終わらせる禁忌   作:Damned

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偽りのテロス

 深夜、連絡を終えたアッシュはシャワーを浴びて制服を着ていた。上にはアンダーシャツを着てタオルを肩にかけ、制服のスラックスを履く。彼には珍しく、眼鏡を掛けていない。

 否、アッシュのそれは軽度の乱視を矯正するためのものであるため、日常生活での支障はないのだが──不意に、かつかつと足音が響いているのに気づく。

 更衣室から顔を出すと、歩いてきているのは以前に比べてしっかりとした足取りのエイヴィリーで。しかし彼は深夜帯で仕事もないにもかかわらず、制服を着用していた。

 珍しい。そう思うと同時に、口から問いが出ていた。

「どこへ行く?」

「……人に、呼ばれて」

「そうか。少しは調子がマシになったようだな。無理はするなよ」

「……ああ」

 感情のこもっていない、エイヴィリーの声。この先にあるのはロッカーと、格納庫だけだ。それがどういう意味かもわからず、アッシュは疲労した頭で「ではな」とだけ言って更衣室へと引っ込んだ。

 何だったのだろうか。

 やはりゼルデのことを思い詰めているのか。しかし、お互いに踏み込まれたくないラインというものはあるはずで。雫の垂れ始めた髪先をタオルで絞って、ドライヤーを手に取った直後、凄まじい轟音と揺れにアッシュの思考は全て繋がった。

 この先にある格納庫。虚ろで何処かおかしな光を宿したエイヴィリーの目。深夜に歩いていた、その理由。

「くそっ……僕はまた、間違えるのか……!」

 すぐさまブーツを履いて、アッシュは走り出した。格納庫、分厚い扉の向こう。ゆっくりとドアを開いて、吸い込まれそうになるのにすぐさま戻す。

 ハッチは閉じ、微重力の漂っているであろう格納庫でこんなことが起こるという意味は。

 背筋が凍った。たしかあの場所には、夜間に整備を行っている者もいたはずで、エイヴィリーのことは周囲に伝達されている。

 頭の中ではわんわんとアラートが鳴り響いているのに、体は酷く冷静に自室へと向かう。

 アッシュがニールの元へ向かうよりも早く、エイヴィリーとアイアスは遠く、遠くへ飛翔してしまった。

 

 

 

「俺は……」

 心ここに在らずと言ったふうに、ニールは呟く。

 ほぼ同時に後輩をふたり失ったことは、彼にとって余りに衝撃的なことだった。

 助けに行けなかったゼルデ、彼女を失って壊れてしまったエイヴィリー。戦死者は当然他にも居るが、総司令に三人を任され、甲斐甲斐しく世話を焼いてきた彼からすれば面目が立たないだけではない。

 エイヴィリーは、これから基地へと戻るフォルトゥナから下ろされ、軍の施設へ輸送される予定だ。基地までざっと五日ほどか。エイヴィリーは何をするでもなく、無気力に虚空を見つめていた。

 部屋の照明は落とされ薄暗い。同室のアッシュもいない。こめかみに指を当て、ベッドで壁にもたれかかり苦い顔をするニールは別のことも思案していた。

 あの、自分をソレスタルビーイングのメンバーだと言った男。ニールの記憶を取り戻そうと必死に呼びかけてきた彼の言葉が突き刺さっていた。

 ──その右眼は、僕を庇って失ったものだっ。

 ──貴方は身体までテロに奪われたわけじゃない!

 ──思い出せ!

 ──ロックオン・ストラトス!

