さよなら私のファンタジスタ   作:ベンチ街

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オリ主は上手い設定ですが、最強ではありません。


2話

サッカーの基本は大きく分けるとたった3つである。

 

『止める』

 

『蹴る』

 

『走る』

 

そこは、超一流でも素人でもやっていることは変わらない。技術に関係するのは『止める』と『蹴る』のたった二つのみ。

 

『走る』に関していえば、スポーツならどの競技でも必須と言って過言じゃないはずだ。

 

だからこそ、ボール触った瞬間に相手の技術が嫌と言うほど理解できる。

 

上手いのか下手なのか。

 

『全国3位』『完成されたボランチ』と今では多くの肩書きをもつ少女。曽志崎緑は、嫌でも彼女のことを覚えていた。

 

 

 

それも、苦い記憶として。

 

 

 

越前美咲、中学2年生にしてU17代表に選ばれた天才。

 

曽志崎の尊敬する先輩『桐島千花』曰く、彼女の世代でも得点感覚とドリブルはトップクラス。

 

(というか有名人じゃん。越前美咲って)

 

そう思いながら先日発売されたサッカー雑誌のあるコーナーに目を移す。そこには、デカデカと女子サッカーの実情が描かれていた。

 

伝説である能見奈緒子の引退からはや数年、日本女子サッカーは落ちるに落ちている。男子と比べ競技人口が少なく、人気もない。

 

過去にW杯をとったとは思えないほどの実情である。それは、日本女子サッカー界の象徴であった能見奈緒子がいなくなってから、勝てなくなったなでしこジャパンの人気は一気に暴落した。

 

今でも女子サッカーは、能見奈緒子に代わるNEWヒロインを求めている。そして、メディアが目をつけた新たな象徴が越前美咲である。

 

彼女は、男女にあまり差のない少年サッカーの全国大会で頭角を表した。いくら少年サッカーといえど、女子がスタメンのチームは上にいくほど少なくなっていく。

 

そのなかで、彼女は10番を背負っていた。周囲はお飾りの10番かと思っていたが、蓋を開けてみれば彼女は本物であった。

 

男子のフィジカルに飛ばされようとボールを離さず、体の強さがなくとも速さと技術でDFを翻弄する。

 

そして、何より弱さも活かす狡賢さも兼ね備えていた。

 

フィールドを駆ける姿はまさしく王様。

 

 

 

試合に出ればすぐに彼女が中心になる。

 

 

 

 

なによりも、越前美咲が女王であることをチームが歓迎していた。守備が軽い美咲の分も守りに走り、彼女にパスを集める。

 

そして、スペースへと走り込み。女王がタクトを振る。彼女は、ポジション関係なく居るだけで良かったのだ。

 

ジュニアチームらしからぬ統率された献身的なチーム。圧倒的な越前美咲()を活かすためだけに、彼らはプレーしていた。

 

 

 

 

 

彼女たちは、順当に勝ち進み結果は準優勝。全国大会で彼女は14得点6アシストを挙げそのまま得点王。そして、最優秀選手賞にも輝いた。

 

 

 

そのまま中学生に上がる頃にはU16代表になり、今ではU17代表の中心人物。

 

(なんか不公平に感じるなぁ、無名から一気に全国区の選手に………か)

 

笑いが出るほどのシンデレラストーリーである。

 

『次世代を牽引する若き至宝』

『女子サッカー界のメッシ』

『next能見奈緒子になれるか!?』

 

期待という名の重圧。

だが、それに恥じぬ実績を彼女は積み重ねている。もし、自分であれば考えるだけでも胃がキリキリしてしまう。

 

(………あの千花先輩が手も足も出なかった選手か)

 

「へぇ、面白そうじゃん!」

 

そして、試合当日。

 

拮抗するかも思われていた試合展開はその予想に反して、流れも全て戸田北が一方的に優勢だった。曽志崎緑は先輩である桐島千花と2人で執拗にマークし、越前美咲を試合に参加させなかったのだ。

 

