間も画面の前に座り込んで取り憑かれたように繰り返しそれを眺める。だからこそ、何度見てもこのゴールが理解できない。

 

試しに両親に買ってもらったゴムボールを蹴ってみる。画面に映る男と同じように左足でボールを自分の方向に引き込んで、そのまま扇状に体を展開して左足でボールを逃す。

 

イメージは完璧であったが、素人である彼女に一流のプレーの模倣などできるはずもない。ボールを引き込み体を展開させる瞬間、バランスを崩してずっこけてしまう。

 

初めて目の当たりにした理不尽。

 

「うん、うん。やっぱできない」

 

楽しい。

それから彼女は何度も何度も庭で挑戦した。こけた回数はもう数え切れないほどで、洋服も顔も泥だらけ足には擦り傷がたくさんできている。

 

でも、やめられない。

 

やめたくない。

 

「もう、一回」

 

イメージは出来ている。あとは、体を理想に沿わすだけだ。イメージと違うのは、自身の利き足が右足であるという一点のみ。ゴムボールを体の方へ引き込み、そのまま扇状に体を反転させそのまま右のインサイドで逃す。

 

それは、ひどく不恰好で実戦では確実に通用しない。なにより、ビデオでこの姿を撮影されていたならまず納得できる品物ではない。

 

だが、出来た。

 

「で、できた!」

 

ひどく不恰好だとしても、実戦で通用しなくとも彼女は成功した。理想には程遠いかもしれないが、確実に一歩前進したのだ。

 

そして何より、その場にいた2人を魅了した。

 

「おねえちゃんどうやったの!」

 

「ミッちゃんどうやったの!」

 

「すごいでしょ、練習したの」

 

「「うん!」」

 

それからというもの、彼女の足元には十余年もの間ボールがあった。彼女がフットボールを愛すれば愛するほど、それは実力となって彼女に返ってくる。

 

彼女にはそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。彼女の愛と同じかあるいはそれ以上、フットボールの神様も彼女を愛していたのだ。

 

ただ一点、彼女には不幸なことがあった。

 

世界的にも男子に比べて女子のサッカー選手人口は少ない。だからこそ、才能を生かす場所というのも限られてくる。

 

ただでさえ、日本はサッカー選手の育成には向かない国。それに、出る杭は打たれるということわざがあるほど国柄的に突出したものを嫌う癖がある。

 

 

 

彼女が中学時代に味わったものは孤独であった。

 

 

 

「………どうして」

 

誰も彼女に頼りパスを出す。

 

「違う、私じゃない。ちゃんと開けたスペースを感じてよ!」

 

だが、誰も彼女の話を聞かなかった。

 

エースだからと監督に言い聞かされた。チームの核なのだから、頼られるのは誇れる事だと。

 

同じ言葉を彼女は自分に言い聞かせた。

 

だからこそ、彼女はひとりで打開する力をつけようと努力を続けた。それに報いるようにフットボールの神様は彼女の望むものを与えた。

 

足元からボールを離さないテクニックや相手を抜き去るスピード、競り負けないボディバランスも必要なものを彼女は手にした。

 

だが、彼女を取り巻く環境はひどくなるばかりだ。

 

チームメイトのやりたい事を周りがわからない。同じ景色が共有できない。

 

「………ねぇ、どうして分からないの?」

 

そして、中学生最後の大会。

彼女達は、県大会の一回戦で敗れることになる。

 

誰も負けるとは思っていなかった。相手は無名のチームであり、彼女達は県下最強とまでいわれていたのだから。

 

結果は、2対3。

 

チームメイトの慢心。相手の執拗なマーク。その他もろもろ全てが噛み合い、彼女達は実力を発揮できないまま終わってしまった。

 

ボロボロに削られながらもボールを保持し、孤軍奮闘した彼女にかけられたチームメイトから掛けられた声は賞賛の声ではない。

 

虎に塗れたユニフォームが彼女が足掻いた証なのにも関わらず、周りによってそれが貶されていく。

 

『あんたの独りよがりのプレーのせいだ』

 

(お前らが私を頼ったんだ)

 

『周りを活かしてよ!』

 

(パスを出して走らなかった奴が言う台詞か!)