 明らかに自分へ向けられた呼称に、ニールの眉間が深い谷を作る。

 彼が自分を通して別の人間を見ているような気がした。ロックオンと自分を呼んだ、■■■■■の声にはそんな雰囲気があった。

 自分がここに居るのはリジェネに命じられたからではない。誰のものでもない、ニールの意思だ。

 ひどく苛立っているのを自覚した。

 自分の存在を蔑ろにされた気がしたからだろうか、それとも恩人から貰った名前を憎きテロリストに呼ばれたからだろうか。あるいは──自分の記憶を、一瞬とはいえ疑ってしまったからか。

「     」

 口から何か、言葉が零れそうになったのが押し留まった。言おうとした言葉は喉元まで来ているのに、思い出せない。

 汗でじわりと濡れた部屋着に不快感を覚え、ニールはシャツを脱ぐ。どうせアッシュは戻ってこないし、下半身ならともかく咎められるほどのことではない。

「ロックオン、ダイジョウブ? ロックオン、ダイジョウブ?」

 ころり。机の下から出てきたハロがニールを案じる。AIであるハロがそう尋ねるほど、最近のニールはろくに眠れていなかった。

 理由は単純、いやな夢を見る。それは守りたかったはずの誰かが自分のせいで傷ついたり、罪悪感に潰されそうになったりするのを眺めていることしかできない夢。もしくは、自分の大切な人間を撃ち殺す夢。他にも複数あった。ろくな夢を見ない。そしてすべての夢で、最後は朱く獰猛な光が塗りつぶしていく。

「……悪いな、ハロ。大丈夫だ」

 顔色の悪い頬を動かして、笑みの形を作る。きっとハロにはバレているのだろうが、ハロは無言で転がり目を点滅させるだけだった。

 ■■■■■。そこだけ欠落したように、名前を思い出せない。ガンダムマイスター。ソレスタルビーイングはパイロットのことをそう呼ぶらしい。確かにあの男の名乗りを受けたのに、黒く塗りつぶされてしまってわからない。

「……、え、……あ」

 身体は確かに、その名前を覚えているというのに。あと一歩、何かが足りない。

 ソレスタルビーイングは敵で、自分の体を奪ったテロリスト。その認識を忘れて、ニールは呟いていた。

「う……ぐ、が、あぅ……ッ」

 頭が、また痛む。否、全身が痛みに苛まれて、ニールは苦悶の声を漏らした。発作であると頭では認識していた。傍に置いているケースを開けて掌に錠剤を取り出して、同じく近くにある水とともに流し込んだ。最近は……いや、地上でフェルトに出会ってから、ニールの身体は頻繁に発作に苛まれていた。ベッドに倒れ込んで浅い呼吸を繰り返していると、ゆっくりと痛みが引いてくる。

 ようやく眠れそうだとニールは思った。体は既に、へとへとに疲れているのだ。あとは眠るだけ。久しぶりに、まともな睡眠を取れそうな感覚がした。

 ふわりと、心地よく意識が薄れていったその時。

 艦が攻撃されたかのような、凄まじい音と揺れに襲われた。

「くそ、なんだよ……?」

 安眠を妨害されたことに、苛立ちを含んだ声でニールは身体を起こし眼鏡を手に取る。

 そこへバンッと扉を開いて現れたのはアッシュ。深夜だというのにシャワーを浴びた直後だったらしいアッシュは、髪から水を滴らせながら焦った表情をしていて。

「何が、」

「エイヴィリー・ミシェルが逃亡した」

「は?」

 短く告げられたのはそれだけ。しかし、彼の言葉はとてつもない重みを持っていた。

「逃亡って」

 それがこの揺れの原因であることは、アッシュの表情と口調から、明白だった。

「なあ、ひとつ聞くが、確信があるんだな?」

「はい。あそこで僕が止められていれば……ッ!」

「分かった。俺はブリッジに行く。アッシュ、お前は一旦落ち着け。シャワーも浴びたばっかなんだろ」

「了解」

 相当慌てていたのだろう、制服の上は着てすらいない。ぴっちりしたアンダーには髪からの水滴が滴っていて、このまま行かせる訳には行かないだろう。

「状況は?」

 フォルトゥナのブリッジに駆け込んだニールは、当直のミルティに尋ねる。

「第二格納庫のハッチが破壊されましたわ。ミシェル准尉はその場にいた整備士を昏倒させて別の機体に乗せ、アイアスを奪取して扉を破壊。彼のドライヴの出力からすれば、こちらに追いつける者はいませんわね」

 ミルティにとってもこの行動は予想外だった。

 全ての歯車が、誰もを置いて回りだしていた。

 

 

 