だが、3対0で迎えたロスタイム。

 

逆転する見込みもなく、敵味方ともども足が止まる時間帯。もう勝ったと思ってしまっていた気の緩みからか、越前美咲にボールが渡ってしまう。

 

初のマッチアップ。

 

(……….なんつー圧力だよ)

 

曽志崎が抜かれても後ろには、桐島千花が控えている。そこを挟めば取れないことはない。こっちは2対1だ負けるわけがないと甘い考えが曽志崎の頭によぎる。

 

美咲がボールを細かく触りながら、少しまた少し間合いに近づいてくる。

 

 

 

 

 

キュッ!

 

 

 

 

 

美咲の左肩が右に入る。

 

(来る、右!………あれ動いてない!?)

 

 

 

 

大袈裟なただのボディフェイント。

 

だが、動いた様に錯覚してしまうほどの速さがあった。バランスの崩れた曽志崎の逆にボールを蹴り出しそのまま美咲は加速する。

 

「緑!」

 

そのまま軽く抜かれた曽志崎をフォローする様に千花が美咲とマッチアップする。

 

(大丈夫、千花先輩なら!)

 

その期待も千花への尊敬も蹴散らす様に2人のマッチアップは瞬時に決着がつく。

 

今覚えば美咲がボールを持った瞬間、リズムが他の選手とは少し違っていた。

 

普通なら足は、左右交互に出る筈だ。

それは、どの人間も基本変わらない。

 

彼女のドリブルを後ろから見れば、仕組みがよくわかる。

 

(………空踏み?)

 

千花を抜く瞬間左足が二度地を離れ、左によれた彼女を嘲笑うかの様に逆にボールを転がす。

 

言葉にするのは簡単だ。

 

(メッシかよ!こいつ!!?)

 

これをできる選手は、曽志崎緑の身近には存在しない。

 

千花をちぎったあと、得意の右足からのミドルはポストに直撃。そのこぼれ球をなんとか味方が詰まる形で美咲のチームは一点を得ることができる。

 

リスタートする間もなく終了を告げるホイッスルがフィールドに響き渡り、のそのそと選手たちが整列していく。

 

だが、美咲は一向に動こうとしない。呆然とゴールを見つめ、プルプルと肩を震わせていた。怒りからか悔しさからかは理解できないが、それでもその後ろ姿から放たれるオーラはどこか近寄り難いものがある。

 

ふぅと短めに息を吐いた後、切り替えた様に曽志崎たちの方へ振り返り、千花と曽志崎のふたりを指す。

 

「………桐島とマロマユちゃん次は勝つから」

 

たかが練習試合だ。

 

そう思っている者も少なくない。

 

だが、一流のアスリートは総じて負けず嫌いだ。そして、越前美咲も例に違わず負けず嫌いであった。

 

自分の中にあれほどのインパクトを残した存在が、自分よりもはるかに上にいる筈の相手が自分を指さし宣言してくれた。

 

曽志崎緑は、それに高揚が隠せない。

 

「わ、わたしたちが次も勝ちます!」

 

(あ、やっちゃった!)

 

慌てて千花の方へと顔を向けると彼女はやれやれと言った様子で、

 

「言いたいことは緑が言ったわ。次は、ちゃんと止めるわ」

 

「ふーん」と短く笑った美咲は、曽志崎の方へと近づいてくる。

 

(やっべー!調子乗っちゃたからボコられる)

 

ギュッと目を瞑る曽志崎に美咲はポンと肩に手を置き、

 

「桐島には別に言いたいこととかないけど、まろまゆちゃん名前教えて」

 

 

「えっ、そ、曽志崎緑です!」

 

 

元気いいね、とぽつりと呟きながら美咲は笑う。

 

 

「次は代表で待ってるから、2人とも」

 

ドヤ顔で語る美咲。

 

「うるせー!負けたくせに調子乗んな!!」

 

怒る千花。

 

「何よ!スルッと抜いたじゃない軽い守備だったし、それに私は負けてないわ!チームが負けたの!!」

「結果負けたんだろうが!」

「何よ!スルッと抜かれたくせに!!」

「ボールを触れなかった奴に言われたくないね」

「くっ、次は無理にでもボールに触るわ」

「やらせねーよ」

 

(………いいなぁ、こういうライバル。私にも出来るかな?)