 

『サッカーは1人でやるんじゃないんだからさ!』

 

(………今まで私に頼ってきたくせに)

 

 

 

 

『君はエース失格だ』

 

 

 

 

 

(…………何かが崩れていく)

 

 

 

 

その日初めて、彼女越前美咲はサッカーに絶望した。

 

「………つまんない」

 

 

 

 

 

彼女、越前美咲は生まれてくる国を間違えてしまったのだ。

 

 

***

 

 

 

時は巡り季節は春、時期的にいえば入学シーズン。あの日、フットボールに魅せられた少女も今では高校2年生になっていた。

 

あの日サッカーに絶望してから、彼女の足元にボールが収まったことは一度もない。サッカー好きの妹である越前佐和でさえ、彼女の前でサッカーの話は避けるほどだ。

 

TVで試合が行われていればすぐにチャンネルを変え、SNSでは「サッカー」を除外ワードに登録するなどの徹底ぶりを見せた。

 

一時期彼女がTVに映っていたこともあり、サッカー部への入部を期待されたが彼女は頑なにそれを拒んだ。入学して3ヶ月が経つ頃には、彼女に勧誘をかけるものはほぼいなくなった。

 

だが、まだ一名ほど勧誘を続けてる者がいる。

 

「おはよう美咲」

 

「うん、おはよう田勢」

 

蕨の新キャプテン田勢恵梨子だ。

 

美咲が蕨青南に入学してから、学校に通う道中や休み時間にも田勢の勧誘は続いた。

 

『来たらこれから買い食い奢るから!』

『………要らない』

 

『絶対入って損はさせないからね!ね!!』

『……圧がすごい。ここ、トイレだよ?』

 

『越前さん、お願いッ!!』

『話聞いてよ田勢さん?ねぇ!そんなに頭下げないで!!カツアゲみたいに思われちゃうから!!!』

 

と、このような件がありながら約1年が経ち、彼女達は友人になった。話せば田勢の話題は1から10サッカーの話であるが、美咲にとってそれは不思議と不快にならなかった。

 

だが、美咲はサッカー部に入部はしていない。

 

「それで、新チームはどう?」

 

「うーん、どうかな?」

 

困ったような顔を見せる田勢に対し、美咲は先日聞いた試合のことを思い出してしまう。

 

(顧問が職務放棄して、三年が全員辞めちゃったらしいし失言だったわ。すまん田勢)

 

そう心の内で謝りつつ、みさきは校内で持ちきりの女子サッカー部の話題について触れた。

 

「バ………能見奈緒子が来てくれるんでしょ?チャンスじゃん」

 

「3年生辞めちゃったしピンチの方が多いよ!」

 

「あらら、じゃあ弱小ワラビーは健在か」

 

「でも、入部届にあの曽志崎緑の名前があったよ。ほら、全国3位の」

 

曽志崎という名を聞いて美咲の頭はフル稼働する。

 

 

ぽくぽくぽくぽくぽくぽく

 

 

チン!

 

 

 

「あ、一個下のちびっこボランチ曽志崎か」

 

 

美咲がまだ中学生の頃、何度も曽志崎がいた戸田北と戦ったことがある。

 

当時、美咲は14歳ながら飛び級でU17世代代表に選ばれており天狗であった。その鼻っ柱を叩き折ったのが戸田北中学校である。

 

一年の時からチームの中心として活躍していた美咲にとって、戸田北は特に眼中になかった。学年も上がり、代表にも選ばれた美咲にとって桐島しかいない戸田北など敵ではないと思っていたのだ。

 

結果は惨敗。

 

スコアは1-3。

 

なんとかロスタイムにこぼれ球を押し込めたが、美咲が桐島と曽志崎に封殺され流れを掴めずに敗北を喫した。

 

美咲の記憶では、ボールを追い回しハードプレスをかける桐島千花とはタイプの違い、パスの上手いゲームメーカーのようなボランチ。

 

桐島をダーヴィッツとするなら、曽志崎はブスケツのような選手だ。

 