 数日後。基地に到着したニールとアッシュは、コロニーにあるエイヴィリーの私室へと踏み入っていた。

 持ち込んだタブレット端末に複数のソフトをインストールして、アッシュがキーボードを叩く。ニールは外を警戒しながら、ちらちらと画面を覗き込んでいた。

「なあアッシュ。これって何をしてるんだ?」

「これからエイヴィリーの個人データをハッキングする。私用の端末を除けば、流石に彼がああした理由もわかるでしょう。あるいは、何か決定的なものが見つかるかもしれません」

「俺は詳しくないが……ハッキングは、そんな簡単に行くもんなのか?」

「はい。現代の情報端末は、HDDにデータを保存していませんから。ハッキングならば僕の専門分野といっても過言ではありません」

「それなら部屋に来なくても、軍の施設を使った方がよかったんじゃないか?」

「本部はいろいろとやりにくいので。それに、フォルトゥナの人間以外にはまだ報告するなどのことでしたから。僕ならば、エイヴィリーの部屋にいてもおかしくない人間です」

 ハッキングは倫理的な問題があるが、そんなことに構っていられるほど余裕はない。アロウズに抹殺されるまえに彼が逃亡に至った理由を知りたい、と言ったのはニールであった。

「──さて、ありましたよ。とりあえず、セキュリティの厳重なファイルからピックアップしていきましょう」

 画面には、先程までとは違うデスクトップ画面が表示されていた。

 ここまでおよそ数十秒。自分には出来ないその速さに、ニールは素直に賞賛の声を上げた。

「すごいな」

「何年もこうしていると慣れてきます。ここまでは容易でしたが……あれでエイヴィリーは一番繊細ですから。全てのファイルに何十もの鍵を掛けていますね」

 不安げにニールはアッシュを見たが、彼は自信ありげに目を細める。

「これから僕の設計したアプリを起動します。殆どのものは、それで行けるはずです」

 アッシュはおよそハッキングの認識からは遠い指さばきで画面をタップして、そのシステムを起動する。展開したプログラムが黒いウィンドウを複数表示し、それが緑色の文字を高速で流しているのを確認すると、アッシュはニールの方へ向き直った。

「これで大丈夫です。……では、解析を待つ間に少し、話しておかなければならない事があります」

「何だ?」

「エイヴィリーは恐らく、ソレスタルビーイングのスパイだと推測しています」

「は? あいつらは武力介入に遭ったんだよな?」

「はい」

「なのにどうして、そう思う?」

「彼はどこでどういう被害にあったのか、知らないようでした。もっと言えば、ゼルデだけが被害者で、自分は彼女を守りたいからここにいる……とも言っていました。恐らく記憶が無いのでしょう」

「ゼルデの言動を見ていたら分かりそうな気もするが……」

「僕にも確証はありませんでした。ですが、半年に一度、言われるがまま健康診断を受けていた所を見れば、彼は『グリシルデ・シュミットを守る』こと以外どうでもよかったとも取れます」

 一瞬言葉に詰まって、ニールは首を振る。

「けど、俺にはあいつがソレスタルビーイングのスパイだなんて信じられない。ゼルデを守ってやりてえなら、敵に与する必要は無いだろ?」

「貴方も知っているでしょう。エイヴィリーは格納庫のハッチを破壊し、逃亡した。彼の行為は間違いなく裏切りです。

 ですが、いくつかわからないところもある」

「わからない?」

「はい。彼がスパイだったとしても、彼の行動に矛盾が多すぎるんです。これまで彼は、何度もガンダムと戦闘を行っているが、そのどれもが手を抜いていない。裏切るにしても、なんの破壊工作もなしに裏切るのはあまりにおかしいんです」

 今回のことでモビルスーツに損害はない。整備士は昏倒させられただけで、格納庫から吸い出されないようコクピットに閉じ込められてすらいた。唯一破壊されたのは、自分で開けることの出来ない扉だけ。