 

その数ヶ月後、曽志崎緑は周防すみれと出会うことになり、彼女を一方的にライバルだと思う様になる。

 

2人のライバル関係を誰より羨んだ曽志崎は、その後の出来事を知らない。一つ上の代で全国への切符を掴んだのは、美咲でも千花でもなかったことしか知らない。

 

 

 

だから、彼女に起こった悲劇を曽志崎緑は知らない。

 

 

 

 

 

「越前さん私登りましたよ代表まで、

 

 

でも、でも………なんであなたがいないんですか越前さん」

 

 

 

 

 

 

桐島千花は県の最強王者浦和邦正に。

そして、越前美咲はサッカーを辞めていた。

 

 

次世代を率いるとまで謂れた才能が環境によって死んでしまったのだ。

 

 

だからこそ、曽志崎緑は周防すみれを戦犯扱いする川口伊刈の部員たちを責めた。もう二度と同じ悲劇は繰り返してはならないと、そういう思いからの行動だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「はーい、それじゃあ新入部員を紹介します。ついさっき拾ってきた越前美咲ちゃんでーす」

 

「「「はい?」」」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

それが今、新入部員として青い顔をした美咲が能見奈緒子によって連れてこられていた。連れてこられたという言い方では語弊がある。

 

 

 

 

これは、俗に言う拉致である。

 

 

 

 

 

(えぇ!!何があって蕨青南(こんなところ)に!!?)

 

戸惑う曽志崎を裏腹に、新入部員の2人が美咲に絡みにいく。一人は、『越前佐和』美咲の妹である。

 

そしてもう一人は、『恩田希』

 

彼女を言い表すのに最も相応しいものは『ファンタジスタ』。

 

試合入りにムラはあるが、爆発したら止められない。中学まで男子サッカー部に混ざって練習し、弱点であったフィジカル(強さ)も克服した。

 

 

 

そして何より、才能だけなら美咲よりも上。

 

 

 

「お姉ちゃんサッカーまた始まるの!?」

「ミッちゃん練習付き合ってよ!」

 

きらきらと目を輝かせる二人に美咲はばつが悪そうな顔をする。そして、その元凶である能見を睨みつける。

 

自動販売機でお茶を買っていると勝手にぶつかって来て、そのまま拉致られ入るつもりもないサッカー部の部員たちの前で「新入部員」とまで言い出した。

 

「うっ、あんたら、私が拉致られてきたこと忘れてるでしょ」

 

「良いじゃんやろーよ」

「お姉ちゃん」

 

可愛い幼馴染と妹の頼みは断れない。それに、今思えば2人には気を遣わせ過ぎたかもしれない。

 

「………一回だけ、練習に参加するだけよ」

 

「「やったー!!」」

 

騒ぐ2人を尻目に美咲は、曽志崎と目があったような気がした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「えっ!?ユニフォームもスパイクも無いの?

体操服にスパイク無いんだったら運動靴でやればいいじゃない」

 

 

 

(どこのマリーアントワネットだよ)

 

 

 

というわけで美咲は、体操服に運動靴という体育のような格好で練習なさるかすることになった。元々やる気など無かったが、特に田勢と希、その他大勢が美咲にパスを回した。

 

美咲にとっては1年と少しぶり、久しぶりにサッカーと向き合いだ。当然ボールコントロールは落ちているし、今の彼女がやれることといえばワンタッチでフリーの選手にはたくことぐらい。

 

(………でも、楽しい)

 

そう、久しぶりのサッカーは麻薬のようにポカリと開いていた心の隙間に溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

(ピッチはやっぱり心地がいい。)

「ははっ」

 

 

思わず、笑みが溢れる。

 