「他にも上手い子がいるかもしれないし今年こそ」

 

「そ、頑張って」

 

「………美咲が入ってくれたら完璧なんだけどなぁ」

 

もじもじとしながら、去年と同じ様な事を言う田勢に少し呆れてしまう。だが、このしつこさが理由で友人になったのだ。

 

大袈裟にため息をついて、田勢の肩に両手を添える。「えっ」と戸惑う彼女に美咲は笑顔でこう言った。

 

「拒否する」

 

そして、すぐに学校へと足速に駆け出す。「もう、待ってよ美咲」と田勢の声が聞こえてくるが彼女は無視してそのまま加速する。

 

後ろから追ってくる田勢に彼女は少し大きめな声で、

 

「あ!そうそう、恩田希は上手いよ」

 

「え!なんて!?」

 

「あははは!なんでもなーい!!」

 

「教えてよー!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

美咲の妹である佐和とその友人の『恩田希』の入学してからおよそ2週間が過ぎた。美咲が2年に上がってからというもの校内では、あの能見奈緒子が女子サッカー部のコーチになるという話で持ちきりである。

 

だが、美咲にとって関係ない話だと思っていた。

 

そう、思っていたのだ。

 

 

 

ところ変わって、砂埃舞うグラウンド。

 

 

 

一つのボールの為に入り乱れる敵味方。敵味方関係なく、周囲に指示を出し自軍ゴールを守り相手ゴールを狙う。

 

緑色のビブスを着た美咲は、その中心地でぽつりと呟く。

 

「何故こうなった」

 

その呟きは、周りのコーチングによってかき消されるのだった。この原因を作ったのは他でもない。ニヤニヤとベンチの前に立つなまはげによって作り出されたのだ。

 

(あのババァ覚えてろよ)

 

時は、およそ5分前まで遡る。

 

 

 

 

 

「今日は軽くアップしてから、パス練して3対1の鳥籠そのあと紅白戦よ。それじゃあ田勢少しの間よろしく。私、ポカリ買ってくるから」

 

「はい、わかりました」

 

そう言って能見は、チームのキャプテンである田勢恵理子にホイッスルを渡す。母校である蕨青南に来てからはや数日、能見にとってチームの状況は思ったよりも良くなかった。

 

(はぁ、新入部員はほぼ素人………曽志崎と周防の能力は所々全国レベルだけどまだ粗いし。それに監督はあんなだし)

 

顧問である深津の方を見ると、競馬雑誌を頭の上に乗せベンチで居眠りしている。正直、聖職者あるまじき姿だ。

 

(あぁ、私のプランが)

 

能見の脳内にあった監督としてのキャリアプランがガラガラと音を立てて崩れていく。そう、蕨青南のチームの状態は弱小校そのものだ。

 

ここから、監督として名を上げるつもりの能見にとっては地獄以外の何者でもない。

 

(でも、なんとかなるでしょ。)

 

 

 

 

 

 

能見は、基本能天気だった。

 

 

 

 

 

 

 

(あの子たちも疲れるだろうし人数分買っていくか。あのヒゲには………要らないわね)

 

などと考えながらぼーっと歩いていると自動販売機前で1人の生徒にぶつかってしまう。

 

「「あ、すみません」」

 

お互い咄嗟に謝罪し、ペコペコと下げていた頭を上げた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「あっクソガキ!!」

「げっババァ!!」

 

 

 

 

 

 

そして、偶然か必然かそれとも運命の悪戯かどうかはわからないが、能見奈緒子(レジェンド)越前美咲(元至宝)は自動販売機の前で再会を果たした。

 

 

 

 

 

ニヤリと笑う能見に対し、美咲は冷や汗をだらだらと書いてしまう。

 

 

 

 

「新入部員ゲット!」

「嫌ァァァァア!!」

 

 

そして、物語は動き出す。




プロフィール
名前:越前美咲
ポジション:LWG
利き足:右
性格:気分屋
プレースタイル:典型的な10番タイプ。
好きな選手:マラドーナ、メッシ、ロナウジーニョ、ネイマール

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