 スパイだったとして、戦力を減らさない理由はない。

「確かに妙だな。必要なものは既に得ていた……とか? 例えば機密だ。それならば、このタイミングでも納得は行く」

「いいえ、それは有り得ません。セキュリティやデータベースを確認しても、少なくとも彼が入隊するより二年間は、機密の漏洩どころか不正アクセスの痕跡もない」

「じゃああいつは、どうして今裏切ったんだ」

「分かりません。もしかすれば、アロウズが機密としている情報と、ソレスタルビーイングが欲しているものとは違うのかもしれません。時折行われる彼の通信を盗聴していましたが、まさかこんな事になるとは思っていませんでした」

「なあ、もしかしてとは思うが」

 ひとつの可能性に気付く。エイヴィリーはゼルデを守るためにスパイとしてアロウズに潜り込んだ。しかし、彼女は二週間ほど前に戦死して、もういない。

「ゼルデが死んで、自分の目的がなくなったからじゃないか?」

「……その可能性は、十分にありますね。テロリストに与してまで守りたかった存在。その喪失は、彼の行動に大きな影響を及ぼす」

 泣き叫び、怒鳴り、数人がかりでなければ止められなかったエイヴィリー。あの取り乱しようは演技とは思えない。

 そこで端末から通知音が鳴り、アッシュが再び背を向ける。

「解析が終わりました」

 開かれたファイルの一覧が高速でスクロールしていく。狙撃手であるニールでも目で追えないが、アッシュにはその文字が一つ一つ認識されているらしかった。

 ファイルの数は軽く千を超えている。視線を動かしていたアッシュは、不意に「あ」と声を漏らした。

「どうした?」

「流石にこれは露骨だな。……ロックオン。これを見てください」

 それだけを選択してこちらへ示す。フォルダには『Schneewalzer』と名前が振られていた。

「……ゼルデの、機体?」

 こちら側のモビルスーツに関するデータを持ち出したのだろうかと考える。が、それがソレスタルビーイングに必要とはどうにも考えられない。

「名前を見た限り、機体の情報か、プライベートなデータじゃないのか。……ゼルデ中心の」

「いえ、このフォルダだけセキュリティが違うんです。ただのプライベートなフォルダにしては厳重ですし、怪しいと考えます」

「お前さんでも開けられないのか」

 ガラテアを任されたパイロットで、ものの数分でセキュリティを破ってしまうアッシュの有能さは痛いほど理解出来た。そのアッシュを苦戦させているのだ、怪しむのは当然である。

「パスワード入力型ですが、三回間違えるとファイルが完全に破壊されてしまいます。下手に弄ってもそうなるでしょう。僕ならファイルの修繕やサルベージも可能ですが、かなりの時間を要します。

 ロックオン、心当たりはありますか」

「お前さんの方がわかるんじゃないのか? 三年間、士官学校で一緒だったんだろ?」

「どうでしょうか。僕は確かに三年間を過ごしましたが、心当たりは彼女の誕生日くらいしかありません」

「定番だな。それでなかったら、俺にもわからない」

 22930612。アッシュの入力は拒絶される。

 あと二回間違えれば、手がかりが破壊されると見ていいだろう。ならば何か。彼の言動を思い出す。思えば彼と会話した数も、アッシュほどの頻度はなかった。

 彼と話す時は、その多くがゼルデを挟んでのものだった。趣味だったりなんだったり。彼女がいなくても、彼女のことをよく話していた。ゼルデを切り捨てることになった時の悲鳴は克明に思い出せる。彼はあの時、なんと言っていたか。

「ゼルダ」

 エイヴィリーはゼルデではなく、そう呼んでいた。表でそう呼ぶことはなかったとしても、思い入れのありそうなその名前をパスワードに設定することはあるかもしれない。

「ゼルダ? ……グリシルデやグリゼルダといった名前の愛称ですね。それがパスワードだと?」

「可能性としてはあるんじゃねえか?」

 迷わずアッシュはZeldaと打ち込んだ。即座にアクセスが許可されて、中身が閲覧可能になる。

 その中には、文書ファイルが一つ。

 開いていく速度がもどかしいが、アッシュはその重さにやはり何かがあると確信した。

 閲覧モードで開いたファイルは数万文字が羅列されている。どうやら日記のようで、一番下に飛んだカーソルに視線を向けた。

「……これは」

 

 ゼルダ、俺はようやく気付いたんだ。

 お前を守る一番簡単な方法があったのに、どうして気づかなかったんだろうな?