もっと、ボールが欲しい。

次は、どう動けば点が取れる。思考は加速し、思い通りに動かない体に鞭打って絶好の場所を探す。たとえボールコントロールが衰えていたとしても、その匂いを体が覚えている。

 

得点の匂い。そして、それを今1番匂わせるのは美咲ではなく周防すみれ。白髪の韋駄天娘であった。

 

周防(あれ)をどう使うかで試合が決まるな)

 

そう美咲の本能が感じている。

 

「あ、すみません!」

 

おそらく新入生からの緩めのパス。

距離は少し短く、美咲のマークに付いている希と競り合う形。

 

(こいつカラダ強っ!)

 

一瞬でも気を抜けば好位置を持っていかれる。かと言って、足元でそのまま受けても体を当てられると振り向くこともできない筈だ。

 

「ふっ!」

 

腹筋に力を入れ、手を後ろにいる希の腹につけて軽く押し出す。軽く力を伝えるだけでいい、力強くやりすぎるとファールになりかねないからだ。

 

軽い力でも一瞬美咲と希の間に距離が生まる。

 

(ここでくるっと回る。タタッて感じに速く)

 

マルセイユルーレット。それより、少しばかり回転が早い。ほぼ同時に両足が宙に浮き体を反転させるターン。これにより、美咲と希の正面を向いたマッチアップの形が完成する。

 

(へぇ、やるなマルセロみてーだ。それに腕の使い方が絶妙だ)

 

これには思わず顧問の深津も感心してしまう。動いているボールにルーレットであればテクニックのある選手ならできるプレーだが、プレッシャーがかかる中その発想に至れるのは何人いるだろうか。

 

それに、ルーレットだけではないその前の手の使い方。そのまま受けると思わせるために手で希を抑え止まって受けるように見せかけ、ターンするタイミングで自分は加速する。

 

それを行うには、かなりの度胸と技術がいる。

 

(ま、女子じゃなけりゃあな)

 

そう思いながら、深津はまたも目の前の試合ではなく競馬雑誌に目を落とす。

 

 

「へへっ、久しぶりの1対1だ」

 

「……嫌よ」

 

今の美咲に希を抜ける確証はない。

 

「あっ!?」

 

だからこそ、フリーになった周防はとパスを出す。モーションに入った美咲を止める為に希が距離を詰めるがもう遅い。

 

ドッ

 

(あ、やば。ふかした)

 

 

ミスキック。キーパーと最終ラインの間に落ちたボールは、本来ならばラインを割る筈だった。そう、周防すみれ出なければきっとラインを割っていた。

 

一陣の風のように駆けた周防の姿を見て美咲は希と顔を合わせる。希にとっては見慣れている為か反応はない。

 

だが、すぐサイドバックに詰められてボールはラインを割ってしまう。ボールがもう少し手前で通っていたら絶好機だった。ラインを割るギリギリだったからこそ、周防は展開できずにボールを外に出されてしまったのだ。

 

左利きの俊足レフティー。代表に選ばれていた美咲でさえ、日本でここまで早い選手は見たことがない。5mまでなら食らいつけるだろうが、そこからは周防すみれには速さで勝てる気がしない。

 

「はっや!何あいつ!?」

「そうだねー」

「普通ライン割るでしょ何間に合ってんのアレ!」

「私からしたら、みっちゃんがあんないいパス出すとは思わなかったよ。てっきり足早いの知ってるのかも思ってた」

 

きらきらと流石などと尊敬の眼差しを向けられたら、プライドの高い美咲は「ミスキックだった」などと口が裂けても言えない。

 

 

「………まぁね」

 

 

と微妙な反応をとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまで順調にきた紅白戦であったが忘れてはならない。ここは部活だ。そんなにぬるいサッカーでは無い。

 

さらに、コーチは鬼のナマハゲ。

 

 

 

「こらぁあ!クソガキ守備時に歩くな!ペナルティ腕立て20回」

 

(この感じも懐かしい)

 

「パスのあとはすぐにスペースに走りなさい!ペナルティ腕立て30回」

 