 アロウズならそれができるじゃないか。まっさらな状態から全部作り直せば、統一世界を実現することなんて必要ない。

 こんな世界なんて全部壊して、リセットしちまえばいいんだって。

 

 初めの方は、否、ゼルデが死ぬ以前までの文書はただの日記であった。しかし、それ以降は更新が途絶え、復活したあとは執着と悲しみと狂気に満ちた──としか言いようがない、日記としての形を保っていない乱文だけ。

 

「……なあ、アッシュ。この『アロウズならそれができる』って、なんの事だ?」

「僕達の権限なら、ということでしょうか。ですが、リセットするなんてこと、地球上の誰にだってできやしない。可能性があるとすれば、核爆弾のように全てを無に帰す大量破壊兵器……──ッ!」

 自分で口にして、気付く。あるではないか。低軌道オービタルリング上に建造された、地上を焼き払うことの出来る大量破壊兵器が。

 メメントモリ。先日一基が破壊された、巨大自由電子レーザー掃射装置。

「心当たりが、あるのか」

 予想外だと動揺したアッシュの肩を掴んで、ニールが訊ねた。

 その眼は剣呑な光を宿していて、アッシュは否応なく答えさせられた。

「メメントモリ……」

「メメント……モリ? ピラーの崩壊を阻止した物じゃないのかっ?」

「衛星兵器です。低軌道リングに造られた、レーザー砲。それならば、彼の言う『まっさらな状態から全部作り直す』ことが可能になります」

「なんだよ、それ。そんなこと、初めて聞いたぞ……?」

 彼の表情は、何故知っていると言いたげだ。だが、それを問いつめる前に、アナウンスが二人に割り込んだ。

『フォルトゥナの乗員は至急、第三会議室へ』

『繰り返します。フォルトゥナの乗員は至急、第三会議室へ』

「何だ……?」

 思わず天井を仰ぐ。アナウンスがもう一度繰り返されたきり、部屋には沈黙が広がった。

「ロックオン」

「アッシュ」

「行きましょう。この話はまた、あとで」

 端末を回収して、アッシュは部屋の扉を開ける。会話を途中で切られたのは納得いかなかったが、招集とあれば仕方あるまい。揃って部屋から出たところで、マテリアと鉢合わせになりぶつかりかけた所を慌てて止まる。

 マテリアの表情は焦りを感じさせて、彼女もまたエイヴィリーのことで切羽詰まっているのだろうとニールは推測した。

 そしてその予感は当たっていたようで、マテリアは厳しい表情で二人へ告げた。

「まずいわ。エイヴィリーがいないのを不審に思ってる連中がいる。……彼が裏切ったのがバレるのも、多分、時間の問題よ」

「どうする」

「ちょっとこっちに来て頂戴。ロックオン、少佐には遅れると言っておいて」

 それがどうまずいのかニールにはよくわからない。マテリアに引っ張られて廊下の角へ消えていくアッシュを見送りながら、訝しげに眉を寄せた。

 

 

 

 赤く染まった空に、朱い光が舞っている。

 俺はそれを見上げていたが、俯く。ひび割れたアスファルトの上に、ただ一人、座っていた。

 俺は彼女を守りたかった。俺が唯一大切だと思った彼女を、身を挺してでも守りたかった。それだけの為に、生きてきた。

 だけど、彼女は死んでしまった。俺に力がなかったから。

 俺はガンダムに勝てなかった。自分の力では、そう遠くない場所にいる彼女に、手が届かなかった。

 遺体もなく、彼女の命は散った。

 彼女を守りたいと思う気持ちは、いつも叶わずに終わってしまう。

 夕日は消えて、夜の闇に朱い光は散っていく。

 まだやり直せるよ、と誰かが言った。

 アナタを苦しめるものを破壊して、彼女を奪い返そう?

 

 赤い光が、全てを埋めつくしていく。

 

 

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