(うん、うん、この感じ)

 

「お前はいつからメッシ気取りだクソガキ!!ペナルティ腕立て40回!」

 

(………うん、このだるい感じも懐かしい)

 

 

 

 

「おらぁ!ちんたら走るな戻る時には戻る!!ペナルティ腕立て100回!!!」

 

(前言撤回、忌々しい慣習だわ。ペナルティなんてなくなって仕舞えばいい)

 

 

「なんか気に入らないから、次200回だちんちくりんども!!」

 

「「「ヒィィィイ!!」」」

 

(○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね○ね)

 

 

 

 

その後、ペナルティの疲労で動けなくなり0ゴール0アシスト。

 

最悪の復帰である。

 

 

 

 

 

「それじゃ、おつかれさま」

「「「ありがとうございました!」」」

 

ようやく練習が終わり、少女たちはわらわらと解散していく。制服が汚れるからとユニフォームで帰る者も、きちんと着替える者なども荷物のある部室後それぞれが向かっていく。

 

当然、美咲もその1人だ。

 

「あとクソガキアンタは残りなさい話したいことがあるから。そういや、アンタ歩きよね?遅くなるなら車で送っていくわ」

「……うっす」

 

しかし、回り込まれた。

 

美咲は一緒に帰るはずの妹と幼馴染は待ってくれていたが、能見との話は長引きそうなので先に帰るようにジェスチャーする。

 

「それじゃ、お姉ちゃん先帰るね」

 

「うん、気をつけてね」

 

「ばいばい、みっちゃん楽しかった!」

 

「うん!やっぱりサッカーやってる時のお姉ちゃんが一番好き!」

 

屈託のない笑顔を浮かべる2人に少し照れ臭くなってしまう。

 

「こ、今回だけって言ったでしょ」

 

「でも、やめられるわけないじゃん。ミッちゃんはフットボールに愛されてるんだから」

 

「……そんな臭い台詞どこで覚えたのよ」

 

「えぇ!いいこと言ったのに」

 

「ほら、さっさと行きな。私と話聞いてすぐ帰るから」

 

シッシと払うように2人をあしらう。

 

美咲、自身分かっている。辞めたくても、こんなに面白いもの辞められるはずがない。離れている間もずっと頭のどこかでサッカーがあった。

 

だから、田勢と友人になれたのだ。

 

 

 

(………最初は今みたいに楽しいだけだったのに)

 

 

 

そう最初は、楽しいだけだった。実力が評価されるたびに、期待というなの重圧がその小さな体にのしかかる。期待という名の鎖は、彼女失敗するまでがんじがらめになっていた。

 

中学最後の試合の後、美咲の評価は風向きが変わり始める。そして、プレッシャーによる代表でのミス。これまで持ち上げられ続けた彼女が、一度の失敗で期待外れだったとほぼ全てのメディアから非難を食らった。

 

『堕ちたNEWヒロイン』

 

『兵のいない女帝』

 

『越前ボール持ちすぎ、戦犯か!?』

 

『結局、期待外れだったか』

 

『次世代の象徴チームを救えずグループリーグ敗退』

 

今まで平気なふりをしてきた。

見えないふりをしてきた。

 

チームメイトに裏切られたのは、きっかけに過ぎない。本当はもっと前から、重圧に耐えきれなかった。

 

 

 

だから、気丈な王様を演じてきた。

 

 

 

だが、越前美咲はまだ大人ではないのだ。

 

弱い子供のままなのだ。

 

批判されれば傷つくし、泣きもする。

 

「………ほんと勝手が過ぎ、あのナマハゲババァ」

 

大人は勝手だ。

子供の考えや思いなどは気にしない。

 

越前美咲にとって、能見奈緒子もその1人だ。

 

あまり知られていないが、能見奈緒子と越前美咲はある種師弟関係のようなものである。これは本人たちに聞けば必ず否定するが、越前美咲の類稀なる得点感覚を開花させたのは他ならぬ引退間近だった能見奈緒子であった。

 

それは、美咲も理解している。決して師とは言わないが、越前美咲は能見奈緒子には返しきれない恩があるのだ。それはまだ、U16代表入りして間もない美咲が、キャリア晩年を迎えた大エース能見奈緒子に無謀にも勝負を挑んだことから始まった。

 

美咲は能見奈緒子を世界への物差しとして挑み続けた。世界を知る日本人に挑める機会などそう易々とあるわけが無い。生意気なルーキーが日本のレジェンドに挑む失礼極まりない行為ではあるが、能見奈緒子は彼女の挑戦を断らなかった。

 

時間がないにも関わらず歓迎さえした。

 

結果は当然美咲の惨敗。

美咲の何もかもが通用しなかった。

 

それ以降、能見奈緒子は美咲の前にたびたび姿を現し時間が許す限り美咲を叩きのめした。その無謀とも思える勝負は約1年半続いた。

 

 

戦績は、478戦477敗1引き分け。

 

 

最後の1対1は、タイムアップにより引き分け。能見には、美咲の勝ちでいいと言われたがそれはプライドが許さなかった。

 

今思えば引き分けたその時から、能見奈緒子は決めていたのだと思う。

 

 

 

後日、能見奈緒子は引退を表明した。

 

 

 

『クソガキ』と『ババァ』そう呼び合うのは、ある種師弟としての絆なのかもしれない。

 

 

 

 

「何があったか知らないけど、才能がある奴には試練が待ってる。

 

それは、アンタに散々言ってきたでしょ」

 

(………うるさい)

 

「諦めたんじゃねぇーよクソガキ。

メディアがクソなのは昔からそうよ。あたしがちょっと点を取れなかったら、非難してきたんだから」

 

「………14試合はちょっとじゃ無いでしょ。あのシーズンほぼ決めてないじゃん」

 

「うっ、そ、それにチームメイトがクソなんてのは海外に行けばどこも大体そう。パスくれないし、嫌われたらキープできないところを狙ってパス出してきたらね」

 

能見が「移籍当初はそんな感じだったわ」などと自慢げに話してくる。全く話が見えない。

 

(結局何が言いたいんだこの人?)

 

そう思っていた矢先、能見にがっしりと両肩を掴まれる。手には熱がこもっており、肩を押さえる手も痛いほど力が入っている。

 

「………アンタは間違ってない。

 

周りがクソなだけよ。天才は天才らしく背筋伸ばして堂々としてなさい」

 

言い聞かせるように引退した(終わった)能見奈緒子(センパイ)から越前美咲(未来ある後輩)に向けた言葉。

 

「十分過ぎるほど休んだでしょ。見返してやりなさい」

 

「4年前のクソガキは、私に勝ったら即A代表に入れろとまで言い出したわよ。

 

それぐらい傲慢な方がエースに向いてるわ」

 

 

 

 

 

 

(………ほんと、お節介が過ぎるでしょ)

 

 

 

 

 

今、覚えば能見奈緒子はいつも全力だった。

 

この下手くそな激励も100%美咲を思っての事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに、アンタが活躍してこのチームが全国優勝でもしてみなさい。指揮した私の采配が凄かったって、もう戦術は能見以外とは言わせないわ。

『能見奈緒子監督としても一流か!?』なーんて見出して新聞に載るわね!!

よーし、アンタも私の監督としてのキャリアの為に頑張りなさいよクソガキ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………感動を返せクソババァ!!」

 

「あれ?送っていくわよ」

 

「い・ら・な・い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぷりぷりと怒った様子の美咲の背中を見ながら、能見奈緒子はため息が漏れる。

 

「………まったく世話のかかる後輩ね」

 

 

「期待してるからね美咲」




「いや、まえがきで言うとったことと違うやないか!無双しとるやないか!!」

読まれているうちにそう思われた方もいらっしゃると思うので、次から諸々苦手なものとか出せて行けたらなぁと思ってます。



あと、ご都合主義ですねわかります。(白目)
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